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器楽の人は楽器を持っていないと音楽はできないけれど…

 …声楽の人は、自分自身が楽器だからいいよね。

 そういう言葉を聞く事があります。この言葉は器楽の側から見れば、事実ですね。器楽の人は、自分の楽器を手にして始めて音楽ができるわけですから。

 しかし、この言葉は、声楽の人からすると、必ずしも正しいとは限りません。と言うのも、声楽を嗜んでいる人の皆がみんな、楽器を持っているわけではないからです。

 どんな人でも“話し声”は持っています。よほどの病気や障害を抱えていない限り、誰でも話し声は持っていて、自由に言葉を操ることができるものです。しかし、歌声。それも声楽で使える楽器としての歌声を持っている人って、実はそんなに多くはありません。

 もちろん、歌声と言っても、千差万別で、人それぞれです。楽器にもランクがあるように、歌声にも、正直な話、楽器としてのランクがあります。一流のプロ歌手として活躍できるほどの美声を持っている人もいれば、美しさにはやや欠けるもののホール演奏が可能なほどの音量を備えている声であるとか、音量にはやや欠けるものの、声の美しさは十分に備えているので、サロン程度ならば歌える声であるとか、美しさや音量などあれこれ不足していて独唱には向かないけれど、正しいピッチの声なので、合唱には十分適応できる声であるとか、話し声から離れられず歌うには厳しい声であるとか、声がつぶれていて歌には不向きな声であるとか…ほんと、色々な人がいるものです。

 今はP.A.システムもあるので、音量に欠けても、美しさに欠けていても、少々声がつぶれていても、電気的な処理を加えることで歌手として活躍できます(現にポピュラー歌手の中には、ほぼ話し声で歌っている人もいるくらいです)が、クラシック声楽は、基本的に電気に頼らずに歌うわけですから、ある程度の歌声を持っていないと厳しいのです。

 この場合の「声を持っていない」は「自分のカラダが楽器ではない」という意味です。もちろん、未訓練のために声が楽器として使えていないというケースもあるけれど、素質的に歌声を持っていない、あるいは貧弱な歌声しか持っていないというケースもあります。

 器楽なら、楽器を持っていなければ、店に行って、立派な楽器を買ってくればいいけれど、歌の場合は、そうはいきません。自分が生まれ持った声しか使うことができないのです。自分の持っている声で出来ることしか出来ないのです。

 さらに困った事に、自分が歌声を持っているかどうかは、実はなかなか自分自身では分からないのです。だから、周囲の人が、声の判定をして、それをきちんと本人に教えていかないといけません。特に若い人の場合は、声の有無に人生がかかっている場合もあります。ほんと、そこはきちんとしっかりと教えてあげないといけません。

 たまに話に聞くのは、一生懸命、歌の勉強をして音大に入学したら、自分がプロとして通用するような声を持っていない事に気づいてしまう人がいるって事です。大学に入ってから気づくわけです。一般的に考えれば「何をやっているんだい…」って感じですが、これが決して珍しい話ではないらしいのです。

 自分には声がない!と気づいた段階で、上手に方向転換ができれば良いのですが、未練もあるし、不器用な生き方しか出来ない人もいるわけで、そこで判断中止となって、残りの時間は流れに任せて卒業してしまうと…ほんと、どうにもならなくなります。取り返しがつかなくなります。

 声楽の人は、自分が楽器だから、自分自身を鍛えていくわけだけれど、鍛える前に、神様からどれだけのモノを与えられているか…そこも大切な要素となるわけで、そういう点では、楽器さえ買えばいい器楽の人の方がうらやましい…と思う声楽の人もいるって事です。

 器楽であれ、声楽であれ、良い楽器を持っている人は、幸運だね。

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コメント

  1. アデーレ より:

    自分の声ってわからないですよね。録音しても実際の声の響き、広がりはわからないですもんね。
    でも、声って不思議なもので、重い声がすきならば重い先生の発声を真似すればある程度は重くなり、しかし、高音が伸びなくなりますし、また高音が得意な発声をすれば、伸びのある広がる声よりキラキラキンキンよりの声になり、なんかゴムみたいね、、と。縦か横に伸ばす、どちらに伸ばしたいですか?って感じで、どちらもってわけにいかないもんみたい。だから好きな歌手や好きな歌を参考にして自分の声をカスタマイズ?
    だからこそ、好きな声の先生につくのがよくて、レパートリーも一緒が良いでしょうかね!
    声は質量でオペラの役が決まり、カルメンと夜の女王は両立できないのが普通です。でも、マリアカラスは両立しましたね!しかし、長くはできませんでしたね。そう、声に無理はできませんね。なぜだか、今日は真面目なお話でした(笑)

  2. すとん より:

    アデーレさん

     自分の声は分からないです、ほんと、分からない。

     私は以前は、自分の声はかなり重い声だと思ってました。テノールにしてはかなり重く、ドラマティコか、あるいはいっそ、ハイバリトンとテノールの中間ぐらいじゃないかと思っていた時機がありました。あの頃は、デル・モナコとかドミンゴとかの重量級のテノールが好きだった覚えがあります。

     今はどちらかと言うと、軽い声になると思ってますし、実際、そういうレパートリーを歌っている時の方が楽なんです。

     だからと言って、宗教曲を歌うほど軽いわけじゃないし、モーツァルトやドニゼッティを歌えるほどの軽さもないわけで、どのあたりが自分の声にピッタリなのかと模索中です

    >だから好きな歌手や好きな歌を参考にして自分の声をカスタマイズ?

     最近では、フランスのテノール、ロベルト・アラーニャが気になる私です。彼のような歌が歌えたらいいなって思ってますし、カスタマイズが可能なら、彼のような声になりたいです。案外、声質は似ているんじゃないかって思っているんですがね。

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