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メトのライブビューイングで「サムソンとデリラ」を見てきた

 メトのアンコール上映で、見逃していたサン・サーンス作曲の「サムソンとデリラ」を見てきました。

指揮 マーク・エルダー
演出 ダルコ・トレズニヤック

デリラ エリーナ・ガランチャ(メゾソプラノ)
サムソン ロベルト・アラーニャ(テノール)
大祭司 ロラン・ナウリ(バス・バリトン)
ヘブライの長老 ディミトリ・ベロセルスキー(バス)
太守アビメレク イルヒン・アズィゾフ(バリトン)

 まず演出は伝統的な演出をよく踏まえていて、見ていて安心しました。また衣装等舞台関係は、抽象的であったり派手であったりと、全然リアルでは無いけれど、舞台なのだから、これくらいでいいやと思いました。変にリアルを追求して、地味で質素になってしまっても観劇の喜びが失せてしまいますからね。

 ただ、クライマックスシーンでは、きちんとサムソンが神殿の柱を倒して神殿を大崩壊させて欲しかったなあと思いました。今回の舞台の上には柱がなく、大きな神像があったので、この像を倒すのかと思っていたら、そうではなく、何やら不思議なパワーで人々を倒すという描写になっていたので、これではサムソンが怪力男ではなく、魔法使いになってしまい、聖書の設定とは違うなあ…と思ってしまいましたが、ケレン味は足りませんが、芝居的にはこれでもいいんだと思いました。

 第3幕のバレエシーンは、なんとも醜悪で猥雑な感じがして、忌み嫌うべき異教の宴会をよく表現していたと思いますが…見ていて、あまり愉快なモノではありませんでした。もちろん、それを意図しているわけだから大成功なんでしょうが、やっぱり舞台では醜悪なものではなく、美しいものが見たいよね。

 美しいと言えば、デリラを演じたガランチャは美しくて妖艶でした。この人、カルメンでもはまり役だと思いましたが、デリラもなかなか良いです。デリラは、ハニートラップを仕掛ける人だから、美人で妖艶じゃないとダメなんだよね。その点、ガランチャは合格です。もちろん、歌唱的には何の問題もありません。

 サムソンを演じたアラーニャは最高ですね。サムソンの歌唱って、声をひけらかして歌い切るというタイプの歌が並んでいるわけですから、この役を演じるには、声が艶っぽくって美しい必要があります。パワフルなだけではダメだし、かと言って、歌っている時はずっと歌っているので、パワーは必要だし、歌詞はフランス語だし…なんとも歌う歌手を選ぶ役だなあと思いました。以前は、ドミンゴがよく歌っていた役ですが、アラーニャもなかなかにはまり役だと思いました。

 「サムソンとデリラ」と言えば、第2幕で歌われるメゾ(デリラ)のアリア「あなたの声に私の心は開く」が有名ですし、よくこの歌だけを取り上げてコンサート等で歌われる事が多いです。私も単独で聞くことが多く、めったにオペラでは聞かないのですが、実はこの歌はアリアではなく二重唱なんですよ。メゾ(デリラ)とテノール(サムソン)の愛の二重唱なのです。アリアとして歌う時の、サビの「サムソン、サムソン、愛している」という歌詞は、実はテノールが歌う部分で本来の歌詞は「デリラ、デリラ、愛している」となっています。また、メゾは1番と2番を同じメロディで歌いますが、テノールは1番は歌いませんが、2番はメゾとは全く違ったメロディをメゾに重ねて歌います(だから二重唱なんだよね)。メゾは美しいアリアが乏しいからね…だからこの美しい二重唱をアリアに改変してコンサート等で歌うんだなあ…と思いました。

 まあメゾは美しいアリアが乏しいので分かりますが、美しいアリアが豊富にあるソプラノも「椿姫」の「乾杯の歌」をしばしばアリアとしてコンサートなどで歌ってますよね。あの曲も実はれっきとした二重唱で、テノールとソプラノがほぼほぼ対等に歌うのですが、それをソプラノ一人で歌ってアリアにしちゃっているわけです。ソプラノは歌うべき曲がたくさんあるんだから、何も二重唱をアリア化して歌う必要もないのになあ…と思ったりします。

 閑話休題。このオペラは当初オラトリオとして作曲されたという逸話があります。確かに第1幕を見ると、音楽的にはほぼほぼオラトリオであります。演技無しでも歌だけでストーリーは進んでいくし、ソロ歌唱よりも合唱の方が多く歌っている印象だし。まあ、本当にオラトリオとして作曲されたのかどうかは私には分かりませんが、第1幕は聖なるシーンなので、オラトリオ様式が適切だったんだろうなあっと思いました。ちなみに、第2幕は妖艶で俗なシーンなので、実にオペラオペラしています。第3幕は、フランスのグランド・オペラってこんな感じなんですと言わんばかりに、ゴージャスな仕上がりになっています。なので2幕3幕を見ていると、全然オラトリオではありません(当たり前か)。
 それにしても、メトの舞台はよく出来ていると思いました。このオペラって、案外危ういオペラなんだよと思っています。と言うのも、このオペラには舞台の華となるソプラノがいないんですよ。あの「カルメン」だって、ミカエラというソプラノが出演するのに、この「サムソンとデリラ」にはソプラノがいないのです。まあ、合唱団にはいますが、ソリストにはソプラノがいないんですよ。つまり、うっかりすると、華のない地味な舞台になりがちなオペラなのです。

 その上、デリラがブスやデブだと面白くないし、サムソンが強いだけの声のテノールだと一本調子だし(実際、声の強いテノールが演じる事が多いのです)、舞台演出もリアルっぽくやるとつまんなくなるし…。で、実際、ブスデブのメゾに一本調子のテノールがリアルっぽい演出でやっている上演だってあるわけで、そういうのは、実に面白くないです…ってか、「サムソンとデリラ」というオペラは、そういうつまらない上演の方が多いような気がします。そこへ行くとメトはお客を喜ばせるツボをよく心得ていると思います。やっぱり、ソプラノがいない分、華のあるメゾを起用しないとオペラが成立しないよね。

 それにしても、メトの合唱団って、めっちゃ上手だよね。

 

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