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メトのライブビューイングで「フェドーラ」を見てきた

 皆さんはジョルダーノ作曲の「フェドーラ」というオペラを知っていますか? 私はもちろん知っています。有名なテノールアリア「Amor ti vieta/愛さずにいられないこの思い」が歌われているオペラです。私もレッスンで学んだことがあります。

 でも、このオペラはこのアリアだけが有名で、オペラそのものが全幕上演されることは、あまり無いらしいです。実際、メトでも、前回の上演は24年前だと言ってしました。それくらい、めったに舞台にはかからない、いわゆる珍しい作品ってわけです。

 作曲家のジョルダーノも、有名な作品と言えば、これと、あとは「アンドレア・シェニエ」くらい…というか、「フェドーラ」がめったに舞台に登場しないため、ほぼ「アンドレア・シェニエ」だけが有名な、一発屋作曲家として有名になっています。

 今回は、そんなレアなオペラである「フェドーラ」を見てきたわけです。

 キャストとスタッフは以下の通りです。

 指揮:マルコ・アルミリアート
 演出:デイヴィッド・マクヴィカー

 フェドーラ:ソニア・ヨンチェヴァ(ソプラノ)
 ロリス・イパノフ:ピョートル・ベチャワ(テノール)
 オルガ:ローザ・ファオラ(ソプラノ)
 デ・シリエ:ルーカス・ミーチェム(バリトン)

 このオペラは、いわゆるヴェリズモ・オペラで、器楽で言えば、後期ロマン派の作品になります。この作品がめったに上演されない理由の一つに“上演が難しい”ことがあります。何しろ、ワーグナー以降の作品であり、すでに現代音楽に片足を突っ込んでいる作品なので、調性音楽の枠に収まりきっていないため、歌うのがかなり難しそうです。音楽的に、かなり高度で複雑なのです。

 曲の構成的にも、後期プッチーニと共通しますが、すでに“レチタティーヴォ&アリア”の形式が廃止され、ミュージカルのように、通常のセリフに音楽が付けられています。ですから、キャストは歌手である以前に俳優である事が求められます。実際に、今回のメトの上演でも、歌うだけの歌手は誰もいなくて、歌手であっても、俳優並の演技が要求されますし、全く歌わないで演技だけを担当する、いわゆる黙役の俳優さんも多数出演されていました。

 キャストは、きれいな声でアリアを歌えば拍手をもらえる、ベルカント・オペラとは違い、迫真の演技ができて、なおかつ技巧的に高度な歌が歌えるという歌手でないと、このオペラを演じる事はできません。実際、今回の上演では、誰も立ち止まって歌ってなどいませんでした。みな、演技をしながら歌っていたわけで「歌いながら演技をする」ではなく「演技をしながら歌う」という状況なのでした。

 おまけに、セリフに音楽が付いているので、音楽的には、ちゃんとした歌は無く、オーケストラ付きのレチタティーヴォを延々と聞かされる状態なので、正直、歌的には面白くありません。有名な「Amor ti vieta/愛さずにいられないこの思い」だって、普通の歌なら不可欠なサビとか繰り返しなどは無く、実にあっさりした構造になってます。聞いていて、実に物足りないんです。

 ただ、ストーリーは、元々が普通の戯曲をオペラ化しただけあって、割りとちゃんとしていて、普通にサスペンス物として作られています。ただし、それは「オペラの割にはストーリーがしっかりしている」だけであって、普通の演劇として見るなら、やはりオペラ化してしまったために、ストーリー的には、あっちこっこち物足りなさは生じていてますし、無理も矛盾もあります。

 上演が難しくて、聞いていて楽しくない上に、ストーリーが小難しい…かなりのオペラ通以外には、勧められない作品…でしょうね。

 それゆえに、今回演じているキャストは、なかなか素晴らしいです。特に、デ・シリエを演じているミーチェムは、本番一週間前にオファーがあって、その一週間で勉強して準備して本番に臨んだそうです。でも、そんな事を感じさせないほど、ちゃんとした歌&演技をしていましたよ。かなりの実力派なのでしょうね。

 最近のメトは出演者の世代交代が進んでいるようで、若手を登用する傾向が強いですね。今回の主役のヨンチョヴァだって、歌手としてのキャリアはまだ10年そこそこだしね。今のメトの舞台は、演劇寄りのマクヴィカー演出の舞台も増えているので、歌うだけの歌手では対応できないのでしょう。きちんと演技ができて、ちゃんと歌える歌手を登用するとなると、どうしても若い世代の歌手が中心にならざるをえないのかもしれません。

 歌と演技の両方が求められるのは、歌手にとっては厳しいことでしょうが、客にとっては、見ごたえのある舞台が増え、楽しいわけです。少し前までは「オペラは演出が命」と言われてきましたが、最近では「オペラは演技を楽しむもの」と変わってきたのかもしれません。私的には、良い傾向だと思います。かつて多く見られた奇抜な演出には、ほとほと呆れてきたんですからね。オーソドックな演出だけれどきちんとした演技で見せてくれる方が、オペラも数倍、楽しいです。

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