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女性の歌声にも色々あるものですね

 私が愛読しているブログの一つに、ヴェルヴェッティーノさんの『ヴェルヴェッティーノのBAROQUE紀行』というブログがあります。そのブログで、先日、女性テノールに関する記事がアップされまして、それを読んで以来、私も女性テノールについて、あれこれ考えてみました。

 まずは四の五の言う前に、ヴェルヴェッティーノさんも取り上げた、女性テノールのルビー・ヘルダー(Ruby Helder)の歌声を聞いてみましょう。曲は"Songs of Araby"です。

 私がこの歌声を始めて聞いた時に思ったのは『まるで男声。いや、この人、実は男性なんじゃないの?』と言う事です。

 不思議に思ったので、ルビー・ヘルダーについて、ちょっとググちゃいました。どうやら、一応、普通の女性のようです。1890年3月3日の生まれですから、カルーソーの約一回り下で、ジーリと同じ年(ってか、彼女の方が二週間ばかりお姉さんみたいですね)と言うと、どの時代の人が分かりますね。身長は約160cmですから、白人女性としては平均的な身長でしょう。イギリス生まれで、18歳でテナーとしてデビューして、23歳で渡米し、アメリカで活躍し、30歳で結婚し、45歳で引退、48歳でアルコール依存症で亡くなっています。

 女性として生まれたけれど、ホルモン疾患とかがあって、こんな声なのかな? って最初は思いました。

 と言うのも、このヘルダーの声は、私が知っている女性テノールの声とはあまりに違っていたからです。

 合唱をやっていた頃、たまに女性テノールの方々とお会いしました。おそらく、元々はアルトパートを歌っていた方なんでしょうが、加齢によって声域が下がり(女性は加齢と共に声域が全体的に下がる傾向があります。男性の場合は、逆に声域が上がっていくのか普通です)、アルトではすでに高くて歌いづらくなったので、テノールに“下りて”くるというパターンです。

 ですから、声域的にはテノールなんですが、声質的には、全く女声です。なので、一緒に歌っていて、実はイヤでした。だって、異質なんだもの。妖しいでしょ? 女性はいくら声域が下がっても、やっぱり女声であって男声とは違うんだなって思ったものです。

 また、流行歌手に和田アキ子さんがいらっしゃいますが、彼女の声域は、ほぼバリトンなんです(だから、和田アキ子のモノマネは、男性のモノマネ師がやるんですね)。あるテレビ番組の企画で、彼女が「カルメン」の「闘牛士の歌」を歌っているのを聞いたことがありますが、実に見事に格好良く歌われていましたが、やはり女声の歌にしか聴こえませんでした。ここでも、やはり、声域が同じでも、男女では声の質が大きく異なるものだなあって思ったものです。

 それに逆のパターンで考えても、やっぱり変でしょ? この世には、男性だけど女声並の高音で歌う歌手がいます。さすがにカストラートは今の時代にはいませんが、メールアルトとかカウンターテナーとかソプラニスタなどと言われる人がいて、活躍しています。彼らは、声域こそ女声並ですが、声質は明らかに女声とは異なっているじゃないですか?

 それどころか、たとえ子どもでも、男の子と女の子の歌声は、全然違います。やはり、男女の声質の違いと言うのは、歴然として存在している…と私は思ってました。

 ですから、ルビー・ヘルダーの歌声を聞いた時には、すごい違和感を感じたのでした。「この人、本当に女性なの? 声はまるっきり男声でしょ。性を偽っているんじゃないの?」

Rubyhelder  でも、彼女の経歴を見たり、写真を見たりしていると、ごく普通の女性に見えますよね。ホルモン疾患があるような外見ではありませんし、実際、結婚をされているのですから、少なくとも、肉体的にはホンモノの女性だったはずです。

 普通の女性に、こんな声が出せるの? 高音は訓練次第でいくらでも出せると、よく聞くけれど、低音は声帯の物理的な性能の限界があって、いくら頑張っても、そんなに低いところまでは出せないはずだし、女性でも大柄な人なら低音で歌うことも可能だろうけれど、ルビー・ヘルダーは低音をバリバリ出せるほど大柄な女性ではありません。(ちなみに、和田アキ子さんの身長は174cmだそうです。男性並の身長があるわけですから、当然、声帯も男性並の大きさであっても不思議ないので、あの低音で歌えるのでしょう。)

 なんか、納得できません。

 そんなモヤモヤした気持ちを持ったまま、ある日、YouTUBEで興味深い画像を見つけてしまいました。それは女性テノールならぬ“女性バリトン”の歌声です。これも、四の五の言っても仕方ないので、聞いてみてください。

 コメディー番組からの画像のようで、あっちこっちに笑いが入ってますが、歌っている本人は超マジメに歌ってます。

 この人はアイスランドの人で、Hallbjorg Bjarnadottirと言うそうです(なんて読むのでしょうね?)。実に見事なバリトンボイスで、声だけ聞くと、全然女声的ではなく、男声のようですが……この人の話し声は、ちょっとだけ聞けますが、ごく普通の女声の話し声ですよね。この人、バリトンも歌いますが、テノールやアルトはもちろん、ソプラノ歌手として、コロラトゥーラまで歌いこなしていたそうなんです。つまり、半端なく広い音域を誇る歌手だったそうです。

 信じられませんが、こんな方もいるんですね。そう考えると、実はルビー・ヘルダーも、歌声はともかく、話し声は、ごく普通のかわいい女声だったのかもしれませんね。

 なんかもう、私、分からなくなりました。女声にも、色々あるんだなあって思いました。常識に捕らわれて、モノを考えてはいけないんだなって思いました。

 いやはや、なんとも、不思議不思議です。

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コメント

  1. おぷー より:

    おっもしろい!私の喋り声、かなり低いのですが、将来この路線を目指してみましょうかね?[E:catface]

  2. すとん より:

    おぷーさん

     面白いし、興味深いですね。人間のカラダってどうなっているんでしょうね? 女性が、こんな音域で歌えちゃうなんて、驚きです。まあ、なにかコツのようなものでもあるのでしょうが、それにしても不思議です。日本だと、合唱団体のほとんどが女性合唱団なので、これくらいの低音が歌える人がいたら、ハーモニーに厚みが出て、大歓迎でしょうね。どこを歌うの?って…そりゃあ、アルトパートの1オクターブ下でしょ(笑)。バリトンの音域があれば、なんとかなるでしょう。

  3. Velvettino より:

    すとんさん、こんにちは。お邪魔します。
    私のブログにリンクを貼って頂きありがとうございます!
    その上、愛読しているなんて書いて頂き、恐縮です。

    そしてさらに、ルビーさんをご紹介頂きありがとうございます!!!
    彼女の歌を気に入ってくれる人が増えると嬉しいです!

    そしてご紹介いただいたコメディ番組、
    以前ルビーさんのCDを買う前に彼女の歌をyoutubeで聴いていた時に、
    関連動画として表示されましたので聴きました。
    60年代っぽい、やや人種差別を感じさせる番組ですが、
    私も驚いたのは、この人の歌声以上に、話すときの普通の女性の声のほうでした。

    そして更に、ソプラノまで歌えたなんて・・・。
    知りませんでした!
    すとんさんの検索力に脱帽でございます。
    今まで、地声と裏声と両方使えば男のほうが音域が広く、
    声質もバリエーションに富んで有利だと思っていましたが、
    このような女性歌手がいたとは・・・!

  4. すとん より:

    Velvettinoさん

     愛読しているのは本当ですよ。なかなかコメントできずに申し訳なく思っています。

     ルビーさんは不思議な歌声ですね。彼女の歌声は私には男声にしか聞こえませんが、女性バリトンのHallbjorg Bjarnadottirさんの例もありますから、ルビーさんの話し声は普通の女声なのかもしれません。と、なると…

    >今まで、地声と裏声と両方使えば男のほうが音域が広く、声質もバリエーションに富んで有利だと思っていましたが、

     私もそう思っていましたが、そうでない可能性もあるわけです。もちろん、女性テノールや女性バリトンは、今のところは珍しい存在でしかありませんが、今後はどうなるか分かりません。発声法の進歩で女性でもバリトンを出せる人が増えてくると、元々、高音は女性の方が得意ですから、女性の方が音域も広く、声質も豊かになります。それはそれで、面白いでしょうね。

     それにしても、世界は広いです。色々な女性歌手がいるもんなんですね。

  5. すずめおばさん より:

    最初の動画を聴いた途端、「可哀想・・」なんて言ってしまいました(^^;)
    女声なのに不思議な声が出せる人がいるんですね。

    でも、私も以前はカラオケで「宇宙戦艦ヤマト」をよく歌ってましたよ。
    さらばー!地球よ~~!と思いっきり喉声で。
    この動画の女声のように、男性特有の甘い声が出せるのは、ちょっと羨ましいかも。

  6. すとん より:

    すずめおばさん

    >最初の動画を聴いた途端、「可哀想・・」なんて言ってしまいました(^^;)

     いや、その気持ち分かります。歌声がこれなら、普段の話し声もこのくらい?って思ったら、そりゃあ、ちょっと“可哀相”かも。なまじ美しい人だけに、容姿と声のギャップが激しすぎますわな。でも、歌声がコレでも、話し声は別の可能性は高いので、たぶん大丈夫だと思います(確信ありませんが、たぶん)。

    >さらばー!地球よ~~!と思いっきり喉声で。

     ノド声はマズいですが、地声と言うか、胸声をきちんと訓練して使い物にできるなら、女性テノールとか女性バリトンとかになれるのかもしれません。…なかなか、そこにチャレンジする人は少ないですね。ポピュラー発声だと、女性も胸声使いますが、でもやはり、女性らしさを残しますからね…。

     やはり、男性は男声らしく、女性は女声らしい声で歌えるのが、たぶん、無難でしょう。でも、あえて、その逆を行くのもありだし、プロならなおさら…ですね。

     私は以前、よくカラオケで、裏声使ってオリビア・ニュートンジョンの歌を歌ってましたよ(笑)。

  7. Velvettino より:

    すとんさん

    自分のブログをはじめる前から、”老犬ブログ”の存在は知っておりましたので、
    そんなブロガーの方に愛読して頂いていたなんて、感無量でございます。

    それなのに読むだけでコメントせず、こちらこそ申し訳ないです。
    常連の方がたくさんいらっしゃるのに、横から口をはさむのも、と思い・・・。
    去年5月頃の声楽ブログなんて、すとんさんは批判されるようなことを書いているとは思えないのに、、、
    と忸怩たる思いもありましたが、無駄な横槍入れて、コメント欄炎上させたくなかったので・・・

    すとんさんが、ルビーさんの紹介記事を書いて下さったお陰で、
    ほかの方の感想も読めて興味深かったです!

    発声法の進歩で、女性テノールが増えたらすごく楽しいだろうなあと思います。

  8. すとん より:

    Velvettinoさん

     私の方が少しだけ早くブログを始めてただけの話ですって。そんなに感動する程の事じゃないよ(笑)。

     それにしても人間って不思議ですね。物理的な限界があるはずなのに、女声テノールや女声バリトンは、それを越えているんですから…。きっと、なにか“ワザ”があるんでしょうね。

     私も女声の低音歌手が増えるのは、大歓迎です。人の声を、ソプラノ~バスまでの、4パターン(あるいは6パターン)に分けて、そこに自分の声種をはめていくのって、ちょっと不自由だなって思いますし、それだけじゃツマラナイと思います。自分の素の声をキレイに磨き上げていった声が、そのパターンに入らなくても、それはそれでいいし、その声でなければ表現できないものがあるなら、なおさらいいと思ってます。

     だって、音楽って、自己表現でしょ? もっと自由なはずでしょ? 

     例えば、女声バリトン、女声テノール、カウンターテナー、ソプラニスタの混成四部合唱があったら、聞いてみたいって思うでしょ? でしょ、でしょ?

  9. Velvettino より:

    思う思う!!
    素晴らしいですね!!

    私はいつも自分の感覚がオカシイと気にしている人間なので(苦笑)、
    すとんさんの文章を読んで嬉しくなりました!

  10. すとん より:

    Velvettinoさん

     私は“扉の向こう側”が気になるタイプの人間なんです。だから、知らない世界をのぞいてみたいし、知らない人とは知り合いになりたいんです。経験のない事は、是非チャレンジしてみたいし、よく知っている事でも違う結果が得られるなら、何度でもトライしたいんです。

     “好奇心が強い”とも言えますが、単純に“欲深”なだけだろうと思ってます。だから、一つの事柄を究めるスペシャリストではなく、色々な事に首をつっこむゼネラリスト志向なんですね。

    >私はいつも自分の感覚がオカシイと気にしている人間なので

     オカシイって事は無いでしょ? もしかすると少数派かもしれないけれどネ。人間って、色々な側面を持っているわけだから、ある一面が少数派であっても、別の側面は多数派であったりするわけだから、他人と違っている事なんか、気にしていても仕方がない。

     私は、有益/無益とか、善/悪、是/非などの対立軸でモノを考える事はあっても、多数派/少数派では考えません。だって、少数派の方が、楽しかったりするでしょ?

     いい年したオッサンが、日々、歌うたって笛吹いて…なんて、オッサン界では見事に少数派だけれど、でもいいんだ。だって、楽しいもん。私が楽しいと、私は幸せだから(笑い)。

     それにしても、女声バリトン、女声テノール、カウンターテナー、ソプラニスタの混成四部合唱なんて、本当に聞いてみたいなあ。

  11. 書き逃げ より:

    動画を見て可哀想なんて思う人がいてびっくり。そんなこと思う人の方が可哀想に思えた。
    地声が男性並みに低い女性は結構いるけど、小さい時にそれが嫌で話し声を高くしてるって人がほとんど。だから逆にそれを強みにして歌ってればこの声が出せるのも不思議じゃないのかも。
    男性より女性のテノールの方が綺麗に聞こえて好き。

  12. すとん より:

    書き逃げさん、いらっしゃいませ。

     お名前を入れていなかったので、こちらで勝手に“書き逃げ”さんと呼ばせていただきます。一応、書き込む時に、お名前を入れていただくのは、このブログの規則ですので、よろしくお願いします。

     さて、

    >そんなこと思う人の方が可哀想に思えた。

     高みからの高慢ちきなご発言、感謝します。

     自分とは異なる意見の持ち主と出会った時に、びっくりしたり、感心したりするのは、人の常ですから、それは問題ありません。しかし、自分とは異なる意見の持ち主を“可哀想”と思われるのは「あんた、一体何様のつもりよ!」と思われるだけですので、ご発言は慎重にされた方があなたのためだと思いますよ。ここは、社会主義国家でもなければ、カルト教団でもないのですよ。

     実際、女性テノールは、いくら美しい声でも需要はありません。少なくともクラシック声楽の世界では、その需要はほぼ皆無と言って良いでしょう。それを以って“可哀想”と思うのは、歌を趣味としている人なら、ある意味当然です。プロなら、その特殊性を以って稼ぐことはできるかもしれませんが、それでもごく一般的な女性のために書かれた、数千数万の名曲の数々は歌えないわけですから、やっぱり可哀想と思われても仕方ないでしょうね。

    >地声が男性並みに低い女性は結構いるけど、

     たいていの成人女性の地声は、男声とは変わりません。生物学的には、女声と男声の声の高さの平均的な違いは、約1/2オクターブほどですから、書き逃げさんのおっしゃるとおり、相当数の女性の地声は男声並と言っちゃえば男声並なんです。

     だから、クラシック声楽では、男声と女声の違いを際だたせるために、それぞれの性に応じて発声方法を変えているのです。男性は地声を中心に、女性は裏声を中心に歌うわけです。それを否定されるのなら、クラシック声楽はできませんし、楽しめません。

     女性の歌唱を地声歌唱しか肯定されないのであれば、クラシック声楽ではなく、カラオケの世界へどうぞ。あちらの世界なら、地声で歌われている女性歌手の方々が、少なからずいらっしゃいますので、きっと楽しめますよ。

    >男性より女性のテノールの方が綺麗に聞こえて好き。

     好き好きは、その人の好みですから、別にかまいませんが、いくら同じ音域でも、性が違えば、声色が全く違います。女性テノールは男性テノールの代わりにはなりません。それは、男性ソプラノが女性ソプラノの代わりにはならないのと同様です。

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