実は私、ナタリ・デセイ主演(?)の「椿姫ができるまで」というドキュメンタリー映画を見たかったんですよ。元々はミニシアター系の映画で、こちらでは東京は渋谷で単館上映されていた作品です。そこで上映している時に、見たかったのですが、ちょうどその頃、妻がアキレス腱を断裂してしまい、とても映画どころの騒ぎじゃなかったので、泣く泣く諦めてた映画でした。「いずれDVDになるだろうから、それまでの辛抱だな」と心を決めていたわけですが、ある日、半年遅れで横浜でやるという情報を聞きつけ、ググって調べたところ、横浜にある、シネマ・ジャック&ベティでやるというので、心をウキウキさせながら、ジャック&ベティに行きました。
ジャック&ベティは…どことなく昭和の香りのする映画館でした。聞けば、元々は横浜名画座という由緒ある映画館だったそうです。向かいには横浜日劇という、これまた由緒ある映画館があったそうです(現在はマンションになってます)。
ここの映画館は…ミニシアター系の名画座…という形態なんでしょうね。あまり、多くの劇場でやらない、マイナーだけれど良い映画を、それもロードショーではなく、しばらく日にちが過ぎてから上映するというコンセプトの映画館です。館内では、常連客たちによる「次に見たい映画」のリクエストボックスがあったりして、なかなか面白い映画館だと思いました。「岩波ホールで上映するような映画を、人々が忘れかけた頃に上映する映画館」というと、そんなに間違ったイメージではないと思います。
公式サイトはこちらなんですが…上映作品のラインナップを見ると、どれもこれも面白そうな作品ばかりでしょ? 実際、私、近所に住んでいたら、通っちゃいますよ!
さて、映画「椿姫ができるまで」ですが、面白かったですよ。オペラ「椿姫」のリハーサルをドキュメンタリーに仕立てたもので、オペラの演出って、こういうふうにやるんだなって事が分かる映画です。特にオペラの演技に興味がある人には、ぜひぜひお薦めな作品です。ちなみに、ジャック&ベティでは、フィルムではなく、ブルーレイで上映していたようですが、そのブルーレイの家庭用が、まもなく発売になります。
それにしても、いつも思う事だけれど、ナタリ・デセイの演技は、鬼気迫るものがあります。元々は、ナタリ・ウッドに憧れて女優になった人で、歌が素晴らしいので、女優になってから、声楽のレッスンを受けて、オペラ歌手になった人なんだそうで、元々が女優さんだから、そりゃあ、演技は実に本格的だったりするわけですが、こういうメイキングを見ると、改めてそのスゴさが分かります。
例えば、映画の最後のシーンは、オペラの最後のシーンの稽古なんだけれど、その最後のシーンは、ヴィオレッタ(椿姫の事。デセイが演じている役)が倒れてお終いというシーンなんです。この倒れて…の、倒れる芝居を、デセイと演出助手の二人が、何度も何度も確認しながら練習するわけです。見ているこちらからすれば、実に見事な倒れ方なんだけれど、二人は気に入らずに、何度も何度も倒れてみて、これでいいのか、これでいいのかと確認し合います。
で、その倒れ方なんだけれど、崩れるようにバタリと倒れるのだけれど、本当にバタリと倒れていたら大怪我をしてしまうわけです。実際、指揮者がデセイに「アタマをぶつけないように気をつけて」と声をかけていますが、あれって演技で倒れているのだから、危険そうに見えて、実に安全に倒れているわけです。だから、何度でも倒れる練習ができるわけです。で、繰り返しその動作の練習をするわけですから、私も見ていて、カラダの使い方がなんとなく分かりました。
立っている状態から、一度、後ろにふらつくと同時にヒザを緩めて、その場に素早く沈み込むようにしゃがみ込んで、しゃがみ切る前に、腰から横に、腰、腕、肩の順番でカラダを着地させて倒れます。その際、カラダは倒れ込みながら少々伸ばして、アタマは、倒れきってから床に置くわけです。この一連の動作をテキパキと行う事で、その場にバタリと倒れ込むように見えるわけです。実にうまい、実に訓練された動きだなって思いました。
倒れるという動作一つ取っても、きちんと計算された安全で効果的な動きがあるわけで、素人が見よう見まねで演技をしているわけじゃないんだなって思ったわけです。
歌だって、ちゃんと歌うためには日々の練習が欠かせないわけだけれど、やっぱり、演技をするためにも、そういう基本的な動きの練習をしておかないといけないんだなあって思いました。
ちなみに、このドキュメンタリーでは、デセイの歌声はあまり楽しめません。なにしろ、彼女、演技に集中するためでしょうね、歌のほとんどを1オクターブ下の音域で歌っていますから、音楽的には面白くないですよ。あくまでも演技中心、演出中心のドキュメンタリーです。でも、腕の上げ下げにも、指の動かし方人にも、計算されている事が分かり、舞台って奥が深いんだなあって思いました。
ああ、面白かった。それに昭和の香りのする映画館もよかったです。また、チャンスがあったら、見に来たいものです。
そうそう、昭和の香りのする映画館と言えば、ジャック&ベティに行く途中の黄金町の駅そばに、横浜光音座という、これまた昭和の香りがプンプンとする映画館がありました。この映画館もジャック&ベティ同様に、一つの映画館に二つのスクリーンがあるタイプの映画館ですが、ジャック&ベティがミニシアター系の映画館であるのに対して、横浜光音座は、なんと、ピンク映画&ゲイ映画専門の映画館でした。ピンクにゲイとは…実にニッチなところを攻めている映画館だなって思いました。こっちの映画館には…たぶん私が行くことはないだろうなあ…って思いました。しかし、ピンク映画(成人向けの性交描写の多い映画の事ね)って、まだ製作されていたんだ! いやいや、ゲイ映画(男性同士の性交描写の多い映画ですね)なんてジャンルが、この世にあるんだ! そういう事実にビックリした私です。
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コメント
こんばんは。
> 黄金町
相変わらず、変なところに反応してしまいます。
ここは昔、会社の部下が入院して、お見舞いのために一度だけ行ったことがあります。
「ヤ○ザが多いから、気をつけて」と言われたのですが、橋の上に立派なベンツが止まっていた記憶があります。
wikiでは、
・関東でも屈指の「青線地帯」(「赤線」という言葉は知っていたけれど、「青線」は初めて。)
・ヒロポンや麻薬密売の温床。警察官の巡回すら身の危険を感じて出来ない程荒んだ環境(ホンマカイナ)
http://d.hatena.ne.jp/katamachi/20090131/1233405690
を読むと、歴史を感じます。
失礼しました。
tetsuさん
私は若い時に、仲間とつるんで、冒険と称して、ヤバイ街を歩くというのを趣味としていました。当然、当時の黄金町の青線地帯に散歩してます。
電車の高架下に、たくさんの飲み屋さんがあって、そこで売春をしているわけなんだけれど、私たちがそこを歩いても、たくさんいるお姉さんたちの誰もが客引きをしてくれませんでした。あんまり誘われないのも悔しいので、こっちからちょっかいを出したら「ここは、あんたたち、坊やたちが来るとこじゃないよ!」とビシャリでした。
まあ、若気の至りの、怖いもの見たさですね(笑)。
>「ヤ○ザが多いから、気をつけて」と言われたのですが
今でも組関係者さんたちがいますね(汗)。
>警察官の巡回すら身の危険を感じて出来ない程荒んだ環境(ホンマカイナ)
それは言い過ぎ(笑)。昔の黄金町でも、そこまでではなかったと思います。どんな街でも、相手を馬鹿にしたり、見下したりせずに、フレンドリーな態度でいれば、そんなに怖い目に合うことはありません。こちらもあちらも人間ですからね。
リンク先、読みました。確かに、今では高架下はきれいになってしまいましたよ。オシャレなアート系の店があって、なんかガッカリしました。
今は、店をかまえずに営業するところが増えたので、こういう花街っぽいところは寂れてしまうんでしょうね。