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メト・ライブビューイングで「ドン・カルロ」を見てきました

 はい、また、メト・ライブビューイングに行ってきました。毎度言ってますが、映画館のオペラ上映をナメない方がいいです(実は私、ナメてました:笑)。確かに、生演奏には劣るけれど、映像ならではの楽しみもあり、なかなかのものです。だいたい、映画館だから、歌手の声の響きまで分かるくらい、抜群に音響が良いです。機材を揃えたホームシアターでも、なかなかこのレベルにはいかないですよ。ましてや、普段の「iPOD+ヘッドフォン」の環境(私はたいていコレ!)とは雲泥の差。これだけでも、ライブビューイングってのは、価値があると思います。なかなか忙しいので、そんなにたくさん見に行けないけれど、チャンスを作って、また行こうっと。

 さて、今回の「ドン・カルロ」は新演出でございました。新演出は…私的に合格です。最近のオペラハウスの世界的な流行なんでしょうね。大道具はかなり簡素化されちゃって残念だけれど、その分を埋めるかのように、歌手たちの演技が細かくなっていました。分かりやすさが信条のメトのオペラであっても、以前の演出では、ストーリーがやや分かりづらかった(たぶん「ドン・カルロ」というオペラそのものストーリーが分かりづらいのだと思う)けれど、今回の演出で、だいぶ見晴らし良くなり、キャラも立ち、かなりストーリーが分かりやすくなったと思います。やはり、メトのオペラは、分かりやすくないとね。

 歌手たちの演技は、舞台演技なのに、実に細かかったです。まるで、映画やテレビドラマのような演技でした。ちょっとした表情とか視線とかの芝居がたくさんありました。あれって、実際の舞台では観客からは見えない演技ですね。ライブ・ビューイング前提なのかもしれないけれど、この細かい演技が、私たちのストーリー理解の大きな助けとなりました。

 そして、演技も細かいけれど、それをきちんと拾っていくカメラワークがすごいと思いました。特に、クローズアップのシーンがたくさんあった(だから、歌手の目の表情などもきちんと拾える)のだけれど、カメラはかなり遠くから撮影しているはず。歌劇場なんて、暗くて広いのに、あれだけのアップ画像をあの画質で撮影なんて、最近のカメラの光学的な性能と高感度なCCDに脱帽ですよ。

 では、キャストについて。まずは高声の二人から。はっきり言って、この二人に関する評価は、人それぞれだと思いました。

 まず、主役のドン・カルロ役のロベルト・アラーニャ。彼は頑張っていましたね。今回の演出では、カロルが主役である事を強調するような演出でした。そのため、カルロが登場しない第4幕以外は、幕間も含めて、アラーニャほぼ出づっぱり。前奏曲の間も幕前で小芝居してます。ほんと、アラーニャは休む暇もないって感じです。いやあ、タフだね。ま、彼に限らず、このオペラはタフな歌手でないと歌えないのだろうと思います。

 演技うんぬんと言うよりも、彼の持っている雰囲気と役どころがピッタリ合っているような気がしました。ああいう、頼りなげな情けない役のアラーニャって、いいですよね。見事なハマり役じゃないかしら。でも、声的には、イタリアのギラギラテノールではないのが残念ですね。カルロという役は、能天気なほどのギラギラヴォイスが必要だと思います。でも、アラーニャの声は、ギラギラではありません。それこそフレンチヴァイオリンのような、ちょっぴりしっとりした声です。私は好きですが、役と合わないって思う人もいるでしょうね。この辺りが、人によって評価が分かれるところだと思います。

 それにしても、カルロって、馬鹿な青年だよねえ…。彼が動けば動くほど、周りを巻き込みながら、事態が悪い方悪い方へと動いていく。天然で、トラブルメーカーな人です。それをヒョウヒョウと演じちゃうアラーニャって、もしかすると名優?

 さて、もう一人の主役であるエリザベッタを演じたマリーナ・ポプラフスカヤもアラーニャ同様、評価が分かれると思いますが、私的には、ちょっと勘弁かな。この人の声のスタミナは評価しますし、第五幕のアリアは立派な歌唱だったと思いますが、でも、ごめんなさい、好みじゃないよ。私の中では、ドン・カルロのエリザベッタって、ああいう人じゃないんです。それに、ちょっとこもり気味な発声も??です。楽屋でマイク持ってレポーターをやっていた、デボラ・ヴォイトがエリザベッタをやればよかったのに…と思っちゃいました。ま、あくまでもこの評価は、私の好みですけれど。

 次は脇をかためる低声の方々です。

 私的には、エボリ公女のアンナ・スミルノヴァが気に入りました。とにかく歌が良かったです。第二幕のアリアでは、映画なのに、思わず拍手しちゃいました(照)。演技も良かったです。第四幕の人違いのシーンでは(メトの)会場のお客さんから笑いも取ってましたよ(私も思わず噴き出した:笑)。(モデルとなった実在のエボリ公女が隻眼でアイパッチを愛用していたからだそうですが)通常付けるアイパッチをやめたため、あの役が持っていた、不気味で恐ろしげな雰囲気は一掃され、その代わり、エボリって、かわいくて痛い女性なんだなあって思いました。なんか見ていて「いるいる、こういう人」って思っちゃいましたよ。きっと今の人だったら、元亭主の浮気をうっかりツィートしちゃいそうな人だと思います(爆)。エボリ公女という役が、きちんと生きている人間なんだなあと分かる演技をしてました。私的には、今回のイチ推しです。体格は…立派すぎますが(笑)。なにしろ、あの体格で「私は自分の美しさに溺れて~」なんて、ドアップで歌うもんだから、もう大好きになりました。あ、なるほど、今回のエボリはこういうキャラクターなのね、もう、愛くるしいったらありゃしない! ああ、美味しいなあ、スミルノヴァ!

 もう一人のお薦めが、ロドリーゴをやったサイモン・キーンリーサイドです。歌唱も良かったけれど、何より演技が良いです。歌手と言うよりも俳優って感じです。ロドリーゴという、気の良い真面目な悪役と言うか、八方美人な左翼運動家と言うか、ロドリーゴの持つ、煮え切らなさをよく表現していたと思います。芝居としては、この人が一番おもしろかったです。

 あと、フィリッポ王を演じたフェルッチョ・フルラネットが、なんか気になりました。苦悩するオヤジがなんかかわいそうで…。そのツラサが身にしみますよ(涙)。国王としても、父親としても、夫としても、ふがいなくて…。そんな、トリプルでふがいない自分が情けなくて悲しくて…。その上、国王なのに、まるで教会の傀儡のよう扱いで憤懣やるせないわけで、そういうドロドロした感情が、演技でも歌でもよく伝わりました。さすがはベテランさんです。

 ドン・カルロのような、テノール主役のオペラでは、たいてい主役テノールにシンパシーを感じる私ですし、普通のドン・カルロなら、やはりカルロにシンパシーを感じますが、今回のメトのドン・カルロだと、このフィリッポ王に一番シンパシーを感じました。ま、フィリッポ王と私の年令がだいぶ近いというのもあるのだろうけれど…。オヤジってツラいんだよね。

 その他で言うと、大審問官(宗教裁判長)さんは、とっても憎々しげでGOODでした。

 あと、ラストシーンが良かったです。カルロの地獄落ちではなく、カルロが家来たちに剣で殺されて、それを亡霊のカルロス五世が見つめるという演出は、現代人の私たちには、分かりやすくて良かったです。「地獄落ち=死」と言うのは、現代人にはわかりづらい比喩ですからね。残念なのは、最後の最後にエリザベッタの死も付け加えてくれると、もっと悲劇的になったと思うんだけれど…。どうせやるなら、そこまでやって欲しかったな、残念。

 第三幕の合唱シーン(宗教裁判のシーン)に出てきて、歌わずにセリフで演技をした、若い神父様がよかったです。あれで、あの時代の雰囲気ってのがよく分かったし、国王が教会に頭が上がらない理由も分かった。私の不勉強かもしれないけれど、あの人って、ヴェルディのスコアに書いてあるのかな? 初めて見るような気がします。

 火あぶり刑のシーンで、本当に火を使って火あぶりを表現したのは、驚き。焼かれているのは人形だと分かっちゃいるけれど、ドキドキしました。残酷だねえ~。ここ以外にも、随所に本物の火を使った演出がありましたが、今のアメリカでは舞台の上で、安全に火がコントロールできるんだねえ、日本だと消防法とやらがあって、できない演出だろうなあ。

 最後に、指揮のヤニック・ネゼ・セガンは若くてハツラツとしていてGOODです。合唱あがりの歌える指揮者だそうだし、歌手の信頼も厚そうだから、やがては、メトの屋台骨を背負っていく人になるのかもしれませんね。今から注目の若手指揮者です。

 この上演、私的には、星四つという評価かな? 星一つ減点は、ソプラノが私の好みではなかった事と、上演時間が長かった事かな? 都合4時間半だよ、短めの映画なら三本見れる(笑)。途中で二回、休憩が入るし、オペラ自体は、おもしろいし夢中になっちゃうから、時間の長さは気にならないのだけれど、やっぱり体力的にはシンドイです。午前中から見始めて劇場を出ると、もう夕日だもん。トボトボ歩いていると日が暮れて(笑)。ああ、丸一日、オペラ三昧していたんだなあって思いました。

 上演時間が長いと文句を言ったのにアレですが、バレエが一つもなかったのも減点材料です。本当はこのオペラ、第三幕に長いバレエシーンがあるそうですが、それがカットされたわけです。ま、バレエのカットは通例だそうだし、それで結果的には正解だし、バレエのカット無しなら、上演時間なんて、5時間越え確実でしょ、痛し痒しだな。でも、バレエ、見たかった(…わがまま)。

 帰りにヤマハに寄って、ドレミ楽譜出版のフランコ・マウリッリ編の「イタリアオペラアリア名曲集」のテノール版を買ってきた。この楽譜集は、アリアの楽譜だけでなく、ヴァリエーションやカデンツァも載っているし、歌詞の訳や読み方(カタカタね)も付いていて、ちょっと便利。2000円だし、いい買い物をしました。でも、この楽譜のアリアを歌う日は私にやってくるのだろうか?

コメント

  1. BEE より:

    やっぱり観に行かれたんですね。私はものすごーく悩んでおります。
    というのも私が行くのは大抵金曜日の夜なので、この4時間半の上映時間がネックです。
    上映開始がいつもより1時間早いので、会社早退しないとなりません。。。(^^;)

    これもアンコールに廻すかなぁ。。。
    ネトレプコ様のドン・バスクワーレは忙しくて行けなかったので、私の中ではすでにアンコール上映が勝手に決定されております。(^^;)

  2. すとん より:

    >BEEさん

     はい、行きました。ま、ヴェルディって事もあるし、お正月明けという体力が枯渇していない時期という二つの理由からですけれど。

     確かに長いよ、上映時間は…。そっちだと、6時開始で10時半終了だね。確かに、体力的に厳しいよね。ただね、これだけの規模の作品はなかなか見るチャンスもないでしょ、だからこういう時に見ちゃえ!ってのもあります。

     アンコール上映か…今年もあるのかな? 私も見逃したのがあるので、アンコールにも行きたいなあ。

     ま、オペラ鑑賞は体力との勝負と言うのは覚悟の上でしょうから、会社が早退できそうなら、お薦めします。でも、無理は禁物だよ。

  3. sweetjam より:

    あまたある「ドン・カルロ」の感想ブログでも
    こちらは率直な感想で良いですね。
    いろいろ読んでみると、どこもけっこうお客さんの
    入りは良かったみたいですね。
    見にゆくつもりでしたが、今回は中止にしました。
    新宿に行くには、寒い朝行かねばならないし
    東劇だと、終了時間が遅すぎるし・・・
    毎年、初夏の頃になると、東劇でアンコール上映があるので
    その時に行こうと思っています。
    それに、3000円に値下げになるし・・・
    また、来週NHK BShiでスカラ座の「ドン・カルロ」が
    放送されるようなので、こちらで我慢??

    ところで、
    「オペラ「ドン・カルロ」のスペイン史」と云う本があります。
    この本の挿絵をみるとエボリ公女って、なかなか綺麗な人のようです。

  4. すとん より:

    >sweetjamさん、いらっしゃいませ。

     率直なだけが取り柄なブログですから(笑)。お誉めいただき、ありがとうございます。とりあえず、天に登っておきます(爆)。

     お客の入りは…私も、たくさん入ったと思いますよ。たまたまかもしれませんが、横浜はかなり混んでいました。チケットを買う時も「もう良いお席はご案内できません」と釘をさされたくらいですから。「ラインの黄金」の3倍以上入ってました(驚)。やはりヴェルディ作品って人気なのかな?

     そうそう、NHKの「ドン・カルロ」は、フィリッポ王がメトと同じフルラネットですから、きっと期待できますよ。

    >この本の挿絵をみるとエボリ公女って、なかなか綺麗な人のようです。

     まあ、自分の美貌を嘆くアリアがあるくらいですから、美人という設定だろうし、実際にも美人だったんだろうと思います。でもまあ、史実は史実、オペラはオペラだし、現代のオペラは演出次第でオペラの設定も変わると心得ておりますし、ま、見る人がそれぞれの好みで解釈しちゃってもOKとも思ってます。

     なので、私的には、今回のエボリは“痛く、かわいくて、自分を美人だと思い込んでいるお姫様”なんです(ま、異論はあるでしょうね…)。

     史実を調べてみると、結構ビックリしますよね。確かにカルロとエリザベッタは婚約者だったわけだし、年令も同じで、そういう意味ではお似合いのカップルかもしれないけれど、エリザベッタの結婚は14歳の時。フォンテンブローの森のシーンが、14歳の中坊同士のシーンと知ると、え?って感じです。それに、エリザベッタの亡くなった年令はカルロと同じ23歳で、ここにも悲恋ぽい偶然はあるけれど、彼女は、それまでに4回妊娠しているし、死の原因も死産(残念)。ちゃんとフィリッポ王とは仲よくやっていたみたいです。

     一方カルロの方は、オヤジに逆らって投獄され獄死したのは本当だけれど、どうやら障害者のようだし、デブだったらしくって、とてもラブストーリーの主役たりえない人だったみたい。あと、オヤジのフェリペがエリザベッタと結婚した時は、まだ32歳だし、4回も孕ませいますし、オペラのように「俺がジジイだから妻は振り向かない…」と嘆いているはずもないわけで…。ま、32歳が14歳と結婚したら、そりゃあ“犯罪”かもしれないけれど(笑)。王様なんだから、無問題でしょ。あと、ロドリーゴは空想の人物だよね。

     それにしても、皆さん、結構、アンコール上映をアテにしてますね。私も、それを夏のお楽しみに加えておこうかな? 今年のものばかりでなく、以前のものも上映してくれたら見たいのもあるんだよね。一昨年の「タイス」とか「オルフェオとエウリディーチェ」とか見たいです。

  5. sweetjam より:

    ところで、今後のライブビューイングの演目で
    見にゆく予定のものありますか?
    参考までに・・・・
    (徐 ワルキューレ)

  6. すとん より:

    >sweerjamさん

     予定はないです(笑)。いやあ、実際、休日も仕事が忙しいし、ヴァイオリンのレッスンは不定期なので、案外、ライブビューイングの日とぶつかるんですよ。なので「ライブビューイングをやっている日に、たまたまスケジュールが空けば、見に行く」程度の軽いノリで考えています。だって「これは絶対に見に行く~」とか思っていて、行けなくなったら、悲しいじゃないです。

     一応、気持ちは「ライブビューイングは全部見る(笑)」なんですが、結局忙しくて「ラインの黄金」の次が「ドン・カルロ」になっちゃったわけだし(爆)。ま、人生、そんなもんです。ただ、私はヴェルディが好きな、普通のオペラファンなので、「トロヴァトーレ」は行きたいと思ってますが…たぶん、その頃は発表会の準備に追われて、臨時レッスンとか入れたりしていて、行けないんじゃないかなって思ってます。なので、下手をすると、次は「ワルキューレ」かもしれません(それはかなり悲しいです)。

  7. sweetjam より:

    そうですか。
    ボクは最悪、最初と最後のブックエンドになりそうですが
    それでは寂しい?ので、もう一つ行きたいなぁ〜と思っています。
    でも、ニクソンは・・・ないな。

  8. すとん より:

    >sweetjamさん

     実は私「ニクソン~」って結構、見に行きたかったりします。現代オペラって見たことないんです。なので、一度くらいは見てみたいですし、初物って好きなんですよ。何が飛び出してくる分かんないし…それにこの手のものは、DVDは絶対買わないし、それどころか、テレビでやってても絶対見ないので、映画館に行ったら逃げられないじゃないですか? そういう環境に自分を追い込んで、覚悟を決めて、見てみたいと思ってますが…たぶん、日程的にダメっぽいので、ほぼ諦めてます。

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