声楽マスタークラスの続きです。
声の響きは鼻腔で作るものです。だから、息は前に出さずに鼻腔に届かせます。あくまでも“届かせる”のであって“入れて”はいけないのです。なぜなら、声を鼻腔に入れてしまうと鼻声になってしまうからです。じゃあ“届かせる”というのは、どういう感覚なのかと言えば、鼻の頭に付いているホコリをフッと吹き飛ばすような感覚で、息を鼻まで届かせるって感覚なんだそうです。
クレッシェンドは、単に音が大きくなるだけでなく、アッチェレランドも一緒にかけていくのが、ベルクのやり方なんだそうです。つまり、音楽記号って、作曲家ごとに、癖のある使い方をするケースもあり、そういう作曲家の作品を演奏する時は注意しないといけないって事です。
息は積極的に使っていきましょう。息の使い方が分かりづらければ、それを可視化すると良いのです。例えば、腕を平泳ぎのように動かして、息と腕の動きを連動させて歌うと、息の使い方がうまく可視化できるわけです。で、その可視化された息を意識化させるわけです。
目は常に見開いて、鼻も常に開いて歌うのです。また息は、勢いよく出すのではなく、常に温かい息として吐くように心がけます。
二重母音の発音に関しては、後の母音は曖昧母音で全然OKな代わりに、音程的には前の母音よりも高めに歌うのがコツなんだそうです。
ポジションが下がりやすい人は息が弱い事が多いので、常にポジション高く歌うためには、息をいつでも鼻腔まで届かせるように、勢いよく(ただし温かい息で)出していく事が肝心です。
結局、ベルクの「夜」に関しては、曲の解釈や歌い方ではなく、終始、発声発音のレッスンとなりました。で、残り時間がだいぶ少なくなってきたので、ここでコルンゴルトに曲を変え、生徒さんが一度通して歌いました。
歌い終わって、開口一発、先生が興味深い事を言いました。それは「ペットボトルを慈しむように歌ってください」です。分かります? 実際に先生が、ペットボトルを手に持ち、それを慈しむような動作をしながら歌った時に、私は天羽先生の真意が分かりました。これって、Y先生が常々「歌は粘っこく、粘るように歌う」と言っているのと同義だなと思ったわけです。
どうも、このマスタークラスで天羽先生がおっしゃっている事と、私が普段のレッスンでY先生から言われている事は、その表現方法は違っていても、その内容はほぼ一緒だと思いました。そして、私とマスタークラスの生徒さんでは、全然歌のレベルは違いますが、それでも注意されることは一緒って事は、それだけ歌の発声ってのは、難しくて、同じことを毎度毎度注意されながら、一歩ずつ前進していく事なんだなって思いました。
母音の話がありました。ア母音を歌う時はオを、イ母音を歌う時はウを、エ母音を歌う時はアを、それぞれ感じながら歌わないといけないのだそうです。特に音程が上がっていく事は、これが大切で、そうしないと、声が前に飛び出してしまうのだそうです、桑原桑原…。
上行跳躍音型では、準備は早めにしないといけません。で、その準備とは、クチから突っ込んだ腕が腹の中にまで届くほどに、そこまでカラダ全部を開けっ放しにした上で、事前に息を鼻腔まで届かせておく事です(あくまでも比喩表現です)。それくらいに、あっちこっち開けておき、腹圧を高めて、鼻の頭のホコリを吹き飛ばすくらいやって、準備完了ってわけです。こりゃあ大変だ。
息は声が音程に届いたからと言って、そこで止めず、常に流し続けます。その流し方も、ただ単に流すのではなく、息を回しながら流していきます。その回す回転速度は、一拍で一回転ぐらいのようです。大切なのは、息のヴァイブレーションなんだそうです。(分かります?)
で、なぜここまで何度も何度も“開ける”という事を言っているのか…それは、カラダに負担をかけないためなんだそうです。別にカラダが閉じていても、声は出ないわけではありません。ただ、閉じたカラダから声を出すには、かなりの負担をカラダにかけていかないといけないわけで、それでは歌っていてシンドイし、聞いているお客さんもシンドイし、何よりも長い時間歌い続けられません。だから、楽に歌うために、カラダは開けっ放しにし、息は送りっぱなしにして歌うのだそうです。
さて、今回も長くなってきたので、ここらでお終いにします、続きはまた明日。
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コメント
声楽マスタークラス、凄く興味あります。すとんさまら貴重な記事をありがとうこざいます!ずっとずっとこの話題でも良いです。たまに、ユーチューブで海外のマスタークラス見てますから、実力派日本人なら、なおわかりやすくて良いですね。
大歓迎です!
アデーレさん
さすがにずっととは行きませんが、あともう少しだけ続きます。LFJ的には人気がなかったようですが、それでも一定範囲の需要はあると思うし、私は大いに参考になりましたので、毎年とは言わないけれど、先生を変えて、たまに声楽のマスタークラスをやってほしいと思いました。
こんばんは。
> カラダに負担をかけない
先日公開レッスン&講習会に行ってきました。
講師曰く「パユとザコの違いは体幹がゆるんでいるか」
パユは最近聴いていませんが、以前オッカケした頃の感じであの違いは何だったのかスゴク納得してしまいました。
フルートは構え方が左右非対称かつトラベルソと違ってベーム式のメカが乗っかっているので、真っ直ぐ立っている声楽とは別世界です。
いかに余計な「負担をかけない」か、それ以前に余計なことをしないか、なかなか面白いです.。
> 先日公開レッスン&講習会
フルートの公開レッスン&講習会です。
tetsuさん
体幹は鍛えてバッチリにし、必要な部分には最低限の力を加えて動かし保持し、不必要な部分はできるだけリラックスして脱力する。そう考えると、歌もフルートも似たようなものかもしれません。
>真っ直ぐ立っている声楽とは別世界です。
今どきのオペラは真っ直ぐになって歌ったら、お客はみんな帰ります(笑)。皆さん、演技をしながら歌ってますよ。タフな人は、走りながらや、踊りながら歌ってます。ほんと、タフだなって思います。最近のオペラ歌手は、ほんと、デブは減りました。大抵の人は、筋肉質で、いかにもジムでカラダを鍛えてます…ってタイプの歌手が増えました。
一方で、もちろんデブもいて、デブな歌手は、tetsuさんのおっしゃるとおり、真っ直ぐに立って歌うだけなので、よほどの人でないと、良い仕事にはありつけないようです。デブには厳しい世の中になりました。
> 今どきのオペラは真っ直ぐになって歌ったら、お客はみんな帰ります
初めてみた映画での薔薇の騎士のシュヴァルツコップフのイメージがキョーレツでした。
真っ直ぐではなく重心移動はあるはずですが。
なぜか最初に見たり聴いたりした音楽とか雰囲気とかは良くも悪くも刷り込みになります。
tetsuさん
>初めてみた映画での薔薇の騎士のシュヴァルツコップのイメージがキョーレツでした。
ああ、あれね。カラヤンが指揮をしたオペラ映画で、1960年の舞台です。60年近く前の映像ですね。私、DVDで持ってます。あれ、映像は、どうしようもないくらいに古くて解像度が低いし、音もそんなに良くないのですが、シュヴァルツコップを始め、歌手たちが揃っていて、なかなか良いのですよ。名盤です。
確かに60年前のオペラですし、ほんの少し前にマリア・カラスの全盛期があって、まだまだオペラ歌手が演技なんて、ロクにできない時代で(だからマリア・カラスの圧倒的演技力が評価されたわけです)、でもカラヤンはカラスの先を目指していたわけで、当時のシュヴァルツコップなんて、歌手としてはすごいけれど、女優としては…ってのを使って、映画を撮ったわけです。あれが当時の精一杯だったんだと思います。
カラヤンがフレーニを見出したのは、この映画の少し後なんだよね。で、歌って演技もできるフレーニで、カラヤンはオペラ映画をバンバン撮るんだよね…ってか、それはカラヤンに限らず、当時の指揮者や演出家は、こぞってフレーニでオペラ映画を取りまくるんだよね。それはもう少し後の時代の話だね。
>なぜか最初に見たり聴いたりした音楽とか雰囲気とかは良くも悪くも刷り込みになります。
あー、分かります。なので、私、未だにショパンのピアノは、サムソン・フランソワが一番だと思ってますもの(笑)。ちなみに、モーツァルトはイングリット・ヘブラーね(大笑)。で、ベートーヴェンの運命はカルロス・クライバーだもん。ああ、オジサンって、いやーね。
こんばんは。
> カラヤンがフレーニを見出した
そうだったのですか。こちらはポネル演出の「フィガロ結婚」でのフレーニあたりしか記憶にありません。wikiでみたらフレーニの旦那はニコライ・ギャウロフ(TVでみたグノーの「ファウスト」はかすかな記憶あり)だったのですね。初めて知りました。
> オジサンって、いやーね。
こちらの刷り込みはランパルの「忠実なる羊飼い」とグールドのブラームス「間奏曲集」です。
昔話しかできないのはかなりヤバイです。
失礼しました。
tetsuさん
ちなみに、フレーニはパヴァロッティと姉弟弟子で、故郷も同じ。幼馴染で乳姉弟という説もあります(ホントかな?)。若い時は、一緒に電車に乗って、師匠の元にレッスンに通っていたという話もあります(こっちは本当らしいです)。
ちなみにちなみに、デビューはフレーニの方が全然早いのです。フレーニを見出して引き上げたのはカラヤンですが、パヴァロッティを見出して引き上げたのは、ジョーン・サザーランドという、大ソプラノ歌手です。ちなみに、サザーランドがパヴァロッティを可愛がった理由は、声が良いとか、歌が上手いとかではなく、単純に背が高いからです。パヴァロッティはデブのイメージがありますが、実は身長もテノールの中では高い部類に入ります(大抵のテノールはチビです)。サザーランドは大ソプラノ歌手ですから、女性にしてはノッポさんで、共演者に困っていたんですね(笑)。で、パヴァロッティに目をつけた…というわけです。