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プロを上手だとおだてる人

 プロの演奏家に向かって「お上手ですね」とおだてる人って、いますよね。まあ、言っている本人はおだてているつもりはなくて、単純に褒めているのかもしれませんが、そうであっても、変な話です。

 だって、プロなんて、上手で当たり前じゃないですか? 彼らは元々豊かな才能の持ち主なわけだし、その才能を幼少の頃から磨きに磨きをかけて今に至っているわけなのです。我々一般人が遊んだり怠けたりしている時に、一心不乱に音楽の練習に打ち込み、高い学費を支払って専門教育を受け、様々なコンクールや数々の修羅場をくぐってプロとして活躍されているわけで、そんな方々に向かって、ズブの素人のアマチュアである我々が「お上手ですね」と誉める(?)のは、なんか違う…と言うか、実に失礼な行為ではないかと思うわけです。

 プロとアマ、そもそも住んでいる世界が違うのです。

 それにしても、プロに向かって「お上手ですね」という素人は、音楽を演奏しない、聞くことを専らとしてる観客タイプの人ではなく、たいていは自分も演奏をたしなむアマチュア音楽家だったりします。

 観客ならば、演奏家であるプロ奏者に向かって「お上手ですね」とは言いません。観客は演奏者の技量に関してはモノを言いません。だって彼らの興味はそこには無いからです。彼らが気にするのは、自分たちの支払ったチケット代に見合う感動が得られたかどうかです。だから、たとえ上手であっても、無感動な演奏には文句を言うわけだし、演奏そのものが大したものでなくても、感動や喜びを与えてくれたなら、うれしくなっちゃうわけです。

 一方、アマチュア演奏家の一部の方には、矜持が高くて、プロをプロとは思わず、自分たちと地続きの世界に住んでいる、ちょっとだけ前を歩いている人間…程度にしか思っていない人たちがいます。「努力をして、プロ並みの演奏ができるようになる」とか、それどころか「プロよりも良い演奏をしてやる」とか言って、息巻いている方々です。

 プロ奏者というのは、アマチュアにとって憧れの人たちですから、彼らを目標に頑張るのは大いに結構ですが、彼を本気で越えられると考えているアマチュアさんって、私には分かりません。

 もちろん、世の中には、専門教育など受けず、たいした訓練もせずに、ただただ才能だけで、そこらのプロ奏者よりも、素晴らしい演奏をなさる方もいますが…そういう人って、天才なんですよ。で、そんな天才は、そこらのプロ奏者なんて目標にしないでしょうし、「お上手ですね」などと歯の浮くようなセリフは吐きません。まあだいたい天才なんて、少数例外的な存在なので、そういう人を一般化して語るのは間違っていると思うしね。

 閑話休題。アマチュアは所詮、アマチュア。プロの人たちとは、背負っているモノも、通ってきた道も、全然違うんですって。表面的に似ていても、中身は全然違うんですって。

 だから、プロに向かって「お上手ですね」なんて言葉がけはありえないし、ましてや、単なる声がけのセリフだとしたら、失礼千万な話だと思いますよ。

 プロに向かって言うならば「お上手ですね」ではなく「素晴らしかったです」とか「感動しました」とかじゃないかな? 私はそう思うよ。

 天は人の上に人を作るんだよ、少なくとも芸事の世界じゃ、そうなんだ。努力だけじゃトップには立てないんだよ。ただし、より多くを与えられた人は、より多くを求められるから、それにふさわしい生き方をしないといけないし、人並みの生活を犠牲にしないといけない部分もあるわけなのさ。

 だから、才能なんてものは、あれば幸せってモンじゃないし、人はそれぞれに与えられた分の中で生きていくしかないし、他人をうらやむ必要もなければ、自分を卑下する事も不要ってわけなのさ。

 私は音楽が大好きだけれど、音楽の才能が大して与えられなかった事に感謝してますよ。だって、もしも音楽の才能が豊かに与えられていたら…きっとプロの音楽家になっちゃっただろうし、そうであれば、今のような暢気な日常生活なんて過ごせなかっただろうからね。個人事業主は厳しいのです。私は給与生活者である事を幸せだと感じているし、平凡な日常生活を過ごす喜びを知っているから、音楽の才能なんて、いらないのです。

 下手の横好きで、何が悪い。

蛇足 そういう意味では、才能も無い(たいていの人には才能なんて無いんだよ)のに、努力だけで音大に入学しちゃって専門教育を受けて、でも才能が無いからプロ演奏家として大成できず、覚悟も無いから職業音楽家にもなれずに、セミプロとかハイアマチュアとして音楽に携わっている人って…よしとこう。私があれこれ言うべき筋合いの話じゃないね。

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コメント

  1. ドロシー より:

    すとんさん、こんにちは。

    質問ですが、プロとアマの区別って、どこでするのでしょう?
    有料か無料か?ギャラの有無?それとも出身大学や所属団体?
    運営側の中には、ギャラの予算を取らず、無料のコンサートなのに、「プロじゃないとイヤ」言っている人もいます。でも実績を積むためにそのような所で演奏するプロも沢山いますよ。
    プロ・アマ関係なく、という企画もあります。プロの歌う超難曲よりもアマの歌う愛唱歌の方が良かった、というお客様もいました。一般受けのする選曲ってありますからね。
    さらに、一見プロと思える人だって、実は家族の援助を受けていたり、音楽とは関係のない仕事をしている人だっているわけですが、他人から見れば、それぞれのお財布事情なんてわからないです。

    すくなくとも他のアマチュアの上に立とうとしたり、批判するアマチュアにはなりたくないです。他のアマチュアがどんな気持ちで音楽をやるかなんて、本人の自由ですし、それが私のアマチュアとしての矜持です。

  2. かこ より:

    こんにちは!
    プロは言わずもがな、 音大出、セミプロ、ハイアマチュア、そういう人達には、私は敬意を払います。歯を食いしばって練習してきた内容も量も、私とは比べ物にならないし、やはり知識も技術も高いし。自分より上手い!と感じる人は、素直に尊敬します。
    たまにそういう人にイラつくのは、人間性の部分なんだなあと、すとんさんに気づかせてもらったし(笑)

    どアマチュアな私が比べて乗り越えるとしたら、それは過去の自分に対してだけだと考えるようにしています。

  3. すとん より:

    ドロシーさん

    >プロとアマの区別って、どこでするのでしょう?

     大ネタ振ってきましたね。さすがに、コメント欄では収まりきれない問題ですので、記事として解答を書いてみました。明日、アップしますので、そちらをご覧ください。

    >運営側の中には、ギャラの予算を取らず、無料のコンサートなのに、「プロじゃないとイヤ」言っている人もいます。

     ひどい話だな。たぶん、その運営の人、音楽家をなめているんだと思います。でも、そんな感じで、音楽家や音楽という職業をなめてかかっている人って、世の中にはたくさんいるんですよ。そういう意味では、音楽家というのは、一部の人を除いて、世の中では軽く扱われる存在なわけで、彼らも大変だなあと思うわけです。

    >でも実績を積むためにそのような所で演奏するプロも沢山いますよ。

     確かにいますね、でも、そのようなところで実績を積んでも、それは実績にはならないでしょう。ただ単に“自分を安売りする音楽家”として便利に使われて捨てられるだけです。だいたい、その音楽家の方たち、10年後も音楽家やれているのでしょうか? 他人事ながら心配です。

    >一見プロと思える人だって、実は家族の援助を受けていたり、音楽とは関係のない仕事をしている人だっているわけです

     実は、働けば働くほど赤字を生み出しているプロの方々も大勢います。ある意味、音楽家という職業は、マイナースポーツの選手のようなものなのかもしれません。私は時々、そう考えます。

  4. すとん より:

    かこさん

    >どアマチュアな私が比べて乗り越えるとしたら、それは過去の自分に対してだけだと考えるようにしています。

     私も同意見です。

     まあ、コンクールなどは別問題ですが、そうで無い限り、昔の自分よりも上達していて、昔の自分よりもお客さんに喜ばれる演奏ができれば、それで万々歳であると私は考えます。

     それでいいじゃん。それがアマチュアの喜びって奴じゃないかなって思うわけです。

  5. mee より:

    >ある意味、音楽家という職業は、マイナースポーツの選手のようなものなのかもしれません

    自分が演奏をして幾何かのお金をいただく。
    毎日引っ張りだこな訳ではなく…
    準備は過去の積み重ねの技量と、人脈などなど、新しい楽譜も買うし、お付き合いもあるし。
    まず演奏をお仕事にするというのは、お笑いの方や俳優の方などが下積時代を過ごす時、アルバイトでティッシュ配っていた。
    みたいな感じで、清貧(;´∀`)
    常に自分に投資していく。しかも、いつ来るかわからないチャンスを待つ。または諸事情により諦めて手近なそれに関わっていく。
    などなど…
    選択肢はありますが、とにかく何かしらをして食うていかねばなりませんし、時に家族を養っていく事も考えなくてはなりませんし。
    現代では、それだけをするにはかなり難しいお仕事ですよね。

    昔々みたいに、王様やお殿様みたいなのが囲ってくださる時代とは違います。
    不景気になると企業や公所属の音楽団体は初めにカットされますし…
    音楽家は「ノアの箱舟に乗れない種族」だと思います。
    (この場合、技量、才能は置いといて)あとは本人がやりつづける事ができるか、できないかだけ。

    音楽のお仕事って、披露するその時だけを見ると、そんなこんなの現実が見えにくいお仕事ではあると思います。
    だからこそ、それぞれに色々な意見が出るのではないでしょうか?
    積み重ねの努力と投資などなど、その証として、たとえ自称であっても「プロです」と言う方に対しても、”その努力下積みに対しては”敬意を持って接して行けば良いのではないでしょうか。
    「教えたがり」は、誰しも頑張って来た自分を解って欲しい欲求じゃないでは?
    困った時は大人の対応ですり抜けましょう(笑)

    「お上手ですね」は、その言葉を言った方のボキャブラリーの無さもありかも(-.-)
    何かは言いたかったんでしょうね。
    もしも、善意に何か言いたかったのでしたら、演奏者の方はその方のお気持ちはありがたく戴かれた良いかと思います。
    (*´▽`*)
    音を楽しむ事は同じです。
    とにかく幸せにならなくっちゃ!

  6. すとん より:

    meeさん

    >たとえ自称であっても「プロです」と言う方に対しても、”その努力下積みに対しては”敬意を持って接して行けば良いのではないでしょうか。

     おしゃるとおり、プロの方々に対する敬意というのは、私のようなアマチュアは忘れてはいけない事だと思います。

     私が思う『プロに対する敬意』と言うのは、その演奏技量の高さに対する敬意ではなく(それは当然の事として)“音楽家として生きると決めた人生の決断”に対する敬意ではないかと思うのです。

     誰かが火中の栗を拾わなければいけない時に「私がその栗を拾います」と宣言して、実際に火中の栗を拾う生活をする事、その事を決めた決断に対して敬意を払いたいと思うのてす。

     誰だって火中の栗は拾いたくないし、誰も拾わないという選択肢だってあるけれど、そこであえて、火中の栗を拾う人生を選んだ人に対する敬意、それを忘れずにいたいものだと思う私です。

    >「教えたがり」は、誰しも頑張って来た自分を解って欲しい欲求じゃないでは?

     うーん、確かにそうかも…。でも、間違った事を平気な顔をして教えるオジサンは…大人の対応かあ。難しいなあ。そのオジサンのメンツをつぶしちゃあ、大事になるしなあ…。

  7. mee より:

    すとんさん

    火中の栗の話し、とてもわかりやすいです。
    ありがとうございます。
    合奏、合唱などは一つの社会であり、しかも団体競技です。
    それぞれがお互いの尊厳を守ることは大事な事だと思います。
    私だったらそこがプロ、アマ色々混合であり自分のスタンスが何であっても、まずそこの社会の一員であり、仲間でありたいです。
    一緒にやるってのは、一人でやるよりウ~ンと楽しいからです。
    「一緒にやりましょう」という事になると、皆さん全員の力が必要ですから[E:rock]
    誰もが対等です。

    >でも、間違った事を平気な顔をして教えるオジサンは…大人の対応かあ。難しいなあ。

    間違った事を…のオジサンは困りものですね~
    そういう方いらっしゃいます、確かに…
    私は女子ですので、「そうなんですかぁ(ニコニコ~)違ってたらハリセンボンですよ~[E:wink]ハリセンボンって針を千本飲むんですよ!スゴイですよね~」などとできますが、オジサン×オジサンだったりすると、そういう訳にはいきませんし、複数でその場にいても、その時の状況によってはシラ~っとした空気が流れてフリーズしたりしますよね。
    以前重い空気が流れだした時、誰かが「その話は、また別の時にしましょう~」と言って、流してくれた事もありました。
    パンパンと手を打つことができるスタンスの人がいると、助かりますけど(*^。^*)
    ムズカシ~…今後の宿題で~す。

  8. すとん より:

    meeさん

     オジサンという種族は、基本的にコミ障の上に、言葉数が足りないときてますから、変な空気になると、そのまま睨み合いに移行するんですよね…。抑えが効かない性格だったりすると、そこで暴れだす人もいます。とにかく、野蛮なんですわ。

     それをなだめるのが、第三者の「まあ、ここは、ひとつ、私の顔を立てるつもりで…」という“振り上げた拳をひとまず下ろそうよぉ~”発言だったりするわけです。

    >合奏、合唱などは一つの社会であり、しかも団体競技です。

     日本人は、ほんと、団体競技が好きですね。それはオリンピックを見ていても感じます。もちろん、個人競技も応援するけれど、団体競技の時の熱の入り方は、すごいすごい。改めて、日本人の集団力というものに感服いたしました。

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