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教育と経営は違うのだよ

 フルートのレッスンに行ってきました。

 お教室に入るなり「実は、このフルート、前回のレッスンでしまったまま、一度も組み立ててません」と正直に白状しました。「まあ、仕事が忙しそうだからね。せめて、ここに来た時くらい、たくさんフルートを吹いておきなさい」と勘弁してもらいました。へへ、そうさせていただきます。

 ロングトーン練習は、実にバッチリです。ここんとこ、いつもいつもバッチリバッチリと書いてますが、今回のバッチリは実にバッチリでした。何というか、バッチリの精度がドンドン上がって来ているような気がします。

 エルステ・ユーブンゲンは7番です。はっきり言って、まだまだ暗譜はマダラですが、先生と合わせたところ、なんとかノーミスで吹けたので、合格をいただきました。まあ、先生と吹いていると、一人っきりで吹いているの違い、ちょっと自信のない箇所は、コンマ数秒発音するのを遅らせて、先に先生に吹いてもらって、その響きにピヤっと合わせる…という、姑息な手段が使えるので、結果としてノーミスっぽく吹けました。まあ、合法的なカンニング?かもしれませんが…勘弁してくださいな(笑)。

 さて次は8番を暗譜です。で、合わせて9番も練習してきなさいって感じです。

 プチ・エチュードは9番です。吹き始める前に「今回で上がらせましょうね」とプレッシャーをかけていただきました(涙)。

 実際、この一週間、笛を持っての練習はしませんでしたが、前回注意された事は覚えてますよ。とにかく、指が滑ってしまうのを防ぐために、無闇に速く吹くのではなく、自分がコントロールできる速度で吹くことを心がけました。なので、心持ちゆっくりなテンポかな? とにかく、急ぎたくなる心を抑えながらの演奏をしました。

 でも、テンポのちょっとの違いがかなり大きかったようで、ほぼノーミスで行けました。なので、こちらも合格をいただきました。

 で、最後に9番を先生と合わせて吹いたのですが、先生、ゆっくりどころか、容赦なく速いテンボで吹くものだから、私はミスブローの連発どころか、あっちこっちで置いてけぼりを食らいました。私はやはり指の動きに難点があるんだな。速さに対応できません(涙)。

 今回の雑談。H先生は元音大の教授さんなので「音大を卒業してもピアノが弾けない人がいるのは、どういうわけですか」とストレートに疑問をぶつけてみました。

 その解答が「教育と経営は違うのだよ」との事でした。

 教育者としては、あまり実力の無い子を合格させるのは忍びないと思うのだそうです。と言うのも、実力の無い子って、やはり大学四年間、一生懸命指導しても、そんなに伸びるものではないんだそうです。伸びる子は、最初から輝いているんだそうです。つまり「音大で学ぶと、上手い子はより上手くなるけれど、上手くない子はそのまま」なんだそうです。だから、実力のない子を合格させて入学させるのは、本当に忍びないのだそうです。

 さらに言うと、一向に上手くならないからと言って、留年させるわけにもいかないのだそうです。と言うのも、留年させれば上達するなら、いくらでも留年させるのだそうですが、そういう子って留年したからって上手になるわけじゃないんだそうです。何年勉強しても上達しないのなら、さっさと四年間で卒業させてあげるのが、せめてもの情けなんだそうです。

 本科の楽器ですから、そんな状況ですから、副科ピアノの実力なんて、推して知るべしなんだそうです。

 それに、そういうレベルの子は、卒業したからと言って、プロの演奏家になれるわけじゃないのです。それどころか、音楽で食べていくのは難しいんだそうです。だから、そういう子に向かって、H先生は「学校卒業したら、音楽から足を洗って、カタギになるんですよ」と言ってあげるんだそうです。でないと、夢を見続けて、かわいそうな事になるから…なんだそうです。でも、H先生のように正直な先生ばかりじゃないから、出来ない子にも夢と希望を与えたまま卒業させてしまう先生もいるんだそうです。

 それで、ピアノもロクに弾けないピアニストさんが誕生しちゃうんだそうです。

 「そういう子は、ピアノが弾けないどころか、ロクに楽譜も読めなかったりするんだよ」って教えてくれましたが、ほんと、そんなレベルの子を入学させていいんですか?

 教育者としては、そういう子は、合格させたり入学させたりするべきではない…と考えるそうですが、理事の立場になると、または話は別なんだそうです。

 理事ともなると、学校の経営も考えないといけないわけです。「校舎を新築するために、今年は学生を多めに取ってください」と事務方から言われてしまうと、やはり合格のためのハードルを下げないといけないって感じてしまうんそうです。

 たとえそうでなくても「音大の先生たちはカスミを食べて生きているわけじゃないからね。生徒をたくさん入学させないと、お給料が支払えないのだよ」と考えてしまうのだそうです。つまり、理事としての自分と、教育者としての自分が分裂してしまうんだそうです。

 …分かるわあ。

 教育者の本音としては、将来、プロの演奏家になれる子だけを入学させて、みっちり育てて、卒業後の仕事の世話もきちんと見てあげたいのだそうです。でも、経営者の本音としては、学生の腕前に関わらず、一人でも多くの学生を合格させて、安定した経営を目指してしまうのだそうです。

 学校だって企業の一つです。企業なら、安定した経営で、従業員の生活を支えるのは当然の事です。安定した経営のためには、たくさんの学生が必要で、たくさんの人数を確保するためには、合格の基準がおのずと低めになってしまい、それがピアノが弾けないピアニストを生み出す一つの要因になってしまうのだそうです。

 なんとも世知辛い話です。

コメント

  1. operazanokaijinnokaijin より:

    ある東大教授曰く、
    東大生は3分の1ずつに分けられる。
    最初の3分の1、天才。
    中間の3分の1、秀才。
    最後の3分の1、凡才。よく東大に入れたね!?
    (この記事を保存しておかなかったのは、大失敗。)

    東大が入学定員を3分の2に縮小したとして、
    天才と秀才だけの大学になれるか、というと、どうなんでしょう?

    東大にせよ、一般の大学にせよ、音楽大学にせよ、
    大学が存立するためには、経営のため、学生の頭数が必要であるのみならず、
    天才、秀才を教育し、彼らの能力を向上させるために、
    天才、秀才ではない人材をも抱えて必要があるのかも。

    そんなことを思った、今日のすとん様エッセイでした。

  2. アデーレ より:

    そうだよね~。音楽大学って学費がやたら高いし、入ってからもレッスン代やらかかるんだから、今は子供も少なくなり昔よりレベルダウンしてるのかも~。国立最高峰大学は別ね!【わかるよね?】私立は弦はあそこ、歌科はあそこ、とかあるけれど、それ以外は難易度も昔より序列化してないかもね…
    今なら私も入れる?!いや、やっぱ無理だなぁ~(笑)

  3. 河童 より:

    「経営のため学生数を確保する」のも今の少子化社会では難しそうですね。
    卒業後に国家試験のある分野だと学生の努力目標が自ずと高まるのですけど・・・
    でも不向きだなと思われる学生も残念ながらいます。
    そういう学生にはもっと早いうちに他分野に向かうように引導を渡すのも情けです。

  4. すとん より:

    operazanokaijinnokaijinさん

    >最後の3分の1、凡才。よく東大に入れたね!?

     予備校の仕事ですね。予備校は入れるまでが仕事ですから、在学中はもちろん、卒業後の事なんて考えてません。まあ、当然と言えば当然ですが、そういう子たちが東大の評判を下げるんですよね。「学校の勉強はできるけれど…」って奴です。学力が高い事と、優秀である事は、全く違いますから。本人たちも、実力に見合わない学歴を得て、後の人生で苦労するんじゃないかな…なんて思う私は、余計な事ですね。

    >天才、秀才を教育し、彼らの能力を向上させるために、
    >天才、秀才ではない人材をも抱えて必要があるのかも。

     東大は国立大学ですから、そういう必要はないのかもしれませんが、私大だと、育て上げる学生と、集金のための学生の二種類が必要なのかもしれません。

  5. すとん より:

    アデーレさん

     音大で、子ども一人を卒業させるまでに、家一軒分の費用がかかるって言います。でもそれは、大げさではなく、たぶん本当の事だと思います。それだけお金をかけて、花嫁修業ぐらいにしかならないのでは、余程の金持ちでなければ娘を音大にはやれません。

    >今なら私も入れる?!いや、やっぱ無理だなぁ~(笑)

     キング先生に習っていた頃、よくキング先生に「今のすとんさんなら、音大ぐらい、軽く入れますよ」って言われたものです。まあ、学科試験で落ちる気はしませんが、実技試験をパスできる力があったんでしょうかね? 一体、どのレベルの音大を、先生は想定していたのでしょうか。また、あの頃は、しきりにコンクールも薦められました。きっと入賞できるよって言われてましたが、一体どんなコンクールを念頭に置いていたんでしょうね。

     音大もコンクールもたくさんありますから、私のような趣味人でもなんとかなるモノがあるんでしょうね。でも、そんな学校は、こっちからお断りだよ。

  6. すとん より:

    河童さん

     音楽家の場合「自分はプロの音楽家だ」と名乗ってしまえば、その日からプロの音楽家なんだそうです。それを生業とできるかどうかは別問題ですが。

     クラシック音楽の場合、音大卒業というのが、一種の資格のような感じになっているフシもあります。これも不思議な感じがします。他の職業なら、たかが大学を出たくらいじゃ、専門家とはとても呼べないのに、クラシック音楽では、そうではなかったりします。

     H先生の話では、ドイツには「国家認定演奏家資格」と言うのがあるそうです。それを持っていないと、プロの音楽家であると名乗れないのだそうです。この資格は音大で取れますが、音大卒業していなくても実力があれば、取れるんだそうですよ。ちなみにH先生は、その資格を持っている(留学中にゲットしたそうです)ので、ドイツでも堂々とプロの音楽家ですと名乗っていいんだそうです。

     それも面白いですね。

  7. chako より:

    おはようございます
    地元で活動しているフルートの先生(東京でもコンサートするくらいですが)
    国内コンクールで上位に入ってもけっして
    安定した収入にはならないとおっしゃっておりました
    どれだけ知名度があるかも重要かな

    地元の女子大音楽科フルート課出ても多くは大手楽器メーカーの委託フルート講師になられる方が多い見たいです
    その分ボランティアや震災復興チャリティーなど自由度は高いですが
    せっかく技術多くの人に音楽という幸せを届けて欲しいですね

  8. こうじ より:

    できない子をできるようにするのが教育なら今の有名大学は何ら教育機関ではありませんよね。できる子だけ入れて出すだけですから楽なもんです。世間もそれがわかっているから3年生で就職内定とかするのでしょう。
    私はもし音大に行くとしたら、演奏をきいてこの人のように歌いたい、と思う先生に習いたいです。でも音大にはいってもその先生につけるとは限らないのが難点ですね~。先生のレベルがみな同じならいいのですが。

  9. すとん より:

    chakoさん

     音楽家は個人事業の自営業ですから、儲かっている人はウハウハかもしれませんが、そんな人はほんの一握りです。おそらくクラシック業界だと、世界規模で活躍している指揮者とオペラ歌手と楽器奏者(ただしソリスト)ぐらいでしょう。後は演奏中心に活躍している人や学校の先生を兼務している人の中に、大企業の社員並に稼いでいる人がほんの少しいるくらいで、他の人たちは、武士の情けで、推して知るべし…ってところです。一人前になるまでに、かなりの投資が必要なのに、一人前になっても、投資を回収できない人が大半という、普通の業界では考えられない状態なのが、クラシック音楽業界だと思います。

     なまじ演奏力があって、楽器店の委託講師をやっている人よりも、演奏力が足りなくて、音大卒業後は楽器店に就職した人の方が、経済的に恵まれた人生を送れそうです。それもなんか不思議ですが…。

     まあ、生活に不安がある人は、音楽を生業にはできないって事ですね。それもまた変な話ですが…。

  10. すとん より:

    こうじさん

     学校には“できない子をできるようにする学校”もありますが、その一方で“できる子を更に引き上げる事を目標とする学校”もあります。後者は俗に“エリート養成学校”とも呼ばれます。

     義務教育である小中学校では、できない子のための教育を主に担当する公立学校と、エリート向けの私立学校があります。また、実質、日本の若者の大半が学ぶ高校では、公立私立ともに、学校ごとに、できない子のための学校と、エリート向けの学校が存在します。しかし、大学はその性格上、本来すべての学校が、エリート向けであるべきなんです。
     でも、現実には、高等教育を受けるだけの力がないにも関わらず、高等教育機関である大学に進学したがる学生がいる事と、それらの学生を受け入れる事で経済的に成り立つ大学があるわけです。give and take と言うか、win-win と言うべきか。

     本来、エリート向けの学校は、少数精鋭であるべきなんですが、それでは経営が成り立たないため、それらの学校に、育てられるべき学生と、授業料を収めてもらうためにいる学生(その対価として、卒業証書が与えられるわけです)の二種類の学生が混在しているのが、問題ではないかと私は思ってます。

    >私はもし音大に行くとしたら、演奏をきいてこの人のように歌いたい、と思う先生に習いたいです。

     それは簡単な話です。音大の先生たちのほとんどは、自宅レッスンをしていますので、その自宅レッスンを受ければいいだけの話です。もちろん、そのためには、その先生が求めるだけの演奏力をすでに身につけていないと、受け入れてもらえませんが…。

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