私の中に、ずっと引っかかっていた事があります。それは、いわゆる“フルート健康法”ってヤツです。簡単に言っちゃうと「フルートを吹いていると健康になれます。ご長寿になります」ってヤツ。本当にフルートを吹いていると健康になれるの? 本当にフルートを吹いているとご長寿になるの?
きっかけは、萩本欽一氏のテレビSPでした。その番組の中で“フルート健康法”を取り上げていた事です。ご覧になった方も大勢いらっしゃると思いますが、そのテレビで言っていた事を元に、私がアレコレと考えてみたわけです。
まず『フルートを学んでいると、腹式呼吸となり腹筋が鍛えられて、健康になります』
一見、正解です。どこにも嘘も間違いも無いように思われます。
フルートって、学び始めの入り口のハードルが高い楽器として有名です。初心者の段階では、呼吸のコントロールがうまくいかず、楽器を鳴らすことが難しく、何度も何度もチャレンジしているうちに、酸欠になりやすい楽器でもあります。特にオトナになってからフルートを始めた人は、その初歩の段階で、酸欠と戦った人、大勢いらっしゃるわけです。
また酸欠にならなかったとしても、フルートは弱々しい息では鳴りませんので、ある程度の息を吐くチカラが無いと話になりません。その息を吐くチカラが身につくまでに、並々ならぬ時間が必要な方もいらっしゃいます。
一般に“○○健康法”と言うのは、健康に不安を抱えるような人がやるモノであって、若者や、カラダが健康で頑強な人は、まず手を出しません。病気がちな人や、ヨボヨボしかけた人がやるものです。あと「健康のためなら死んでもいい」と思う健康オタクの人もやるかも(笑)。
まあ、健康オタクの人はともかくとして、病気がちな人とかヨボヨボした人に、フルートって、ちょっとハードじゃありませんか?
番組では、欽ちゃんがフルートをやっていましたが、彼は74歳で、肺気腫を患っていて、階段を数段登るにも息が切れて、休み休みじゃないと階段登れないほど弱っている人なんだけれど、そんな人にフルートを薦めてもいいの?
私の母は肺気腫で亡くなりましたので、肺気腫については、ちょっとばかり勉強させてもらいましたが、この病気って、一度なってしまうと治らない病気なんですよね。不可逆性の病気で、悪くなることはあっても、良くなることはない病気で、だから治療も、回復を目指すのではなく、悪化を防ぐことを目的とした治療をするわけで、決して無理を強いることはありません。
肺気腫は、肺が壊れて機能不全を起こしている病気で、ちょっと動くだけで苦しいし、体全体に大きな負担がかかる病気で、患者はカラダに負担をかけずに、穏やかな生活をすごす事が求められます。もちろん、呼吸リハビリとして、無理のない軽い運動でカラダに負担をかけずに、呼吸筋を鍛える必要はありますが、あくまでも無理のない軽い運動であって、フルートのように、酸欠になって、目の前がクラクラするような負担のかかる運動をしちゃダメでしょ。私はそう思います。
なので、今現在、有り余るほどに健康な人ならともかく、呼吸に不安を感じている人には、フルートは薦めるべきではないと思います。もっと軽い運動の方がいいですね。
さて、ここからは“健康に不安がないお年寄り向け”という前提で考えたいと思います。
『フルート演奏はボケ防止になる』 そうかも。
確かにフルートは、指が十本、それぞれ独立して動かせないと演奏できません。指を動かすというのは、脳の活性化に良いし、ボケ防止になるでしょうね。
ただ、ハードルは高いよ。まあ、出来ないからと言って、酸欠になるわけでもないし、命に別状はないので、時間をかけてゆっくり取り組めばいいんだと思います。でもね“指を十本、それぞれ独立して動かす”というのは、できる人から見れば、造作も無いことだけれど、出来ない人にとっては、永遠にできないんじゃないかと思えるほどに、難易度の高い事なのです。ボケを心配するような年齢の人にとって、これ自身がストレスになりかねません。健康法でストレスをタメてちゃダメだよね。
フルートを吹くためには、楽譜が読めたり、耳コピーができたりする必要がありますが、老人になるまで、音楽とは無縁に生きてきた人には、楽譜を読んで演奏したり、耳コピーで演奏したりって、ハードルが高いんじゃないかな?
また、フルートは安くないよね。国産スクールモデルでも6万円前後、中国のフルートのカタチをしたおもちゃであっても、1万円前後します。年金生活者には、その1万円が高価だったりするんだよね。
私は思うのです、フルートが健康に良いと言えるためは、フルートを始める年齢にもよるのではないかと。本当の老人になってから始めるのでは、フルートは色々とハードルが高いような気がします。まだ、現役世代であって、老後を見据えて、フルートを始めるのなら、まだギリギリ間に合うかもしれませんが、本当に老人になってしまうと、フルートは厳しいと、個人的には思います。
私は、老人たちには、音楽であるならば、フルートを薦めるのではなく、歌、とりわけ合唱、あるいは愛唱歌の斉唱などを薦めた方が良いし、もっと言えば、音楽をやるよりも、散歩を薦めた方がいいんじゃないかって思うんです。
散歩は、自分のペースで、自分の体力に応じてできる有酸素運動だし、足脚と言う大きな筋肉を動かして血行も良くなるし、なにより、日光にも当たれるし、外気にも触れるし…散歩、最高じゃん。
老人はフルートを吹くな! とは申しませんが、自分の健康と体力を鑑みて、一番ふさわしい事を楽しく行うべきだと思うし、それがフルートであるならば、のびのびとおやりになればいいんだと思います。
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コメント
何年も前の話ですが、師匠の所に初心者が入門しました。
アルテ1巻からの生徒さんなんて何年ぶり~凄い新鮮だよ・・・と我々にも話してくれていまして、、、(^^;)
アマチュアレッスンでもマスタークラス的なレッスンをする師匠が、子供じゃない初心者にどうやって教えるのだろう?と興味津々でしたが。
やはり「指が上がらない」ってのがネックになってやめてしまわれました。普通じゃない組み合わせで指を動かしますから、そこが最初の関門なんでしょうねぇ。。。
私も欽ちゃんの観てました!たしかに今の欽ちゃんにはフルートはキツイかもな、と思いましたよ。しかし、かくいう、私も老後はフルートと思ってました。というのも、声が加齢で揺れ始めたら、もう声楽はそんな声では申し訳ない。そして、声より深刻なのが、ビジュアル!?綺麗なドレスが似合わないというか、ゲゲ〜〜っ!と思われそうになったら(笑)もう歌はやめな!と神様が言ってる。しかし、おまえには歌で鍛えた呼吸筋があるじゃないか!!なら、フルート、もしかしたら初心者なのに最初からいい音がでるんじゃないのぉー、と。(笑)思ってました。今までいろんな楽器しましたよ。ピアノ、バイオリン、ギター、ハンドベル(笑)声楽、最後はフルート?うん。いいねー。フルートは品が良く見えるのよね、これ最高!!
こんばんは。
> 萩本欽一氏のテレビSP
録画して、そこだけ見ました。指導されている方はここまで偉くなりましたか、という感じです。
演奏家の中でフルートが特に長いとはおもいませんでした。
長寿というと何故かカザルスのイメージがあります。
「管楽器は歯がいのち」ですが、弦はそういう心配はないので。
クラシック音楽の演奏家一覧
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%82%B7%E3%83%83%E3%82%AF%E9%9F%B3%E6%A5%BD%E3%81%AE%E6%BC%94%E5%A5%8F%E5%AE%B6%E4%B8%80%E8%A6%A7
をパッと見た感じでも特にどの楽器が長命、というのはわかりませんでした。
長寿だったまたは短かかった、ある意味劇的なエピソードはいくらでも残っていますが、というくらいです。
演奏家の方は日頃楽器だけでなく体のほうも音楽のためだけにコントロールされているイメージがあります。
急な病気で早逝される場合も少なくありませんが、そういうことがなければどの楽器とか声楽でも、健康的に長寿を全うできるような気がします。
お久しぶりです。
私の通っている教室に年配(60以上)の方がおられます。リングキーのフルートでアルテをされていますが、溜息をついてレッスン室に入って行かれます。音作りが大変そうで、なんでリングキーなのか?そしてアルテなのか・・・?会話も先生と2人だし、うまくいけば楽しいかもしれませんが、かえってストレスかな〰と思います。年配で始める方には、やはりその点を考慮に入れられる、先生がカギかな!あとは、本人の根気といい加減さですね!
めいぷるさん
>やはり「指が上がらない」ってのがネックになってやめてしまわれました
楽器の経験があるとか、タイピングの経験があるとかで、十本の指がすでに独立して動くようになっている人ならともかく、普通のオトナの素人さんにとって、指をそれぞれ独立して動かすって、本当に難しいみたいです。特に、右でも左でも(小指を動かさずに)薬指だけを自在に動かすと言うのは、難易度が高いんです。ってか、薬指と小指って、それらを動かす神経は本来同じものなので、この二本に関しては“二本で一つ”的な動きが本来なわけで、それを別々に動かす事自体が、自然の摂理に反している…と聞いたことがあります。だとしたら、中音ミなんて誰も吹けないよね(笑)。
それと、どの指でもそうですが、曲げるのは簡単なんです。で、曲げた指を意図的に伸ばすのはちょっと大変なんだそうです。で、伸ばした指を後ろに反らせるのは、かなり難しくて出来ない人もたくさんいるんだそうですよ。フルートなんて、指を曲げたまま後ろに反らす運動ができないと“指が上がりません”から、やっぱりフルートって難しい楽器なんだと思います。
フルートに限らず、やはり若いウチに、できれば子どものうちに、音楽には親しみたいものです。
アデーレさん
欽ちゃんは天才コメディアンであって、楽器や音楽は、欽ちゃんバンドでマリンバを叩いていた風ぐらいで、ほとんどやってこなかったわけで、そんな人にフルートは厳しいなあと思った私でした。
>私も老後はフルートと思ってました。
いいんじゃないですか? 声楽をやっていれば、呼吸筋は十分ありますし、ピアノを始めとして、色々な楽器の経験があれば、指の動きも不安はないです。問題は…フルートって、貴金属で作られているので、マジな楽器は目が飛び出るほどに高価だという点です。まあ、貴金属製ではないフルートでも十分楽しめますけれどね。
tetsuさん
確かに音楽家が特別長命だというイメージはないですね。逆に短命だというイメージもありません。おそらく、寿命的には普通の人と変わらないのでは…と思います。
ただ、言えることは、音楽家は個人事業主であるという事も関係するかもしれませんが、老齢になって現役を続けている人が多いし、現役を続けている人は(当たり前ですが)ボケてません。ですので(事実はどうだか分かりませんが)音楽家は“老人になって達者でボケない”というイメージが、私にはあります。
>演奏家の方は日頃楽器だけでなく体のほうも音楽のためだけにコントロールされているイメージがあります。
ただし、テノール歌手を除く(爆)。
うさぎさん
フルートって、たとえ健康であっても、線の細い老女な方には、体力的に厳しいかもしれませんね。それでも本人が楽しんでいるなら、他人がクチをはさむべきではありませんが、溜息をついてレッスン室に入っていく…というと、ちょっと心配しちゃいますね。
>年配で始める方には、やはりその点を考慮に入れられる、先生がカギかな!
老人に限らず、生徒さんそれぞれにそれぞれの事情があるわけで、そういう事情をしっかり汲み取れる人でないと、趣味の人に教える先生としてはダメだろうなあって思います。ま、それは音楽に限らず、どんな職業でも、客商売なら必須ですね。ガチでしか教えられない人は、ぜひ頑張って、大学教授になってガンガン学生を鍛えあげていってほしいと思います。
>あとは、本人の根気といい加減さですね!
そう、特に“いい加減さ”はないと、自分がつらいですね。