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頭の中に、エアな指揮者を用意しましょう

 声楽のレッスンの続きです。

 ひとまず発声練習と言うか、声出しも終了し、いよいよ曲の練習に取り掛かりましょう…と言った感じになりましたが、ちょっと時間が早くて、まだピアニストさんが到着していなかったのです。なので、クラシックコンサート後のレッスンから取り組む曲を決めることにしました。

 いつも、歌曲1曲、アリア1曲を歌っています。今回、歌曲に関しては、私の好きな曲で良いという事です。ただし、いかにもテノールっぽいメロディの曲にしましょうって事です。ヴェルディでも、トスティでも、ドナウディでも、なんでもそのあたりから選んで一曲持ってきてくださいって事なので、次回までにいくつか検討しておきたいと思います。

 で、アリアなんですけれど、私的には、ヴェルディ作曲の「椿姫」のテノールアリア「De’miei Bollenti spiriti/燃える心を」が終わっていないような気がするので、ひとまず、その続きからでいいかなって思っていましたが、先生曰く「すとんさんって、譜読みとか音取りとか苦手でしょ」とおっしゃるわけです。まあ、実際、私は譜読みは苦手ですよ。割りと最近まで「私、譜面、読めませ~ん」って言っちゃっていたくらいですからね。今は、H先生のレッスンで、そのあたりを丁寧に指導していただいたおかげもあって、簡単な楽譜なら、割とさらっと読めるし、多少難しくても、頑張ればどうにか読めるくらいにはなりましたが、確かに苦手と言われれば、苦手です。

 音取りは読譜よりも、もっと苦手かも…。楽器には…ヴァイオリンなどの自分で音程を作っていくタイプの楽器ならともかく、ピアノやフルートなどの、すでに音程が楽器に備わっているタイプならば、音取りは不要だからねえ。いきなり吹いても、どうにかなるわけです。

 でも、歌は違います。

 歌の場合、キーボード等を使って、一音一音、確かめながら、音を取って確認しながら歌っていくわけです。これはプロもアマも同じね。音取りは、歌手にとって、必須作業なわけです。

 でも私の場合、まずはキーボードが苦手だから、音取りをしている時に、キーボードの演奏自体を、うっかり間違えちゃって、その間違ったままで音を取っちゃったりします。ダメじゃん。または、間違いに気づいて、正しい音を弾こうとして弾き直すのだけれど、それでもやっぱり間違えちゃったり…そんな事を繰り返しているうちに、なんか正しい音と間違った音が頭の中で混在しちゃったりして、なんか、あやふやのふやになっちゃうんだよね。そこへ音階外の変化音がメロディに加わると、一体どの音が正しい音なのか分からなくなってしまい、もうお手上げだったりします。

 と、そんな私の現状を踏まえて、先生は、発声が小難しいアリアも勉強に良いけれど、読譜や音取りが小難しい曲を勉強するのも良いのではないかと思われたわけです。で、先生の提案が「アリアではなく、武満を歌いましょう」となったわけです。

 武満徹…うむ、日本の作曲家だね。当然、日本語の歌詞だよね。日本語難しいんだよね、ちゃんと歌えるかな? 武満って、つい最近まで元気に生きていた人だよね。当然、現代作曲家だよね。ノーベンバーステップとかCDで聞いたことあるけれど、やたらと小難しかったよね。

 先生は、武満のうたの中から、数曲を次の候補に上げてくださいました。どの曲も、知名度的にはトップクラスではありませんが(それゆえに、譜読みの練習としては、知らないメロディだから良いのだと思う)、なかなかに面白そうです。さっそく楽譜を入手してみて、どの歌を次に歌うか決めたいと思いました。

 それにしても武満か…いよいよ武満か。ずいぶん遠くに来たものです。

 そんな話をしているうちに、ピアニストさんが到着したので、歌の練習に入りました。まずは、声と体力の消耗の少ないトスティ作曲の歌曲「Tristezza/悲しみ」から歌い始めました。

 この曲はスローな曲だし、歌詞の内容を考えても、粘っこく歌う必要があります。あるいは、情念を込めて歌う…と言うべきかな? 私の歌い方は、まあ、割りとあっさりした歌い口で、とろみが足りないようです。もっと粘って歌わないと…。具体的には、フレーズの出だしにタメと、シャクリが必要です。

 タメる事で、音楽の流れが緩やかになり粘りが出てきます。シャクリ…と言っても、邦楽のシャクリとは違い、声をアンダースローでふわっと載せるように出していく感じのシャクリです。音程を下から当てるのではなく、下から出発するけれど一度高めに持って行ったところから音程を当てていくわけです。下から直線的に当てるのではなく、放物線を描いて当てる感じですね。

 また、邦楽のシャクリは、しばしばウネリを伴いますが、こちらのシャクリはむしろ素直な声でフワッといくわけです。

 タメてシャクる事で、さらにメロディに粘りを増していくわけです。

 メロディをゆっくり歌うと…私の場合…長い音符の終わりの方が自然と音程がぶら下がってしまいます。それに注意するには、しっかり腹筋で息を支えることです。それと関連するのでしょうが、先生に「音符の最後までしっかり責任を持って歌ってください」と言われました。おそらく(特に最近は)フレーズの最後の部分を投げるようにして歌っているので、それをやりすぎると、フレーズの最後がふらついて下ってしまうんでしょね。注意しないといけません。

 あと、アナログで歌ってくださいとも入れました。つまり、デジタルのような階段状の変化ではなく、アナログの持つなめらかな変化を取り入れてくださいという事です。これは、音程、音量、ともにの話です。

 次はレオンカヴァッロ作曲のイタリア民謡である「Mattinata/マッティナータ(朝の歌)」です。

 この曲は、テンポの取り方から注意されました。都会的なシャレたテンポではなく、泥臭い田舎者のテンポで歌ってくださいとの事です。具体的に言えば、速めのテンポだけれど、耳で聞くとゆっくりとリラックスして聞こえるようなテンポの取り方です。歌い方としては、前に突っ込んで歌うのではなく、後ろにタメて歌っていくわけです。はっきり言っちゃえば、こういうテンポの取り方をするとダサいのだけれど、この曲はダサさが必要だから、こんな感じでいいのです。

 朝の歌…なんです。それも忙しい都会の朝ではなく、どこかゆったりとした田舎の朝なのです。清々しい朝を迎えて、元気いっぱいで野良仕事に向かう感じの朝の歌なのです。だから、元気で勢いがあっても、どこかゆったりとのんびりしたテンポ感が必要なのです。

 最高音になる高いラ(nacse l’amore)は子音のLに声を載せて、しっかり歌うように注意されました。

 それとこの曲は、案外テンポが揺れていきます。指揮者がいないので、テンポの揺れを歌手とピアニストで共有していかないといけません。その共有作業が、今回のレッスンの要だったりするのだけれど、なかなか微妙な揺れとか止めとかが多く、細かいところまできっちり合いません。二人でやるとなかなか合わないのだけれど、先生が間に入って、指揮をしてくれると、ピタッと合うのです。やはり指揮者の存在って、ありがたいなあ。

 とは言え、本番は(当然だけれど)指揮者はいないので、歌手もピアニストもお互い“エアな”指揮者を頭に置いて、歌っていくのが良いみたいです。つまり、共通言語として“エア指揮者”を用意して、ここの部分は指揮がこう振る…みたいな理解を互いにしていくわけです。難しいね。

 ここでしばらく休憩(妻のレッスン)を入れて、いよいよ最後の二重唱(レハール作曲「メリー・ウィドウ」より「A Dutiful Wife/従順な妻」)となりました。この曲は、すでに発表会に向けて、一度完成させているので、歌がどうのこうのではなく、ピアノと歌をどう合わせていくかという練習内容になるはず…でしたが、いやあ、どうもこうも、ハモリの部分がうまく歌えません。

 私、他人に対する共感性が高いから(笑)、他の人と一緒に歌うと、ついつい合わせてしまうと言うか、ざっくばらんに言えば、釣られちゃうんだよね。だから、一人で歌えば、ちゃんと歌えるのに、妻と歌うと、ついついシンクロしてコーラスではなくユニゾンで歌っちゃうんだよね。

 で、ユニゾンで歌う度に、妻に叱られます。その叱り具合は、Y先生に「私よりも手厳しい…」と言われる程です。

 とりあえず、妻さえ隣で歌わなきゃ、私もちゃんと歌えるんです。妻が隣で歌うから、ついつい一緒にユニゾンで歌っちゃうだけなんです。ダメ? ダメなんだろうなあ…。きちんとハモってよと言われますが、こればかりは性分だから…なあ。難しいんだよね。どうして世間の人は隣の人とは全然違う音で平気で歌えるのか、知りたいものです。耳を塞いだって、隣の歌声は骨導で聞こえるから、隣を無視してなんて、絶対できないしなあ…。

 まだ、本番まで、もう一度レッスンがあります。そこでどれだけ仕上げられるか…頑張っていきたいと思います。

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