最近見た、アマチュアさんのコンサートの感想をまとめて書きます。
一つ目は、比較的最近立ち上げたばかりの、ご近所の新しい合唱団で、ちょっと元気な女声合唱団の話です。ここは、妻の友人たちがたくさん所属している団体なので、ちょっとした裏話なども知っているのですが、とにかく、歌が好きな人ばかりが集まっている団体なんですよ。
この「歌が好き」って当たり前のような条件に聞こえるかもしれないけれど、実は普通のアマチュア女声合唱団のメンバーって、歌があまり好きではない人もたくさんいたりします。歌が好きというよりも『仲間が欲しくて習い事の一つとして入ってみた…』とか『親友が合唱団にいて、その人とのお付き合いで何となく…』とか『とにかく、外の世界に触れたかった時に団員募集をしていたから…』とか、まあ色々。しかし、この団体は、その設立までに色々とあって、本当に歌が好きな人たちが集まって作った団という事もあって、随所にアマチュア的な良さがあって好感が持てました。
何と言っても良いのは、演奏姿に“やらされ感”がまったく無い事。一糸乱れる(!)その姿が「いいなあ、楽しそう…」って思えるんですよ。右で踊っている人と左で踊っている人のテンションがまったく違っていたり、各パートの音量バランスが結構デコボコだったり、ソロを取った人の音程がわずかに届いていなかったにも関わらず「やったよ~!」オーラが出まくっていた事といい、神妙な曲調なのに、思い切り笑顔で歌っていたり、振りはないけど衣装には凝ってみたり…。もう、そういうのって、私、大好き。演奏は傷だらけかもしれないけれど、歌っているメンバー一人一人がとっても元気だし、エネルギーをたくさん放出している姿がいい。団員の皆さん、がんばって声を出して歌っているのだけれど、みんな側鳴りだったりして『あちゃーもったいない!』とか思うのも、これはこれで愉快愉快。これからまだまだ上達する余地がたっぷりあって、今後もこの団体の成長する姿を見守りたくなります。
やっぱ、アマチュアって、こうじゃなきゃダメだよね。上手い演奏ならプロを聞けばいいんです。アマチュアのコンサートには、元気とか熱意とか情熱とかを聞きに行くんだから、そういうモノが満ち溢れていないと…。コンサートはコンクールじゃないんだしね。
そうそう、この日のプログラムは旗になっていたので、子どもたちとか結構ブンブン振り回していたけれど、そういう遊び心って大切だよね。演奏中に、指揮者が舞台袖に引っ込んで、随分長い時間、団員たちが自由に歌っていたのも、いいなあ。
こんなふうに一見、ハチャメチャにやっているように見えて、練習はしっかり真面目にやっている事は知っているし、団員の皆さんも合唱団の練習だけでは飽き足らず、個人でもヴォイストレーニングを受けていたりするのも知っているわけで、そういう努力が、こういうはじけッ振りにつながっているのがうれしいです。
いやあ、私にとって、たいていの女声合唱団って退屈なのでキライなんですが、ここは好きかも。これからも頑張ってほしいと願います。
もう一つは、このブログにもよくコメントを下さる、グレッチェンさん発表会です。こちらは音楽系の各種学校(なのかな~?)の発表会だったのですが、これがなかなか面白かったです。全体の規模が大きいので、発表会自体を三回のコンサートに分けて行ったようですが、私はグレッチェンさんの出演なさる第二部を見てきました。第二部は、クラシックギターあり、アイリッシュハープあり、ピアノあり、サクソフォーンあり、声楽ありの発表会でした。ちなみに講師演奏はグランドハープでした。
アイリッシュハープの演奏なんて、ナマで聞くの、始めてかも! 音的には、普段聞けるグランドハープより、ちょっと高音成分が多めな感じだけれど、まあほぼ同じと思っていいんじゃないかな? だから、音はハープっぽくって美しいのよ。ハープはCDで聞くより、圧倒的にナマがいいです。音も美しいけれど、空気がいいんだよ。
アイリッシュハープってグランドハープと違って、ペダルがないんです。その代わり、一本一本の弦の糸巻のところにレバーが付いていて、それを切り換える事で、標準の高さ、半音高い音、半音低い音の三種類が出るように出来るみたいです。なので、演奏前に事前にこのレバーを設定しておけば、どんな調性の曲でも簡単に弾ける訳です。問題は、一つの調の曲なら問題ないけれど、曲の中で転調してしまう楽曲の場合は、演奏が難しいって事ですね。実際にその手の曲を演奏している方がいましたが……曲の最中で「よいしょっと」って感じで手を伸ばしてレバーの切り換えをしてました。うわー、面倒くさ。そして大変そう。おそらくアイリッシュハープって、転調のない素朴な曲を演奏するために特化したハープなんじゃないかなって思います。その楽器の特徴を越えた事をやろうとすると、こんなふうに面倒くさくなっちゃうし、途中で転調するなら、ペダルのあるグランドハープで演奏するべきなんだろうなあって思いました。とは言え、そんな面倒くささも、ナマで見ているから分かること。やっぱり音楽はナマが一番だね。
で、肝心のグレッチェンさんの歌ですが、よかったですよ。ランメルモールのルチア(場内アナウンスでは『ラメンモールのルチア』って言ってました)の『狂乱の場』を歌われましたが、実に「良し良し」でした。本人的には、アチコチご不満が残ったようですが、聞いている方は、そんなに気になりませんでしたし、曲調とグレッチェンさんの声もよく合っていたし、何より、歌いたい歌を精一杯頑張って歌えたのですから、アマチュア冥利につきるってもんです。OKでしょう。高いところもキレイに出ていたし、フルートの助奏に助けてもらいながらも、とにかく失速せずに(あんな難しい曲を)歌いきったのですが、お見事ってもんです。立派なものです。とても私には出来ません。
惜しい所があるとすれば、フルバージョンではなく、ショートバージョンで歌った事かな? まあ、時間制限があったそうなので、楽曲のカットも仕方ないのですけれど(フルバージョンだと15分程度の曲ですからね)。それにしても、一介のアマチュア歌手の歌に、ピアノとフルートの二つの楽器が伴奏してくれるとは、本当に贅沢ですね。
衣裳もステキで、白のトップスに黒のスカートでいい感じでしたが、できればルチアは血まみれの花嫁なので、純白のドレスに紅い花でも飾ると、もっとよかったと思います。純白だとウェディングドレスみたい? え、ルチアの『狂乱の場』って、ウェディングドレスで歌う曲じゃないの?
それにしても『狂乱の場』は難曲だと思います。とても素人が手を出していい曲とも思えませんが、そこにあえて挑んだグレッチェンさんの意気込みに拍手です。こんな大曲に挑戦するなんて、アマチュアの特権ですね、むしろプロだと色々なしがらみがあってチャレンジできないかも(笑)。もっとも、ここのお教室の皆さんは、グレッチェンさんに限らず、全員、難曲に挑んでましたね。そのチャレンジ精神には敬服いたします。
今回は、フルートの助奏付きバージョンでしたから、歌が楽しめて、フルートも楽しめて、一度で二度美味しい演奏でした。よかよか。
そうそう、グレッチェンさんは小さくて可愛らしい感じの人でした。ルチアを歌う人って、たいてい小さくて可愛いんだよね。そういう意味では、サザーランドって別格なんだよね~。
こんな風に、立て続けに、アマチュアらしい演奏を聞くチャンスがあって、私は気持ちがホクホクしています。ビバ! アマチュア!
コメント
アマチュアはとにかく自分達の楽しさをお客さんに届けられれば大成功なんですよね。アマチュア最高!
私の所属する団が実は先日第100回記念演奏会で、その時の記念誌に常任指揮者の先生が長々とアマチュア演奏のすばらしさを書いてました。すとんさんのおっしゃっていることそのままでしたよ。アマチュアはお客さんに近くてなんぼですね。傷があっても熱意でカバーはアマチュアの特権ですし強みです。まぁ程度がありますけど…
予断ですが、プログラムが旗ですか!
ちょっとそのアイディアいただきます
音羽響さん
アマチュアは“下手くそなプロ”を目指しちゃいけない、と私は思ってます。プロを目指すなら、きちんとプロとしての修行を積んでプロになればいいわけです。アマチュアの本分はそこじゃないだろうと私は思ってます。
そこを自覚的になれるかどうかが、アマチュアライフが充実するかしないかの別れ道なんじゃないかなって思ってます。
無論、演奏自体は、プロであれアマであれ、常に最高を目指すべきだし、努力もしていかなければいけないけれど、そんな事は枝葉末節の話だって事も分かっていないとね。
話はちょっとズレるけれど、プロにおもねるアマも見苦しいけれど、プロに対抗意識を持ったり、プロを蔑むアマも見苦しいと私は思います。プロとアマは、住んでいる世界が違うって事をアマの側が分かっていると言うか、アマチュアを極めても、その道はプロにはつながっていないって事を、どれだけのアマチュア音楽家が自覚しているのかって、私は尋ねたい気分です。
ルチアの狂乱を発表会でやるというのは本当にすごいです!
確かにあれは長いので短縮バージョンにならざるを得ないかもしれませんね。
あー、私も聴いてみたかったです。
私もこのところアマチュアの発表会めぐりをしておりました。
そのうちの1件は学生が多かったせいかテノールやバリトンの男子も何人かいて楽しかったです。
しかもトリを受け持ったのは、社会人のバリトンで素晴らしい声でした。
まじで上手かったし。。。いるんだなぁこういう人って思いましたよ。
アマチュア発表会、年明けからも幾つか行く予定です。
可能な時は会社を午後から半休してまで見に行く私って?と思いながらも、
海外の劇場の引越し公演と同じぐらいアマチュアの歌の発表会が好きでございます。
BEEさん
>あー、私も聴いてみたかったです。
そうだったのですか? 東京で行われたので、こちらも気がつけばお誘いできましたものを…。次からはちょっと気をつけておきますね。
>アマチュア発表会、年明けからも幾つか行く予定です。
そちらなら、その手の催しがたくさんあるでしょうから、うらやましいです。私もアマチュアの発表会大好きなんですが、こちらではなかなか行われていないので、見に行けないのです。ま、私のアンテナにひっかかる限りは出かけるようにしているのですが…。
>海外の劇場の引越し公演と同じぐらいアマチュアの歌の発表会が好きでございます。
その気持ち、よく分かります。中途半端なプロを聞くくらいなら、よっぽどアマチュアの発表会の方が楽しいですからね。
すとん様には遠いところをわざわざお越しくださって有難うございましたm(_ _)m。いま 私は主にオペラアリアを習っていますが アリアが歌えるようになると 観る楽しみも増えると思います。オペラももっと小さな規模で良いから たとえば 公民館のようなところとかで 舞台装置もわざわざ作るのではなく その場にあるモノを生かして 出来ないかな?って思います。椿姫をするのだったら エントランスでパーティシーン 裏庭で恋人の隠れ家シーン という風に 観客がシーンを追い掛けて場所移動しても良いんじゃないかしら?ってオケは移動出来ないか[E:down] でも もっとささやかで身近に何か出来たら楽しいのにねー って 勝手な事言いだすのも アマチュアの特権[E:sign02]
グレッチェンさん
発表会は私が見に行きたいと思ったから行ったまでの事なので、気にしないでください。遠くて大変だなって思ったら、行きません。それに発表会の前後にムフフな体験もしてきましたので、そちらの事もいずれ(当分先になるかな…)ブログにアップしてみたいなあと思ってます。
ところで、グレッチェンさんは東京に出られる方なんだから、オペラはそれこそ見放題じゃないですか? 東京に行けば、毎月のようにどこかのオペラカンパニーが手頃なお値段でオペラやっているじゃないですか? そういうのを探して、レッスンの前後とかに出かけるとかけるといいですよ。こっちにはそういうお手軽なモノがなくてねえ~。
こちらだと、やはり映画(メトのライブビューイングとか)かDVD鑑賞になってしまいます。それも悪くないのだけれど、やはりナマにはかないませんからね(涙)。
なんかわかるような気がします。
仕事や家庭がある中で、「好きだから」という理由で継続して練習し、
本番では、披露する喜びにあふれる
そんな演奏、というか気持ちに触れられるのはアマチュアの魅力かも知れません。
だから、あんまり練習していないことがわかる演奏とか、楽しくなさそうな演奏とかに出会ってしまうと、非常~に無力感に襲われます。そんなもん披露せんといてよ、こっちが疲労するわ、と・・
椎茸さん
アマチュアにとって、音楽は、どんなに好きでも余技でしかないんです。皆さん、本業や生業は別に持っているわけで、本当は生きるだけで精一杯な人だって、たくさんいる中、なけなしの、時間と経済力を費やして、音楽をやっているのがアマチュアなんですよ。そういう色々なものを背負いながら、それでも「音楽が好き!」っていう気持ちがあるから続けられるわけで、それを表現できなくて、なにがアマチュアだ!とも思ってます。だから…
>あんまり練習していないことがわかる演奏とか、楽しくなさそうな演奏とかに出会ってしまうと、非常~に無力感に襲われます。
Me too, ほんと、そういう演奏にぶつかると、私は怒りを覚える時もありますよ。特にイライラするのが、上手なんだけれど“やらされ感”満載な演奏団体。それに、ふてくされた態度で演奏する人、あと、演奏の途中で演奏を放り出し舞台から逃げだす人。たまりません…。
アマチュアのステージとは少しズレるのかも知れませんが(もともとズレキャラなので) 数年前、北京を旅した時 公園で大勢の人が合唱しているのに行き合わせました[E:notes] 何かのイベントという訳でもないらしく 広い会場には あちこちに合唱団が集まっていて それぞれ歌っているのです。中心には指揮者とアコーディオンを持った伴奏者がいて そのやり方もてんでバラバラ 歌う人は 五線譜ではなく歌詞カードだけ持って 自分の好きな演奏を追い掛けているのか あっちへ行ったり こっちへ来たり 歌っても良いし 聴いてるのも良いし 百人規模のもあれば 二胡で四、五人のもあり 歌がうねって 会場を満たしてキラキラしてましたっけ 上手な人もそうでない人も 歌が好きだって 全身で表してました 日本では見ないけど 民族性の違いでしょうか
グレッチェンさん
なかなかおもしろいお話ですね。一体なんなんでしょうか? 中国の都会では、公園というのは、一種の社交場のような感じだと聞いたことがあります。ですから、その合唱にしても、一種の社交なんでしょうね。それにしても、我々には思い付きもしないような楽しみがあるんですね。
やはり、民族性の違い、文化の違いって奴ですね。でも、それはちょっとうらやましい違いですね。