スポンサーリンク

身の丈にあった実力通りの曲を演奏するべきか、身分不相応な大曲に果敢に挑んでいくべきか

 …それが問題だ(笑)。

 例えば私の声楽の場合。発表会等、人前で歌う機会があった時の選曲について…。

 キング門下時代は、私がいくら希望を言っても、結局、先生がすべて選曲していたので、何も悩む事もなければ、迷う事もありませんでした。先生が指定した曲を一生懸命に練習して、本番では、その曲をきちんと歌うことができずに失敗して(当時の私には難しすぎる曲ばかり選曲されていたわけです)凹む…これの繰り返しでした。

 先生がY先生に変わって以来、基本的に私が選曲をする事となり、先生はよほどの事がない限り、ダメを出さなくなりました。その“よほどの事”ってのは私の実力に較べて、曲の難易度が話にならないくらいに難しい時にダメを出しますが、少々難しい程度なら「頑張れ!」とエールをくださるくらいです。と言うのも、Y先生曰く「本人が歌いたいと思う歌を歌うのが一番だから」という考えの持ち主だからです。

 だから難しい。却って難しい。

 まずは自分の実力って、自分じゃよく分からないじゃない? それに「まあ、私って、これくらいだよね」と目星をつけたところで、その実力の範囲内で選曲するべきかって問題が次にくるわけだ。だって、私の実力なんて、たかがしれているからね。この力量の中で、安牌な曲を選択するなら…本当に曲が限られてしまうわけです。歌いたい歌など、選べなかったりします。

 で、歌いたい歌で「私でもなんとかなりそう…」って思った曲であっても、傍目から見れば、それってどう映るんでしょうね。やはり“身分不相応な曲を歌いたがる”って感じになりかねませんし、歌の難易度ってやつも、なかなか分かりづらいので、思わぬ難曲をチョイスしてしまっている可能性だってあるわけです。

 難しい。

 まあ、とりあえず、今はまだ難易度が高くて歌えない曲や先生からダメをいただいた曲は、数年後にトライするために現在の候補曲から退けておいて、大事に『そのうちに歌う曲リスト』って奴に入れておけばいいのです。

 とりあえず、今はそれでいいことにしています。でも、人生の残り時間って奴も、薄々と考慮に入れたかったりします。

 私も老人の仲間入りを果たしたとは言え、まだまだ社会では現役世代です。引退しているわけではありませんから、一般的には、まだまだこれからチャンスがあるって思われがちですし、そうであって欲しいと願ってます(でも、世の中、何があるか分からないし、来年も私が元気で歌っている保証は何もないので、本当は『そのうちに歌う曲リスト』なんてモノを悠長に作っている場合ではないのだけれど…その事は、ひとまず横に置いておきます)。

 問題は、すでに現役引退をされて数年を過ごされて、本当の本当に、来年があるのかどうかも分からないような方々の場合です。

 おそらく、今年難しすぎるという理由でやめた曲は、来年歌えるようになっているか…練習による実力の上達と老化による歌唱力の低下を天秤にかけなきゃダメでしょう。今年難しい曲は、来年はお話にもならないくらい難しくなっている事だってあります。今年は出演できる発表会だって、来年は体調不良やらなんやらで、出演できなくなっているかもしれません。もうその頃になると、人生は本当の本当に“一期一会”になっていると思います。

 発表会とか定期演奏会とかで、毎年お元気にお見かけしていた方が、今年は見られなくなって、周囲の人々に尋ねてみたら「たまたま風邪をお召になって…」なってのは稀で、大半は「家族の方の介護が大変になって」とか「ホームに入られて…」とかだったり、あるいは「入院しています」とか「亡くなられて…」とかだったりします。引退世代になると、来年が常にあるわけじゃないんだなあ…と思うわけです。

 そうなると、実力不相応とか言ってられませんよね。歌いたい曲を今歌わないと、もう一生歌うチャンスがやってこないかもしれないのです。

 ああ、難しい、難しい。

 今更だけれど、もっと若い時から、真面目に歌ってこられたらよかったなあって思います。だけどやっぱり、働き盛りの時に趣味に没頭しているようでは、ダメだよなあとも思います。ならば、残された時間を健康に過ごして、なるべくたくさんの回数、歌えるように健康管理と練習をしっかりしていきたいと思うわけです。

 それであっても、やはり、身の丈にあった実力通りの曲を演奏するべきか、身分不相応な大曲に果敢に挑んでいくべきかは、永遠の悩みだったりするわけです。

↓拍手の代わりにクリックしていただけたら感謝です。
にほんブログ村 音楽ブログ 大人の音楽活動へ
にほんブログ村

コメント

  1. だりあ より:

    今ごろ、すとんさんはどこの空の下においででしょうか。旅先の涼しい夜風に吹かれていらっしゃるのかな。

    >身の丈にあった実力通りの曲を演奏するべきか、身分不相応な大曲に果敢に挑んでいくべきか
    >歌いたい曲を今歌わないと、もう一生歌うチャンスがやってこないかもしれない

    そうですよね、ホント選択に迷いますが、自分の場合は、おそらく、メンタルから身体までバランスよく元気でいられる期間はあと五年、せいぜい六年くらいかなあと思っています。だから、挑戦してみたい曲を、もっと上手になってから・・、とかなんとかボソボソ言ってよけてる時間はないと思って無理な曲でも玉砕覚悟で挑戦しちゃいますよ。

    まずその楽譜を買ってきてしまうところからです。中を見ると一瞬ぞ~っとしますが、一小節ずつ攻略すればなんとかなりますし、もし玉砕しても、「難しいから無理はわかってたの、やっぱり無理だったわー」でそんなに落ち込まずにすみます。果敢に蛮勇での挑戦であったとしても、した努力は結果としてはすこしはチカラをつけてくれるし、自己満足の形だけではなくて実を結ぶと思うのです。

    そういうときの譜読みなんて、もうゲーム感覚です、ここ無理だわ~、とか、うーんどうしたもんか・・・どうしよう・・・、とか、ブツクサと文句を言いながら一音ずつ一小節ずつゆっくり読んで音にしていくのも、まあ趣味の楽しみのうちと思っています。苦しいけど楽しい脳トレをしている感じです。

  2. すとん より:

    だりあさん

     ええと、帰ってきました。今は、じわじわと湧いてくる疲労と戦っている最中です。いやあ、ちょっとばかり体調を崩しました。

    >そういうときの譜読みなんて、もうゲーム感覚です

     ああ、分かります。私もゲーム感覚の時ありますから。で、最初はダメだと思っていた部分も、少しずつ丁寧に攻略をし、何度も歌ってカラダに入れていくと、少しずつ歌えるようになるんですよね。問題は、それが本番までに仕上がるか、間に合うか、と言った事でしょうか? まあ、最初から無理とわかっていれば、撃沈しても仕方ないなので、諦めもつきます。でも、歌えるに越したことはないので、頑張ってますよ。

     今は、秋のクラシックコンサートで歌う「星の明かり」の最後のHi-Hに悩んでいます。まあ、今のところは全く無理なんですが、当日まで間に合うかな? ふふふ。

  3. wasabin より:

    選曲は難しい、同感です。

    実力ちょい上は是非挑戦したいですね。
    結構技術的に苦労した部分が先になって他の曲に役立った時には、こうして積み重ねて向上して行くのか、と充実し次への意欲につながる、ってありません?

    でもね、やっと折り合いつけて選んだ曲が一年弱前に既に先客がいる!と仕切り直しです。
    ソプラノはベッリーニとか聞き映えもするから、結構歌う人多いけど、嫌いですね><
    一曲以外は。
    実力も好みも「何でも来い!」じゃないものですから・・ホント大変です、選曲。 

  4. すとん より:

    wasabinさん

     選曲には、技術とか好み以外にも、声種による制限がありますからね。テノールも結構制限があります(レッジェーロとリリコとスピントじゃあ、同じテノールと言っても、レパートリーがカブリませんからね)が、ソプラノはテノールの比ではありませんから、もっと大変でしょうね。

     私は今、手探りで自分の声に合う曲を先生と探している途中です。大好きな曲でも声に合わないとレパートリーには入れられませんからね。ほんと、選曲はむずかしいです。

  5. アデーレ より:

    そう、難しい曲でも一度、人前で歌うと、本当にその前とは全く感覚が違ってきて、なぜか自分の中に入ってきますよね、、。たとえ、うまく行かなかった本番であってもそうなのだから、不思議です!私的にはやはり、背伸びしたいほうなので、好きな曲でいいとなったらば、思い切りコロラトゥーラの曲がいいなー!ハイDやハイEsできめなければならない曲とかさー。まだ、ハイ
    Dも調子のいい時しかでないけどさー!ま、そのくらい無謀な挑戦も時にはいいのではないかしらん!

  6. すとん より:

    アデーレさん

     100回の練習よりも1回の本番…という言葉があります。本番を経験する、あるいは本番に向かって練習を重ねていく事は、上達の近道のようです。そのためにも、ちょっと難し目の曲にチャレンジしていく事は大切な事なんだと思います。

     肝心なのは“ちょっと難し目”って部分ね。キング門下時代は、キング先生の選曲ミス(ってか、生徒を見る目がなかったのかもしれない)で、私いつもいつも実力オーバーの曲ばかりを与えられ、毎回毎回、例外なく本番で撃沈していました。キング門下時代は、本番では一度もきちんと歌えた試しはありません。

     当時はなるべく気にしないようにしていましたが、顔や言葉に出さなくても、結構凹むものです。

     ですから“ちょっと難し目”の曲は自分を引き上げてくれますが“完全に実力オーバー”な曲は、心を折るだけですので、そのあたりの見極めが大切です。まあ、そのために“先生”がいるわけですが…その先生に生徒を見る目がなかったら、厳しいですよぉ。

タイトルとURLをコピーしました