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なぜフルートは銀で出来ているのか、考えた その2

 以前、私は『なぜフルートは銀で出来ているのか、考えた』という記事を書きました。そこでの結論は、身も蓋もなく「現代フルートを発明した、テオバルト・ベームが、色々と試行錯誤した結果、フルートの素材として最も適切なものは銀であると決定し、実際に銀のフルートを製作使用し、それらを普及させたからです。つまり、現代フルートは銀で作るものだから、フルートは銀で出来ているんです。」と結論づけました。

 ほんと、身も蓋もない(笑)。それだけで議論を終えてはつまらないので、さらにもう少し考えた結果「(銀製ならば)毎日クチビルをつけても安全だから」という理由も考えました。

 それは「銀は無害で、無臭で、アレルギー等を引き起こしづらいから」です。「金や白金などもほぼ無害&無臭だが高価」であったり、「チタンも無害だが硬くて加工が面倒」であったり、「銀は高級食器の材料」だからという理由も添えてみました。

 その後も、私は色々と考えたり、ネットで調べてみたりしました。で、更に別の理由も追加できるかも…と思って、今回の記事を書くことにしました。もちろん「毎日クチビルをつけても安全だから」という結論は変わりません。むしろ、この結論をさらにサポートする理由を思いついた…って感じですかね。

 銀がなぜ“高級食器の材料”として使われるのか、調べてみました。もちろん、無害&無臭という理由もありましたが、実は銀って『毒物に即座に反応する』という性質があるんだそうです。毒物と言っても、主には“砒素”系と“硫黄”系の毒物なんだそうです。すべての毒物が対象ではないとは言え、直接クチビルにつけるわけですから、毒に反応し、毒が塗られていたなら、それが即座に分かる、つまり“安全面が担保されている”のは、うれしい事です。ですから、フルートを銀で作るのは、良い事なのかもしれません。

 ちなみに、銀製のフルートを吹いていると、やがて黒ずんできますが、あれは息に微量に混入している硫黄に反応しているんだそうです。ですから、フルートが黒ずむのは、ある意味健全なんですね。

 そして銀には『微生物や細菌の繁殖を抑える』という性質があるようです。そのメカニズムは私には分かりませんが、最近、身の回りの衛生製品等(主に消臭剤ですが)で、雑菌の繁殖を抑えるために、銀イオンがよく用いられているじゃありませんか。なぜ、銀イオンが雑菌の繁殖を防ぐのかは分かりませんが、雑菌が繁殖しないなら、衛生的でいいじゃないですか!

 あと、銀は鉄とは違って“錆びない”という性質があります。もちろん、この場合の錆とは、酸化鉄の発生と、それに伴って腐食生成物も発生しないって事です。鉄の錆って、イヤですものね。

 厳密には銀もサビます。いわゆる“銀の白錆”と言うのが“酸化銀”であり、“銀の黒錆”が“硫化銀”です。銀も酸化するのですが、酸化鉄とは違って、いわゆる腐食生成物を発生しないので、例え銀が錆びても、表面を削って錆を落とせば、白錆であれ黒錆であれ、すぐに元通りになるわけです。メンテが楽なのも、楽器に使う材料としては良い性質ですね。

 銀同様に、サビづらい金属としては、いわゆる貴金属と呼ばれるものがあります。貴金属とは、理科的には“卑金属”の事を指すそうで、具体的に言うと、金、銀、白金(プラチナ、ルテニウム,ロジウム,パラジウム,オスミウム,イリジウム等)がそうです。これらの金属の中で、実は銀って、圧倒的に比重が軽いんだそうです。つまり、金とかプラチナとかのフルートって、重くて、使うのが大変…ってわけです。ですから、貴金属の中でも軽量な銀が採用された…と言えます。

 が、昨今は、重さに負けずに、金のフルートを使っている人も大勢増えました。楽器が重いほど、一般的には音量が増しますので、重さと音量を天秤にかけて、音量を選択する人が増えた…って事でしょうね。

 ちなみに、卑金属ではないけれど、化学的に安定しているという性質に着目して、一般社会では、銅と水銀も貴金属として扱う事があります(ですから、オリンピックのメダルは、金・銀・銅、なんでしょうね)。

 まあ、水銀が楽器材料に向かないのは当然として、銅は、フルート以外の金属製楽器の材料としてかなりポピュラーです。しかし、銅で作られた楽器を直接クチビルにつける事はなく、たいていはマウスピースを経由して人体と接触するわけです。

 銅はたやすく酸化して緑青を生成します。緑青は、割りと近年まで毒物であると思われていたので、銅を直接クチビルに接触させるのは避けられたのだと思います。ちなみに、現在では緑青は無毒という事になっています。また緑青は生成されても、それは銅の表面に付着するだけで、銅を侵食するわけではないので、銀に対する酸化銀・硫化銀のようなものだという事になってます。

 もしも銅のサビである緑青が毒物なら、水道管って銅で作られている事が多いので、水道水を飲む人は全滅しちゃってますって。

 銅イオンは銀イオン同様に、雑菌の繁殖を抑える作用もあります…と書くと、なぜフルートは銅で作られないのかという話になりますが、銅は、なんと言っても、アレルギーを引き起こしやすい金属なんです。そのため、銅が安価で安定していて、緑青が無害であっても、直接クチビルに触れる部分に銅は使いづらいわけです。

 とまあ、こんな理由も付け足して、銀は「毎日クチビルをつけても安全だから」フルートの材料として最適って事にしておきます。

 あ、“銀はキラキラで美しいから”という理由も付け加えておきます。いや、実際、銀特有のあの輝きに魅了される人は多いですし『キラキラだから銀のフルートが好き』という人もいるわけで、キラキラは無視しちゃいけない理由だと思いますよ(笑)。

蛇足 銀の含有率を表現するのに、よく見かけるのが『Ag***』とかいう表現ですね。この『***』の部分の数字は“***/1000”の略で、フルートの含有率には、百分率ではなく千分率が用いられているってわけです。例えば、Ag925とは、92.5%の銀と、7.5%の銅で出来ていることを示しています。これはスターリングシルバーと言って、一応“純銀”扱いなんです。ちなみに、硬貨で使われているコインシルバーはAg900となります。まあ“ほぼ純粋に近い銀”という扱いですね。

 なぜ銀に銅を混ぜるのかと言うと、銀そのものはかなり柔らかい金属であって、それだけではあまりに実用性に欠けるので、銀よりも硬い銅を加えて、硬さを増して、使いやすくするためなんだそうです。なので、真正の純銀はAg1000という事になりますが、柔らかすぎて、現実には、なかなか使用することができないのだそうです。

 フルートでも、Ag997の銀(メタライズドシルバーと言います)を使用したフルートまでは存在しますが、Ag1000のフルートって存在するのかな? ちなみに私のフルートは、Ag958のブリタニアシルバー製でございます。

 なぜ、銀のフルートは銀の含有率にこだわるのかと言うと、銀の含有率が多いほど、その音色が優しくふくよかになるからだ…と言われているからです。が、フルートって別に管体が鳴って音を作るのではなく、管内の空気が振動して音が作られているので、管体の材料と音質には、何の関係も無いはずなんだけれどなあ(笑)。もっとも、そんな事を書いている私が、Ag958のブリタニアシルバー製フルート、つまり“一般的に純銀と呼ばれる銀よりも含有率の高い、銀の中の銀で作られた銀のフルート”を使っている時点で、説得力は、まるで無しなんだけれどね。

 でも、フルートって、塩化ビニールで作っても、金銀プラチナで作っても、音は同じ…って言われても、にわかには納得できないよね(うんうん)。

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コメント

  1. うさぎ より:

    私の先生、銀のフルートを愛用されていますが、リッププレートに養生テープを貼られています。なんで?と聞くと、唇がピリピリするのだそうです。外国製品有名な頭部管だったように思います。そんな方もいるのですね。リッププレートが金のフルートもありますが、音色を作りだす助け以外にもなるのかも。私は洋銀のフルートですが、先生がしきりに調整に出してはどうかとおっしゃいます。ん〰。洋銀フルートだって大切な相棒ですが、今一つ、お金をかける気がしない薄情な私です。

  2. すとん より:

    うさぎさん

     調整はした方がいいですよ。いや、まじ、ホントです。調整というのは、フルートのメカの部分の調整で、これをすると、トーンホールが楽にきれいに閉じるようになります。逆にしないと、指に力をいれて演奏しないといけないので、指の動きが悪くなるし、フルート自体がきれいに鳴らなくなります。

     調整は、メカの調整だけなら、5000~20000万円程度ですが、フルートフェアなどをやっていると楽器店が無料で調整をしてくれます。ちょっと調べてみるといいですよ。ちなみに私は、年2回の無料調整を欠かさずにやってます。

  3. chako より:

    うちは管体銀と総銀900なんですが
    お国もメーカーも違い、全く音色が違います
    最後は素人ながら頭部管(歌口)の差なのかなと思います
    一度10Kの頭部管(SANKYO)で吹き比べたことも有りますが、管体銀は頭部管に負けてました
    限界が低いのかなφ(..)メモメモ

    メンテナンス
    私も楽器屋さんの調整会使ってます
    使用頻度少なくても半年一回はだしたいですね
    見て貰うと案外狂ってることがありますよ

  4. すとん より:

    chakoさん

     仰る通り、頭部管の(カットの)違いが一番音に影響する…って聞きます。

     あと、材質による違いは…音色に関係するかどうかは分かりませんが、単純に比重の違い(ってか質量の違いか?)で、伝達できる音のエネルギー量が違ってくるという人もいます。例えて言えば、フニャフニャの床と硬い床では硬い床の方が高く跳ねることができるし、その硬い床も、単純に硬い床と、バネのようにしなりながら硬い床では、しなりながら硬い床の方がより高く跳ねることができますって具合です。

     音は振動ですから、フルートの材質がその振動のエネルギーに負けてしまうと、音に影響してしまうと思います。軽い材質と重い材質では、やはり振動のエネルギーにどれだけ耐えられるか…の違いがあるんだと思います。だから、オーディオの世界では、スピーカーは重ければ重いほど良いってされるわけです。

     フルートでも、頭部管と管体でバランスの取れた音が欲しいなら、同一素材がいいだろうし、管体をきっちり鳴らしたいなら、頭部管の方が強くてもいいんだと思います。でも、あまりに頭部管と管体が違いすぎると、うまくいかないのかなって思います。

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