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すとんが薦める、脱初心者向けのオペラ その4 ニーベルングの指輪

 今回オススメする『ニーベルングの指輪』と、これを制覇したら、本当に“脱初心者”間違いなしという作品です。と言うのも、このオペラ、全部を聞くだけでも、容易なことではないからです。

 まず『ニーベルングの指輪』って、1日では見きれません。作者であるワーグナーは4夜かけて見ることを前提として作品を書きました。なにしろ(休憩なしで)演奏にかかる時間が約15時間。実際の上演の際は休憩時間が必要ですから、そうなると約19時30分かかる…ってぐらいの超大作となります。

 実際は、以下の様な感じになります。

序夜  『ラインの黄金』 上演時間:2時間40分(休憩なしなので2時間40分)
第1日 『ワルキューレ』 上演時間:3時間50分(休憩入れると約5時間10分)
第2日 『ジークフリート』 上演時間:4時間(休憩入れると約5時間20分)
第3日 『神々の黄昏』 上演時間:4時間30分(休憩入れると約6時間30分)

 私、メトの旧演出版のDVDを持っていますが、それだと全部で7枚です。たった一つの作品なのに、DVD7枚だよ。もう、すごいでしょ?

 ストーリーは…とても複雑で長いですので、ごくごく簡略して書きます。

 世界を支配する力を持つと言われる、ラインの黄金は、ライン川の水底でラインの乙女たちに守られていたが、それを小人族のアルベリヒが騙して盗み出し指輪に加工する。一方、神々の長であるヴォータンは、その居城であるヴァルハラ城を巨人族に作らせるが、その支払に困っていた。火の神ローゲの提案で、小人族のアルベリヒから黄金の指輪を取り上げて、それで支払うことにし、力づくでアルベリヒから黄金の指輪を取り上げる。アルベリヒは指輪を取られる際に、指輪に死の呪いをかける。指輪を受け取った巨人族の兄弟は互いに殺しあう。神々は自分たちの居城に入城する。(以上、ラインの黄金)

 ある嵐の日、フンディング(夫)とジークリンデ(妻)の夫婦の家に、怪我をしたジークムントがやってくる。フンディングは怪我人であるジークムントを手厚く介抱するが、彼が自分の一族の敵である事に気づく。フンディングは「今晩は客人として扱うが、明日は決闘だ」とジークムントに言い放つ。一方、なぜか心が惹かれ合う、ジークリンデとジークムント。生い立ちを話しあううちに兄妹である事が判明。フンディングに眠り薬を飲ませ寝ているうちに、駆け落ちをする事にしたジークムントとジークリンデ。出かけに、フンディングの家の側のトネリコの木に刺されたまま誰も引き抜けなかった名剣ノートゥングを引き抜くジークムント。実はこの剣は、神々の長ヴォータンが、その息子であるジークムントのために用意しておいた剣だったのだ。(つまり、ジークムントとジークリンデの兄妹、神々の長ヴォータンと人間の女の間に生まれた兄妹ってことね) 逃げる二人、やがて睡眠薬から目覚めて、二人を追いかけるフンディング(そりゃあ、そうだ。一族の敵がある上に、自分の女房を連れて逃げているわけだからね)。

 一方、神々の世界では、ヴォータンが死せる英雄の魂を集めていた。その手先として、彼は自分の9人の娘たち(ワルキューレ)をその使者として使っていた。フンディングとジークムントの戦いを知ったヴォータンは、ワルキューレの長であるブリュンヒルデに、フンディングを勝たせ、ジークムントを殺させて、彼の魂を持ってくるように命令した。

 さっそく外界に下りたブリュンヒルデ。ジークムントにその死を伝えるが、彼は「ならば、今ここでジークリンデと共に死にます」と宣言。その愛の深さに打たれたブリュンヒルデは、彼らの味方に成ることを誓います。

 そのまた一方、神々の世界では、夫を捨てて他の男に走ったジークリンデの不貞が結婚の神(にして、ヴォータンの妻である)フリッカには許せない。なぜならフリッカは結婚の神であり、結婚の秩序を何よりも大切にするからである。それなのに、ジークリンデはジークフリートと近親相姦まで犯して、その体内に子どもを宿しているのである。フリッカの怒りは収まらず、必ずフンディングを勝たせないといけないとヴォータンに確認する。心配になったヴォータンも外界に降りる。

 今真にフンディングとジークムントの決闘が行われようとしていた。そこでブリュンヒルデの裏切りに気づいたヴォータンは、ジークムントに一鐵を加え、ノートゥングを折り、ジークムントを殺してしまう。ヴォータンがやってきた事に気づいたブリュンヒルデは、あわててジークリンデを連れて逃げ出してしまう。

 うまくジークリンデを森に逃したところで、ブリュンヒルデはヴォータンに発見される。愛する娘であるブリュンヒルデに罰を与えるヴォータン。その罰とは、彼女から神性を奪い、無力のまま岩山に寝かせて放置するというものであった。そして、最初に彼女を発見した男が彼女にキスをしたら、ブリュンヒルデはその男のモノとなるという罰であった。

 悲しむブリュンヒルデは、せめて眠る自分の周りを業火で囲み、真の勇者でなければ炎を越えられないようにしてほしいと願い、その願いは受け入れられる。(以上、ワルキューレ)。

 森に逃げ込んだジークリンデは行き倒れたところを、小人族のミーメに助けられる。ジークリンデは難産の末、一人の男の子を産むが、出産直後に死んでしまう。その子はジークフリートと名付けられ、ミーメの元で育てられる。

 ミーメは優しい養父であったが、ジークフリートは馬鹿で乱暴者で、ちっともミーメに恩を感じていなかった。それどころか、何かにつけミーメを愚弄し、彼の仕事である鍛冶仕事を手伝うこともなかった。ある日、自分の姿がちっともミーメに似ていない事を不審に思い、ミーメを問いただして、実の母と形見の剣の話を聞き出す。形見の剣とは、折れてしまったノートゥングの事だ。ジークフリートはミーメに、この剣を直すように命令するが、ミーメには直せなかった。業を煮やしたジークフリートは自分でノートゥングを打ち直して修理してしまう。

 ジークフリートの扱いに手を焼いたミーメは、森の奥にいる大蛇(なぜかドイツ・オペラでは、すぐに大蛇が出てきます:笑)を退治するのが良いだろうと彼をけしかける。

 ノートゥングで、あっという間に大蛇を退治してしまうジークフリート。実はその大蛇は、指輪を奪い合った巨人族の片割れが変身した姿であって、その洞窟にはラインの黄金から作った指輪を始め、巨人族の金銀財宝と魔法のアイテムが隠してあったのだ。黄金の指輪を手にするジークフリート。そこにやってきたアルベリヒは、洞窟の中に黄金の指輪がある事をミーメに伝える。ミーメはジークフリートから黄金の指輪を取り上げようとするが、ジークフリートに殺されてしまう。

 洞窟から出たジークフリートは燃え盛る岩山に行く。途中で地上に降りていた祖父ヴォータンと出会い、話をかわすが、ジークフリートのタメ口に腹をたてたヴォータンは、怒りの一撃をジークフリートに喰らわせるものの、あっという間に反撃されてしまう。

 ヴォータンを破ったジークフリートは、業火をものともせずに、岩山を登り、炎の中で眠るブリュンヒルデを見つけ、そのクチビルにキスをして彼女を自分の妻にするのであった。(以上、ジークフリート)

 夫婦となったジークフリートとブリュンヒルデは、互いに大切にしているものを交換する。ジークフリートは黄金の指輪をブリュンヒルデに預け、ブリュンヒルデは神馬であるグラーネを彼に預ける。グラーネに乗ったジークフリートは、新たな冒険の旅に出るのであった。

 アルベリヒと人間の女の間に生まれたハーゲンは、異父兄妹であるグンターとグートルーネ(ともに人間、ただし王族)と暮らしていた。黄金の指輪の持ち主がジークフリートであると知ったハーゲンは、なんとかして指輪を手に入れたいものだと思い、策略を練る。

 まず、旅先のジークフリートを彼らの家に招き入れ、食事に招待する。そこで忘れ薬をジークフリートに飲ませ、過去の事を忘れさせて、グンターと親交を結ばせ、グートルーネと結婚させてしまおうと考えた。計画は見事に成功し、ジークフルートは過去を忘れ、グンターの親友となり、グートルーネの婚約者となった。グンダーが岩山に眠る美女(つまり、ブリュンヒルデ)に興味を持っている事を知ったジークフリートは、彼のために、彼に変装して、岩山に上り、ブリュンヒルデから指輪を奪った上で、彼女を拉致してグンターの屋敷に連れて来た。

 屋敷に拉致されて、改めて周りを見回して、ブリュンヒルデは気づいた。自分の夫であるジークフリートは、グートルーネと結婚をしようとしている事、グンターに奪われたと思っていた指輪は、変装したジークフリートに奪われた事。つまり、ジークフリートに捨てられて裏切られたと知ったブリュンヒルデは、頭に血が上り、ジークフリートに復讐を誓う。

 そこにハーゲンが近づき、言葉たくみにジークフリートの弱点を聞き出す。ジークフリートは、ブリュンヒルデによって不死身の魔法をかけられていたが、敵に背中を見せない男であると思われていたので、ブリュンヒルデはわざと彼の背中には魔法をかけなかったのである。それゆえ、ジークフリートは背中への攻撃には無力であると。

 それを知ったハーゲンは、ジークフリートの背中にやりを突き刺して、彼を殺してしまう。しかし、彼の指から指輪を抜き取ることはできなかった。

 ブリュンヒルデは、ジークフリートの葬式(火葬)の準備をする。燃える火の中に、愛馬グラーネと共に飛び込むブリュンヒルデ。黄金の指輪は、炎の中からライン川へと落ち、ラインの乙女たちの手元に戻ったのであった。(以上、神々の黄昏)

 はあ、疲れた。以上、ものすごーく、ストーリーを端折って書いてみました。本当は、これ以外の伏線がたくさんあるんだけれど、そこまで書いたら、どれだけの分量になるかわからないので、これで勘弁してください。

 ちなみに、映画『アベンジャーズ』に出てくる、マイティー・ソーは、『ラインの黄金』に出てくる雷神のドンナーがモデルです…ってか、あのマイティー・ソーの世界は『ラインの黄金』に出てくるヴァルハラ城の世界がモデルになってます。

 さて、このオペラの代表曲と言えば…泣く子も黙る『ワルキューレの騎行』でしょうね。

 この曲、演奏曲だと思っていた人、多いんじゃないでしょうか? 実はこの曲、重唱曲だったんですよ。ただし、主役級の女性歌手を8人も集めないと歌えない曲なので、それだけの歌手を集めるのが大変なので、普通の上演では、ヴォーカル部分を演奏しないで、オケのカラオケ部分だけを演奏して済ませてしまうんですよ。それで、演奏曲だと勘違いされますが、実はこの時、こんなメロディーの曲だったんですね。

 これだけ長いオペラなんだから、他にも有名なアリアはないの? と思われた方。実はそこも、このオペラの“脱初心者”な点なのですが、このオペラには、一曲たりとも“アリア”と呼べる曲はないのです。「え?」と思われた方、いらっしゃるでしょう。でも、本当なんですよ。このオペラにはアリアは無いのです。全編、派手なオーケストラと、難易度の高いメロディアスなレチタティーヴォと重唱だけで成り立っているのです。

 例えば、こんな感じです。これは『神々の黄昏』の冒頭部です。

 まあ、全編を通して、こんな感じで重厚な音楽が流れていきます。この曲を最初から最後まで聞き終えた人は、間違いなく、オペラの脱初心者です。

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コメント

  1. アデーレ より:

    長いんですね~。ひゃあ~私には無理だな~。
    ワーグナーでしたか?【まだオペラ初心者だな(笑)】ワーグナーだとしたら、一つも見たことないです!モーッアルトかベルカントもの、ばかりみてました~。それにしても、すとんさんのオペラ解説、素晴らしいですね!!

  2. すとん より:

    アデーレさん

     そう、ワーグナーは長いんです。おまけに重厚なんです。なので、見ると、結構、満腹します。

     ニーベルングはワーグナーの作品の中でも群を抜いて長いですが、素晴らしい作品ですよ。こんなに長いのに、中だるみが一切ないんです。どこを切っても、全部が素晴らしいんです。もう、ほんと、人類の音楽文化遺産と言っても過言じゃないと思いますよ。

     ただ、それ故に、初めて見るには、かなり厳しいかもしれません。満腹どころか、消化しきれずにリバース…なんて事になりかねません。食べ物で言えば…わんこそば状態で饗される宮廷料理のような感じでしょうね。

     悪いことは言いません。ワーグナーだけは、オペラに慣れてから手を付けた方が良いですよ。

    >すとんさんのオペラ解説、素晴らしいですね!!

     ありがとうございます。ま、好きなんです、それだけです(笑)。

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