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何のために音楽をやるのか?

 先日、ネットサーフィン(古い…)をしていたら、「オトナになってから音楽を始めたって上達するわけがない。上達しないのに音楽をやるのはおかしい。そもそもオトナには音楽をやる資格がない」ってな主旨のページを見つけました。

 武士の情けでリンクは張らないであげるけれど…内容はともかく、そのモノの書き方にイラツイて、正直、カッチーンと来ました。まあ、よくよく読めば、とても良識のあるオトナのモノの書き方ではないので、おそらく、中学生あたりの生意気盛りのガキが、ネットで顔が見えないことを良いことに書き散らした文章だろうと思いました。

 私は良識あるオトナです。子どもの戯言にいちいち反応して、腹立てても仕方ないわけです。

 それでもやっぱり、その書き方にはカッチーンと来た私です。でも、内容に関しては、多少なりとも心にひっかかったわけです。

 この子の立場は「音楽は、プロ演奏家になるためにやるものであって、遊びでやるものではない。やる以上は人生のすべてをかけて練習に励み、プロ演奏家になるべきであって、そうでない人間は音楽をやってはいけない。だから、音楽は子どものうちから始めるべきである。子どものうちから始めても上達しない者は音楽を辞めるべきだし、上達する見込みのないオトナは、そもそも音楽をやる資格がない」というものでした。

 こんな事を言っている、この子自体、どれくらいの演奏力を持っているんでしょうね。プロ演奏家を真剣に目指しているのなら、おそらく中学生あたりでしょうから、すでに国内コンクールのタイトルをいくつか持っているんだろうと思います。もしかすると、国内の賞は取り尽くし、今は国際的なコンクールで賞を取るための準備をしている真っ最中でしょうね。

 …なんて、イヤミを書いてみたりして…。でも、クラシック畑で真面目にプロ演奏家を目指しているなら、中学生あたりで、すでに賞レースに絡むくらいの実力がないと厳しいよね。

 この子の考え方は、プロ演奏家至上主義…とでも言うのかな? 音楽を…ってか、音楽演奏能力を生活の手段と考えて、日々の音楽の練習を職業訓練の一種と考えているわけです。世界に通じる演奏家を目指してガッパガッパ稼ぎたいなら、確かに子どもの時からハードトレーニングを積み重ねていかないといけないし、やっている中で才能が不足していると分かったなら、プロ演奏家になることを諦めないといけないだろうし、それこそ人生のすべてをかけて練習に励まないといけないわけです。

 そういう生き方もアリです。また、そういう人生を選んで突き進んでくれる人がいないと、この世から音楽がなくなってしまうので、才能ある方々にはぜひ頑張っていただきたいのだけれど…演奏家として生きる人って、そんなにたくさん要らないんだよね。

 日本国内のクラシック音楽界に限った話でも、必要とされるプロ演奏家なんて、1世代で数千人ぐらいでしょ? まあ、現在、日本国内には33のプロオケがあるそうだから、33×100名として3300名の器楽奏者が入れば十分です。それに歌手とピアニストとソリストと指揮者を加えても、せいぜい4000人も入れば間に合うはずです。全体で4000人なら、1世代を25年と考えても、プロ演奏家なんて1年に160名誕生すればいいわけだから、音楽大学も日本に一つあれば十分って話です。

 例えば、東京芸術大学の音楽部の入学定員が237名ですから、日本の音大は、芸大一つで十分というか、芸大一つでも多すぎるって話になります。その他の公立音大はもちろん、私立音大もすべて廃業しろって話になります。で、そこに入れない人間は、音楽をやる資格がないって、言い切っちゃっているわけです。

 これを以てしても、この子の話が、いかに現実離れをしているかが分かります。まあ、こういう中二病的な考え方、個人的には嫌いじゃないけれど、いつまでもこういうふうに考えていると、生きづらいだろうねえ。

 まあ「何のために音楽をやっている?」の問いに対して「プロ演奏家になるため」という答えもアリですが、現実的には、それだけじゃないってわけです。

 音楽を学んでいる人が十人いたら、その答えは十通りあっていいと思います。もちろん「プロ演奏家になるため」に音楽を学ぶのはアリです。でも「単純に音楽が好きだから」「女の子にモテたいから」「音楽をやっているって、カッコいいじゃん」「趣味/教養として」「子どもの時からやっていて、なんとなく惰性で…」「部活だから」「健康づくりのため」「友達づくりの手段として」とか、ほんと、なんでもアリだと思うわけです。

 と言うのも、それらの答えはすべて、結局は一つの答えに導かれていくからです。それは…

 …「人間だから」です。

 音楽って、人間しかやりません。まあ、鳥はさえずりますが、あれは音楽と言って良いか私には分かりません。鳥以外の動物は…音楽やらないよね。類人猿と呼ばれる、チンパンジーやゴリラは、もしかすると我々の知らないところで、音楽に興じる事があるのかもしれないけれど、でも我々人間の音楽の楽しみと比べられるほどではないと思います。

 つまり、音楽を演奏したり、聞いたり、楽しんだりするのは、我々が人間だからであり、音楽は、人間が作り出し引き継いできた文化の一つなのです。だから、我々が何のために音楽をやっているのかと言えば、音楽という人が作って引き継いできた文明を、楽しむためなのてす。

 で、音楽を楽しむには、色々なレベルがあるわけです。

 演奏するのもアリです。作曲するのもアリです。そして、それを生業とするのもアリだし、趣味としていくのだってアリです。また、他人の演奏を聞いて楽しむだけでも、問題なしです。

 演奏家にならない/なれない人間が音楽を学ぶ理由は、音楽のより良い享受者になるためである…と言えるでしょう。つまり、音楽を学ぶことで、より音楽が好きになり、音楽文化を支える礎となっていくって事です。プロ演奏家は観客がいて、始めてプロ演奏家なのです。演奏家の数の何百倍何千倍何万倍の数の音楽ファンがいないと、音楽が文化として成り立つことはないのです。

 だから、何のために音楽をやるのかと言えば、ごくごく一部の人は、プロ演奏家になるためでしょうが、その他大勢の大部分の人は、音楽をより好きになるために音楽をやっている…って言えると、私は思ってます。

 で、そういうその他大勢の方々がいて、はじめて、音楽は人間の文化として継続していく事ができるのだと、思ってます。

 だから音楽はいつ始めても良いのです。もちろん、プロ演奏家になるならば、タイムリミットはありますが、それ以外の目的ならば、始めたくなった時が適齢期です。音楽を始めるのに理由は要りません。我々人間でなければ音楽は楽しめないのですから、大いに音楽を楽しもうではありませんか!

 つまり「何のために音楽をやるのか?」と言う問いに対して「面倒くさい事は抜きにして、音楽、楽しんじゃえ!」というのが、私なりの答えだったりします。

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コメント

  1. operazanokaijinnokaijin より:

    誠に愚かな書き込みをしている者を、
    すとん様は、
    >>>おそらく、中学生あたりの生意気盛りのガキ
    とお考えですので、以下、「ガキ」と記します。

    思想の自由がありますので、このガキが、
    頭の中で、どう考えようと、
    ネットで、どう書き込もうと、
    このガキの勝手ですが、

    私が少し心配するのは、
    このガキが今、学校で、
    成長してから、会社で、
    結婚してから、家庭で、
    こんな発言をして、

    それを真に受けちゃう後輩、子供もいるかもしれない、
    それが心配です。

    思い起こせば、
    学校や会社で、愚かな先輩の愚かな発言を信じてしまったこともあるし、
    大昔、子供の頃、愚かな親の愚かな発言を信じてしまったこともあるし。

    そんな、心配性の私です。
    (/_\;)

    おしまい

  2. オデ より:

    この考え方を拡大解釈すれば、大人は草野球にも週末ゴルフにも興じる事が出来なくなっちゃいそうですね(^_^;)。

  3. すとん より:

    operazanokaijinnokaijinさん

     大抵、中二病と言うのは、オトナになると治るものですが、確かに中二病をこじらせたままオトナになってしまう人もいないわけじゃないです。

     本人が痛いままなのは、本人のせいだから仕方ないにせよ、operazanokaijinnokaijinさんのおっしゃるとおり、若い世代への害悪を垂れ流す存在になりかねないのは事実です。

     もっとも、情報時代に生きる今の若者達は、我々世代よりも情報の選別に長けているので、こじらせ先輩の毒牙にかからずに済むだろうとは思うものの、いつの時代にもピュアな子はいるわけで、そういう子たちが…私も心配です。

  4. すとん より:

    オデさん

     おっしゃる通り、草野球も週末ゴルフもできなくなっちゃいます。だって、オトナだもん、上達なんて簡単にはしないもん。

     それにしても、プロになれなきゃ、やる資格がないなんて、あまりに極端で視野の狭い考え方です。生きていくのが辛いだろうなあ…。

  5. tetsu より:

    こんばんは。

    日々の瑣事に追いかけられているこちらは「冷蔵庫が空っぽでも電気が止まってもフルートが吹ければ幸せ」と仰った元師匠へ付いていけませんでした。
    でも今はなんとか週一で吹いても頭マッシロになれます。
    吉田雅夫曰く「僕が毎日笛を吹いているのは自己修復作業と思うんです。笛を取り上げられたら生きていかれないんですよ。」(「フルートと私」からの引用)
    サラリーマンやりながら吹いた時期もある彼の言葉にメチャ共感してしまいます。

    音楽か笛か、というとこちらは笛しかなくて笛を吹くことと音楽することはほぼ同じです。

    失礼しました。

  6. tsunami より:

    こんばんは。お久しぶりです。
    それ、知恵袋の楽器全般のQ&Aランキングトップで有名な奴です。定期的に同じような内容で投稿していますよ。多分いい年齢のネットだけでえらぶっている輩だと思いますが。
    お金を貰えるのがプロですから、フローレンス・フォスター・ジェンキンスでもいい訳です。ヒット曲を滅茶苦茶にした握手券の何とか48系でもOK。カメラマンなんて資格ありませんから、100¥でも稼げばプロ(笑)というのも有名な話。自転車は一日300km、毎日走れないと乗ってはいけないのかな?東京大阪(国道一号550km)2日で走るどころか24時間で走るアマチュアもいますが。
    どうせ言うなら世界一が一人いればいい、それ以外は下手なんだから要らないくらい言えばいいのに、といつも思います(笑)
    あ、それだとサッカー出来ないか・・

  7. すとん より:

    tetsuさん

     自己修復作業…たぶん、昨今の流行り言葉である“癒やし”のオリジナルのような言葉だと思いますが、笛を吹くってのは、メンタルに良いのだと、私も思います。

     日本では平安の昔から、男が一人で笛を吹いて、心を癒やしていたわけです。そういうDNAが、確実に私たちにもあるんだろうと思います。私もフルートを吹く事で、ささくれだった心を安心させていたりします。

     生きていると、色々あるものね。そういう事も、音楽の効用の一つだと思います。

  8. すとん より:

    tsunamiさん

     tsunamiさんのおっしゃっているのは、たぶん、この記事の事だろうと思います。

    >https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q12133289697

     私が読んだ記事とは別物ですが、似たような事を言ってますね。もしかすると、同一人物の別記事かもしれませんし、そうでないかもしれません。

     まあ“ID非公開さん”ですから、少なくとも自分の言っている事は世間から反感を買うという程度の事は分かっているようです。この記事を書いた人は、tsunamiさんのおっしゃる通り、オトナの方だと思います。おそらく、デタラメな事を書いて、世間の注目を集めたいタイプの人じゃないかな? いわゆる“ツリ氏”の文章だと思います。だいたい、この人は確信犯じゃないですか。おそらく、自分の書いている事なんて、これっぽっちも信じていない人だと思います。

     どちらにしても、可哀想な人だなあって思います。あれこれ、こじらせているよね。生きていて、楽しいのかな? なんか、悲しいね。

  9. とも より:

    合唱団の本番に出るとき、チケットの行き先はどうしても知り合いとかになってしまいます。
    クラシックに限らず、観客ありきの芸術には「それを支援してくれる、理解してくれる」人の存在が不可欠ではないでしょうか。

    ピアノコンクールがテーマになっている小説や漫画などを読んでいると「この人の演奏はこんな感じ」であると書かれますが、それを一般人が理解するためには、演奏を行う立場になるのが一番早いと思えます。

    芸術を行っている人がよく言うのが「裾野を広げたい」、これはそれを享受するだけでなく、実際に行い、楽しみ、広げること望んでいるのだと思うのです。
    一部のエリートだけが行えばよいのなら、その卵は育っていかないし、背景にある苦労を知ることで真の美しさを知り、心の安らぎを得ることはできないと思います。
    かの方の発言は、自分で自分の首を絞めているとしか思えません。

  10. すとん より:

    ともさん

    >かの方の発言は、自分で自分の首を絞めているとしか思えません。

     あの発言者は、偉そうに書いてますが、ご自身はプロの演奏家ではないと思いますよ。だって、プロの方であれば、お客さんやファンへの感謝の気持ちというのが常にあるし、集客の大切さだって知っているわけだし、ともさんのおっしゃるように、裾野を広げるための活動に邁進しているからです。ですから「オトナには音楽をやる資格はない」なんて、クチが裂けても言うはずないからです。

     人間って、一人じゃ生きていけないのですよね。色々な方々とのご縁を大切にし、互いに支え合って生きていかなきゃいけないわけです。それが社会生活ってヤツです。

     かの方は、自分一人で頑張っていけば生きていけると考えているわけですから…ニートなのかな? それとも引きこもり君なのかな? 生暖かい目で見てあげればよろしいと思います。ただ、かの方の親御さんやお身内の方は、ご心配でしょうね。

  11. かん より:

    すとんさんこんにちは。

    以前ネットでフルート関連で調べていて、偶々こちらのブログに行き着いて以降、楽しく拝見している者です。

    さて、私もおそらくこれと同じ記事を目にして、あまりの衝撃で家族に「こんな奴がいた!」と報告してしまいました(笑)
    恐ろしく偏っているか、若しくはご自身が音楽の進路に失敗したか何かの腹いせか、はたまたただの愉快犯か…

    私も小学生でフルートを始めて30年程経ち、オケやら吹奏楽でアマチュア活動を続けてる訳ですが、一度もこの様に思った事はないですし、むしろ演奏会や発表会などでは、大人になってから楽器始めた方の方が人生の味みたいなものが滲み出る演奏をされたりします。

    あの記事の真意は不明ですが、すとんさんの仰る様に、アマチュア演奏家や学習者が居なくなったらプロ奏者の活躍の場は無くなりますし、音楽が好きで始めた人間が素晴らしい音楽に触れた時に自分も演奏したくなると言うのは、ごく自然な動機だと思います。
    自分が少しでもその音楽の一部になりたいと願い学習する事を誰も責められないはずですね。

    余談ですが、私はマテキユーザーです(笑)

  12. すとん より:

    かんさん、いらっしゃいませ。

     マ、マテキユーザー!?

     私、マテキに憧れていた者です。でも、マテキは廃業しちゃったんですよね。もし、二度と手に入らない、憧れのマテキよ。ああ…。

     新しいマテキは、製品ラインナップを見る限りは、旧マテキを引き継いでいるようですが、実際の楽器はどうなんでしょうね。一度は試してみたいものですが、なかなかチャンスがありません。

     余談へのレスポンス、失礼しました。でも、うらやましかったんです。

  13. かん より:

    すとんさん
    度々失礼します。

    いえいえ、実はまさに、「マテキ」のキーワードでたどり着いたのがこちらでしたので(笑)
    私は親に、「絶対に音楽で食って行くから!」と懇願し、母子家庭で金なぞ無いはずの母が必死に苦労して買ってくれたのが今のマテキであり、先代の渡辺社長が造って下さった楽器のため、一生手放せません。
    それでも途中大人になってから、一度憧れのブランネンの総銀に浮気して、一大決心でローンまで組んだのですが、結局はマテキが自分には一番しっくりくる楽器だったために手放してしまいました。
    (ローンがチャラになるくらいのリセールバリューには驚きました)

    楽器選びの記事も拝見しましたが、すとんさんのお気持ちよく分かります。最初の楽器は親の脛をかじったのですけれど、笛選びに対する情熱には共通のものを感じました。実はアルタスは、マテキ購入前に最後まで悩んだ楽器で、なんなら一度オーダーを入れたくらいです。
    結局、当時の先生の勧めもあってマテキとなった訳ですが、当時中坊だった私には何れも大概分不相応な楽器でした。
    マテキは、最初は鳴らすのに苦労して、自分の楽器はハズレじゃないか…とすら思った時期もありましたが、40も近づいてきて漸く、一つの理想の音が見えて来た感じです。(もちろんアマチュア奏者の域のですが…)

    私は笛しか吹けませんが、すとんさんの気持ちに負けない様にこれからも頑張ろうと思います!
    あ、人様のブログに長々と失礼致しましたm(__;)m

  14. すとん より:

    かんさん

     おお、ブランネン! それも私の憧れのフルートです。今だって、お金さえあれば買っちゃうかもしれないほどの憧れです。

     私とかんさんは、フルートの好みが似ているのかもしれませんね。

     私は、腕がまだまだという事もあって、未だにアルタスに振り回されています。他のメーカーのフルートなら、すんなり吹けるのに…、厄介なフルートを気に入ってしまったものです。

    >あ、人様のブログに長々と失礼致しましたm(__;)m

     いえいえ、マナーさえ守っていただければ、かまいませんよ。

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