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引退する頃から始める(なんと愚かな!)

 先日、私の大好きなナタリー・デセイが、オペラを引退しました。49歳だったそうです。三大テノールの一人であるカレーラスは63歳でオペラから引退しました。ドミンゴは70歳になってもまだオペラを歌っています(驚)が、パヴァロッティは50代半ばから仕事の中心を劇場からコンサートホールに変えました。キリ・テ・カナワは60歳でオペラ引退。その他にも色々と調べてみると、たいていの歌手は、50代でオペラを引退するか、オペラの仕事を減らし始めます(特に人気者は、なかなか引退できないみたいです)。さすがに60歳を越えて、現役バリバリでオペラを歌っているのは、なかなかいないみたいです。

 まあ、もっとも、これは人気のある歌手さんたちの話で、演奏のチャンスに恵まれない方だと、望むと望まざるとに関わらず、仕事自体が無いのですから、もっと早めに引退せざるをえないでしょうし、それにだいたい“引退”どころか“デビュー”すら難しい世界ですから、デビューせずに最初から別の分野の仕事に就く人もいます。

 それはさておき、話を人気のある歌手の皆さんの場合に戻します。

 ある意味、歌を歌うというのは肉体を楽器として酷使するわけで、そういう点では歌手と言うのは、肉体の老化に伴って、楽器奏者と比べると、早期に引退せざるをえないのかもしれません。実際、楽器奏者だと、もう少しお年寄りでも立派に演奏していたりしますね。

 さてさて、オペラ歌手と言う職業の方々は、だいたい50代のうちにオペラを引退するようです。60代、70代で歌っている人もいますが、それは超人の類に属する人で、普通は50代のうちに引退のようです。

 そう言えば、以前、キング先生が50歳になると高音が出なくなるから、歌の勉強は40代のうちに終えておくこと…と言った趣旨の事を言ってました。「それをアラフィフの私に向かって言うか!」と思っていたので、よく覚えているわけです。でもこれは、オペラ歌手たちの引退年齢を考えれば、あまがち間違いではないんでしょうね。

 クラシック声楽の世界では、50歳と言うのは、一つのターニングポイントなんだろうと思います。たとえ技術があったとしても、筋力は衰えるし、感覚器は鈍くなるし、容姿はふけてくるし、記憶力も頼りなくなるわけで、やむなくオペラの引退を決意する…というわけです。もっとも、オペラを引退したからと言って、全く歌わないわけではなくて、これらの元オペラ歌手さんたちは、引退後は、歌曲を中心に活動したり、後進の育成に励んだりするわけです。現役バリバリから、ちょっと閑職へシフトするって感じかもしれません。50歳で、自分のレパートリーを見なおして、歌う曲やペースを緩めるわけですね。

 さて、若い時から自分を鍛え、十分なテクニックとキャリアを持っている、これらのオペラ歌手さんたちですら、50歳を過ぎるとオペラからの引退を考え始めます。50代をかけて、仕事のペースを落として、やがて引退をし、後は悠々自適に歌っていく人生に変わっていきます。

 まあ、そんなプロの方々と比べちゃいけませんが、私は、そのプロの方々が引退する50代で歌を学んでおります。

 野球で言えば、プロ選手たちが引退する年齢から草野球を始めるようなものです。それも学生時代に野球をやっていたとか、社会人野球の経験があるとかではなく、いわば、それまで何の運動経験もなく、毎日ビールでも飲みながらナイター中継を見ていただけのオッサンが、一念発起して、年寄りの冷や水で草野球を始めました…とほぼ同じノリなんだよね、私の歌って(笑)。

 だから本当に上達しない。いや、多少は上達しているんだろうけれど、あくまでも“多少”ね、実に微々たる上達ですわ。おそらく、これで後10年、20年学び続けたからと言って、どれだけ上達するものか? 大人になって始めた野球が、一生懸命に努力していけば、プロのレベルは無理でも、せめて高校野球のレベルに到達することは…ありえないな(笑)。音楽も同じでしょう。プロのレベルは到底無理。音大生どころか、音大受験レベルにも到達しないでしょう。まあ、そんなモンです。

 だから、冷静に見ると、50歳を過ぎて音楽を学んでいるなんて、実に馬鹿げた行為だと思います。上達が見込まれず、ただただ時間とお金の浪費をするだけの、自己満足な行為です。

 でも、この自己満足ってのが美味しいんですよ。嬉しいんですよ。楽しいんですよ(笑)。

 所詮、アマチュアなんだから、どこまで行っても趣味でしかないわけで、趣味である以上、自分が楽しくなければ意味が無いね。もちろん「下手くそでもいいや」とは思わないけれど、必ず上達しなければいけないという焦りもありません。「成るようになるさ」というユルイ気持ちでやってます。そうでなければ、プロが引退する年齢から始められません。

 「アマチュアだけれど、プロ並の腕前になれるように頑張ります」って、30年前(つまりハタチ前後)なら夢見てもいいだろうけれど(それでも夢のまま終わりそうだね)、この歳で、そんな妄想を抱いたら自分がツライだけだよ。現実を見据えて、現実との折り合いをつけていくのが、オトナって奴だからね。できる事と、やりたい事の区別をつけながら、楽しくやっていきたいんだよ。

 でも、楽しくやっていくためは、技術の向上は必須なわけです、学習の動機付けとして、多少なりとも上達していかないと、面白くないのも事実なんだな。つまり「目立った上達は望めない」と悟りながらも「上達しないとつまんないなあ」とも思うわけです。二律背反だけれど、それを丸ごと飲み込むのもオトナだよね。

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コメント

  1. おぷー より:

    なんでも遅すぎるってのは、ないと思います。
    私の声も、もう一音上に伸びている所です。(D3ね。)
    プロじゃない、アマだから自分の体と相談しながら自分のテンポで
    出来るわけです。
    プロのフルーティストの友人に、「あなたは良いわねえ。音楽がしてて
    いつも幸せそうだもの。」と言われた事があります。
    プロは、それなりにしんどいワケですよ。
    ずーっとアマで勝手に楽しんでいるのは、悪くないと思います。はい。

  2. すとん より:

    おぷーさん

     確かに、アマは音楽を“自分のためにマイペースで楽しむ”権利を持っています。そこは常に演奏に責任を持たなきゃいけないプロにはない良い面だと思います。まあ、なんだかんだ言っても、時は戻らないわけで、今の年齢で今のカラダで今の状況でやれる事をやるだけで、それで楽しめるなら、アマ冥利に尽きるというものです。

     まあ、上達は遅々としたモノであっても、楽しみながら上達を目指す…ここにきちんと踏まえて、日々頑張って行きたいと思います。

    >ずーっとアマで勝手に楽しんでいるのは、悪くないと思います。はい。

     ですね、私も、勝手に楽しんでいきたいと思います。

  3. operazanokaijinnokaijin より:

    先般読んだ本で、
    一流大学を卒業して、しかし、大企業に就職せず、
    小さな学習塾を経営して、熱血指導していた方が、
    32歳にして、初めて海外旅行をして、
    感激し、感動し、エンジョイし、
    しかし、帰りの飛行機の中では、後悔の気持ちで
    泣いて泣いて。

    「ああ、なんで、もっと早く、
     大学生の時に、海外旅行しなかったんだろう。
     10年遅かった。
     10年前に海外旅行していたら、
     きっと、もっと違った人生だったろうに。」みたいな。

    以来、塾の教え子たちに、海外旅行、海外留学を
    積極的に勧めている、と。

    私も、立派な中年になってから、経済学に再会し、
    ああ、大学生の頃に、真面目に、経済学をやればよかった、
    と後悔しつつも、再会以来、真面目に再開し、
    昨日も今日も明日も、経済学を勉強しつつ、
    若人に勧めています、
    「縦書きのビジネス書もいいけど、
     横文字とは言わんけど、
     横書きの経済学教科書を読みなはれ。」と。

    まあ、若人に勧める話はともかく、
    中高年になってから、
    お金と時間のかかる何かをするのは、
    これでいいのか?と思いつつも、
    これでいいのだ!と思うのです。

    おしまい

  4. のんきなとうさん より:

    いつも楽しく読ませいただいています。
    自分も五十の手習いですが、ついた先生が一発で自分に合っていたのか、半年でやっと進歩が感じられて、楽しくなって来ました。
    と言っても、最初の3ヶ月は、それまでの自己流のクセを徹底的に直され、高い声、強い声が出せなくなりました。
    この期間はつらくて、やめようと何度となく思い悩みました。が、始めたばかりだし、もうこの先生に徹底的について行こうと地道に続けたら、だんだん声が、それも超ラクチンに出るようになって来ました!
    確かに進歩は遅いですが、趣味の世界、じっくり行こうと思います。

  5. すとん より:

    operazanokaijinnokaijinさん

     私も(クラシック)音楽を若い時に始めていれば良かったなあと思う事がありました。きっと10代の頃に始めていれば、音大に行っちゃって、まじでオペラ歌手なんか目指していたんじゃないかなって思ってます。

     でも、結果的には、私は音大には行かなかったし、音楽を職業にせず、今に至ってます。

     私が音楽を真面目に始めたのは、20代の半ば。もう、音大うんぬんの年齢では無かったけれど、まだ養成所には入れた年齢だったので、仕事を辞めて音楽の道に飛び込もうかどうか、ちょっとばかり真剣に悩んじゃった事もあったけれど、すでに就職していたし、結婚もしていたので、結局、歌手になるのは諦めて、音楽からもしばらく遠ざかって、今に至ります。

     この歳になって思う事は、あの時、音大に行かなくて良かった、養成所に行かなくて良かった、って事かな? きっと私の事だから、音楽の道に行ったら、才能が無くても、努力で業界にしがみついて、食えない生活を何年も続けて、人生ボロボロになっていたろうなあって容易に想像できちゃうんだよね。なにせ私って、夢見がちな人だから。

     大好きだけれど才能の無い音楽を職業にせず、趣味にできた事が、私の幸せかな? 今はそう思います。

     人生を夢に食われずに過ごせた事は、本当に恵まれた事だったと思います。

  6. すとん より:

    のんきなとうさん、いらっしゃいませ。

     半年で進歩が感じられましたか、それは早いですね! 私は先生を替えて、一年ぐらいは上達している確かな実感ってヤツが無かったです。もちろん、今はバッチリ上達を感じています。

    >最初の3ヶ月は、それまでの自己流のクセを徹底的に直され、高い声、強い声が出せなくなりました。

     いいなあ、そういう指導は…。私は未だに(高い声は無理だけれど)強い声が出ちゃうので、なかなか上達できません。歌が上達するためには『(無闇に)強い声で歌わない事』ってのがあります。ほんと、強い声ばかりで歌っていると、上達しないんですよね。前の先生のところでは、強い声で歌うように指導されていましたので、そういう意味では、まだ昔の悪い癖が抜け切らない…んですよ、残念無念。

     ま、過去は過去。今は今。今が楽しければ、それでいいじゃん…と思う事にしています。

  7. アデーレ より:

    こんばんは~!うーん、なかなか痛いとこついてきますね~。私も目下、悩み中、なぜなら私も50目の前なんですよ~(涙)
    というのも池田理代子さんの本に触発され、前からやりたかった声楽を習い始め、まぁ、なんと愉しいこと!!こんな愉しいことがあったのね!と、、池田さんも47で音大に入学され、のちに声楽家として活躍、今はオペラの演出家にもなっているという、我らの希望の星!のような活躍ぶり…
    まだオペラも歌っていらっしゃってるかと思うので、私、思うに、若くから歌ってないのは、また逆に声帯疲労がない分?もしかして、私たちは長く歌えるのではありませんか??という風に思うのですが…。
    たしか、ドミンゴさんが池田さんに【イタリアには40から始めても、プロの方がいるし、貴方も長く歌えますよ】的な事を言われた~と著書にお書きになっていたような記憶があります!
    ですので、皆様、希望をもって歌のレッスンしましょうよ!!

    私も随分、年下のそれは美しい美声の声楽家に習っていますが、先生が若いというのがまた、いい!凄く元気をもらいますし、ガツンと歌ってると、体内の細胞が入れ替わるくらい元気になります!また、性格的にもかなり、外向的になり、レッスンのあとは楽しくて楽しくて【ヤッホー】って感じ!本当に人生、変わりました!!私はオペラが大好きだから、それがきっかけなんですがオペラアリアを歌ってると現実は深刻な事が沢山、ありながら、なんだかやる気モリモリ、なんでもできるような気になるから不思議!だから、私はもう、歌は辞められないな~。家族になにかあると【この人、歌手だから】と言われています…どんな意味かしら、でも、ちょっと嬉しいわ~。これからも歌を頑張ります!本当にしっかりとアマチュアオペラ歌手といわれるようななりたいな~!

  8. すとん より:

    アデーレさん

     私は思うのです。趣味なんだから、その人なりに愉しめばいいんじゃないかっと。まあ、他人に迷惑をかけてはいけませんが、そうでないなら、たいていのことは大目に見てもよいのではないかってね。

     確かに、我々は若い人のようには上達しないし、未来もなければ、可能性だって無いに等しいです。でも、未来や可能性がなくてはいけないなんて事はないと思います。

     私の場合は、音楽は自分自身の心を修復するために行っている…という側面があるなあって思ってます。毎日毎日、仕事で心をすり減らしていますが、そこで音楽をする事で、心を安らかにしてくれるのではないかってね。

     カラダは休憩を取れば、疲労回復しますが、心って休んだからと言って、回復するものじゃないんですよね。私の場合、大声で歌うこと、美しい笛の音を肌で感じること、これらが私の心に良い意味での休息を与えてくれていると思ってます。

    >若くから歌ってないのは、また逆に声帯疲労がない分?もしかして、私たちは長く歌えるのではありませんか?

     声帯年齢が若い…って事でしょうか? 実は私も、それは時々思います。まだ歌っている時間が少ないので、使い減りをしていないんじゃないかってね。まあ、これが都市伝説でなく、真実であることを願ってますが。

     「カラダは老けているけれど、声は若々しいね」なんて、言われてみたいですよ。

  9. genkinogen より:

    こんばんは
    このブログにコメントする方々は超前向きですね。なんだか読んでいるだけでも元気になるようです。
    私も10年近くまえ45くらいの時でしょうか、アマチュアの方々がイタリア歌曲やオペラをうたう演奏会を聴いて、その指導者であるソプラノの先生に連絡をとり教えていただいたことがあります。その際、「テノールは45歳定年制といってね、45歳は引退するとしなのよ。」と45歳くらいだった私に先生はそういうのです。「見てごらんなさい。活躍しているテノールは若いわよ。」とも。これから本格的に習おうとする人間にいうかなあと思いましたが、移動で引っ越しをする時まで、教えていただきました。
    男声かつテノールでちょっと若めだった私は、珍しかったようです。(男声は習いに来る人が少なくいたとしても高齢)
    私は、大学の時団員数100人以上の合唱団で歌っていました。合唱団の先輩や後輩が数人東京芸大に進み直し二期会などでソリストとして活躍しているのを見ると、私の性格や能力では音楽の仕事は望めないにしても、自分もオペラや歌曲を歌ってみたいという気持ちが抑えきれなくなってきました。下手は下手なりに、アマチュアアマチュアなりに行けるところまで行こうと・・・
    私は静岡県人ですが現在東部に住んでおり、神奈川・東京に無理すれば通えるためボイストレーニングをまたやってみようと情報をネットで探していました。年齢や住まいのことを考えると今しかないと。
    そんな時であったのがすとんさんのブログ。背中を押されました。
    年齢など関係ないですよね。単なる数字。すとんさんをはじめ皆さんのご意見を拝聴しながら楽しんでいきたいと思っています。

  10. すとん より:

    genkinogenさん、いらっしゃいませ。

    >このブログにコメントする方々は超前向きですね。

     そうですね、私もそう思いますし、嬉しく思っています。コメントされる方でブログの雰囲気って変わるものだと思います。そういう点では、私はとても恵まれていると思ってます(感謝しています)。

    >テノールは45歳定年制といってね、45歳は引退するとしなのよ。

     おまけにデビューは遅めですからね(だいたい30歳ぐらいですよね)。数が少ない上に、活動期間も短い希少種がテノールという人種なのかもしれません。

     まあ、要するに『何を求めて歌の勉強をするのか』って事なんだと思います。プロになって歌の仕事で生活をしたいのか、ただ楽しく人生に彩りを添えるために歌うのか、そこで色々なことが大きく変わっていくと思います。

     若い時に「一番好きなことは仕事にしてはいけない。趣味にして一生楽しむものだ」と教えてくれた人生の先輩がいました。今は本当に先輩に感謝しています。おかげさまで、私の今の人生は、とても楽しいモノになっていますから。

    >年齢や住まいのことを考えると今しかないと。

     そうですよ、これからの人生を考えると、今が一番若くて、今が一番学ぶのにふさわしいからです。これはいくつになっても言えることです。将来よりも、今が一番良いのですよ。時は逆さまには流れません。決意をしたなら、後は実行あるのみ…ですよ。

     genkinogenさんのご活躍をお祈りしています。これからもよろしくお願いします。

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