ようやく、モーツァルトの『フィガロの結婚』からのアリアを紹介し終えた私です。次はどのオペラのアリアかと言えば…やはりモーツァルトなわけです。それくらい、素人の発表会ではモーツァルトって大人気なわけです。難しいのにね…。
おそらくは、平均的な日本人って、モーツァルトが好きなんでしょうね。で、オペラと言えば、モーツァルトのオペラが好きで、その中でも特に『フィガロの結婚』が好きだったりするわけですが、じゃあ『フィガロの結婚』の次に好きなオペラと言うと…『ドン・ジョヴァンニ』なんでしょうね。まあ『コジ・ファン・トゥッテ』を見ていると腹が立つという女子も多いし、『魔笛』なんて分けわかんなくて嫌いと曰う人もたくさんいるし、その他のオペラとなると、さすがにモーツァルト作品と言えども、ほぼ無名作品になってしまうし…。
『ドン・ジョヴァンニ』なんざあ、イケメンなバリトンがタイトルロールをやる事も多いから、人気が出るのも分からないでもないけれどサア(ブツブツブツブツ…)。
と言うわけで、今回はモーツァルトの『ドン・ジョヴァンニ』からツェルリーナのアリア「ぶってよ、マゼット/Batti, batti, o bel Masetto」です。私は『ドン・ジョヴァンニ』と言えば、ドンナ・アンナのアリア「Oh Dei! Quegli è il carnefice Del padre mio/私の誇りを奪い、父をも奪った悪者よ」が大好きなのですが、こちらのアリアを素人の発表会で聞いたことはありません。たぶん…この曲を歌うのは大変なんだと思います、すごくパワフルなアリアだからなあ…
さて「ぶってよ、マゼット」ですが、こんな曲です。
ツェルリーナを歌っているのは、キャスリーン・バトルです。黒人歌手が中世ドイツの村娘役を歌うなんて、演劇的にはありえないのですが、バトルの歌唱の素晴らしさ故に気にしない事にしましょう(笑)。
歌詞と訳詞は、こちらのモノを転載いたします。感謝します。
Batti, batti, o bel Masetto,
ぶって ぶってよ ねえ 大好きなマゼットLa tua povera Zerlina;
あんたの哀れなツェルリーナをStarò qui come agnellina
あたしはこうして 子ヒツジみたいにLe tue botte ad aspettar.
あんたにぶたれるのを待っているわLascerò straziarmi il crine,
かまわないわ 髪をむしられてもLascerò cavarmi gli occhi,
かまわないわ 目をえぐられてもE le care tue manine
それでも 大好きなあんたの手にLieta poi saprò baciar.
あとで喜んでキスできるんだからAh, lo vedo, non hai core!
ああ 分かった そんなつもりないんでしょ!Pace, pace, o vita mia,
なら仲直りよ 仲直りしましょ いとしい人In contento ed allegria
幸せと喜び一杯にNotte e dì vogliam passar,
夜も昼も あたしと過ごしましょSì, notte e dì vogliam passar.
そうよ 夜も昼も あたしと過ごしましょ
お話は、村娘ツェルリーナと農夫マゼットとの結婚式に通りかかったドン・ジョヴァンニがツェルリーナを見初めて、二人とその客を自分の屋敷に招待し、結婚の祝いをしてあげると…という口実で、マゼットを脅して、ツェルリーナと二人きりになって、やっちまおうとしたところに邪魔が入って、ツェルリーナは解放され、マゼットの元に戻るも、マゼットはオカンムリでへそを曲げったままだったので、そんなマゼットのご機嫌を取ろうと、ツェルリーナが歌うのがこのアリアです。
ちなみに、その後、再度チャンスがあって、ドン・ジョヴァンニはツェルリーナをうまく別室に連れ込んで、事を成就させたり未遂で終わらせたり(このあたりは演出で変わります)した後、それがバレて、銃を持ったマゼットに追われる…という展開になるわけですが…。
このツェルリーナのアリアは、よく初学者のソプラノが歌います。おそらくは、声が軽くても良い事と、音域がさほど広くない上に、高い音がないのが、人気なのではないかと思われます。まあ『ドン・ジョヴァンニ』に登場する、他の二人のソプラノ(ドンナ・アンナとドンナ・エルヴィラ)のアリアは、強くて高い声でないと歌えませんので、滅多に素人の発表会では聞くことがありません。
さて、これでようやく、モーツァルトのオペラからのアリアはお終い。ほんと、素人の皆さんはモーツァルトが大好きなんですね。でもモーツァルトって、簡単に見えて、歌ってみると難しい曲が多くて、その上、そんなに聞き映えするわけじゃないのに…皆さん、よく歌うよなあ…と私は思います。
余計なお世話だね、失礼しました。
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コメント
初めまして。
つい最近オペラと全く無関係なことでカウフマンのことを検索していてこちらのブログにたどり着きました。以来毎回楽しみに拝読させていただいています。
日本人はモーツアルトが好きですよね。
彼のオペラでは「フィガロの結婚」と「ドンジョバンニ」が圧倒的に人気があるのですね。知りませんでした。
私個人的には「ドンジョバンニ」よりむしろ「魔笛」の方が好きなので、「魔笛」の人気がいまいちというのにも驚かされました。
これからもこちらのブログでオペラのことを色々と勉強させて頂くのを楽しみにしています。
Midy
すとんさんとか、大人になって歌われるようになった方にはちょっとわかりにくいかもしれませんが、音楽(声楽以外でも)でクラシックを勉強するときって、まず「古典」とか「バロック」と呼ばれるジャンルのものからはじめます。
なのでモーツアルトはある意味、最初のオペラアリアになりやすいんですよ。
そして普通発表会は先生が選んでくださったり、自分で歌いたい曲をピックアップして持って行くのが大人の歌手の選び方なんだと思いますが、学生だと今勉強している曲で何か?って選ぶことも多いんですよ。試験もしっかり定期的にあるので闇雲にレパートリー増やしても、っていう時期もあるんです。
そうするとモーツアルトって試験の課題にもなってたりしますから、舞台にかかる確率高くなると思います。
ええ、シンプルですが難しいですよね、モーツアルト。
でも勉強している人にとっては避けて通れないし、初歩的にオペラを勉強するにはいい教材なんです。楽曲分析とかもしやすいし。
モーツアルトやってからベッリーニとか行く流れがどの声質でも多かったように思いますよ。
すとんさんも魔笛のタミーノとかどうかしら?挑戦してみません?とリート畑のわたくしが言ってみたりしますw
Midyさん
カウフマンか…ありゃあ、すごいテノールだと思います。色々な意味で、規格外と言うか、希少種と言うか、売れるべくして売れた歌手だと思います。あれだけ色々と高レベルで備えている歌手は、なかなかいませんからね。
さて、モーツァルトですが、私は圧倒的に『魔笛』が大好きですが…『魔笛』って通好みらしいですよ。だって、ストーリーめちゃめちゃだもの(笑)。日本の客って、オペラでもミュージカルでも、歌詞とかストーリーとかを大切にし、最後は感動したい…と言うか、ある種のカタルシスを解放したいわけです。そういった点では、ほんと『魔笛』って、わけ分からなすぎで、敬遠される傾向があるし、知らずに見ちゃうと帰りに文句タラタラになるオペラのようです。
みんな、もっとストーリーは脇に置いて、メロディーやサウンドを楽しもうぜ!
と私は声を大にして言いたいのですが、日本人にとっての歌は、音楽ではなく、歌詞でありストーリーであるので、ストーリーを脇に置いて、メロディーやサウンドを楽しむのは…難しいみたいなのです。はあ。
ミルテさん
モノには学ぶ順序がある…というのは理解しています。そうか、まずはモーツァルトからオペラを学ぶわけですね。
で、モノの順序を大切になさる先生だと、たとえ生徒が大人であっても、初学者のうちはモーツァルトで勉強してもらおうとなさるわけ…だな。
ああ、分かった。ウチの門下のお姉さま方って、たいていがモーツァルト嫌いなんだけれど、あれは若い時に散々モーツァルトを歌わされたから、大人になって好き勝手に歌いたい歌を歌えるようになったら、わざわざモーツァルトを歌いたいとは思わない…ってパターンなのかもしれない(納得)。
そう言えば、私も声楽発表会の選曲をY先生に任せたら、モーツァルトを選ばれた事があって、苦労しましたが、あれはそういう事だったのかもしれませんね。(でも、モーツァルトは難しいです)
>すとんさんも魔笛のタミーノとかどうかしら?挑戦してみません?
いやあ、私は『魔笛』をやるなら、モノスタトスがいいなあ…ってか、ぜひモノスタトスを歌ってみたいと願っているわけです。やっぱ、モノスタトスでしょ。これしかないよね。
こんばんは。
ロッシーニはアマオケでセビリアの序曲だけやったくらいですが、序曲だけでもなかなか大変でした。
声楽の「素人の発表会」は聴きにいったことがありません。
大昔、NHKの「のど自慢」で「もう飛ぶまいぞ、この蝶々」Non più andrai farfallone amoroso
を聞いた記憶があります。この曲がここまであがってないのはちょっとビックリです。
先日、宮本亜門演出「フィガロの結婚」を聴いてきました。オペラとしては最後に許しと和解があって、一番好きなオペラかもしれません。
> ミヨーの『罪ある母』
この曲は聴いたことありません。TVのクイズ番組でボーマルシェ3部作の3つめは?、というのがあって、全くわかりませんでした。
TVでは回答している方がいらっしゃって(いないと番組にならない)ビックリです。
こんにちは。
〉みんな、もっとストーリーは脇に置いて、メロディーやサウンドを楽しもうぜ!
大賛成です。
ストーリーや言葉の意味がクリアーではないとオペラを楽しめないのだとしたらやや悲しいですね。全てにおいてきちんきちんとしたいという傾向がある日本人だからでしょうか??
tetsuさん
>「もう飛ぶまいぞ、この蝶々」Non più andrai farfallone amoroso
このアリアも名曲ですよね。コンサートなどに行けば、必ずと言っていいくらいに、よく耳にする名曲です。
でもね、このアリア。プロのバリトンさんが出演するコンサートでは定番であっても、素人さんの発表会では、まず聞けないアリアなんですよ。
と言うのも、素人の発表会って、出演者のほとんどがソプラノさんなのです。だいたい、ソプラノしかいない声楽教室なんて、掃いて捨てるほどあって、むしろ男性がいる声楽教室を探すのが難しいくらいなのです。
おまけに、たまにいる男性も、なぜかテノールばかりで、素人のバリトン歌手って…本当に少ないのです。
そしてごくごく稀にいるバリトンさんも、発表会となると、私などが聞いたことのないようなアリア(おそらく、バリトン界では有名なのでしょう)を歌います。おもに…ヴェルディのバリトンアリアかな? ヴェルディって、バリトンが主役のオペラ作品を何曲も書いてますし、バリトンのための素晴らしいアリアも何曲も作曲していますからね。しかし、そういう作品では、テノールが活躍しなかったり、そもそも参加していなかったりするので、なかなか舞台にかからないし、私も見ないので知らないのです。
なので、「もう飛ぶまいぞ、この蝶々」は名曲ですが、今回の連載では取り上げる予定はありません。そもそも、今回の連載は“素人の発表会でよく耳にするオペラアリア”ですから、どんなに名曲であっても、素人さんの発表会で聞けない曲は、取り上げられないのです。
Midyさん
おそらく日本には“言霊信仰”というのがあって、音楽作品であっても、メロディよりも歌詞が優先されるのだろうと思います。
日本では、オペラはもちろん、洋楽だって、大して流行らないでしょ? どんなに素晴らしいメロディーやサウンドであっても、外国語で歌われちゃうと、外国語であるという部分に、まず拒否反応(何を言っているのか分からないという拒否反応)が出て、それでシャットアウトになってしまうわけです。
で、その“言霊信仰”が分かりやすい形で出ているのが、映画の字幕上映だと思います。外国映画をセリフは外国語のまま、字幕を画面に出して、意味を読みながら映画を楽しむ…って、日本では普通の映画鑑賞スタイルですが、これって海外では珍しい上演スタイルなんだそうです。
たいていの国では、外国映画は自国語に吹き替えて見るのが普通で、字幕上演ってのは、ミュージカル映画などの一部の作品でしか使われないそうです。
たとえ外国語であっても、言葉はそのままでないとダメだと無意識に思っているのが日本人なんだと思います。でも、言葉がそのままでは意味が分からないから、字幕で意味を理解して…って事なんだろうなあって思います。
私、外国映画は吹き替えでないと見ない人(笑)なので、字幕愛好者さんの感覚が今ひとつ分かりかねます。字幕を読むのって面倒じゃないですか? 私が字幕映画を見に行くと、途中で字幕を読むのを諦めますよ(笑)。面倒だし、疲れちゃうし…。で、意味が分かろうがが分からなかろうが、セリフが英語だろうが、ドイツ語だろうが、フランス語やイタリア語であろうが、中国語やヒンドゥー語であっても、最後は雰囲気で楽しんでます。
だから、吹き替え上映の方を好むわけです。やっぱり、ストーリーはきちんと理解できた方が楽しいものね。