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「カルメン3D」を見てきた

 本当は、この日、メトのライブビューイングで「ランメルモールのルチア」を見に行くつもりでいたのですが、休日出勤になってしまったので、やむをえず諦め、その憂さ晴らし(笑)で「カルメン3D」(日本語のサイトはこちら)を見てきました。

 「カルメン3D」は、ただ今、ワーナーマイケル系の映画館で絶賛上映中(ただし、一部の劇場を除いて、今週の金曜日[2011年4月15日]で終わっちゃう予定)のオペラ映画です。オペラ映画と言っても、いわゆる映画化されたオペラではなく、イギリスのロイヤル・オペラ劇場(以前は「コヴェント・ガーデン」と呼んでいたような…)で上演されたものを、3Dで撮影したものを上映したわけです。だから、オペラ映画だけど、舞台中継っぽいノリの映画です。

 舞台中継っぽいノリのオペラ映画、と言うと、まさに、メトロポリタン歌劇場のライブビューイングがそれですが、今回の「カルメン3D」とメトのライブビューイングは、似て非なるものでして、かなり性格が違う感じでした。

 メトの方は「映画館で歌劇場の雰囲気を味わう」みたいな感じで、時間は指揮者がピットインする少し前から、リアルタイムで進行するし、幕間はスタッフや出演者のインタビューなど盛りだくさんのサービス満点ですが、「カルメン3D」の方は、あくまで“映像ソフト”として製作されているみたいで、冗漫な部分はあまりなく、サクサクと劇が進みます。インタビューなどの特典映像も全くなく、だいたい、幕間すらありません。ただし、さすがに映画としては長編になるので、間で20分のトイレ休憩が入ります(笑)。それも画面に時計が表示されて、残り時間が分かるようになっている、そんなシンプルな休憩です。

 ロイヤル・オペラ劇場は、イギリスの代表的な歌劇場ですが…画面で見た印象だと、かなり小規模な歌劇場みたいですね。

 出演者は、カルメンがクリスティーン・ライス、ドン・ホセがブライアン・ハイメル。ミカエラがマイヤ・コバレヴスカで、エスカミーリョがアリス・アルギリス。指揮者がジュリアン・ネイビアでロイヤル・オペラ歌劇場管弦楽団に合唱団とバレエ団です。

 歌や演技は、人によっては多少の好き嫌いはあるだろうけれど、映像化されるだけあって、水準以上のものだと思うし、少なくとも文句がつくほど不出来ではないと思います。私は素直に楽しめましたよ。演出は、奇を衒わずに、割とオーソドックスなものだと思うけれど、やはりヨーロッパの歌劇場らしく、全般的に大道具小道具に、経費節減っぽい雰囲気があります。

 演出面で、特筆すべきはドン・ホセの人物解釈かな? ドン・ホセは、多くの劇場では「軟弱な男」「マザコン」「なんだか煮え切らない男」みたいな印象の人物として演出されることが多いのですが、この演出では「マザコン」は変わらないようですが「軟弱」とか「煮え切らない」という印象は全くなく、「頑固で嫉妬深い男」として演出されています。

 また、オペラ全体がドン・ホセの回顧という形で進行していますので、劇としては、カルメンではなく、ドン・ホセが主役のようになっています。

 とにかく、ドン・ホセが救いようのないほどの嫉妬深い男で、この男の嫉妬にカルメンを始め、周囲の人々が振り回されていくのです。

 なるほど~、こういう解釈もあったんですね~。確かに、ドン・ホセを「軟弱なマザコン男」と表現するよりも「真面目で堅物で、それゆえに嫉妬深い男」と表現する方が、今の人間には共感しやすいかもしれませんね。

 この演出はグッドだと思いました。

 その他の人物は…カルメンは相変わらず、下品でハスッパでした(笑)。品がないカルメンでしたが、こういうの下品なカルメンは、最近の流れですね。ですから、演出的には、これはこれでいいんでしょう。個人的に、昔の演出によくあった「妖艶でセクシーでオトコを魅了する女」つまり「下品ではなく、ホルモン過剰タイプ」のカルメンが好きです。そうそう、ライスの歌唱は、ところどころ間延びを感じさせるような箇所があり、スタイル的には、今っぽくなかったです。

 エスカミーリュやミカエラは…しっかり脇役でした。

 ちなみに、歌劇「カルメン」には色々なバージョンがあるのですが、この映画では、レチタティーヴォのないバージョンを採用していました。なので、基本的に劇は、セリフ劇として進行し、合間合間にアリアやアンサンブルが入るという形です。

 また『第一幕への前奏曲』以外の前奏曲はすべてカット(その代わり、映画のエンドロールのところで流れます)されているので、見ている人は幕の切れ目を意識せずに見れます。しかし、オペラを見慣れている人間から言わせてもらうと、違和感バリバリです。だって、第一幕に相当する部分が終わって、一息つけるかな…って思っているのに、間髪いれずに、第二幕の酒場のダンスシーンが始まっちゃうんだよ。第一幕の余韻を楽しみたいじゃない。『第二幕への前奏曲』を聞いてワクワクしたいじゃない。何と言っても、気分を仕切り直したいじゃない。でも、そういうのは、一切無しです。なんか、違和感を感じました。

 また、レチタティーヴォがないために(セリフはしゃべるけれど)歌わない役の人もたくさん出てきました。これらの人が出てくることで、劇の部分がだいぶ分かりやすくなっていると思います。ま、これはこれでアリです。

 しかし、カーテンコールなどは、ミュージカルのそれっぽく編集されていて、ちょっと物足りない気がしました。

 で、オペラを3D映画にして上演することですが、私はアリだと思いました。いや、これからは、メトのライブビューイングも3Dでやって欲しいなあと思ったくらいです。

 3Dはいいですね。舞台の奥行きがしっかり感じられます。ダンスシーンや曲芸シーンは迫力満点です。合唱などの群衆シーンは、合唱メンバーたちの細かい芝居がよく見えます。大勢の人間がたくさん写るシーンの3Dは、2Dよりもずっとずっと分かりやすいですよ。

 これは例えて言うと、音声における、モノラルとステレオの違いのようなものかもしれません。音声がモノラルであろうが、ステレオであろうが、音楽の本質的なものを表現すると言った意味では、両者は全く同じだけれど、モノラルだと混濁してよく分からなかった部分が、ステレオではきちんと分離されていて、それぞれの楽器や歌手の音や声を楽しめるってことが多いじゃないですか。映像も似たような感じで、2Dでも3Dでも、表現される映像の本質的に部分には何ら変わりないけれど、2Dだと背景になって埋もれてしまったようなものも、3Dだと本当の背景とは分離されて、それぞれを味わう事が可能だと思います。

 こりゃあ、近い将来、映像はすべからく3Dになってしまうかもしれませんね。もっとも、そのためには、もう一度、何らかのブレイクスルーが必要かもしれません(例えば、裸眼3Dとか、フォログラムとか、まあそんなもの)。

 ちなみに、よくネットなどで「3Dはメガネが重くて不快」という記述をよく見ますが、「カルメン3D」を上映しているワーナー系の映画館は、Real3Dという方式で3D上映をしていますので、メガネは普通のメガネ程度の重さです。だから、3時間以上の上映時間なのですが、メガネが苦になることはないので、メガネの重さで3Dを敬遠している方でも、安心してご覧いただけますよ。

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