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なぜ、我々はリコーダーを学んだのか?

 私は笛好きです。それは現在、フルートを学んでいる事からも知れましょうが、実はそれ以前からの笛好きでございまして、中学3年の時は、修学旅行先の京都にリコーダーを持ち込み、数人の仲間とリコーダーを吹きながら、京都の街を練り歩くという、実にはた迷惑な行為をしてしまったほどの男でございます(なので、中学の修学旅行の思い出は、リコーダー演奏と枕投げしかないと言う“別に京都に行かなくても良かったんでないの?”というモノとなりました:笑)。

 そうなのです。私の笛好きは、学校で習ったリコーダーがそもそもの始まりで、そこから現在のフルートへとつながっていくのです。つまり、小学校の音楽の時間にリコーダーを習わなければ、私は笛好きにはならなかったのだと思います。

 私の人生は、音楽の授業でリコーダーを学んだ事で大きく変わってしまったのです(なんてね)。

 さて、ここから本題。なぜ小学校でリコーダーを習うのか? 不思議に思った人っていませんか? まあ、音楽の授業なんだから、楽器を学ぶのは当然としても、なぜリコーダーなのか? これがオーケストラで使うような楽器とかなら分かるけれど、リコーダーって、かなりのマイナー楽器で、ほぼほぼ学校の授業でしかお目にかからない楽器じゃないですか? いやむしろ、世間的には「学校の授業でしか見かけない楽器」という位置づけだと思います。そんなマイナーで無名な楽器を、なぜ学校で学ぶのか? ね? 言われてみると、なんとかも不思議でしょ?

 「いやいや、リコーダーは立派な古楽器ですよ。有名な奏者だってたくさんいるじゃないですか? YouTubeで検索かければ、いくらでも見つけられますよ」

 …それはオタクの発想です。新橋の飲み屋街を歩いているサラリーマンあたりに聞いてみれば、100人中100人が「リコーダー? ああ、縦笛ね。学校で吹いたよねえ…」っな答えしか返ってこないって。世間の常識じゃあ“リコーダー=学校の授業でしか見かけない楽器”って事になります。

 ある意味、小学校で習う楽器がリコーダーだから、日本人の音楽生活が広がらないとも言えます。だっで、小学校で習う楽器が、ピアノとかヴァイオリンとかトランペットとかだったら、もっともっと音楽を嗜む日本人が増えていたと思うわけです。

 それなのに、リコーダー。なぜだかリコーダーなのです。

 まあ、実際のところ、現行の「小学校学習指導要領」には、以下のような記述があるのです。

>第3学年及び第4学年で取り上げる旋律楽器は,既習の楽器を含めて,リコーダーや鍵盤楽器などの中から児童の実態を考慮して選択すること。

 なんと学習指導要領(学校で教えるべき内容が明記された法律のようなモノ)に“リコーダー”と明記されているのです。もちろん“既習の楽器を含めて,リコーダーや鍵盤楽器”と書かれているから、別にリコーダーでなくても良いわけで、小学校低学年で習った(つまり既習の楽器である)鍵盤ハーモニカでよいし“鍵盤楽器”と書かれているわけだから、ピアノでもオルガンでもチェンバロでもシンセサイザーでも良いのだけれど“リコーダー”と明記されている以上、リコーダーなのです。

 こういう融通の効かないところがお役所仕事って奴で、学校だって、立派なお役所だからね。だから、小学生はリコーダーを学ぶのです。

 ではなぜ、学習指導要領にリコーダーが明記されたのかと言うと…1936年のベルリン・オリンピック(“ヒットラーのオリンピック”として有名な大会ですね)を観戦していた、坂本良隆氏(当時の日本の高名な指揮者&作曲家さん。島根大学の教授です)がヒットラー・ユーゲントによるリコーダー演奏を見て、えらく感動し「これを日本の音楽教育に取り入れるべし」と思ったようで、この方を中心にリコーダーが日本の音楽教育に組み込まれて普及したのだそうです。

 だから、学校で習うリコーダーは、世界標準のバロック式ではなくて、ジャーマン式なのね。

 つまり、日本におけるリコーダーのルーツは、バロック音楽ではなく、ナチスだったわけです。驚きですね。まあ、当時のナチスと大日本帝国は同盟国だったからね。自然な流れと言えば、ごく自然な流れです。

 まあ、坂本氏という推進者がいたとしても、なぜ、これほどまでにリコーダーが普及したのかと言えば、リコーダーには教育楽器としての利点が数多くあったからです。

 例えば…リコーダーって、誰でも買ってきたら、すぐに吹けるでしょ? 音を出すのに訓練が不必要というのは大切です。なにしろ、小学生って飽きっぽくて根気が無いからね。リコーダーって、粗雑に扱っても、まず壊れない。小型でランドセルに差して持ち運びができるし、弦とかリードや電池のような消耗品も不要だし、面倒な調整もいらない。つまりメンテナンスフリーなわけです。その上、チューニングも不要で、誰が吹いても、まあまあ正確な音程で演奏できるわけです。いかにも半分野生動物のような小学生たちに持たせても、大丈夫ってところが、リコーダーの教育楽器としての長所なわけです。

 さらにプラスチック製というのも利点ですね。なにしろ、安価に大量生産ができるわけで、日本全国に入る小学生一人ひとりに持たせるには、安価で大量生産可能というのは、大きなアドヴァンテージです。もしもピアノを教育楽器として採用したら…ピアノが買えない家庭なんて、たくさんあるわけだから、個人練習なんて出来ない子が続出して、学習効果なんて期待できないわけですし、もしもリコーダーであっても、木製リコーダーが採用されていたら、やはり安価で大量生産というのは無理でしょうから、リコーダーがプラスチック製であるというのは、大切な事なのです。

 このような理由で、リコーダーは日本の音楽教育に取り入れられ、今や日本人の大半が演奏経験のある、ある意味“国民楽器”とすら呼べる地位にまで上り詰めたわけです。そして、私のような笛好き人間を毎年確実に誕生させているわけです。いやあ、なんかすごいね。

 と言うわけで、小学校でリコーダーを学ぶ理由には、日本独自の理由があって今日に至っているわけです。では、他所の国では、どんな楽器を小学生が学び、その国の人の誰もが学んだ事のある国民楽器(?)って、何なんでしょうね? 軽くググってみたのですが、なんとも要領えません。

 ちょっぴり興味があります。

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コメント

  1. shirousagi より:

    すとんさん、はじめまして!
    いつも楽しみに読ませていただいています。
    日本の学校でリコーダーが取り入れられている理由、初めて聞きました!
    私はドイツでピアノとフルートを教えているので、多少は学校の音楽の授業の様子も生徒に聞いているのですが こちらは(州によって多少違うと思いますが)学校教育において音楽はあまり重要視されておらず、音楽の授業のない学年のある学校(高校の話ではなくて小・中学校)もあります。 音楽の授業があっても 理論がほとんどで ピアノの生徒さんに「今度テストがあるから教えて欲しい」と 楽譜の読み方などの説明を求められる事もよくあります。
    歌を歌うことも日本に比べれば少なく、リコーダーも町の音楽教室に行って習う楽器の一つです。(私も個人レッスンとして リコーダーを教えていました)
    学校によれば、希望者のみで弦楽器や管楽器の授業を受けられる学校もあるんですけどね。レッスンは1〜2年間くらいですけど。
    というわけで ドイツには 誰もが学んだ楽器は・・ありません。
    実際、音楽をアクティブに(演奏)する人は少ないですよ。

  2. すとん より:

    shirousagiさん、いらっしゃいませ。

     ドイツの情報、ダンケです。

     ヨーロッパって、クラシック音楽発祥の地ですから、皆さん、ガッツリ音楽の勉強をされているかと思いきや、案外そうでもないのですね。ちょっと驚きました。

     ただ、彼らには教会がありますからね…。幼少の頃からガンガン歌ってハモって…ってイメージがありますが、実際はどうなんでしょうね?

  3. shirousagi より:

    教会もコンサートもオペラも 来るのはお年寄りばかりです。 教会はどんどん閉鎖に追い込まれていますしね。 もっと歌を歌えばいいのに・・ですが 子供が聞いているのはアメリカンなポップスばかり。 せめてクリスマスくらいは歌を歌って欲しいなあ、と思っています。ドイツには素敵なクリスマスソングがたくさんあるんですよ。

  4. すとん より:

    shirousagiさん

     日本もドイツも状況は似たようなものなのですね。日本も、寺社仏閣で信仰生活をしているのは、やはりお年寄りばかりだし、クラシック系のコンサートやオペラも、棺桶に片足を突っ込んだような人たちばかりです。信仰とか伝統芸能(まあ、クラシック音楽は“西洋の”伝統芸能ですからね)とかって、若者…と言うか、現役世代の人たちは好まないのでしょうね。人生の終焉を迎え、ご先祖様に自分を重ねるようにならないと難しいのかな?

     クラシック音楽がヨーロッパのモノであっても、そのヨーロッパでは特別にクラシック系の音楽が盛ん…ってわけじゃないって事は、分かりました。

     ベートーヴェンも遠くになりにけり…って感じなんでしょうね。

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