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すとんが薦める、脱初心者向けのオペラ その3 魔笛

 は~い、すとんです(笑)。今回、私が薦める“脱初心者”向けのオペラは、前回に引き続き、モーツァルトのオペラです。その名も、マジック・フルート『魔笛』です。主役のタミーノは、魔法のフルートの力で魔物をやっつけて、愛と正義を我が手にする物語なんです。

 馬鹿でしょ? そうなんです、このオペラって、すごく頭の悪い、お馬鹿なオペラなんです。

 開幕早々、登場するのは、大蛇の姿をした魔物に追われる主人公のタミーノ。初演の設定では、このタミーノは狩衣姿でチョンマゲ姿だったそうです…って、日本人かい! とにかく、このタミーノは弱っちいので、魔物に襲われて、あっという間に気絶してしまいます(ダメな主人公…)。あわや、魔物に殺されるそうになるタミーノ。そこに割って入ったのは…正義の味方ならぬ、三人の侍女たち。この侍女たちは、魔法使いなんですね。ですから、不思議な魔法を使って、あっという間に魔物を退治してしまいます。

 魔物を退治して、倒れている人を見たら「あら、素敵なイケメンじゃないの?」って事になって色めく三人。事の顛末を自分たちのボスである“夜の女王”に報告しないといけないのだけれど、誰が行くか(って、誰が残ってイケメンの介抱をするか)でモメて、結局、気絶しているタミーノを残して、三人で報告に行くことになります。

 放置されるタミーノ。そこに鳥刺しのパパゲーノ(はっきり言って、こいつも魔物の一種。立ち位置的には、ロケット団のニャースのような存在)がやってきて、タミーノを眺めている時に、タミーノは目を覚まします。そばに鳥の魔物(バードマン?)であるパパゲーノがいて、自分を襲ってきた蛇の魔物が倒れている…となれば、この鳥の魔物が自分を助けてくれたものと誤解するわけだし、誤解されたパパゲーノも、あえてその誤解を解かずに、偉そうに自分の手柄にしちゃいます。

 そこに、さっきの三人が戻ってきて「あなたを助けたのは、私たちなのよ」となり、パパゲーノは嘘をついた罰として、くちばしに鍵をかけられてしまいます。

 侍女たちは、タミーノに一枚の絵を見せます。そこには若くて美しい女性が描かれています。その名はパミーナ。パミーナは彼女ら三人の侍女たちのボスである夜の女王の一人娘なのです。そのパミーナは今、悪者のザラストロに囚われているので、彼女を悪者の手から救い出してくださいと、侍女たちはタミーノにお願いします。「それなら私が救い出しましょう」と(弱っちいのに)いい気になって安請け合いをするタミーノ。ついでにパパゲーノにも、パミーナを助けにいくなら、くちばしの鍵を外してあげると(半ば)脅迫して、タミーノに同行させます。

 そこに雷鳴と共に夜の女王が登場し「どうか我が娘を悪の手先から助けて下さい」と懇願し、魔法のアイテムとして、タミーノには魔法のフルートを、パパゲーノには魔法の鈴を渡します。タミーノとパパゲーノは、三人の天使たちに導かれて、ザラストロが住む悪魔の城へと向かいます。

 空を飛んで、一足早く城への潜入に成功したパパゲーノは、さっそく囚われのパミーナを発見します。彼女は、奴隷頭のモノスタトスに囚われて、言い寄られていました。黒人であるモノスタトスの黒い肌が気に入らないパミーナ(なんとも差別的ですな)は、彼を拒否しまくります。でも諦めないモノスタトス。そこに鳥の魔物であるパパゲーナが突入したもんだから、ビックリするモノスタトス。てんやわんやの大騒動があったのだけれど、魔法の鈴の力で、無事パミーナ奪還に成功するパパゲーノ。「まもなく、あなたを助けにタミーノさんがやってきますよ」と彼女に告げるパパゲーノ。

 一方、テクテクと歩いて悪魔の城に辿り着いたタミーノ。城の内に入るため、城の門番たちと話しているうちに気づきます。「ここって悪魔の城じゃなくて、徳の高い立派な方が治めている城なんじゃないの?」 そうなんです、実はザラストロは悪者ではなく、立派な人格者だったのです。そして、救い出すはずのパミーナは、ザラストロの娘であって、彼女は父親の元で幸せに暮らしていたのですが、たまたま今、ザラストロは城を留守にしていて、その留守を狙って、奴隷長であるモノスタトスがパミーナを口説いていただけだったのです。

 その時、ザラストロが帰城します。そこにパミーナとパパゲーノ、パミーナを追ってきたモノスタトス、タミーノがやってきます。モノスタトスはザラストロによって罰せられます。タミーノとパミーナは一目見るや一目惚れ。恋に落ちます。その様子を見たザラストロは「今のままでは娘はやれない。三つの試練に打ち勝てば、娘をお前にやろう」という事になり、パパゲーノと一緒に三つの試練に臨む事になったタミーノ。

 最初の試練は沈黙です。元々がおしゃべりであるパパゲーノには沈黙は無理。何かとタミーノに話しかけては、注意されるパパゲーノ。やがて諦めて、タミーノの沈黙の試練にに付き合います。

 そんな試練と戦う二人の元に老婆が現れてます。さっそく老婆をからかうパパゲーノ。老婆の方はパパゲーノにからかわれながらも、まんざらでもない様子。次にパミーナがやってきます。しかし、パミーナが何を話しかけても、沈黙の試練と戦っている真面目なタミーノは無言のまま。(タミーノが沈黙の試練と戦っているを知っているはずなのに、なぜか)タミーノに嫌われたと思ったパミーナは絶望します。

 こうして沈黙の試練は続くわけだが、タミーノはパミーナをゲットできるというご褒美があるわけで、たとえパミーナが絶望に落ちても(試練を乗り越えれば必ずパミーナをゲットできると信じているので)熱心に最初の試練である沈黙の試練に臨むのだけれど、それに付き合っているパパゲーノには何のご褒美もないわけで、当然、早々にパパゲーノは試練に脱落してしまいます。

 試練から脱落してしまったパパゲーノに、ある神官が「お前には望みはないのか」と尋ねます。パパゲーノは「自分にも彼女ができるなら、もっと試練にも熱心に臨めたのに…」と答えます。するとさっきの老女が現れ「自分と結婚しないとアンタは地獄に堕ちるよ」と脅します。もうどうでもいいと思っていたパパゲーノは、老女と結婚の約束をした途端、その老女は若い娘(ただし、パパゲーノ同様、鳥の魔物)に変身し、自分はパパゲーナだと名乗ります。喜ぶパパゲーノ。二人は結婚します。

 一方、絶望したパミーナは自殺をしようとしていたところに、三人の天使が現れて、嘆くパミーナをタミーノの元に届けます。タミーノは沈黙の試練を終え、次の試練に向かうところだったので、今度はパミーナと二人で、次の、火の試練、水の試練に臨む事にします。試練は激しく厳しいものだったけれど、タミーノの持つ魔法のフルートのおかげで、難なく二つの試練をクリアします。

 無事、三つの試練をクリアしたタミーノは(夜の女王から娘を奪還してくれと頼まれていた事をすっかり忘れて、夜の女王を裏切り)ザラストロの祝福の元、パミーナと結婚します。めでたし、めでたし。

 ほら、馬鹿満載でしょ? これぞ喜劇ってモノです。しかし、最初は悪者だと思っていたザラストロが、実は正義の人だったり、夜の女王とザラストロが、実は元夫婦で、娘を取り合いをしていただけだったり、なんか、力が抜けてしまうようなお話でしょ。また、主人公のタミーノは、別にカッコいいわけではなくて、ただ単にバカ真面目なお人好しだったりするわけだし、なんかなあ…ってお話なんだけれど、音楽はモーツァルトご謹製ですから、はずれなしです。

 まあ、そんな『魔笛』ですが、何と言っても『夜の女王のアリア』が有名です。

 ほとんど人間技とは思えないような歌唱ですね(笑)。ソプラノの最難曲の一つと言われるのも、分かります。

 『魔笛』には他にも名曲がありますが…この曲の次だと何を出しても霞むだけなので、曲紹介はこれで終わりにします。

 ストーリーはこんなにお馬鹿さんなのに、音楽はS級なんですよ、このオペラ。ちなみに、『魔笛』は、モーツァルト生前の最大のヒット曲だったという話もあります。人生の最後に大ヒットを飛ばしたモーツァルトなのに、なぜ早死しなければいけなかったのか、私には分かりません。

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コメント

  1. だりあ より:

    私、「夜の女王のアリア」のさびのところが、大好きなんです。
    もちろん、あんな高い声では歌えません小さい低い声ですが。有名なところ勝手アレンジですが、キッチン仕事の作業ソング(鼻歌)でしたが、疲れて支度したくないときも、なぜか元気が出てきてました。かなり気合いが入った歌だからでしょうかね。
    当時、もし、著作権制度があったら、モーツァルトは絶対に大富豪になってたでしょうね。貧乏に沈んだまま若くして病で亡くなるなんてありえなかったでしょうに・・・。

  2. アデーレ より:

    明けましておめでとうございます!!私も夜女、大好き!実は夜女はアリアが2曲しかなかったはず…。私は有名曲でない方も好きです!有名な方も大好きだけど、やっぱり出ない[E:sign05]。ハイツェーのあとのハイエフなんて、どうやったら出るのさ~!夜女歌えたら、本当に気分いいだろうな~!1度、さいだ先生【耳鼻科】に声帯的にはいけるかどうかきいてみたいですが、そのためにいくのもなんかね~(笑)パミーナやパパゲーナも大好きです!
    魔笛はいいよね!

  3. すとん より:

    だりあさん

     モーツァルトは結構稼いでいたそうですよ。ただ、稼ぐ一方で使っていただけで、それで残っていないそうなんです。まあ、今の売れている芸能人さんたちも、似たようなライフスタイルの人はいますので、別にそんなもんでしょうし、たくさん使って、足りなきゃ借金までしていたからこそ、稼がなければいけなかったわけで、でも著作権が無かったので、バンバン新曲を書き倒していたわけで…その恩恵を我々は受けているわけです。

     たぶん、著作権があって、モーツァルトが若い頃の作品で十分食べていけたら、きっと『フィガロの結婚』も『魔笛』も『レクイエム』も『交響曲40番』も書かなかったかもしれません。そういう意味では、著作権がなくて、我々的には良かったんです。

  4. すとん より:

    アデーレさん、あけましておめでとうございます。

    >ハイエフなんて、どうやったら出るのさ~!

     どうやっても出ない人は出ないし、出る人は教えられなくてもバンバン出ちゃいます。あの音はそういう領域の音みたいですよ。つまり「出るか出ないかは、ほぼ才能で決まる」世界の領域って事です。

     夜の女王が歌えることは、とても素晴らしい事だけれど、でも、夜の女王って、所詮キワモノであって、王道の役柄ではないからね。魔笛の夜の女王を歌えるよりも、フィガロの伯爵夫人を歌える方が、きっとレパートリー的には豊かで楽しい…と思います。

     それよりもまず、ソプラノだった事に感謝してもらいたいと、私は個人的に思います。私なんて、どんなに願っても、ソプラノの歌、歌えないもん。世界の名歌の大半はソプラノのために書かれているのに、それが歌えないってのは、結構、悔しいものだよ。

  5. アデーレ より:

    本当ですね、感謝します!ソプラノはいいわよ~、たくさん曲があって…。と、前にメゾの先生がおっしゃってました。すとんさんのおっしゃっる通り!いやはや、新年早々、失礼しました!今年も頑張ります! 宜しくお願いします。

  6. すとん より:

    アデーレさん

     まあ、ソプラノは羨ましいのですが、実はテノールだって捨てたものじゃないんですよ。音楽之友社のオペラアリア集で考えるなら、ソプラノは3冊。テノールは2冊。メゾとアルトが合わせて1冊。バリトンとバスも合わせて1冊ですからね。テノールで不服を言っていたら、メゾやアルト、バリトンにバスの方々に叱られます。

     それに、世にある有名二重唱の大半は、ソプラノとテノールのモノだし…。

     もっとも、テノール用の曲が多いとは言っても、そのすべてが歌えるわけじゃないから、まずは歌える曲を地道に増やしていく事から始めていこうと思ってます。うん、頑張っていきますよ。

  7. tetsu より:

    おめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

    > テノールで不服を言っていたら、メゾやアルト、バリトンにバスの方々に叱られます。

    オペラ作品の紹介、いつも楽しみです。
    毎年正月にNHKで放送されているガラコンではメゾの藤村実穂子が一番好きです。TVの何かの番組で初めて見て、とんでもなくすごいとおもっていたら、いつの間にかガラコンのトリになってしまいました。メゾなのでこちらにとっては知らない曲ばかりですが。
    他の方についてはとてもここでは書けません。

  8. すとん より:

    tetsuさん

     藤村実穂子さんは、ガチですごい歌手だと思いますよ。ここ数年、ほぼトリ状態なのも納得です。

    >他の方についてはとてもここでは書けません。

     他人とは、誉めるべきモノであって、ケチをつけるモノではありませんから、それでいいと思います。私は、ガラコンに限らず、コンサートってヤツは、ナマモノだと思っていますので、出来の善し悪しを含めて「よかったなあ~」と満喫する事にしています。

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