今年のお盆の連載は、今回が最終回です。最後にふさわしい曲をチョイスしてみました。
今回のアリアは、ビゼー作曲の『カルメン』の「恋は野の鳥(ハバネラ)/L’amour est un oiseau rebelle」です。
『カルメン』というオペラは、日本では大人気オペラで、誰もが知っていると言っても過言ではないほどの人気作だし、どの曲もシングルカットしたら大ヒット間違いなしという、ハズレ曲のないオペラとしても有名ですが、素人さんの発表会では、驚くほど歌われません。何故か…と言えば、やはり歌詞がフランス語だからでしょうね。歌う人って、イタリア語やドイツ語は得意でも、フランス語はちょっと苦手いう人が多いですからね。
もっとも、昨今のアリア集では、フランス語だとカタカナでルビの振ってあるものも珍しくないので、その手の楽譜を使えば、カルメンの曲でも歌えないわけではないのです。
と言うわけでしょうか、案外「ハバネラ」は歌われています。もっとも、この曲、ハバネラと呼ばれる事が多いのですが、正しい曲名は「恋は野の鳥」だったりします。
こんな感じの曲です。
歌っているのは、エレーナ・ガランチャです。私の中では、現在最高のカルメン歌いとなっている人です。ちなみに、ちょっと前なら、アグスネ・バルツァだったんですが…ね。さすがのバルツァもガランチャの魅力には、かないませんって。この人、この曲では歌っているばかりですが、実はダンスもかなり上手で、カルメンの第二幕で披露するフラメンコは、本職はだしの素晴らしいダンスだったりします。美人で、歌もダンスも良しなんて、まるでミュージカル歌手みたい(笑)。いや、もちろん、歌唱力は、ミュージカルの人とは全然比較できないほどに卓越しているのですが…。
今回の歌詞と訳詞は、こちらから転載しました。感謝です。
L’amour est un oiseau rebelle
恋はいうことを聞かない小鳥Que nul ne peut apprivoiser,
飼いならすことなんか誰にもできないEt c’est bien en vain qu’on l’appelle,
いくら呼んでも無駄S’il lui convient de refuser!
来たくなければ来やしない
Rien n’y fait, menace ou prière,
おどしてもすかしても なんにもならないL’un parle bien, l’autre se tait;
ひとりがしゃべって ひとりが黙るEt c’est l’autre que je préfère,
あたしはあとのひとりが好きIl n’a rien dit; mais il me plaît.
なんにもいわなかったけど そこが好きなの
L’amour, l’amour…
恋、恋…
L’amour est enfant de Bohême,
恋はジプシーの生まれIl n’a jamais, jamais connu de loi;
おきてなんか知ったことじゃないSi tu ne m’aimes pas, je t’aime,
好いてくれなくてもあたしから好いてやるSi je t’aime, prends garde à toi!
あたしに好かれたら あぶないよ!
L’oiseau que tu croyais surprendre
まんまとつかまえたと思ったらBattit de l’aile et s’envola;
鳥は羽ばたき 逃げてゆくL’amour est loin, tu peux l’attendre,
恋が遠くにいるときは 待つほかないがTu ne l’attends plus, il set là.
待つ気もなくなったころ そこにいる
Tout autour de toi, vite, vite,
あたりをすばやく飛びまわりIl vient, s’en va, puis il revient,
行ったり来たり また戻ったりTu crois le tenir, il t’évite,
捕らえたと思うと するりと逃げてTu crois l’éviter, il te tient!
逃がしたと思うと 捕らえてる
L’amour, l’amour…
恋、恋…
L’amour est enfant de Bohême,
恋はジプシーの生まれIl n’a jamais, jamais connu de loi;
おきてなんか知ったことじゃないSi tu ne m’aimes pas, je t’aime,
好いてくれなくてもあたしから好いてやるSi je t’aime, prends garde à toi!
あたしに好かれたら あぶないよ!
この曲は、本来はメゾソプラノ用に書かれたアリアですが、役柄が役柄ですから、昔から少し声が重いソプラノさんたちにも、よく歌われていましたし、また、それが良いのですね。
作曲家的には、女の色香を表現するために、カルメンをメゾソプラノに設定したのでしょうが、カルメンは色気ムンムンの女であると同時に、まだ若い、現役バリバリの女でもあるわけで、そうなると、あまりオバサンっぽい声で歌われるとオペラ的には困るわけです。
本来的には、メゾソプラノではなく、スピントなソプラノあたりが歌うべき役柄ではなかったかな? とか思うし、実際、スピントなソプラノさんがよく歌う役でもあります。
まあ、問題はフランス人の好みかな? って思うわけです。と言うのも、フランス人って、イタリア人と違って、好みが少しばかり低音に傾いているんじゃないかなって思います。テノールで言えば、イタリアならスピントなテノールとして活躍できそうな声の人が、フランスだとバリトンとして活躍する傾向があります。まあ、どっちでもいい話なのかもしれませんが、どっちでも良い時ほど、趣味趣向が表れるわけで、そんなどっちでも良い時に低音に針が触れるのが、フランスなのかなって思うわけです。
で、カルメンはメゾ・ソプラノになった…と思うわけだったりします。
まあ、それはともかく、素人的には、メゾとして書かれたおかげで、カルメンには高音が無くなり、その分、高音に難のあるソプラノさんでもチャレンジできる役になった…と言えるでしょう。まさに“ビバ・カルメン”って感じでしょうね。
それにしても結局このシリーズ、とりあげたアリアは、すべて女声のアリアとなりました。心情的にはテノールのアリアなども取り上げたかったのですが…素人さんの発表会に行くと、歌っている人って、ほとんど女性だから、どうしても“よく耳にするアリア”となると、女声のアリアにならざるをえないんだよね。
まあ、この女声偏重という傾向は、素人さんの発表会ばかりでなく、プロを目指す人たちの音楽コンクールに行ってもそう。やっぱり同じ傾向です。海外の事はよく分からないけれど、少なくとも日本では“歌は女のモノ”なんだな。それじゃあ、もったいないと私は思うわけだけれど…まあ、仕方ないやな。
さて、これで夏の連載も終了です。次回からは、平常運転に戻りますので、よろしく。
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コメント
エレーナ ガランチャ のカルメン素敵です
浅学故カルメンを演じるのは、ちょっと太めになって声の低くなった
おばさまばかりと勝手に思い込んでいました
そのためもあってどうもカルメン (いえハバネラ)を好きになれずにいました
ガランチャを知って一変 ハバネラは歌ってみたい曲になりました
でもフランス語がどーもね~(苦手)
それに名前通り老いた犬なので 早くしないと声がなくなってしまう
焦ります
楽しい連載ありがとうございました
老いた犬さん、いらっしゃいませ。
そうそう、確かにアマチュアの発表会などに行くと、オバサマ方がカルメンを歌っている事が多いのですが、カルメンって、本来、セクシーな女性ですから、ガランチャのような歌手が歌った方が、より良いと思います。
>でもフランス語がどーもね~(苦手)
はは、私もフランス語は苦手で、歌うのを避けてますので、その気持ちは分かります。音楽之友社から出ている楽譜なら、フランス語の歌詞にはカタカナが振られていますので、それを利用すると便利かも。「カタカナだと正確じゃないから…」とおっしゃるならば、発音記号が振られている楽譜があります(主に、アメリカの楽譜ですが…)ので、そちらを利用するのもアリです。