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なぜアウフタクトは難しいのか!

 ごく一般的な日本人が音楽をやると、あれこれ苦手なことがたくさんあるわけです。まあ、これはある意味、仕方ないのです。と言うのも、今の音楽って、基本的に西洋音楽であって、我々日本人のDNAの中には無い音楽ですから、あれこれ大変なのは仕方ないのです。

 まあ、それでも若い世代は生まれた時から、どっぷり西洋音楽に浸かって育ってきたので、苦手と言っても、さほど深刻な問題ではありませんが、オジサンオバサン世代だと、まだまだ日本的な伝統音楽の世界の中で生まれ育っていますので、なかなか西洋音楽は大変だったりするのです。

 例えば私などは、子どもの頃のダンスミュージックと言えば、まずは夏祭りの盆踊りだったし、今では教科書で学ぶようなわらべ唄を実際に歌って手遊びなどをしていたし、テレビやラジオから流れる音楽のほとんど、民謡や演歌が多く、西洋っぽい音楽と言えば、せいぜい歌謡曲ぐらいでしたが…その歌謡曲だって、どっぷり日本の音楽だったわけです。ジャズやラテンは、一部の酔狂者の好む音楽であって、全く一般的ではなかったし、まだJ-POPと呼べる音楽はなく、ロックもまだまだテレビからは流れてきませんでした。ようやく、フォークが異端的な音楽として、オトナたちにやっかまれながらテレビから聞こえてきたくらいです。学校の音楽の時間では、まだまだ普通に文部省唱歌が歌われていました。

 歴史的な視座から考えて見るならば、時期的には、昔々の純粋邦楽から、今の西洋音楽中心への移行期間だったようで、まだまだ色濃く、伝統的な日本の音楽の中で育ちました。

 子どもの頃、同世代の若い女の子たちの多くはピアノを習っていたけれど、お姉さんたちの世代は、三味線とかお琴を習っていて、それらが得意な人がまだまだ多かったです。実際、私も、ピアノよりも先に、お琴に親しんじゃったし、今でも簡単な箏曲なら弾けないわけでもないです。

 つまり、オジサンオバサンたち世代が育った頃の音楽環境は、今の子どもたちのそれとは、全然違っていたわけです。なので、我々オジサンオバサン世代は、今の若い人から見ると、信じられないような事が苦手だったりします。

 例えば、裏拍が取れないとか、3拍子のリズムが取れないとか、6/8拍子とかだと迷ってしまうとか、どうしても三連符では歌えないとか、三連符と8分音符が混ざるとお手上げだとか…。

 だって、そんなわけの分からないリズムは、日本の伝統音楽には無いからね。日本の音楽って、そんなに複雑なリズムは使っていないんだよね。だから、この手のモノは苦手でも仕方ないのです。

 以上の話題については、いずれ記事にしていくかもしれませんが、今回は別の話をします。

 今回取り上げるのは、アウフタクト。オジサンオバサンは、本当に死ぬほどアウフタクトが苦手だったりします。

 アウフタクトと言うのは、弱起とも言いますが、フレーズの開始が強拍ではない…と言うか、強拍の一歩手前の弱拍(ま、たいてい裏拍ですが)からフレーズが始まる事、それがアウフタクトです。

 若い世代の人でも、このアウフタクトが苦手という人はたくさんいるそうですから、もう、オジサンオバサンの手に余るのはしょーがないのです。

 試してみましょうか?

 お誕生日の歌“Happy Birthday”という英語の歌があるじゃないですか? とても有名な曲で、大抵の日本人は知っているでしょうし、歌った事があるんじゃないですか? 歌詞は以下のとおりです。

Happy Birthday to you.
Happy Birthday to you.
Happy Birthday, dear ******.
Happy Birthday to you.

 こんな感じです。さあ、手を叩きながらこの歌を歌ってみましょう(さすがにこれは誰でもできると思います。)

 では次に、手を叩きながら、拍子を取ってみましょう。この曲は3拍子なので「1,2,3,1…」と数えてもいいし、強く・弱く・弱く・強く・弱く・弱く…と手を叩く強さを変えてもいいと思います。そうやって、拍子を取りながら、この歌を歌ってみるのです。

 さあ、やってみましょう。

 …で、「1」の拍は、どの単語になりましたか? “Happy” ですか、それとも “Birthday” ですか?

 「1」が “Happy” なら、小節的には“/Happy Birthday / to you./”になり、強拍は“Happy”と“to”が当たります。

 一方「1」が“Birthday”になった人は、小節的には“Happy / Birthday to / you.”となり、強拍には“Birthday”と“you”になりますか。

 どちらが正しいかは…後者ですよね。お誕生日の歌なのですから、強拍に来るのは“Birthday”と“you”じゃないとね。“Happy”と“to”が強調されても「だから何?」って感じになります。

 いかがでしたか? “Happy”を「1」にして歌っちゃった人、たくさんいるんじゃないかしら? 私の子供の頃は、みんなみんな“Happy”を「1」にして歌ってました(笑)。それくらい、オジサンオバサン世代の人って、アウフタクトが苦手なんです。

 さて、なぜアウフタクトがこんなに苦手なのかと言うと、まあ裏拍が苦手と言うのもあるけれど「メロディーを強拍から始めないと気持ち悪い」という感覚があるからだろうと思います。逆に言えば、なぜ西洋人たちはメロディーを強拍から始めなくても平気なの?って疑問にもつながります。

 さっきの Happy birthday じゃないけれど、日本語って、大切な事を“いの一番”に言っちゃいたい言語であるのに対して、あっちの言葉って、大切な言葉が文頭に来ないことって結構あります。

 「美味しい」を“Yummy”と言うのは、まあ分かります。言いたい事が文頭(ってか一語文だけどネ)に来てるものね。でも「寒い」を“It’s cold”って言われちゃうと、言いたい事が、日本語だと文頭なのに対して英語だと2語目に来るわけです。さらに言うと、英語の1語目の“It’s”なんて、形式的な言葉で、意味なんてほとんどないし、聞こえなくてもいいや程度の言葉じゃない。そんなどーでもいいような語が文頭に来ちゃうわけです。我々からすれば、斜め上の言葉ですわな。で、これをメロディーに載せようとしたら、強拍に置くのは…“It’s”じゃなくて“cold”の方だよね。つまり小節的には“It’s / cold”じゃないと困るわけで、最初の“It’s”はメロディー的には、自然とアウフタクトにならざるを得ないわけです。

 かくのごとく、英語を始めとする西洋語だと、形式主語とか前置詞とか冠詞とかのおかげで、アウフタクトが自然と成り立つのに対して、そういうモノが一切ない日本語では、メロディーは強拍から始めないと気持ち悪いという感覚が育ってしまうわけです。

 実際、西洋語の歌詞だと、アウフタクトがあっても、そんなに歌いにくくないけれど、その手の歌を日本語の訳詞で歌おうとすると、なんか違和感を感じて気持ちわるいなあって思うのは、やはり西洋語と日本語の違いから来るところが大きいと思うわけです。

 つまるところ「なぜアウフタクトが難しいのか」と言えば、答えは「我々の母語が日本語だからである」ってところでしょうね。

 日本語にはアウフタクトは似合わない…ってところなんだと思います。

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