またまた話は極端なところから入りたいと思います。21世紀の今なお、ベートーヴェンの第九こと「合唱」のベストなCDはどれですか? という問に対して「1951年7月29日のバイロイト音楽祭再開記念コンサートでの演奏(いわゆる「バイロイトの第九」)がベスト」と答える人がたくさんいます。アマチュアの音楽愛好者のみならず、プロの音楽評論家までそう答える人がまだまだいます。
このバイロイトの第九、私、持ってます。音質最悪です。いくらコンピュータで音質を改善しようとも元が悪すぎます。どうにもならないとはこの事。1902年のカルーソーのデビューSPの音質と同じ程度と言ったら言い過ぎでしょうか? 少なくとも、クラシック音楽初心者が最初に聞くべき第九だなんて、私は口が裂けても言えません。
音質の問題を横に置いたとしても、この演奏、やはり薦められません。テンポ設定や旋律の歌わせ方など19世紀的なロマンチックなものですし、何と言ってもこの演奏、ベートーヴェンのオリジナルではなく、フルトヴェングラー編曲版なのだそうです。
やはり初心者が最初に聞くべきは、最新の研究に基づいて修復された楽譜を使って、ベートーヴェンが求めていたスタイルで演奏したものであり、バイロイトの第九では絶対ありません。
などと言いつつも、私自身、この演奏が好きかどうかと聞かれると、結構好きです。いや、かなり好きです。『私の好きな第九トップ5』に入るくらい好きです。
確かに音質は最悪だし、テンポ設定もデタラメと言ってもいいくらいですが、好きです。少なくとも、学術的に正しいと思われる譜面を使った古楽器による凡庸な演奏(誰とは言いませんが…)よりは、だいぶ好きです。
つまり「正しい」と「好き」は違うし、「他人に薦めるCD」と「自分が好んで聞くCD」は違うというわけです。
実はジーリのイタリア古典歌曲についても同様なのです。ジーリの演奏は決して人に薦められるようなものではありません。しかし私自身、実は一番よく聞くイタリア古典歌曲の演奏がジーリだったりします。大好きなのです。
ジーリの演奏のどこが好きか? それは彼のロマンチックな歌唱法、甘く切ない歌声。なんかもう、聞いているだけで魂抜かれそうになります。腰のあたりがヘナヘナになります。これを聞いてしまった私にとって、今や他の人のカッチリしたイタリア古典歌曲の演奏なんて、三日前の食パンみたいなものです。食べて食べれなくはないものの、やはり焼きたてフワフワのパンの方が良いでしょ。私にとっての焼きたてフワフワのパンってジーリなんですよ。それくらい彼の歌が好きってこと。
なんだろ、誰もが美味しいと認めるお店の、しかも常連さんにしか出さない裏メニューみたいな演奏って言うと、分かるかなあ…。
これでジーリとイタリア古典歌曲のシリーズ(って言えるほどの長さでは無かったけれど)は終わりです。次のシリーズものは、実は私、最近よくピアノ発表会を聞きに行くんですよ。それで色々と思ったことなどを書いてみたいと思ってます。
コメント
ストコフスキー指揮のディズニーの「ファンタジア」を思い出しました。(ミッキーの魔法使いが出てくるアニメです。)
ほとんどは素直に聞けるのですが、シューベルトの「アヴェ・マリア」などは重過ぎるかな~と思ったり・・・。
でもあれからクラシックに入る人も多いのでは?
このストコフスキー編曲によるバッハやイタリア古典歌曲(もちろん歌曲として・・・ではなくオーケストラとして。)を聴いて驚きましたが。
ジーリへの想い・・・よくわかりました。
いろいろ考えますが、魅力的な歌い手ですよね。
カッチーニの「アマリリうるわし」は古楽系歌手の優れた演奏が多いので比較してしまいますが、多くの古典歌曲は比較の対象もあまりなく、あっても古楽唱法ではないので、やはりジーリの歌い方はベル・カントを知るためにも良いお手本である・・・と思います。
古楽器による凡庸な演奏・・・日本の演奏団体でしょうかね?
ファンタジアは「2」は持っているのですが、無印の方は、なぜかきちんと見た事がありません。ミッキーの魔法使いは、「2」にも同じものが入っているので、それは見ましたが…。ストコフスキー編曲のオーケストラ版イタリア古典歌曲は、話のタネに一度聞いてみたい気がします。
ジーリの件は、単に私が好きだと言うだけの話しです。あれが理想的な歌唱だとは夢にも思ってません。