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私の好きな歌曲 その4 Lascia ch'io pianga/私を泣かせてください

 私の大好きなヘンデルの曲です。「Lascia ch’io pianga/私を泣かせてください」は、「涙の流れるままに」という邦題で呼ばれることもあります。一般的には、やっぱりイタリア古典歌曲として知られますが、実はこの曲、パリゾッティの「古典アリア集」には入っていません。つまり、この曲が全音の「イタリア歌曲集」に入ったのは、編者の畑中良輔氏の選曲だったわけです。

 で、この曲。元々はヘンデルの「リナルド」というオペラの中のアリアなんだそうです。…と言っても、私はその「リナルド」というオペラ、未見なんですけれどね。ぜひ一度見てみたいものだと思っていますが…なかなか上演される機会もないし、DVDも購入できずに、今日に至ってます。そのうちデアゴの「世界のオペラハウス名演コレクション」に入ってこないかなあ…と期待して待っている次第です(でも、マイナーな作品だから、無理かも…)。

 どんな曲かと言うと…例によってYouTubeの動画で聞いてみましょう。

 歌っているのは、キルステン・ブライズという、古楽で活躍しているソプラノ歌手さんです。いわゆる“ヘンデル歌い”と呼ばれるタイプの歌手さんです。

 歌詞はこんな感じです。

Lascia ch’io pianga mia cruda sorte,
つらい運命を泣かせて下さい。
e che sospiri la liberta.
 私を自由にしてください。
e che sospiri, e che sospiri la liberta.
 私を自由にしてください、今すぐ自由に。

Lascia ch’io pianga mia cruda sorte,
 つらい運命を泣かせて下さい。
e che sospiri la liberta.
 私を自由にしてください。

Il duolo infranga queste ritorte
 私を繋ぐ、この鎖から解き放たれますように。
de’ mei martiri sol per pieta, si.
 ただあなたの憐れみによって、そう、
de’ mei martiri sol per pieta.
 ただあなたの憐れみによって。

Lascia ch’io pianga mia cruda sorte,
つらい運命を泣かせて下さい。
e che sospiri la liberta.
 私を自由にしてください。
e che sospiri, e che sospiri la liberta.
 私を自由にしてください、今すぐ自由に。

Lascia ch’io pianga mia cruda sorte,
 つらい運命を泣かせて下さい。
e che sospiri la liberta.
 私を自由にしてください。

 良いですね~。この曲は(一応)歌曲(扱い)ですから、男性が歌っても女性が歌ってもいいのですが、オペラのアリアである事を考えると…この曲、捕らわれのお姫様であるアルミレーナ姫が歌っているので、やはりソプラノ歌手による歌唱が良いですね。

 ですから、女性歌手が歌う時は、レチタティーヴォの部分も合わせて歌うことが多いのですが、男性歌手が歌う時は、レチタティーヴォは割愛です(そりゃそうですよね)。

 実は私、この曲を初めて聞いた時、一瞬でこの曲の虜になりました。いわゆる“一目惚れ”ってヤツです。

 その時にこの曲を歌っていたのは、ソプラノ歌手の歌声ではなく、カストラートの声で歌われたモノでした。具体的にはこれね。

 この動画は、映画『カストラート』の中のワンシーンです。歌っているのは、この映画の主人公であり、実在の人物であった、稀代の名カストラートであるファルネッリです。そう『カストラート』という映画は、ファルネッリの伝記映画なんですね。

 映画ですから、演じているのは男性俳優(ステファノ・ディオニジ)ですが、歌声は彼のものではありません。ファルネッリの歌声は、素材としては、カウンターテナーのデレク・リー・レイギンの歌声をベースにして、それにソプラノ歌手であるエヴァ・ゴドレフスカの声の音声フォルマントを操作して男性の声のような響きに変えたモノを、コンピューター合成して創りだした、人工的なカストラートの歌声…なんだそうです。

 今なら、もっとうまくやれるのかもしれませんが、この映画が制作されたのが1994年。つまり、Windows95よりも以前の話ですからね。その時代にしては立派なモンです。とにかく、今や実在しないカストラートの声を、コンピューター合成とは言え、創りだしたんだから、恐れ入谷の鬼子母神でございます。

 動画の途中で子どもが白濁した水に漬けられるシーンがありますが、あれは去勢手術のシーンです。主人公であるファルネッリは、その美声ゆえに去勢手術を施されて、声変わりをしないように、少年の声のまま成人になるように手術されてしまったわけです。

 映画の中でのファルネッリは歌手として成功を極めつつも、身体障害者であり、それゆえに社会から爪弾きにされている自分をうまく受け入れることができずに苦しむわけです。

 ま、映画の話はいいや。興味のある方は、最近再発売されていますので、そちらをご覧ください。いい映画ですよ。

 とにかく、このファルネッリの歌声にやられて、この曲が気に入った私だったのでございます。カストラート…素敵だよねえ。女声の響きに男性の力強さが加わった声…私もこういう声が欲しかったなあ…去勢手術は絶対にイヤだけれど(笑)。

蛇足 現代版カストラートと言われているのが、マイケル・ジャクソンです。マイケル・ジャクソンは、外科的な去勢手術は受けていないけれど、少年の頃、声変わりを阻止するために、女性ホルモンを投与されて、不妊になった(つまり、男性機能を失った)という都市伝説があります。本当かどうか、今となっては分からないけれど、我々の常識では理解できない彼のハイトーンヴォイスを説明するには、実に理にかなった噂です。

 皆さんは、どうお考えになりますか? それにしても、この“黒かった時代”のマイケルって、実にチャーミングですよね。

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コメント

  1. アデーレ より:

    この曲、歌う人により、こうも印象が違うのか、と思うときがあります!レチタティーボが美しく、しかし、YouTubeなどみてもレチタティーボからのはわずか。イタリア古典歌曲はあなどれない。そう、初心者むきのようだが、実に結構、難しいのだ!わたしはo del mio dolce ardorとか好きかな、、。情熱的でしょ?笑

  2. すとん より:

    アデーレさん

     イタリア古典歌曲って、声楽初学者の方々も歌いますが、だから音楽的に劣っているかというと、それは逆で、音楽的に優れているから、何百年もの時の風化にも耐えて、今に残っているのだと思います。それに、イタリア古典歌曲が簡単に見えるのは、パリゾッティの編曲のせいであって、本来の古楽唱法、バロック唱法に立ち返って歌うなら、限りなく難しいと思います。何しろ、大半がダ・カーポ・アリアですから、後半部は歌手ごとにバリエーションをつけて歌わないといけないわけです。映画「カストラート」のファルネッリのようなバリエーションを歌手ごとに用意して歌う…そんな事、声楽初心者にできるわけないです(笑)。

     単純に、イタリア古典歌曲って、初学者もそれなりに歌えるけれど、プロ歌手はプロ歌手として、自分の個性を出しながら歌える、懐の深い音楽…なんだと思います。

    >レチタティーボが美しく、しかし、YouTubeなどみてもレチタティーボからのはわずか。

     たぶん、レチタティーヴォから見たければ、“歌劇「リナルド」”で検索かけちゃう方が早いかも。例えば、この動画とかね(https://youtu.be/Xpd0sdVn26I)。

  3. genkinogen より:

    こんにちは。
    ちょうどこの曲練習しています。レテイタィーボを練習したかったのですが、YouTubeで検索してもレチタチィーボから歌っている映像ないですね。情報ありがとうございます。検索してみます。
    柔らかくかつ跳躍するの難しいです。

  4. すとん より:

    genkinogenさん

     「Lascia ch’io pianga/私を泣かせてください」は歌曲扱いですから、アリアの部分は、男性が歌っても、女性が歌っても、とりあえずはOKな曲ですが、レチタティーヴォ付きとなると、話は別ですよ。レチタティーヴォ付きなら、女声限定ですって。だって、この曲、お姫様が歌っているんですよ。女性の役なんですよ。

     まあ、男性が女性の役を歌うスカート役のおつもりならOKですが、オペラの世界では、スポン役(女性が男性の役を歌う)のはたくさんありますが、スカート役は…ごく少数ですが、無いわけではないので、そのおつもりなら、どうぞ…って感じかな。

     男性のレチタティーヴォもたくさんあるんだから、そちらで練習されたら…なんて思います。例えば、今私が取り組んでいる愛の妙薬の二重唱なんて、曲の半分はテノールのレチタティーヴォですよ。そういう曲もあるんだから、じっくり探してみればいいと思います。

     当然ですが、アリア集を探してもレチタティーヴォの曲はありませんよ。レチタティーヴォは全曲譜じゃないと、手に入りません、念のため。

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