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声より性格が大切

 私の知り合いで、合唱メインで時折独唱もしますという方がいます。その人を仮にAさんと呼ぶことにします。

 Aさんは、今でもまだまだ十分若い方なのですが、もっともっと若い時から、合唱を始め、合唱を一通りやってみたので、独唱にも手を伸ばしました…という人で、とても上手に歌われる方です。

 で、そんなAさんの合唱でのパートはバス。独唱の時はバリトンと名乗って歌っていますが、その声は、どう聞いてもテノール。それもかなり軽い声なのです。体格もかなり小柄で、高い声ならいくらでも出ます…という感じなのです。その分、バリトンの歌を歌っている時、低い音の鳴りが悪いなあ…とも感じてます。

 つまり、私はAさんをテノールではないか? 合唱ではバスを歌っているけれど、本当はテノールを歌うべきではないのかと、いつも思っていました。

 で、ある日の事。Aさんと二人になったので、思い切って「なぜAさんは、声がテノールなのに、バリトンを歌っているのですか? テノールをやればいいのに…」という、忠告というかアドヴァイスというか意見の押し付けをしたわけです。

 彼の答えは実にシンプルでした。「…忙しいからね…」

 確かに彼の毎日は忙しい毎日です。それは傍で見ていても分かるほどに忙しい日々を送っています。

 彼は元々テノールの声を持っていますので、声の響きの良し悪し(って大切な事ですが…)を除けば、バリトンの歌は歌えます。歌えますが、全然美しくないし、カッコよくもないです。だいたい声がバリトンじゃないんですよ、でも声域的には歌えます。

 そんな彼でもテノールの声で歌おうと思えば、それは確かに大変だと思います。と言うのも、元々持っている声がテノールであっても、テノールの声として鍛えていないわけですから、声域が狭いんです。特に高い声で歌うのは難しいでしょうね。で、それを可能にするためには、テノールとして研鑽を積まないといけないのだけれど、毎日忙しく過ごしている彼にはそれができません。そこで、ひとまず「バリトンでいいや」って事のようです。

 実際、バリトンもテノールも、声域の下の方はそんなに変わらないのです。低いAやせいぜいGまででしょ? でも高い方はかなり違います。バリトンの高音は高いFまでです。Gまで出れば立派です。でも、テノールの高音は高いAまでです。できればHi-Cが欲しい感じだし、さらに可能なら、もっと上まで出せたほうが良いです。つまり、声のレンジとして考えるなら、テノールの方が上に広いのです。

 なので、声域を上に広げるのを横においているテノールさんにとって、バリトンを歌うという事は、音色を除けば、実に気軽なモノなのです。音域を上に広げていくのって、実に大変な事だもの。

 純正なバリトンの方々にとっては失礼極まりない話ですが、テノールの声を持っている人間にとっては、バリトンの音域で歌うのは、かなり楽な話なんです。

 で、そこで楽を選択しちゃう人は、声はテノールであっても、性格はテノールじゃないです。性格がテノールな人は、何はともあれ、高みを無意識に目指してしまうものです。忙しかろうが忙しくなかろうが、常に高音にチャレンジして、成功したり失敗したりを日常的に繰り返していくのが、テノールなのです。

 つまり、テノールにとって大切なのは、テノールの声を持っている事は前提として、まそれより何より大切なのは、性格がテノールである事。つまり“バカ”であるという事です。歌に関することには、簡単にバカになってしまうのがテノールであって、そういう性格でないとテノールはやれません。

 Aさんは賢い人で、バカにはなれない人です。そういう人は、たとえ声がテノールであっても、テノールにはならないモノなのです。そういうモノなのです。

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コメント

  1. オデ より:

    私は音色的には軽いバリトンか重めのテノールってところですかね。チェンジはハイバリに多いEらしいのですが、我ながら中途半端だなと思います(笑)。
    余談ですが、バリトンに転向してからやはり中低音を少しでも鳴らせるようになりたいのでいろいろと試行錯誤してきたのですが、今更ながら高音を出す時以上に脱力が重要だと実感しています。例えば自分の出せる最低音をより響かせようと思ったら、舌がヨーグルトになって口の中で溶けかかっているくらいのイメージを持って脱力するのが効果的でした。
    面白いのはその脱力のイメージを持ったまま高音に臨むと、テノール時代に以上に安定して高いH(誰も寝てはならぬの最高音)が出せるようになりました。それでもテノールに戻る気にイマイチなれないのはやはり性格の所為ですかね(笑)。

  2. すとん より:

    オデさん

     ごめんなさい、コメントに気づかなくって、返事が遅くなってしまいました。ほんとにごめんなさい。

     さて、

    >舌がヨーグルトになって口の中で溶けかかっているくらいのイメージを持って脱力する

     なるほど、脱力をこういうイメージで捕らえたことはありませんでした。低音にも高音にも脱力は必要だと言うし、結局音域が広がらないのは、無駄な力みのせいなんですよね。

    >それでもテノールに戻る気にイマイチなれないのはやはり性格の所為ですかね(笑)。

     はは、そうかもしれませんよ。

     ちなみに、ハイバリと言う声種(?)って、実際のところ、声帯的にはテノールだと聞いたことがあります。かの、フィッシャーディスカウは、ハイバリって事になってますが、聞く人が聞くと、彼の声は、テノールの声なんだそうです。ただ単に、高い声で勝負しないだけなんだそうです。

     ふーん、そうなんだ。と、素人のおっちゃんは感心するだけなんですけれどね。

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