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メトのライブビューイングで「メリー・ウィドウ」を見てきました

 「メリー・ウィドウ」を見てきました。もちろん、横浜のブルク13で、です。

 客の入りは…良かったよ。客席の7~8割は埋まるくらい、もう感覚的には満席状態でした。109MMでやっていた時よりも客足が増えているかもしれません。まあ、演目が演目だからかもしれませんし、何と言っても、109MMよりもブルク13の方が、地の利に恵まれているしね。とにかく、かなり一杯一杯で、なんかうれしい気分でした。

 でも、私の両側ともにお客さんが入って、ちょっぴり狭くて窮屈でした(涙)。

 前回指摘した“大きすぎる音声”ですが、今回も最初は「音が大きいなあ」と感じたものの、やがて慣れてしまいました。で、上映中も音の飽和を感じませんでしたので、まあ満足です。ワーグナーとレハールでは、オケの厚さも合唱の規模も桁違いですから、比較にはなりません。劇場側が何らかの対策をしたかもしれませんし、全く手を打たなかったのかもしれませんが、少なくとも、今回は音的には悪くなかったです。

 音的には悪くありませんでしたが、お客さんの中に、困ったちゃんが一人いました。この方を、仮にMさんとします。Mさんは一人で観に来たお客さんで、一番前の中央の席に座っていました。あの席って、映画館を独り占めしたような気分になれる席なんですよ(ちょっと画面が近すぎるキライはありますが…)。で、実際に独り占めした気分になったかどうかはともかくとして、上演を見ながら、奇声を上げるんです。「ウー!」とか「ホォー!」とか「ヤー!」とかね。それもかなり大きな声なんです。最初は、画面から聞こえるのか思うほどに大きな声だったんです。ただ、画面の声とは音質がかなり違っていて(はっきり言って、細くて薄くて尖った声なんです)違和感があったのです。それが1回や2回ならともかく、2~3分置きに常時やられると、さすがにそれが誰から発せられた音なのか分かるというものです。とにかく、やかましくて、うるさいんです。

 それでも、曲に興奮してとか、ストーリー展開に大ウケした反応で声を上げるなら分かるのです。とにかく、何に反応して奇声をあげるのか、全く分からないんです。どうも、彼と私では感動するツボが全く違うみたいなのです。おまけに、奇声を上げるだけでなく、画面に向かって、腕を振り上げたりしてます。さらに(観劇中なのに)注意してみると、彼、座席ではなく、床に直に座っているみたいなんです。とにかく、ちょっと危ない雰囲気を醸し出している方なんです。だから、前半(1幕)は、肝心の舞台ではなく、この怪しい人に気を取られてしまいました。ううむ、残念無念。

 あんまり、その態度がヒドいので、直接注意してやろうかと思いましたが、私がそれをすると、トラブルになるかもしれない(私って、実はかなり血の気の多い人間なんです)ので、自重して、劇場側にチクりました。たぶん、劇場にチクった人は私だけではなかったと思いますよ。と言うのも、私はトイレを済ませてから係員さんにチクったのですが、「劇場11なんですけれど…」と前振りをしただけで、係員のお姉さん、うんざりした顔で対応してくださいましたもの。ああ、ありがたい。

 後半(2幕&3幕)が始まった途端に、Mさんは奇声を上げるんですが、そこに若いお兄さんのスタッフの方がつかつかと近寄って(おそらく本当に奇声を上げるのか確認していたのでしょうね)Mさんに何やら告げると…Mさん、それ以降は、本当に静かにおとなしく映画を見ていました。あれ? あの人、他人の注意を聞ける人なの? きちんと自制心を持っていた人なの? 注意されて収まるのなら、最初から騒がなければいいのに。私はてっきり自分を抑えられないタイプの人だと思っていましたが、そうでなく、単純にマナーの悪い小心者の客だったようです。

 なら、第1幕の感動を返せよ。

 と言うわけで、上演の前半分を台無しにされました。ほんと、もったいないです。

 なぜなら、このメトの「メリー・ウィドウ」、本当に良い上演だったからです。今まで何度も見てきたメトのライブ・ビューイングですが、おそらく今回の上演が、その中でも、かなり良い出来だと思います。少なくとも、私にとってはナンバーワン上演です。それくらいに良かったんです。それなのに、Mさんに邪魔されて、もうプンプンですよ。

 今回の上演は、もちろんレハール作曲の「メリー・ウィドウ」だったわけですが、この作品は、実はオペラではなく、オペレッタなんですね。オペレッタと言うのは、オペラがミュージカルに変化するその過程に存在した音楽劇の事です。つまり、オペラとミュージカルの中間的な存在…と言うか、オペラの様式を守ったままミュージカルをやっていると言うか、エンタメ性の強いオペラというべきか。とにかく、オペラの殿堂であるメトが、本気でオペレッタをやってみました…というのが、今回の上演なんですね。

 主役のメリー・ウィドウことハンナをやったのは、メトのディーヴァ(つまりオペラ歌手の)ルネ・フレミングですが、主役に負けず劣らずに大切なヴァランシエンヌ(歌の量は、主役のハンナとほぼ同じくらいあります)を演じたのは、ブロードウェイのトップ女優であるケリー・オハラ(つまりミュージカル女優)でした。

 コーラスも、大使館やハンナの別荘が舞台である第1幕と第2幕は、上流階級の方々が集まるシーンなので、コーラス隊も、いかにもオペラ歌手という方々がやっていましたが、第3幕で舞台がマキシム(キャバレーです)に変わった途端、いかにもミュージカル女優といった方々が登場して、コーラスをやっていました。このマキシムのコーラス隊がすごくよかったんですよ。何が良かったのか? まず体型(笑)。すごく健康的でセクシーな体型なんです。おまけにダンスが半端無く上手。まるでバレリーナのように踊ります。そして、歌がメッチャクッチャに上手い! それも超絶的なダンスを踊りながらガンガン歌うんです。もう、オペラでは考えられない演出です。

 演出と言えば、今回の上演の演出をしたのは、スーザン・ストローマンという、これまたブロードウェイの演出家さん。なので、オペラの演出をするのは初めてなんだそうですが…演出方法は、とにかく踊って踊って踊って歌う、と言った感じの演出で、これまた通常のオペラとは、かなり毛色の違った演出でした。特に第3幕のカンカンはすごかったです。とにかく動きが激しいんです。バンティ見せまくりの下品さは、マキシムという場のいかがわしさをうまく表現していて、さすがミュージカルの人だなって思いました。ミュージカルって、下品で猥雑なものでも平気で分かりやすく表現しちゃうでしょ? 普通のオペラは、そのあたりをオブラートにつつんでお上品にやっちゃうけれどね。

 そして、ヴァランシエンヌを演じるケリー・オハラも、これらの女優さんたちに混じって、ガンガン歌って踊るんです。すごいなあ。

 ちなみに、ヴァランシエンヌ以外の役は、オペラ歌手の皆さんがやっていました(メトだから当然か)。

 オペレッタ、とりわけ、レチタティーヴォがなくて、曲と曲のあいだはセリフでつないでいくタイプのオペレッタの場合、あらすじは決まっていても、細かい部分の設定やセリフは演出家に任されているのが普通です。つまり、メリー・ウィドウのようなタイプのオペレッタは演出家が変わる度に台本も変わるのが普通なんです。で、今回のメトのメリー・ウィドウのセリフ部分なんですが、実にコミカルで楽しいですよ。もちろん、説明的で分かりやすいセリフが続きます。このセリフ部分の芝居もまた、お薦めです。

 そうそう、今回の上演では、主役のフレミングが「メトの音響スタッフに助けられた」と言ってました。通常のオペラでは(収録は別として、会場への拡声のための)マイクは使用しないのが普通ですが、今回のオペレッタでは、見えない部分で控えめにマイクを使用している可能性がありますね。と言うのも(オペラ歌手たちの)セリフの部分が、いかにも演劇的な口調ではなく、自然な感じのセリフ回しなんですね。また(ミュージカル女優さんたちの)歌の部分の発声が、いかにもなオペラ発声ではなく、自然な感じのミュージカル発声なんですね。で、おまけにメトという劇場は、半端無くデカイんです。それらを考えると、今回は収録のためだけでなく、拡声のためにマイクを使用したのかもしれません(これらは私の憶測です)。ま、それはそれでいいんじゃないの?って思います。だって「メリー・ウィドウ」はオペラじゃないし、スタッフにも出演者にもミュージカルの人(日頃マイクの使用が前提の人)がいるんだから、それで良い結果が出るならOKOKでしょ?

 とにかく、メトの「メリー・ウィドウ」は、お薦めです。今回見逃した方も、ぜひアンコール上映でご覧ください。ほんと、すごいよ。

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コメント

  1. dezire より:

    こんにちは。
    私もMETライブブューイングで『メリーウィドウ』をみてきましたので、興味深く読ませていただきました。
    『メリーウィドウ』は、バラエティに富んだ美しいメロディーの曲がたくさん盛り込まれて、変化に富んだ曲を楽しむことができます。メロディーメーカーの才能に恵まれたレハールの実力が遺憾なく発揮されていると感じました。

    私も『メリーウィドウ』を鑑賞した感想を率直な感想を書いてみました。読んでいただけると嬉しいです。ご意見やご感想など何でも結構ですのでコメントいただけると感謝致します。

  2. すとん より:

    dezireさん、いらっしゃいませ。

     オペレッタは通俗的かもしれませんが、モーツァルトやプッチーニやワーグナーも相当に通俗的な作曲家だと私は思ってます。おそらぐ、オペラを始めとする“歌劇”という劇場作品には、通奏低音のように通俗性というモノが流れていると思います。

     結局、俗っぽくない音楽ってのは、教会音楽ぐらいしかないと思いますよ。作曲家だって、神様に捧げる曲を書く時は、気持ちも改まるでしょうし。

     芸術性って何でしょうね? 私の頭では、なかなか考えても、結論らしきものは出ません。おそらく、私自身が芸術ってやつから、遠く離れた人間だからかもしれません。

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