音痴…という言葉は、あまり好きな言葉ではありません。でもね、音楽…とりわけ歌をやる人にとっては、大きな悩みの一つであったりするわけです。なので、今回はあまり好きな言葉ではありませんが、あえて取り上げてみたいと思います。
よく音痴克服術のようなモノがネットにも書籍にもありますが、実は世の中には、克服できる音痴と克服できない音痴…つまり、治る音痴と治らない音痴があります。
治らない音痴は…ずばり、障害系の音痴です。ざっくり言えば“聴覚障害(難聴)”による音痴のうち、脳の病変のために難聴になっている人の音痴は治りません。脳の病変のための難聴…いわゆる“感音性難聴”の事ですが、これらの人は、音が聞こえなかったり、聞こえても変調して聞こえるので、正しい音程を適度な音量で聞き取ることが出来ないため、音痴にならざるをえないのです。
一方“聴覚障害(難聴)”には“伝音性難聴”というモノがあります。こちらは外科手術が有効だったり、手術をしなくても補聴器の使用で難聴を克服する事ができます。補聴器の使用は、なかなか厄介な部分もありますが、これらの補助器具で楽しく音楽生活ができるのなら、取扱いに注意をしながら練習に励んで、音痴を克服しましょう。
老化による難聴は、実は感音性難聴です。もっとも老人の場合は、脳の病変があれば話は別ですが、脳の病変がなければ、老化のために音を聞き取る力が衰えていくだけなので、表面的には伝音性難聴と同じようなものです。補聴器等の補助道具の使用で、難聴もある程度は克服できます。ただし、音を感じる力自体は衰えていく一方なので、ある時点まで来たら、音楽とは距離を置く必要が出てくるかもしれません。
以上で治らない音痴の話は終わりです。これ以外の音痴は努力しだいで克服可能な音痴です。
治る音痴にも色々なタイプの音痴がいます。
1)歌う筋肉が不器用なために音痴になるタイプ
不器用…と言っても、多くの場合は、訓練不足が原因のようです。つまり、歌う経験が極端に少なくて、そのために任意の音を発声する感覚が掴みきれていないタイプです。ざザックリ言えば、ドの音を聞いて、ドの音を出そうと思っても、ドの音を出すための適度に筋肉を動かす事が(不器用なために)できないのです。これはもう…練習あるのみです。単純に経験値不足が音痴の原因ですから、とことん練習あるのみです。
2)歌い始めは良いのだけれど、歌っているうちにドンドン音程が狂ってしまうタイプ。
ドンドン狂う…と言っても、多くの場合は音が下っていくわけで、こういう人は厳密には音痴ではない事が多いです。と言うのも、相対音感をしっかり持っている人が多いんです。立派な相対音感を持っているにも関わらず、歌っているうちにドンドン音程が狂ってしまうのは、単純に呼吸法が悪くて、息の支えが足りなくて、自分で歌っている音が無自覚に少しずつ下っていくわけで、その下った音から次の音を導き出して歌うので、ドンドン音程が下がってしまい、結果として音痴になってしまうのです。
これもやはり練習あるのみです。しっかりした呼吸法を学び、息をきちんと支えられるような筋肉を身につけられれば、音痴克服です。
3)歌い出しから常に音程がぶら下がり気味になるタイプ
聞いていて、覇気がなく、なんとも居心地悪く感じる歌い方をする音痴がこのタイプです。これはノド声が原因による音痴です。単純に舌根や声帯周辺部に過剰な力が加わり、声帯が上手に振動できずに音程が下ってしまうわけです。リラックスしている時は、案外、正しい音程で歌えるのに、人前だとからっきし音痴になってしまうのが、このタイプなのです。これはもう、ノド声克服がそのまま音痴克服となるパターンです。
4)歌い出しから常に音程が不安定でどこに音程があるのか分からないタイプ
実はこのタイプが真正の音痴です。歌い方としては、突拍子もなく音程を外して歌う人と、ほとんど音程の無いお経のような歌い方をする人がいますが、どちらも原因は同じです。単純に耳が悪いのです。
耳が悪い…と言っても、難聴なわけではなく、生活音はしっかりと聞こえます。ただ、音楽として音を聞くのが苦手なタイプであって、音の分解能や認識力が大きく不足しているために、音程の認識が甘くて音痴状態になってしまうのです。
多くの場合、音楽的な経験が圧倒的に不足している事が原因となっているようです。まあ、このタイプの人が音楽を趣味にするというのは、通常では考えられませんが、人間って分かりませんからね。今までは音楽に全く興味が無かったのに、ある日目覚めたら、音楽に渇望していた…という事だってあるわけです。でも、今までの人生で音楽に親しみのなない生き方をしていたなら、なかなか音痴克服も容易ではありません。
なにはともあれ、音楽に親しみましょう。好きな音楽を浴びるほど聞くのが良いですし、楽器を習ってみても良いかもしれません。こういう人は音痴とは違います。音楽と縁がなかっただけの人なので、音楽との縁を深めていく事で、音痴状態から脱却できます。
ここまでは音程の音痴の話をしてきましたが、世の中には、正しいリズムが取れない“リズム音痴”という人がいます。リズム音痴も経験不足による音痴ならば、練習する事で克服できますが、時空間把握能力(つまり3D認識能力)の不足による音痴は…なかなか厳しいです。結局リズムって、時間を量として感じることができないと刻めないものですからね。
また、音痴ではないけれど、音痴認定をされてしまう人がいます。悪声のために、どこに音程があるのか分からない発声をしてしまったり、全く感情を入れずに、実につまらなく歌う人がそうです。
悪声による音痴の人は、発声方法を見直して美声にするしかありません。発声器官に障害がある場合は厳しいですね。そうでなく、単純に声が汚いだけなら…ぜひ、クラシック声楽を学んで、いわゆるベルカントを学びましょう。かなり美声になるはずですよ。
感情が入らずにつまらない歌しか歌えない人は…まずは恥じらいを捨ててみましょう。感情の無い人間というのは世の中にはいません。ただ、感情を表出するのが苦手なだけです。だから、恥じらいを捨て、自分の感情を表現するだけです。そのためには、歌も良いですが、演劇鑑賞が役立つかもしれません。演劇をたくさん鑑賞して、喜怒哀楽の表現をカラダに刷り込む事が大切かもしれません。まあ、日本人全般的に、喜怒哀楽を表現するのって苦手なんですよね(笑)。
と言う訳で、音痴だと言われたり、自分は音痴ではないかと思っている人の大半、実は“治る音痴”なんですね。治るものなら治してしまえばいいわけです。それでコンプレックスが一つ減って、人生が明るく晴れやかなものになるのなら、歌の練習ぐらい、軽い軽い…でしょ?
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コメント
前から音程がぶら下がるって、どういう意味か、わからずにいました。よくききますよね、ぶら下がるって。。(笑)オンチって、音楽が環境的に小さい頃から耳で聞いてる人は大丈夫な気がします。
例えば母がピアノを弾いていた、姉がバイオリンを弾いていた、とかご自分は聞くだけであっても歌わせたらオンチってのあまりないかもね、って気がします。ピアノは音楽の基本だしバイオリンは音をご自分で作らないといけない、つまり音程が要、よって聞く力がより強化されるんで少しでもかじった方はオンチにならないのじゃないかなぁ、と思うのですがどうかしら(笑)
アデーレさん
音程がぶら下がる…は、必ずしも音痴の所業とは限りません。
ぶら下がるとは…ハズレているとは言えないけれど、フレーズの音程が全般的にフラット気味の時に言います。聞いていて、ちょっと不快な感じがします。
多くの場合は、間違った発声、あるいは疲労が原因となります。間違った発声の代表例が、力んだ声とかノド声とかです。これらの発声だと、往々にして音はぶら下がります。あと、正しい発声をしていても、疲れてくると、人間、無意識に音が下がってきて、音程がぶら下がります。これは自然現象です。ですから、歌っていてシンドくなったら、むしろ音程をアゲアゲで歌うのがコツです。
ちなみに『ぶら下がる』の反対語は『うわずる』です。
>つまり音程が要、よって聞く力がより強化されるんで少しでもかじった方はオンチにならないのじゃないかなぁ
楽器は神業的に上手なのに、歌わせると、音痴…という人、大勢知ってます。日本人の場合、プロの音楽家でも(正しい音程で)歌えない人は、ゴロゴロいますよ。耳がいい事と、歌える事は、どうやら別能力のようです。