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ヴォイス・トレーニングって…何?

 最近、よく耳にするヴォイス・トレーニングって何でしょうか?

 ヴォイス・トレーニングとは、ヴォイスをトレーニングする事ですよね(笑)。つまり“声の訓練”ってやつを、カタカナで書いただけの話です。まあ、具体的に言えば、いわゆる発声練習を中心とする学びです。では、その発声練習で何が得られるのでしょうか?

 そこは実は、曖昧模糊としていますよね。

 そう言えば、私の前の声楽の先生であるキング先生の講座名は、実は“歌”でも“声楽”でもなく“ヴォイス・トレーニング”だったんですよ。

 当時の私は歌(合唱に必要な基本的なテクニック…当時は合唱をしたかった私なんです)を学びたかったのですが、そういう先生が見つからず、やっと見つけたのがヴォイス・トレーニングの先生で、この先生がクラシック音楽出身の方だったので、もしかすると、私の要望に答えて、歌“も”教えてくださるのではないかしらと思って、扉を叩いたという経緯があります。

 それくらい、ヴォイス・トレーニングって、何だか分からないですよね。

 実際、私がキング先生のところで学んでいた時(最初はグループレッスンだったんです)も、色々な志望動機の方が門を叩きました(そして、すぐに逃げ出しました:笑)。

 例えば“歌がうまく歌えるようになりたい”とか“カラオケを上達したい”とかなどは、まだ良い方で“滑舌が悪いのでハキハキ話せるようになりたい”とか“声が小さいので、もっと大きな声を出せるようになりたい”とか“ミュージカル女優になりたいんです”とか言う人もいました。そういう方は、ヴォイス・トレーニングよりも、話し方教室や劇団の門を叩いた方が良いんじゃないかって思います…が、そういう方も扉を叩いちゃうのが、ヴォイス・トレーニングという看板なんです。

 そのうち“声優になりたいんです”とか“アナウンサーになりたいんです”なんて子もやってくるんじゃないかと、当時は密かに楽しみにしていました(少なくとも、私が在籍していた当時は、そういう方は現れませんでした)。

 結局、キング先生はクラシック声楽の人ですから、扉を叩いて入会しても、残ったのはクラシック声楽を習いたいという人だけで、その他の人たちは、最初のお試し期間が終わると、みな姿を消したものです。かく言う私も、最初こそは「合唱に必要な歌のテクニックを教えて下さい」だったわけだけれど、やがてソロ(クラシック声楽)の魅力にはまり、今では合唱など“どーでもいい”状態になり、ソロ一辺倒になったわけだから、人間、何がどう影響するか分かったものではありません。

 そんなわけで、結局、クラシック声楽の人しか残らないのだから、最初から“クラシック声楽”を看板に掲げればいいのに…と思って、先生にそう言った事もありますが、この看板は先生のご意思ではなく、事務方の強い希望なので仕方ないのですという答えをいただいた事を覚えています。

 おそらく、事務方からすれば、最初からクラシック声楽という看板にしちゃうと、本当にクラシック声楽を希望する人しか集まらないけれど、ヴォイス・トレーニングという看板を掲げていれば、元々はクラシック声楽を希望していなかった人も、まちがえて参加しちゃうかもしれないし、そうやって間違えた人の中から、うっかりクラシック声楽の魅力に目覚めて、そのまま学び続けるようになるかもしれない…とそう期待していたようです(私はまさにソレです:笑)。

 つまり、歌関係の教室だと明記すると、生徒が集まらないので、そのあたりをカモフラージュしていた…わけです。ま、これは商売上の方便って奴ですわ。実際、私自身、クラシック声楽という看板が出ていたら、キング先生に習っていたかは…微妙かもしれません(日本で合唱をやっている人は、意味なく、ソリストを嫌う傾向がありますからね)。そういう意味では、事務方の判断は正しいのかもしれません。少なくとも、初心者とか未経験者を相手にするなら、曖昧模糊とした看板の方が良いのかもしれません。

 でも、曖昧模糊とした看板による弊害もあるわけです。

 私がつらつらと見てみると、ヴォイス・トレーニングと名乗っている教室の大半は、やっぱり歌関係の教室が多いです。たまに演劇関係の教室もありますが、多くは歌関係です。ただし、歌と言っても、クラシック声楽もあるけれど、ポピュラー系のお教室もあれば、カラオケ系のお教室もあります。ですから、看板は一緒でも、中身は結構違うわけです。

 私はたまたまクラシック志向が強かったから、キング先生の教室で良かったけれど、そうでなければ、どうなっていたのか? あるいは、話し方とかお芝居のためのヴォイス・トレーニングを求めていたら、キング先生のところだと、どうなっていたのか?

 私が思うに、たぶん、話声のトレーニングと、歌声のトレーニングは違うし、舞台声のトレーニングと生活で使う声(ってか話し方)のトレーニングは違うんじゃないかな? 自分が目的としているものと違うものが出てきたら、やっぱりビックリするよね。

 例えば、見知らぬ街で、ラーメンが食べたくなって“麺どころ○○”みたいな屋号の店に入ったと思ってください。地元民なら、その店が何を出す店か知っているでしょうが、ふらっと通りかかった程度だと、それも分からないわけで、ラーメン食べたい時は、クチの中がラーメンになっているわけだし、頭の中もラーメンになっているから“麺どころ○○”という看板を見たら、勝手にラーメン屋だと思って、店に入っちゃうかもしれない。

 で、その店がラーメン屋だったら良いのです。ラーメン屋でなく、つけ麺屋さんでも、まあ勘弁できるかもしれない。でも実は、そば屋さんやうどん屋さんだったら、ちょっとビックリだよね。スパゲッティ屋だったら、ビックリ程度じゃすまないかもしれない。焼きビーフン専門店だったら…まあ、そんな事はまずないか?

 うっかりそば屋さんに入って、天ぷらそばを頼んで、それが美味しくて、それ以来、そのそば屋の常連になる事もあるかもしれないけれど、ラーメン食べたくて店に入ったのに、ラーメンがなくて、それでガッカリして、何も注文せずに帰ってしまうしまう人もいるわけです。

 だまされたわけではないけれど、なんかだまされたような気がします。それって商売的には、どーなんでしょーね。

 商売として間口が広いのは良い事だろうけれど、せっかくやって来た顧客をがっかりさせてしまうのは、マイナスではないかしらと…商売の事はよく分からない私だけれど、なんかそんな感じがするんですね。

 ヴォイス・トレーニング教室に、話し方教室を求めている人もいるでしょう。そんな人は、うっかり入会しても、居場所の無さを感じて辞めてしまうと思います。

 ヴォイス・トレーニングという看板を見て入会手続きをする生徒さんは、みんながみんな歌が好きってわけじゃないでしょ。実際、キング先生のところも、せっかく入会しても、歌のレッスンになったら辞めちゃた人も多いし…。

 それでも世の中には、ヴォイス・トレーニングの教室はたくさんあって、それなりに繁盛しているわけです。商売のやり方としては、これで正しい…のかもしれません。なんか、気分がモヤッとしたままです。

 蛇足 実はキング先生のところでは、入会希望者が来る度に、通常レッスンを止めて、入会者用の体験特別レッスン(内容は毎回同じ)に切り替わるのが常でした。レッスンは月に2回しかなかったので、入会希望者が続くと、ほぼ通常のレッスンが止まるんですね。発表会が近かろうが関係なく…ね。でも、新規の人はたいてい続かないわけで、だったら、新規の人が来ようが何しようが、通常のレッスンをやってくれよーって、当時は思っていました。だからグループレッスンから抜け出せた時は、なんかうれしかったですよ。

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