声楽を趣味とする場合、どうしても外国語との縁はなかなか切りづらいものです。
なにしろ、初歩の段階で歌うのが、イタリア古典歌曲であるわけで、外国語が苦手な人には、いきなりの高いハードルです。もちろん「私は外国語の歌は歌いません。日本語の歌だけしか歌いません」という方針を立ててやっている方も少なからずいるでしょうし、そのような方針でも声楽を学ぶ楽しむ事はできるでしょうが、クラシック声楽というジャンルの特性や出自等について考えあわせてみるならば、やはり美しい歌曲や素晴らしい歌の大半は、外国語の曲であるわけです。一部の曲は翻訳されて日本語の歌詞もついてますが、やはり大半の曲には日本語詩は付いていませんし、言葉の響きなども計算して作曲家は作曲している事を考えるるなら、やはりどっぷり声楽を楽しむつもりならば、どうしたって外国語歌唱からは逃れられません。
でもね、平均的な日本人の、オトナの道楽として考えるなら、やっぱり外国語歌唱の壁は意外と高いと思います。特に声楽の場合、外国語と言っても英語じゃないからね。
英語ならば、中学高校で勉強するし、人によっては大学でも学んだり、実社会に出てから英語を使う仕事に就いたりしている事もあって、外国語と言っても英語ならば、そこそこ親しみがある人もいるだろうけれど、声楽で使う外国語は、イタリア語をメインとして、次にドイツ語とフランス語。その次にスペイン語やロシア語などが来るわけです。一般的な日本人にとっては、馴染みの薄い外国語たちが並んでいるのです。
それもあって外国語歌唱の場合、必ずしも歌い手がその言葉を話せるとは限らないのです。もちろん、話せないよりは話せる方がずっと良いに決まっています。日本語の例で考えてみれば分かるけれど、たどたどしい日本語しか話せない人が日本語の歌を歌っても、その歌はたどたどしくて、聞いていて何か変な感じにしか聞こえないわけです。一部の例外を除き、やはり、その言語を話せる方が歌わないと、ちゃんとは聞こえないものです。
ですから、声楽を学ぶプロのタマゴの方々は、ヨーロッパ方面に留学をするわけだし、一線で活躍しているプロ歌手の方々に、留学経験者が多い事は、声楽には常に言語問題があるからだと思います。外国語を学ぶなら、その国で暮らすのが一番だもの。いくら日本で熱心に学んでも、現地に行って、現地で生活してきた人にはかないません。
それもあってプロを目指す方々は留学するのだと思うし、プロ歌手として活躍するつもりがあるなら、今の時代、留学経験は必須だとも言えると思います。
さて、プロは留学をして外国語を身につけてくるとして…アマチュアである我々はどうでしょうか?
そりゃあ、理想はプロ同様に留学をして外国語を身につけられたら、それに越したことはないし、それがベストだと思います。留学が無理でも短期滞在をして、どっぷりその国の言語に浸かるのも良いと思います。しかし、いくら趣味とか道楽とか言っても、なかなかそこまで出来る人って少ないよね。まあ、アマチュアの場合、そのあたりは妥協せざるを得ないわけで、留学の有無にこだわらずに、外国語をしっかり学ぶ事、学ぼうとする姿勢が、大切なんだと思います。
私の場合は…自分なりに頑張っているつもりだけれど、なかなか時間を割いて語学を学んでいる余裕は…ないなあ。せいぜいが、NHKの語学講座を視聴するくらいだけれど、なかなか続かなくてねえ…。せめて、楽譜に訳文を書き込む際に、なるべく分からない単語を辞書でひいておくぐらいしかできません。
それもあって、私はイタリア語以外の外国語曲となると、イギリス歌曲を選びがちなんです。英語なら、その他の外国語よりは親しみがあるから…です。ただ、イギリス歌曲の残念な点は、名曲(世間に知られている曲って程度の意味です)の絶対数が、他の言語と比べると、メッチャ少ない事です。おまけに、フルート音楽同様に、クラシック音楽が一番美味しかった時代であるロマン派の作品が極端に少ないという事ですね。イギリス歌曲を探すと、どうしてもバロック曲か現代曲になってしまうわけです。もっとも現代曲と言っても、いわゆるクラシッククロスオーヴァー的な曲で、ミュージカルとかそれに近い感じの曲になってしまうし、それに英語の歌って言うと…ポピュラーのイメージも強いしね。なかなか選曲が難しいです。
色々、頑張れ>自分
まあ、結論めいた事を書くならば、外国語歌唱は色々とハードルが高いのだと思います。それは歌う側の困難さはもちろん、聞く側にとってもなじみの薄い言語の歌では、正直、食指は動きません。これが声楽が一般大衆に普及せず、人気が出ない最大の理由なんだろうなあって思います。
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コメント
そういえば私は大学時代の第二外国語がドイツ語でした。
知識ゼロで声楽を始めたとき、先生にまずはイタリア歌曲集から歌いましょうと言われ、「え、イタリア語?この先生がイタリア専門だからかな?自分はドイツ語のほうがまだ馴染みがあるからドイツ専門の先生にした方が良かったかも…」なんて本気で悩んだものです(笑)
今となってはイタリアの歌曲やアリアにゾッコンなんですけどね。
大学時代にイタリア語を勉強できていたら…なんて思うこともありますが、そもそも僕の大学の第二外国語にイタリア語は存在しませんでした。残念。
私も声楽を始めてからイタリア語を専門の先生に別に習い、今では息子に英語の単語を聞かれても英語は忘れて?イタリア語なら、こうだよ、と全く息子には役に立たない?私。。。英語、元々きらいだし、でもね、イタリア語は楽しいのよ、なぜなんだろうか、ラテンな感じが性にあうのかも。チャオーっ☆って感じのお気軽な性格のせい?しかし、イタリア語の方が難しいのにね(笑)
たろすけさん
私の第二外国語は、意外に思われるかもしれませんが、中国語でした。なんかねー、当時は中国に対する夢とか希望とかがあった時代で、まさか、あんな国とは思えなかった頃だったんですね。ドイツ語は、第三外国語として学びました。なので、ほんの基礎ぐらいしかできません。
私の学校は、他にも外国語の授業がたくさんあって、フランス語、ロシア語、イスパニア語、ギリシア語、ラテン語などもありました。ちなみに、私は中国語からあぶれたら、ギリシア語を取るつもりでした(笑)。こんなにたくさん外国語の授業があったのに、なぜかイタリア語は無かったですね。
当時は音楽を学ぶ人たちは、みなドイツ語を取っていた時代だったので、イタリア語なんて、学ぶ価値がなかったのかもしれません。
ちなみに、ホームページで調べたら、我が母校の外国語の授業は、あれらに加えて、朝鮮語の授業が入ってました。私の頃には、朝鮮語の授業なんてなかったのになあ…取る生徒がいるんだなあ…。しかし今だに、イタリア語の授業はありませんねえ。
アデーレさん
私も時間とオカネがあったら、イタリア語を専門の先生に習いたいです。英語は好きとか嫌いとかではなく、必要なので使いますし、勉強もします。まあ、私の英語なんて、大して役に立ちませんが、それでも使えないよりはマシです。
イタリア語は…学ぶのに難しい言語だと思いますよ。ルール違反は多いし、アバウトだし、文法もあるのに守らないし(笑)。おまけに、伊日辞典があっても、どれだけ役立つかと言うと、実に微妙だしね。ドイツ人の勤勉さと実直さを見習え…と言いたいですよ。でも、諦めたわけではないのですが…とにかく、しゃべれなくても、読めるように、聞けるようになりたいです。
イタリア語やドイツ語って英語より日本人には読み易く発音し易いと思ってましたけど、やはり本格的に歌うとなると難しいのですね…
そういえば、折しもウィーン国立歌劇場の公演が秋にありますね。
神奈川では私の大好きなフィガロの結婚をやるので行こうか悩んじゃいます。。
因みに、イタリア語もドイツ語も理解できませんが、オペラやミュージカルって、中身があんまり分からなくてもいいやって思えるところがあります。
本来の楽しみ方とは違うのかもしれませんが、昔、ウィーン国立歌劇場に行ってセビリアの理髪師を聞いたことは今でもぼんやり覚えてます。その頃は音楽より建物に興味がいってしまい、中身はほぼ覚えてませんが…
スカラ座のアイーダを観に行こうと思った時はあまりにも予算外(200ユーロ越え)であることと、いい席が既に埋まっていたということもあり、断念しました…キャストが良かったみたいなのでやっぱり行っておけば良かったかなとか今は思いますけど。
純粋なコンサートに比べてオペラは確かに言語の壁はありますね。言語が分かればもっと観に行ってたかもしれません。
長々と申し訳ありません…
もひもひさん
>因みに、イタリア語もドイツ語も理解できませんが、オペラやミュージカルって、中身があんまり分からなくてもいいやって思えるところがあります
それも一つの観劇方法ですし、正解の一つだと思いますよ。
だいたい日本人は意味とかストーリーとかに、こだわりすぎなんです。現代の欧米人達が全員、イタリア語とかドイツ語とかフランス語とか分かるなんて事ないです。特にアメリカ人なんて、外国語の分からない人ってたくさんいます。で、その外国語がちっとも分からない人たちがオペラハウスに行って、オペラを楽しんでいるわけです。
あっちの劇場には、日本の劇場と違って、字幕サービスなんてないんですよ。だから、言葉の細かいところなんて分からないんですが、でも雰囲気と音楽で楽しんでいるわけです。
だから、それもありです。それに何言っているか分からなくても、それなりに楽しめますしね。私も、今まで見たことの無い初見オペラで、日本語字幕の付いていないDVDを見る時は、最初からストーリーは投げていますよ(笑)。それでも結構楽しいんだから、不思議なものです。
>日本の劇場と違って、字幕サービスなんてないんですよ。
寧ろ日本では字幕サービスがあるんですね!
日本では友達の公演しか行ったことが無かったので気づきませんでした。
日本の劇場って優しいですね。
ウィーン国立歌劇場の公演に行くのに一気にハードルが下がった気がします。後はチケット代かな…ってチケット代確認したらエライ高いんですね。
チケット代見たら生きてる階層が違ったです…一番チケット代のハードルが高かったです…しゅん…
もひもひさん
一応、チラシなりチケットなりに「字幕サービスあり」って書いてると思いますので、確認してくださいね。
でもまあ、今の時代、プロの公演の場合、日本語上演か、原語歌唱+字幕サービスの二択ですよ。今時、字幕無しの原語歌唱のオペラなんて、なかなか見られるものではありません。私が見に行く地元でやっている海外の歌劇場の引っ越し公演なんて、ウィーンと比べると、だいぶ落ちますが、それでもどこもきちんと字幕サービスがありました。もし、ご心配なら、主催者に電話で確認しちゃえばいいんです。
>日本の劇場って優しいですね。
いや、そこまでやらないと客が入らないからです。
>チケット代確認したらエライ高いんですね。
“ウィーンまでの往復の格安航空券+現地購入チケット”と、ほぼ一緒か、席によっては多少はお安い感じですね。そう考えると、決して高くはないです。地球の裏側まで、わざわざお越しいただくのですから、彼らの足代の負担ぐらい、お布施のようなものじゃないですか(笑)。
何度も申し訳ありません。
参考になります!ありがとうございます。
>お布施のようなものじゃないですか(笑)。
それもそうですね!あはは。
キャストも演出も興味深いですしね。対価としては高くはないってことですね。
S席の金額をパッと見ただけで、つい怖気付いちゃいました。。
今まで、オペラはCDで満足していたのですが、すとんさまの日記を拝読するようになり俄然興味が湧きました!ありがとうございます。
もひもひさん
どういたしまして。まあ、それであっても、オペラは安くない道楽です。私もウィーン国立歌劇場は見たいですが、お値段もさることながら、チケット争奪戦に勝てる気がしないです。
私はオペラは、舞台最前列の指揮者の真後ろで見たい人なのです、指揮者の真後ろが無理でも、最前列は死守したいんです。歌手の息遣いを感じられる場所でオペラを見たいんですよ。でも、ウィーンの上演で、そういう席って…たぶん買えないよねえ(汗)。
すとんさん!
私も第二外国語は中国語だったんですよ。
中国の文学が好きでねえ。特に戦記が。
Z会に入って国語を取ってましたが、国語の問題にエロ漢文が入っているのが
面白かったです。
ひらがな・カタカナが入る面倒な日本語よりは、漢字だけで、意味が
はっきりしている漢文が大好きでした。
オランダに来て、西洋の言葉ばっかり学んでしまったので、
中国語の知識が減退してます。
それがちょっと残念です。
ちなみにアムスの歌劇場には、蘭語と英語の字幕が電光掲示板で
出るんですよ。
親切です。
おぷーさん
中国語は、中国系の人とのコミュニケーションツールとして使えるのはもちろん、日本人には馴染み深い“漢文”の読みにも重宝します。私は中国語を勉強したおかげで、漢文は、仮名交じり文よりも、仮名のない白文の方が楽になりましたもの。漢文は、中国文学であると同時に、日本文学の一翼も担っているわけで、そういう意味では、一度で二度美味しい学ぶ価値のある有益な外国語だと思ってます。
>アムスの歌劇場には、蘭語と英語の字幕が電光掲示板で出るんですよ。
へえ、それは驚き。まず、字幕が出ることにビックリだけれど、オランダ語と英語の2つも出るなんて、これにもビックリ。これって、日本の歌舞伎座で、お芝居をしている脇に、日本語と英語の字幕が出るようなものでしょ? いやあ、これこそ親切ですね。日本の歌舞伎座(に限らないけれど、古典芸能を上演する劇場)は、こういうサービスをマネするのもいいんじゃないかしらね。