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懐かしいSPレコード

 私はエンリコ・カルーソーという歌手が結構好きで、彼が残した録音をよく聞きます。彼の全盛期は20世紀初頭であって、ちょうどSPレコードが発明された頃の人です。世界初のミリオンセラーは、カルーソーが歌った歌劇『道化師』の中のアリア「衣装を着けろ」であって、まあ、カルーソーは20世紀初頭の大スター歌手だったわけです。

 その歌唱は、今聞いても実に素晴らしいです。ちなみにYouTUBEにも音源がアップされています。

 しかし残念なのは、YouTUBE画像を見ても/聞いても分かるとおり、録音が古いことです。とにかく約百年前の録音ですからね。元々が電気を使わない(もちろん、コンピューターだって使わない)機械式録音だったりするわけですからね。

 私が普段聞くのは、当然、復刻盤CDによる音源です。SPレコードもそのプレイヤーも持っていませんから、当たり前と言えば当たり前の話です。

 復刻盤CDにも、実は色々なモノがあります。レコードプレイヤーで再生した音をそのまま素直に録音したもの(当然、ノイズがブチブチのってます)や、レコード盤に刻まれた音を光学的に読み取って再生した音源(針の代わりにレーザー光線を使って再生するんだそうです。このやり方だとブチブチノイズは発生しないそうです)や、それらの音源をコンピューターによって修正したもの(コンピューターの内部で、音源からノイズを取り除き、欠けた音波を本来の形に直すなどの化粧を施して、本来の音に近づけるのだそうです)とか、色々なタイプの復刻盤CDがあるのですが、結局、何をどうやっても、やはり録音が古すぎるので、出来ることには限界があります。まあ、昔の音源は、しょせん昔の音源です。

 それら数ある復刻盤の中で、とりわけ私がお気に入りなのは「カルーソー2000」のシリーズの復刻盤です。これらは復刻盤と言うよりも、新録音と言うべき音源で、当時のカルーソーの音源から、彼自身の声以外の音を消去し、もちろん、彼の声はコンピューターで修正し、そうやってよみがえった彼の歌声に、新しく現代のオーケストラが伴奏をつけて、それをデジタル録音しちゃうというやり方で、新しいカルーソーの音源を作っちゃうのです。つまり、100年前の歌に今のオーケストラで伴奏をつけてみました…って企画盤なんです。

 これが結構良いんですよ。オーケストラの音だけが現代の録音水準で、カルーソーの声そのものは、当然100年前のモノなのに、それまでの復刻版とは比べ物にならないくらいに素晴らしい演奏に聞こえます。

 オーケストラの音さえなんとかなれば、声って、100年前の録音でも、それなりに聞けてるってわけです。まあ、100年前の技術では、歌手の歌声の録音はなんとかなっても、オーケストラのような音量の幅もあって、音色も多彩な楽器の録音なんて、全然不可能だったんでしょうね。実際、オーケストラの録音は、機械式ではなく、電気式の録音技術になってから、盛んに行われるようになったそうです。

 というわけで、カルーソーを聞くときは、この「カルーソー2000」シリーズの復刻盤(?)で聞く私だったりします。

 で、この「カルーソー2000」の復刻盤ですが、たしかによく出来ている音源だとは思うものの、私の記憶の中では、もっと昔に、もっと素晴らしい音で、カルーソーの録音を聞いた覚えがあるんです。

 それは何かと言うと、復刻盤ではなく、オリジナルのSPレコード(それもカルーソーは機械式吹き込み時代の歌手です)を、当時のレコードプレイヤー(当然、機械式の手回しのゼンマイを使ったプレイヤーです)で聞いた時の音です。それも、よく資料映像とかで見る、卓上型のラッパ管式のプレイヤーではなく、床に直置きの家具型のプレイヤーで聞いた時の音です。

 家具型のプレイヤー。そうです、ちょうど大きさはタンスぐらいで、もちろん木製でプレイヤー本体と(スピーカーではなく木製)ホーンが一体化しているモノです。大きさは…結構大きいですよ。このプレイヤーの中にゼンマイ式のプレイヤーが組み込まれていて、針は一回ずつ使い捨てにする鉄針(贅沢ですね)を使用して、その鉄針で拾った音は、タンス型の木製ボディの中で自然に増幅されて鳴らされます。その増幅方法は、ピアノやヴァイオリンなどと同じ、空気と反響板を使った増幅方法だったりします。

 このタンス型プレイヤーで鳴らされたSPレコードの音が、とても良いのですよ。もちろん、その音を音響科学的に分析したら、大したことないかもしれませんが、ヒトの耳で聞くと、極めてやさしくのびやかに聞こえるのです。復刻盤CDだと、ノイズまみれで鼻づまりのような音で聞こえるカルーソーの声が、豊かに美しく聞こえるんですね。

 私が聞いたタンス型プレイヤーは、当時のハイエンドマシンだったそうで、とても高価なプレイヤーで、日本にはごく数台しか入ってこなかったのだそうです。

 私がなぜ、そんな貴重なプレイヤーでSPレコードを聞くことが出来たのかと言うと…当時、私、SPレコード愛好会に入っていたからです。無論、私自身はSPレコードも、プレイヤーも持っていませんでした。だって、ただの“音楽好きな貧乏な若者”でしたからね。

 なので、お金持ちの会員の皆さんのお宅にお邪魔させていただいて、貴重なコレクションを貴重なプレイヤーで聞かせていただくという小判鮫的な至福の時を過ごさせていただきました。

 それにしても、一体、アレはなんだったのでしょうか? 当時のSPレコード再生システムは、今のオーディオとは全く異質のものだったと思います。おそらく、家具型のプレイヤーは、今の視点から見れば、オーディオシステムと言うよりも、楽器だったんだと思います。つまり、大きな木製楽器。ピアノのアクションと弦の代わりに、SPレコードとそのプレイヤーを組み込んだ楽器…だったんだと思います。

 そんな、楽器っぽいプレイヤーだったからこそ、そこに吹き込まれた録音が、音楽的に聞こえたのかもしれません。

 当時の録音は、電気を全く使わなかったそうです。ラッパ管に向かって歌手が歌い、そのラッパ管の先に針がつながっていて、その針で、グルグル回るレコード盤に直接溝を刻み込むわけです。そうやって作ったレコードを再生するときは、その行程を全く逆にするかのように、グルグル回るレコード盤に針を下ろし、その針の振動をラッパ管などで空気的に増幅するわけです。

 ああ、懐かしいなあ。

 当時、そのタンス型プレイヤーで聞かせてもらった数々の音源(ほとんどが歌手たちの歌唱でした)は、今でも私の心に強い印象を残しています。

 不思議なことに、直接、タンス型プレイヤーで聞いた音は素晴らしいのに、その音をカセットテープ(当時の家庭用録音機はカセットテープだったんです)に録音して聞くと、とても聞けたものじゃなかったですね。ノイズのりまくりだし、音そのものも貧弱極まりなかったです。

 実に不思議な思い出です。

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コメント

  1. Yokusia より:

    すとんさん、こんにちは。

    SPは聴いたことがありませんが、LP時代なら知っています。
    音の広がり、豊かさ、立体感、その場の空気感が保たれていて、
    CDよりずっと自然な音でした。

    (CDも最高級機器で聴けば、また違うのかもしれませんが・・・)

    ノイズがない=いい録音、というわけではないですよね。

  2. Yokusia より:

    SP、今の時代では難しいですが、機会があれば聴いてみたいです。

  3. すとん より:

    Yokusiaさん

     LPレコードなら、今もたくさん持ってます(笑)。あと、ドーナツ盤ことEPレコードもたくさんありますよ。

    >ノイズがない=いい録音、というわけではないですよね。

     そうなんですよ、でもやっぱり、ノイズって耳障りですから、無い方がよいです。

     私が最初にCDを聞いた時、何もノイズがないところから、いきなり音楽が始まるので、いつもいつもヒヤヒヤドキドキしていた覚えがあります。だって、音楽を聴くって、それまでは、まずノイズを聞いて、ココロを構えて、それから音楽が鳴り出すというプロセスでしたが、それがいきなりの音楽開始ですからね。ビックリしたものですよ。

  4. Velvettino より:

    タンス型プレイヤーを実際に聴かれた経験があるなんて、とてもうらやましいです。
    生演奏のように、体に響いてくる音波を感じるような経験だったのでしょうか。
    「レコードプレイヤーで再生した音をそのまま素直に録音した」CDは、ほぼ確実に最高品質の”タンス型プレイヤー”からプロが録音しているのでしょうが、おっしゃる通り、実際には聴くに苦しい代物になってしまいますよね。
    それが生(?)で聴くとそんなに素晴らしいとは!
    100年前の技術でもレコード産業が成り立った理由が分かる気がします。
    興味津々で読んでしまいました!!

  5. すとん より:

    Velvettinoさん

    >生演奏のように、体に響いてくる音波を感じるような経験だったのでしょうか。

     なんと言うのかな? 音響的には全然ダメだし、ホンモノとはかなり違った再生音だったと思うけれど、でも、今そこで歌っているような、妙な生々しさを感じました。音響的には全然リアルではないのだけれど、それでも妙に感動的な音なんですよ。

     果実のミカンに例えて言えば、生演奏がもぎたての新鮮なミカンだとしたら、今のCDは流通経路に乗って運ばれてスーパーの店頭に並んでいるミカンで、SPは缶詰のミカン。それくらいの差があると思います。確かに缶詰のミカンは、もぎたてのミカンやスーパーのミカンとは全然違うし、リアルでもないけれど、あれはあれで美味しいし、生のミカンにはない甘みと味わいがあるでしょ?

     たぶん、スピーカーを使わずに、音を再生する…ってところが、タンス型プレイヤーのポイントなんだろうと思います。

  6. 椎茸 より:

    金沢に旅行に行ったとき、通りすがりで「金沢蓄音機館」に入ったことがあります。
    タンスっぽい蓄音機は初めてみました。ラッパも大きかったですねー。
    SPレコードを、各種名器で聴き比べるという時間も設けられており、聴いてみましたが、たしかになかなかの音でした! 

  7. すとん より:

    椎茸さん

     面白そうなところに行かれたのですね。金沢には行った事ありますが、気づきませんでした。私も行ってみたかったりします。

     SPレコードって、再生するプレイヤーで大きく音が変わりませんか? そこがCDとは違うところで、CDは高級オーディオマシンでも、ラジカセでも、本質的に同じ音がするわけですが、SPは(LPにもその名残はありますが)再生するマシンのグレードが直接的に音に反映するわけで、そりゃあ、オーディオが趣味になるわけです。

     ま、今の若い人には通じない話ですね(笑)。

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