私が声楽を(自分なりに)真面目に学び始めて、今年で12年になります。もう干支を一周する期間も歌を学んでいるんだね。
で、お恥ずかしい事だけれど、12年かけて、ようやく分かってきた事があります。それは「頭声」とは何なのか? という大雑把な事です。ちなみに「頭声」は、通常「胸声」と対にして用いる用語です。
もちろん、言葉としての「頭声」は、12年前はおろか、最初の最初に声楽を学び始めた30年ぐらい前から知っていましたし、あの頃は、声楽や発声法に関する専門書を読み倒していたので、理屈としては、よく知っていたのですが、それが肌感覚で分かるようになったのは、実はつい最近の事だったのです。
いや、びっくりですよ。何がびっくりって、分かってから気がついたんだけれど、今まで自分がいかに何も知らなかったのかって事を、ようやく知りました。
頭声って、本当に頭声で、胸声って、本当に胸声だったんですね。理屈じゃなくて感覚だったんですよ。
で、実は頭声胸声ってのは、声のポジションの話だったのです。頭声のポジションは頭の中だし、胸声のポジションは胸の中なんです。だから、頭声であり、胸声なんですね。
頭声が分かるようになったのは、自分が頭声で歌えるようになってからです。頭声で歌えなかった頃は、分かったような気がしていただけで、頭声が何たるかなんて、ちっとも分からなかったのです。
実はちょっと前までの私は、すべて胸声で歌っていました。頭声のつもりの声も、実は胸声だったんですね。ちなみに、ノド声はすべからず胸声です。胸声でしか歌えなかったので、頭声なんて知る良しもなかったわけです。もう別次元の話だったんです。
分かってみて知った事は、頭声胸声って、女性はたぶん無意識に使い分けているのだけれど、男性の手札には胸声はあっても頭声という札は、通常は無いって事です。
大雑把に言うと、男女ともに会話で使っている声は基本的に胸声です。でも、女性の場合、よそ行きの声…ってあるじゃないですか? それこそ「お母さんは、電話に出ると声が変わるよね」ってアレです。あのよそ行きの声って、頭声だと思うんですよ。まあ、普通に歌った時に「女性は裏声で歌う」って言うけれど、あの声って、裏声であると同時に頭声でもあるわけです。だから女性の手札の中には頭声が最初っからあるわけです。後は、上手にカードを切っていけるかどうかって話になります。
でも、男性の場合、頭声って日常生活では使いません。よそ行きの声だって胸声だし、裏声で歌えば、それはただの裏声であって、頭声ではないんです。男性の手札には頭声は無いんです。
ではなぜ、女性は無意識に頭声が使えて、男性は全く頭声が使えないのかと考えてみました。おそらくその理由として「頭声はかわいい声」だから、女性は(媚びているわけではないのだろうけれど)その声を使用し、男性は(かわいさを拒否するので)その声を無意識に封印しているので、女性は使えて、男性は使えなかったりするんじゃないかと考えました。
まあ使えるようになってみると分かるけれど、頭声って「かわいい」と同時に「艶っぽい」んですよね。「艶っぽい声」だから声楽で使われるんだろうと思いますが「艶っぽい声」と同時に「かわいい声」でもあるから、男性は避けがちなんだろうと思います。
でも頭声って「かわいい声」ばかりでなく「太くて低くて、でも艶っぽい」という男性的な頭声(美しいバリトンの声だね)でもあるんだけれど、これがなかなか難しいんだね。
ちなみに「かわいい」という概念は日本語にしかないので、頭声を避けるのは日本人男性特有の問題なのかもしれませんが…ここは検証した事がないので、詳細は不明です。
まあざっくり言っちゃえば、世間に媚びて(?)「かわいい声」で歌おうとすると、自然と頭声にならざるを得ないって事です。
ちなみに私の中では「ポメラニアンになったつもりで歌う」と頭声で歌えます。ポメラニアンって、モフモフした小型犬で、かわいいじゃないですか? リアルな私は、太り過ぎのグレートデンみたいな人間なんですが(笑)。そこは目をつぶって、頭の中でポメラニアンに変身して歌うと調子いいんです。
というわけで、頭声とはポメラニアンになりきった時の声なんです。
ですから、世の中の男性オペラ歌手って、頭の中に小型犬を飼っていて、そのワンちゃんたちになりきって歌っている…んじゃないかしらと、最近の私は妄想しております。
たぶん、この記事。分かる人にしか分からないだろうなあ。もしかすると、私以外の人には分からないかもしれないけれど…ごめんね。
↓拍手の代わりにクリックしていただけたら感謝です。
コメント
なかなか興味深い考察でした。
最近、誘われて再び歌う機会を頂いたので、久しぶりに発声について考えています。
発表会を聴きに行った時、友人(男性)が「頭声を使わない発声を習っている」と言っていて不思議に思ったものでした。
男性と女性の捉え方の違いもあるのかなとは思ったのですが、時代の流れがベルカントから変化しているのかもしれないとも思いました。
胸声と頭声、どっちにしても違いが自分の中で分かっていないと使えないものではあるなぁと思っています。
kyonzyさん、いらっしゃいませ。
>発表会を聴きに行った時、友人(男性)が「頭声を使わない発声を習っている」と言っていて不思議に思ったものでした。
私も不思議に思います。でも、世の中には色々な発声方法があるし、音楽ジャンルもあるので、そういう発声もあるのかもしれませんが…頭声を全く使わずに大声で歌い続けていると、早晩、ノドを痛め、声を壊す恐れがあります。ちょっと心配です。
バリトンとかバスとかの男声低音歌手も、観客的には低くて渋い声で歌っているように聞こえますが、歌っている本人的には、明るくて軽い声で歌っているんだそうですよ。それでも、低く渋い声で聞こえるのがバリトンであり、バスなんだそうです。
だから、プロ歌手の声真似をするのは、声楽学習者にとっては、ちょっぴり危険なのは、そういう事なのです。真似をするなら、結果ではなく、その過程を真似するべきなのです。
ところで、日本のアマチュア男性歌手は、音域的にはバリトンだけれど、音色的にはテノールな方が大半なんだそうです。私もかつてはそうでした。
テノリトン? バリノール? そういう方は、音域を広げずに音色を深めてバリトンとして活躍するのか、音域を広げてテノールになっていくの2つの道があるのですが、どちらを選ぶかは、本人の気持ち次第だそうです。私ですか? 私は迷わず音域を広げてテノールになる方を選びました。
是非頭声の録音音源を聞きたいです!
参考にさせて頂きたいです。
>バリトンとかバスとかの男声低音歌手も、
>観客的には低くて渋い声で歌っているよう
>に聞こえますが、歌っている本人的には、
>明るくて軽い声で歌っているんだそうです
>よ。
→そうなんですね~ 明るくて軽い声で歌ってもあの声というのは、生まれ持った才能ですね。
新しい感覚が身につくと、今までとは違う歌い方が出来るので楽しいでしょうね!
結局今の声の出し方から何かを変えないと新しい感覚は分からないので、勇気がいりますね。
ともかく、新しい感覚が身についたということでおめでとうございます!
ショウさん
音源はいずれアップしたいと思いますが、たぶん聞いても分からないと思いますよ。と言うのも、これって自分の内的な感覚でしかないからです。外から観察しても分からないと思います。
外からの観察が可能なら、世界中のプロのオペラ歌手は(おそらく)ほぼ全員頭声で歌っているでしょうから、彼らの歌唱を聞いて真似をすれば良いのですが、実際は、それだけではなかなかうまくいきません。
まあ、そこが声楽の難しさなんでしょうね。