今日のこの記事は、別に権威ある人の学説でもなんでもなく、人生下り坂になったオッサンが、勝手にクダまいて言っている事なので、笑いながら読み飛ばしてください(笑)。
皆さんは、トラヴェルソ(フラウト・トラヴェルソ)を知ってますか? 私は、よく知りません(笑)。でも、生で何度かトラヴェルソの演奏を聞いた事がありますし、トラヴェルソ奏者のマスタークラスを聴講したことがあるし、CDも数枚持っています。それらの乏しい知識と小さな経験だけで言っちゃうのですが、フルートとトラヴェルソは違う楽器だと思います。
トラヴェルソとは、現代フルートの先祖のような楽器で、バロック時代くらいまでブイブイ言わせていた楽器です。主に木製で、キーは一つありますが、サウンドホールは基本的に指で直接塞ぎます。対して、現代フルートと言うのは、19世紀にベームと言う人がそれまでの古典的なフルート(トラヴェルソ以降現代フルートまで、色々なタイプのフルートがあったそうです)に徹底した改造を加えて作ったもので、つまり、トラヴェルソと現代フルートは、“おじいちゃんと孫”のような関係と言えなくもないです。チェンバロからピアノができた事例と同じような感じかもしれません。チェンバロとピアノって、親族関係にあるけれど、やっぱり、これらは違う楽器でしょ。なので、私は、トラヴェルソとフルートは違う楽器だと思うんです。
たとえば、音色が違います。トラヴェルソって、目をつぶって聞くと、全然フルートには聞こえません。どちらかと言うと、リコーダーです、オカリナです。ですから、リコーダーアンサンブルにトラヴェルソが入っても、何の違和感もないでしょうが、フルートが入ると、音が全然違うので、居心地が悪くなります。それくらい、トラヴェルソとフルートは違うと思います。
トラヴェルソは木製です。フルートにも木管フルートと言うのがありますが、やはり管体を同じ木製にしても、やはり音色の差は埋まりません。トラヴェルソはトラヴェルソの音がしますし、フルートはフルートの音がします。
もちろん、音量や音域も違います。運指も違うそうです。違う違うと書くと、本当に全然違うような感じがしますが、全然違うわけではありません。やはり親族関係にはあるんだろうと思います。
と言うのも、たとえば、フルートとトラヴェルソは、レパートリーが一部重なります。バロック時代のトラヴェルソの曲なんか、トラヴェルソでもフルートでも演奏しますからね。トラヴェルソ吹きに言わせれば、フルートがこちら側のレパートリーを浸食していると言いたいかもしれませんが、現状では、レパートリーに重なりがあります。これはバッハのクラヴィアの曲をチェンバロ(クラヴィアの事ね)でもピアノでも演奏しちゃうのと一緒ですね。でも、同じ曲を演奏するからと言って、チェンバロとピアノは同じ楽器かと言うと、違うわけで、同様に、トラヴェルソとフルートも違う楽器だと思います。
なんで、わざわざ、こんな事でクダまいているのかと言うと…フルートのCDのコーナーに紛れて、トラヴェルソのCDが売っているのが、ちょっと気に入らないからです。
トラヴェルソはトラヴェルソでステキな楽器なんですが、トラヴェルソはフルートではないので、うっかりフルートのCDのつもりで買ったら、実はトラヴェルソのCDでしたと言うのは、悲しいからです、がっかりするからです。違う楽器なんだから、コーナー分けろよって思うし、ジャケットにも、必ず「フルート」とか「トラヴェルソ」とか、大きくハッキリ書いてくださいなって言いたいです。
と言うのも、このジェド・ウェンツのテレマン作曲「フルートの為の12のファンタジー」を買ってガッカリしたから。演奏は良いのだけれど、フルートのつもりで買ったのに、実際の演奏はトラヴェルソだったんで、その点でガッカリしちゃったわけよ。このCDはオモテもウラも“フルート”の文字が踊っているので、私はてっきりフルートによる演奏だと思っていたのよ。ところがね、よくよく見てみたら、CDケースの裏側の左下に、老眼では見えないくらいの小さな字で「楽器:フラウト・トラヴェルソ…」って書いてあるわけよ。これって、製作者側が「トラヴェルソもフルートの一種なんだから、フルートって書いておけ~」ってノリだよね、明らかに。
ちなみに向こうの言葉では、フルートというのは、単に「笛」という程度の意味しかないので、トラヴェルソをフルートと呼ぶのは、間違いではないそうです…が…ねえ…。
…でもね、私はトラヴェルソの音色が苦手なんだよ。フルートの音色の方が全然好きなんだから、なんかだまされたような気になるんだよね。演奏がなかなか良ろしいだけに、ガッカリ感もイヤマシなんですよ。
もっとも、ジェド・ウェンツと言うと、高名なトラベェルソ奏者さんらしいので、その人が現代フルートでテレマンを録音するはずがないので、それを知らなかった私の勉強不足と言われれば、その通りなんだけれど…でもね…、やっぱり…ね…。
フルートとトラヴェルソは違う…私は声を大にして言いたいです。フルートとトラヴェルソは違うと! 少なくとも、CDの棚は分けてください。トラヴェルソ演奏のCDには、大きく「トラヴェルソだよ」って書いてください。うっかりさんが誤って、フルートのつもりでトラヴェルソのCDを買わないように、してください。お願いします。
コメント
ハハハ・・・私も先日、うっかりトラヴェルソのCDを買ってしまいました(まだ聴いてません)。悔しいです。
以前、マクサンス・ラリューさん?が「いにしえの音色がするからと言って木製のフルートを使うのは邪道だ」とインタビューに答えていたような気がします。
あくまでも現代フルートは金属製だと言うことですね。
>河童さん
そうそう、悔しいです。悔しいというのは、一番ピッタリする表現ですね。
>以前、マクサンス・ラリューさん?が「いにしえの音色がするからと言って木製のフルートを使うのは邪道だ」とインタビューに答えていたような気がします。
へー、そうなんですか。その気持ちは分かる気がするな。とは言え、フルートのバリエーションの一つとして、木管フルートがあってもいいと私は思います。でも、現代フルートの開発者であるベーム氏は、木管にダメを出したんですよね。それで、色々と材質研究をして、銀に至ったと思います。
開発者であるベーム氏がダメを出した木管フルートに回帰するというのは、たしかに邪道かもしれませんが、木管同様に、洋銀にもダメを出していたはずです。それに金とかプラチナだって、ベーム氏はOKを出しているのかな? たぶん、OKを出していなかったんじゃなかったかなあ…。あるいは高価だから試さなかったんだっけ?
洋銀も、金とかプラチナメッキも、ブイブイ言わせている時代ですから、木管フルートにも市民権をあげましょうよ(笑)。ただ、現代フルートの本家本流は「総銀」らしいです。そこんとこは、しっかりと、確認しておきたいです。
最近は樹脂製のフルートも外国にはあるそうです。樹脂って言えば、石油でできているわけで、そんなプラフルート、ラリュー氏なら、なんてコメントするんだろ。ちなみに、私はプラフルートに興味津々です。
木管でも材質は黒檀ではなくグラナディラに限る、とかなんとかかいてあるらしいですよ。というわけで木管も存在してるんでしょうか。
トラヴェルソ、一度聞いてみたいと思いつつまだ聴けてないんです。ぜひ聴いてみたいです。
楽器店のCDコーナーとかにたまによりますが、クラッシックコーナーとかあって、バイオリンとかクラリネットのCDはそれなりにあるのに、フルートが少ないと思ったことはありませんか?私だけかなあ。
すとんさんはご存じだったかもしれませんが、ヤマハの
ホームページにアクリル製のフルートで演奏したサンプルがあります。
http://www2.yamaha.co.jp/u/naruhodo/07flute/flute4.html
意外に良い音?ですね
マクサンス・ラリュー氏のコメントはザ・フルートの記事を再編集した「世界のフルーティストvol3」にありました。要するに「音色の変化に富んだすばらしい現代のフルートがあるのに、可能性の乏しいものを使う気がしない」ということです。
この本はけっこうおもしろいですよ。ルー・タバキン氏はフルートで音楽院を出て、サックスは独学だそうです。
>かのんさん
>木管でも材質は黒檀ではなくグラナディラに限る、とかなんとかかいてあるらしいですよ。というわけで木管も存在してるんでしょうか
木管フルートという楽器が存在しているかと言う話でしょうか? だとしたら、答えは“YES”です。木管フルートは、トラヴェルソとは全然音色が違いますよ。
木管フルートの音色は、驚くほど現代フルートです。大きなお店に行けば、試奏できますよ。私は今まで、ヤマハとパウエルとサンキョウ(サンキョウはグラナディラではなくコーカスウッドを試しました)の木管を試奏した事があります。なかなかいいですよ。特にパウエルのメカ金の木管フルートは、私の中では“完璧な理想のフルート”に限りなく近い存在です。問題は、一本350万円と高い上に、個体差が激しいのでチョイスが難しい上に、外国製の木管なので、割れが心配です。
トラヴェルソはプロの演奏を何回か聴いたことがありますし、自分でも数本試奏した事があります。感想ですか? 目をつぶって聞くと、リコーダーです(笑)。アルトリコーダーとテナーリコーダーの中間くらいの感じです。ひなびた感じで、お好きな方にはたまらないと思います。あと、演奏はかなり難しいと思いました。音を出すのが、フルートの何倍も難しいです(涙)。
ま、古楽器ですから、ピッチがかなり低いんです。ピアノと合わせる事は基本的にできませんので、本当にお好きな方でないと、色々と厳しいですね、トラヴェルソの演奏は。
>楽器店のCDコーナーとかにたまによりますが、クラッシックコーナーとかあって、バイオリンとかクラリネットのCDはそれなりにあるのに、フルートが少ないと思ったことはありませんか?私だけかなあ。
オペラはもっと少ないですよ(笑)それに高いし(爆)。
>河童さん
ヤマハのそのページは知ってます。アクリルフルートもなかなかイケますよね。アクリルであの音ですから、マジメにABS樹脂でフルートを作ったら、かなりイケるんじゃないかと思いますよ、マジです。プラフルートは試奏したことがないんですよ。ああ、吹いてみたいなあ…。
>この本はけっこうおもしろいですよ。
はは、その一言で、買っちゃいました。でも、最近発売されたばかりなのに、アマゾンではすでに品切れでした。出足がよかったんですね。ああ、届くのが楽しみ。
サクライフルートにはセラッミクスやら象牙のフルートがある(あった?)そうですので、ひょっとしたらプラスチックでも試作しているかもしれませんね。
さすがに商品としての宣伝は出来ないでしょうけど。
でも合成樹脂での作成は形成技術の観点からも興味深いですね。
日本の金型技術をすれば微妙な音孔加工が可能で大量生産できます。
リコーダーと同じくらいに小学校に普及したら・・・と
>河童さん
サクライフルートさんに限らず、個人工房では、みなさん、色々と試行錯誤をしているようで、様々な素材のフルートを作っていたりしますが…プラはどうなんだろ? というのは、プラって金属加工の技術ではなく、金型成型ですから、技術の種類が違うと思います。個人工房さんは、みな金属加工のプロですからね(だから、個人工房では木管フルートの作成は…たぶんない)。
木材加工の技術があれば、プラの固まりから、プラフルートを削りだせるかもしれないですが…。
どちらにせよ、プラフルートは大量生産を前提にやんないと、たぶん儲かんないと思います。やれるとすると、プラ管のリコーダーも作っているヤマハと、がんばってアウロスかなって思います。アウロスは、プラ管のトラヴェルソを作ってますね。
>リコーダーと同じくらいに小学校に普及したら・・・
小学生にはフルートはデカイです。それに小学生サイズの横笛としては、すでにファイフがヤマハとアウロスから発売されていますが、過去に学校市場に食い込もうとして、失敗てしますね。ファイフと言うのは、プラ管の簡易ピッコロと思えば、そんなに間違いではないです。
ファイフって持ち運びに便利ですよね。一本持っています。音域高いし、簡易版のピッコロのようです。
そうなんですか、学校市場に売り込み失敗・・・なんですね。やっぱり横笛はリコーダーとはちょっと違う困難さがありますから音楽の先生に負担が大きすぎますから当然の帰結かもしれません。いくら日本人が横笛好きだからってみんなで吹くにはチョット・・・。
トラベルソのCDは、有田さんのバッハを買いました。トラベルソと知って買ったので後悔はありませんが、ピッチの低さに愕然・・・。有名フレーズを有田さんといっしょに今のフルートで・・・というコンタンでしたが、半音さげてやっとでした。あっというまに指使いが混乱してギブアップアップでした。
>ダリアさん
横笛を義務教育に導入しようと考える事自体が、たぶん無謀だったんだと思いますよ。なにしろ、小学校の音楽なんて、先生も管楽器素人が多いし、子どもたちは好きで音楽を勉強しているわけではないし、小学生には我慢とか努力とかは標準装備ではないし…。
みんなでファイフを買ったはいいけれど、先生を含めて、みんな、最初の音出しでつまづいて…、なんて光景が目に浮かびます。リコーダーの親戚ような楽器ですが、最初のハードルの高さが全然違うからね。
私もファイフを持ってますよ。一時期はウキウキ吹いてましたが、ファイフを吹くとフルートが吹けなくなるので、先生に「フルート以外の横笛禁止令」が出されちゃいました(汗)。
そうそう、古楽のピッチって、今の音楽の半音近く低いんですよね。はっきり言って、半音も違えば、それはもう、違う曲でしょう。調性というのは大切ですからね。
レコードに合わせて練習するというのは、アマチュアはよくやりますが、実はこれって、演奏者のピッチに要注意ですよ。古楽系のプレーヤーのレコードのピッチが低いのはもちろんですが、現代系のプレーヤーの逆にピッチが高すぎる事もあるんです。
なので、音楽の練習には、それ用の教材CDを用いるか、自分でMIDIで作るのがよいですね。
それにしても、ピッチくらい、統一しといてほしいものです。
わかりにくい説明出失礼しました。ついでに、ソース元を確認しました。
ベームの書いた「フルートとフルート奏法」には、管体の材質により音は変わり、金属と木製はどちらが良いかは決められないと書いているそうで、銀と木についても特徴が書かれているとのこと、ずいぶんいろんな材質をためしたそうですが、銀、洋銀、コーカスウッド、グラナディラをよいものとしているらしいです。
(PIPERS二月号より。本文にはもちっと詳しく書いてあります。)
なんだかんだいってもベームは銀でつくってたみたいですが、リップ金もつくってたみたいですよ。そこはやはり金細工の職人だからでしょうか。
わたしの笛師匠がメインで使ってる楽器は、古い木管フルートですが(作者書くと分かってしまうので割愛しますが一世紀ほど昔のものです)、温かい音がします。でも、師匠が銀のフルートをふいてもやはり同じ音がします。ストレスのかかった音を鳴らすと、差が出ますが。同じフルートでも、音色はいろいろ、奥が深いと思います。
補足
金細工とかくと、きんを加工してそうですが、かなざいく、であり、金属加工ですよね。
念のため。
>かのんさん
ソースのご紹介、感謝です。そうですか、ベーム氏は色々と試して、銀、洋銀、グラナディラ・コーカスウッドが良いとし、その中のベストチョイスとして銀を選択して、じぶんは銀で作った…ということになりますね。
となると、ま、現代フルートの原形は総銀製だけど、洋銀と木管(グラナディラとコーカスウッド)はベーム氏の認定材質ってわけですね。リップ金をつくってたとなると、一部に金を使うのは良しとされたけれど、総金は…ダメだったんでしょうね。プラチナはどうだったのか、ちょっと興味がわきます。
>でも、師匠が銀のフルートをふいてもやはり同じ音がします。
そうそう、フルートの音色に関して、材質と奏者の関係っておもしろいですよね。フルートは、材質によって、その音色が変わりますが、奏者によっても音色が大きく変わります。そして同じ奏者ならば、どんな材質を使っても、同じ音がするのだけれど、でも材質による音色の差というのは、やはり歴然と存在するわけで…。
理詰めで考えると、よく分からなくなります。たぶん「フルートは材質によって音色を変える」「フルート奏者にはその奏者固有の音色がある」「同じ奏者が違う材質のフルートを吹き分けた場合、音色の統一感がある」と言ったところなんでしょうね。
>「フルートは材質によって音色を変える」「フルート奏者にはその奏者固有の音色がある」
納得です。
人それぞれの唇の形があり声にも個性があるように、エアーリードであるフルートの音色に個性があって当然でしょう。
本当は唇の形に合った歌口を選べるのが理想なんですね。いろんな種類の頭部管を吹いて、楽に自分の好みの音色が出せるものにあたれば申し分なし。
どうも日本人は修行を好む人がいるようですが、やっぱ楽しんでこそ音楽!
>河童さん
>どうも日本人は修行を好む人がいるようですが、やっぱ楽しんでこそ音楽!
両方に同意です(笑)。私は典型的な日本人なんでしょうね。修行大好きです(笑)。でも、この修行が楽しくて楽しくて(爆)。
フルートは難しいです。人生後半戦に突入し、特別な経験もなしでフルート修行、ある意味、無謀ですね。大変ですよ、ツライ(辛い)ですよ、でもタノシイ(楽しい)です、そして、ツラタノシイ(辛楽しい)です。
ツラタノシイから、続けられるんです。辛(つら)くて楽しい…まるで、甘いと辛(から)いで甘辛いみたいですね(微笑)。
現在リコーダーと呼んでいる楽器は、ドイツ語でブロックフレーテblockfloteと呼び、バロック期までは「フルート」と呼んでいました。そこで、横笛を横traversoとわざわざ断って、flauto traverso(横の笛)と呼んだ訳です。
産業革命で、細かい金属部品が大量生産可能となって、ベームが開発したメカニズムを持つ楽器が現代フルートの祖となりましたが、元々は全部同じフルートです。上にコメントされている皆さんは、「現代」フルートから演奏も知識も入られた様なので、「トラベルソはトラベルソと明記してほしい」とか「ピッチを統一してほしい」などと書かれていますが、それは知識の乏しい後の世の人間の世迷い言です。「後から現代のフルートが出来た」のです。
現代ではA=440~442Hzの国際共通のピッチがありますが、バロック、またはそれ以前には地域、国によってA=392~398Hz, 415Hzなど様々で、オルガンの場合はA=505Hzなどという高いピッチもありました。
バロック=いびつな真珠、という元々の意味の様に、統一性のない、きちんとしていない美しさを求めた時代の芸術ですから、現代音楽のように、平均律で演奏するのが普通という時代から見ると、人によっては「音がおかしい」「聞くに耐えない」と思うかもしれませんが、当時はそれを愛した訳です。
逆に、ミーントーンやベルクマイスターなど、平均律とは異なる調律法で演奏されるチェンバロ、それに合わせるブロックフレーテやフラウトトラヴェルソは、調による和音の響がえも言われぬ美しさとなります。それを理解できれば、むしろ現代の平均律の和音が気持ち悪く聞こえる事もあります。
平均律ですと、曲を移調しても基本的に大きな変化がない(そのため、声楽など音域に合わせてよく移調が行われる)のですが、バロック期の音楽は、「調性」が大変大切であり、「ソナタ ニ長調」、「ソナタ ロ短調」など、曲名に書かれた調性を見ただけで、「あ、明るい楽しい曲」、「陰影の多い、内向的な曲」と聞く前に理解されるほど重要な要素でした。
有名なヴィヴァルデイの「四季」や、JSバッハの「ブランデンブルク協奏曲」を、オリジナルの古楽器(基本的にA=415Hz)での演奏と、ヴァイオリンも含め現代楽器(現代のチェンバロには半音上げ下げする機構が付いている事が多いので、A=415/440Hzを切り替えられる)で演奏したものを聴き比べて下さい。どちらの演奏が、ヴィヴァルデイやバッハが「意図」したものだったか、お分かりになるはずです。
P.S. チェンバロは現代ピアノの元にはなりましたが、祖ではありません。発音の機構が全く違います。弦を弾く=チェンバロ、弦を叩く=ピアノです。音量の大きな弦を張った鍵盤楽器が欲しいと開発したのはクリストフォリのピアノフォルテでしょう。そして、産業革命で金属が手に入りやすくなって、より弦の張力の強い、それを支えるメタルフレームの頑丈な現代ピアノが出来て来たわけです。古典派以前に使われていたチェンバロやピアノフォルテは、繊細な楽器(弦の張力が弱い)ので、演奏中にすでに音が微妙に狂って来る事があり、休憩時間に必ず調律をやり直す必要があるくらいです。それを、「変な楽器」『面倒くさい」と思うか、「なんとも愛おしい手のかかる楽器」と感じるか、感性が分かれるのでしょう。
balaineさん、古い記事にコメント、感謝です。
この記事に書いた事は今でもあまり変わってません。要するに、私は“今を生きる現代人”だという事です。バロック音楽の美しさを理屈では理解しますが、ハートではなかなか受け入れられない…と言うよりも、現代の平均律とか純正律とかに慣れ親しんでいて、バロック的な音楽を美しいと感じる完成がない…と言ってもいいかもしれません。
だから、アタマではトラベルソの音楽の素晴らしさは理解しても、実際に聞いてみると「なんじゃい、これ?」って思うわけだったりします。その気持ちは、2010年当時よりも、今の方が強くなっているかもしれません(笑)。
私はおそらく古楽はキライなんだと思います。しかし、古楽を現代的なアプローチで解釈して演奏したものは大好きなんです。私のような人って、多いと思いますよ、でしょ?
古楽が嫌い、、、実は、私も8年くらい前までは、古楽のCDやコンサートなど知ってはいても聴きはしませんでした。古楽の調性、調律は聞き慣れていないため「気持ち悪い」と思っていました。
しかし、本物のチェンバロを目の前で見て、聴いて、本物のルネッサンスフルート、バロックフルートを目の前で聞いて、その時代の音楽はその時代の楽器で演奏してこそということがわかりました。
balaineさん
私の場合、古楽がキライなのは、食わず嫌いではないので、勘弁してください。
地味な音色、歌わないメロディ、いびつな音階、癖のあるハーモニー、そういうのが苦手なんですよ。
有田正弘氏と工藤重典氏のコンサートを同日にはしごして聞いた事があります。偶然にも同じ曲を取り上げていましたが…有田氏の演奏で不足を感じていた私が、工藤氏の演奏でご満悦になりました。その時「やはり私は現代人だな」って思ったわけです。
でも、同じ古楽でも声楽となると話は別です。バロック声楽とかルネッサンス声楽は、案外好きですよ。でも、こちらは演奏者の数が極端に少ないので、なかなか実演で楽しめないのが残念です。特に、イタリア古典歌曲は、通常はバリゾッティ編曲のロマン派的な演奏で聞く事が大半ですが、オリジナルと思われる古楽スタイルで聞くと、一挙に音楽としての難易度が上がって、ハラハラドキドキになるので大好きです。やはり、ダ・カーポ・アリアと呼ばれる曲は、オリジナルスタイルの方が聞いていて楽しいですしね。
まあ、古楽は声楽中心だった時代の音楽ですから、器楽が楽しめなくても、声楽で楽しめればいいや、と思ってます。