話は、昨日の続きです。
確かにノッポ(ここではチビ背の低い方ではないくらいの意味で捕らえてください。それくらい芸能人って、チビ背の低い方が多い世界です)なのに、高い声で歌う人っていますね。そういう人は私が思うに4パターンあります。それは…
1)天賦の才能の持ち主
2)実力のある歌手。努力によって高音を勝ち取った歌手
3)女性ホルモンのおかげで少年時代のままの声の歌手
4)ファルセットで歌っている
1)は身体が大きいけれど、声帯はあまり大きくないので、ボリュームもあり、音色も深いけれど、高い声が楽に出せるという、恵まれた歌手のことです。
この状況を人工的に作ったのが、いにしえの「カストラート」です。もちろん、今はいません。
クラシックやジャズの世界には、時々、カストラートという程ではないけれど、声帯の成長があまりなかったんだろうなあ…と思われる歌手がいます。たぶんこのパターンに属する人なんだろうなあと思われます。うらやましいですね。健康な身体に高い声ですから、歌手としては最高です。でも、いわゆるショービズの世界には、このパターンの人がいるんでしょうかねえ…。
2)は、パパロッティとかドミンゴとか(例が古いのは勘弁。オジサンですから)の、テノールのスーパースターが代表例。彼らに限らず、クラシック界にはこのパターンがたくさんいます。努力の方向がクラシックとは違いますが、洋の東西を問わず、ロック界のスーパーヴォーカリストの幾人かもここに属するでしょうね。
3)の疑いのある歌手は、(特にアメリカの)ポピュラー界には若干数いますね。もちろん疑いです。本当のことが分かってしまうとスキャンダルになりますから。なにしろ、現代版カストラートって感じですから。人権保護団体から文句が来そうな存在ですね。
そして、日本人のノッポの高音歌手の大半は、4)ではないかと思います。特に癒し系の高音歌手は、ほぼ間違いなくファルセットです。あと、黒人歌手で女性のような声で歌う人もここでしょうね。白人だけれど、ビーチボーイズのブライアン・ウィルソンもここ。案外、たくさんいるタイプです。
「ファルセットが巧みに使いこなせること」=「歌が上手い」 そう考えるなら、確かに、ファルセットで高い声が出せることは、歌の上手さの一つの指標になりますね。
でもね、ファルセットは所詮ファルセット、ある種の歌手のモノマネには使えても、普通の歌を、男性がファルセットで歌うと、変だよ。…でしょ。言っちゃなんだが、カッパ声とかオカマ声(失礼!)とかでしかないもん。ファルセットって、効果的に使わないとギャグに聞こえちゃうんだよね。
身体が大きくて、持っている声が高くない人が、高い音を出したいと言う時は、1~4のいずれかのパターンで攻めるしかないのだけれど、まあ、1と3は除外するとして、2または4のいずれを選択でしょうね。
比較的簡単に行けるのが、4のファルセット。ファルセットを身につけることはやぶさかではないけれど、これしかないってのは、どうなんでしょ。ファルセットって応用が効かない歌い方だと思うよ。それに、コツさえつかめば簡単に出せるし…。
ってことは、ファルセットをマスターして高い声を出せるようになっても、それは単にファルセットが出せるってだけで、歌の上手さとは全く関係ない。それどころか「変な声で歌う、変な人」って思われかねないよ…。
やっぱりめざすのは、2のパターンだよね。2でありながらも、状況に応じてファルセットも使える、ってのがベストでしょ。これが叶うなら「高い声も出せる上手な歌手」って言えるでしょう。
歌を上手く歌いたいなら、まずは自分の音域をしっかり把握し、それに見合う曲を選ぶこと。カラオケなら、キーチェンジを積極的にして歌うこと。まずはここからでしょうね。
気持ちは痛いほどよく分かるけど、いたずらに高い声を追求しても、変な声になっては逆効果でしょう。これ、自分自身に言ってることでもあるけれど、他人が聞いて、いいなあって思ってもらえないと、歌う意味も半減しちゃうしね。
高い声よりも、安らかな声で歌えるようにがんばりましょう。
2008年10月17日追記 クレームのため、一部表現を見え消しにした上で変更してみました。こんなので、いかがっすか?
コメント
男性のテノールはファルセットは使わないのですね。
私、ちょこっとだけ三味線を習った(?)ことがあるのですが、習うというような大層なことではなくて、友達にちょっと教えてもらった程度ですが、歌は裏声は使ってはいけないと言われ、私の声では既に裏声になっている音域でした。それと、ポップスなどを歌うには、これも地声でないといけないと言われ、悩みの種でした。
そんなことが何十年と悩みというか疑問というか劣等感というか、積もり積もって、ちゃんとした人に聞いてみたいと思っていました。結局クラシックの声楽を選んだのは私の声にとってはいい選択でした。ほとんど全部の音を裏声で歌っていますから。それでよいと先生が言ってくださったことが、何十年もの悩みから開放されてほっとしています。
マタイ受難曲では「カウンター・テナー」がアルトを歌っていましたが、(いや、どの演奏でもっていう意味ではなく)「カウンター・テナー」と「カストラート」とは違う意味なんですか?
ポップスで私の知ってるのはアースウィンドアンドファイヤー(でした?)が高い声=ファルセット=裏声で歌ってますよねえ。
反対の話では女性のテノール音域というのか、コントラアルトという人を見ました。男性の中に一人女性のドレスを着た人がおられたので、並ぶ場所がなかったのかなあと思っていましたら、テノールと同じように口が動いているのです。後でプログラムを見るとコントラアルトのところに女性の名前がありました。これもすごいことだと感心しましたよ。
>ticoさん
男性のテノールはファルセットを使わないわけではありません。クラシックに限った話をすると、現代では、特殊な効果を狙った場合のみテノールで使用されると考えて良いでしょう。男性の場合、ファルセットはカウンターテナーとソプラニストで多用されます。テノールも19世紀まではファルセットを多用していましたが、20世紀始めのテノール歌手である、エンリコ・カルーソー以降、テノールはファルセットを使わずに高音域を歌うようになりました。
カウンター・テナーとカストラートの違いについて。アルトの音域を歌う健康な男声歌手をカウンター・テナーと呼びます。これは男声アルトと同じと思って差し支えありません。カストラートは、子どもの時に去勢手術をして、声変わりを避けた結果、アルトあるいはソプラノの音域を保った、生殖能力のない男性歌手のことを言います。最後のカストラート歌手は100年ほど前に死にました。現在ではカストラート歌手はいない事になってます。
ちなみにソプラノの音域を歌う健康な男性歌手のことは、ソプラニスタと言います。
アースウィンドアンドファイアのボーカリスト(フィリップ・ベイリー)はきれいなファルセットでしたね。その他に、ファルセットが美しいポピュラーグループとして、ビージーズとビーチボーイズが私は思い浮かびます。
女性の場合、ポピュラー歌唱は基本的に地声(表声)で、クラシック歌唱がファルセット。同じ人でも、ポピュラーを歌う時とクラシックを歌う場合では、1オクターブほど、使う音域が違うわけです。おもしろいと思います。
多くの女性は地声だと、テノールの音域になってしまうと思います。ですから、素人が多く集まる即席の合唱団だと、テノールの中に「地声でしか歌えない女性」が混じっていることが案外あります。ピッチ的には同じでも、音色がかなり違うので、一緒に歌っていると、とても違和感があって、困ってしまいます。
蛇足ですが、歌謡曲歌手の和田アキ子さんは、音域的には、テノールではなく、バリトンだと思います。女性だから本来的にはコントラアルトなんでしょうね。貴重な声だと思います
>多くの女性は地声だと、テノールの音域になってしまうと思います。
そうなんですか!じゃあ、案外私は普通だったのかもしれませんね。周りには裏声になるのは私より1オクターブくらい高い人が多かったので、私は変な人なのかなと思っていました。声楽を習う前とか習い始めでよくわかってない頃、テノール歌手のCDと一緒に歌ってると全部歌えたので、テノールなのかなとか思っていました。
でも、それは地声で、全然訓練されてない声なので、きれいではありませんが。それにノドが痛くなるし。地声はまだうまく使いきれてません。話し声も地声なので、こわいです。
>カストラート
身を挺して歌を歌っていたのですね…。大変なことでしたね。
>ピッチ的には同じでも、音色がかなり違うので、
あ、それは、カウンター・テナーの時に思いました。私は女性のアルトの方が聞きやすいです。
色々よくわかりました。ありがとうございました。
ファルセットしかない歌い方・・・もあるのかもしれませんが、米良さんを聴いているとそんなことはないですね。
米良さんは不調を通り越してからは低い声でもたくさん歌っているのですが、カウンターテナーで歌っている時もたぶんファルセットだけ・・・ということはないと思っています。
ファルセットだけの歌って、たぶんあんまり心に響いてこないのでは・・・と思います。
おっしゃるとおり変な声にしか聴こえないかも・・・。
今いろいろ聴いているPhilippe Jarousskyもファルセットだけとは思えません。
>Ceciliaさん
クラシック系の人に、ファルセットだけで歌っている人って、たぶんいないと思いますよ。ファルセットがメインのカウンターテナーであっても、胸声の要素を取り入れるというか、全身で声を増幅させて歌わないと、客席まで声が届くはずはありませんから。
ファルセットだけで勝負できるのは、マイクが使える、ポピュラー歌手だけでしょう。マイクが使えるということは、当然イフェクター(エコーとかフランジャーとかディレイとかコーラスとかトーンコントロールとかネ。音程修正のためのヴォコーダーを使っている人もいるかな?)の類も使えるわけですから、体を訓練する必要がないので、うらやましいです。
とは言え、ポピュラー系の歌手でも、一流の歌手はきちんと訓練もしているし、体も鍛え上げているので、機械に頼る人まだまだということでしょ。あんまりうらやましがる事もないかな