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声楽は安易に習っちゃダメ

 昨日までは子どものピアノの話をしましたが、本日はオトナの声楽の話をします。

 漠然と…歌をもっと上手く歌えるようになりたい…と思って、教室のドアを叩くとします。どこの教室のドアを叩きますか? さすがに、民謡教室とか詩吟教室は、ちょっと違うって分かるので、これらの教室のドアを叩く人は、さすがにいないと思います。そういう意味では、民謡教室とか詩吟教室と言うのは、最初っからきちんとターゲットが絞られているので、教える方も学ぶ方も迷いがなくて幸せですね。

 たいていの人は、あれこれ教室を物色して、いくつかの教室を候補に上げるでしょう? その教室は…ボーカル教室ですか? カラオケ教室ですか? それとも、愛唱歌の教室ですか? 歌声喫茶の教室でしょうか? それとも、ヴォイストレーニングの教室ですか? 声楽の教室ですか?

 実は上記の選択肢は、よく似た教室を2つずつペアにして、それぞれ3つのジャンルの教室を列記したものです。

 最初のボーカル教室とカラオケ教室は、いわゆるJ-POPとかロックとかポップスとか歌謡曲とか演歌など、我々の身近な流行歌や定番の名曲の歌い方を学ぶ教室です。次の愛唱歌や歌声喫茶のグループは、歌を習うと言うよりも仲間づくりのための教室で、音楽ジャンル的には“学校の音楽の授業”的な歌、つまり愛唱歌…童謡や唱歌、世界の民謡などを習います。最後のヴォイストレーニングと声楽の教室が、いわゆるオペラや歌曲などのクラシック系の歌(ずばり、クラシック声楽です)を学ぶ教室です。

 この3つのジャンルは、実は全く違います。だってね…演歌と唱歌とオペラには共通点なんて、あってないようなモノでしょ? 演歌を上手に歌えるようになりたいのに、オペラの勉強をしても、それは全くの筋違いだし、オペラを歌いたいのに唱歌ばかりを歌っていてもラチがあかないわけです。自明の理です。

 だから、自分はどんな歌が歌いたいのか、まずはそれを自分で確認して、それから教室のドアを叩きましょう。うっかり、違うジャンルの歌を教える教室のドアを叩いてはいけません。それは学ぶ方も教える方も両方にとって悲しいミスマッチだからです。

 で、ここで陥りやすいのが、ヴォイストレーニングの教室です。普通の人の感覚なら、ヴォイストレーニングと聞けば『ヴォイス(声)をトレーニング(練習)する』教室だと思って、発声の基礎を徹底的に教えてくれる教室ではないかと錯覚するわけです。で、ここに通えば歌が上手くなると誤解してしまうのです。

 実はヴォイストレーニングの教室に言っても、必ずしもお望み通りに歌が上達するとは限りません。と言うのも、実は、ヴォイストレーニングの看板を掲げて商売をしている先生って、たいていクラシック声楽の先生で、そこでやるのは、クラシック声楽のためのヴォイストレーニングなのです。歌全般に渡るトレーニングをするのではなく、クラシック系の歌を歌うためのトレーニングをする教室なのです。で、その実態は、だいたい声楽教室だったりするわけです。まあだいたい、声楽の基礎クラスの事を『ヴォイストレーニング』と呼ぶのだと思っていても、間違いじゃないのです。

 たしかに、クラシック声楽のジャンルだけれど、ヴォイスをトレーニングする事に間違いはないので、別に看板に偽りがあるわけじゃないのですが、カラオケがうまくなりたいだけの、何も知らない初心者が、うっかり間違えてドアを叩いてしまいがちな、ミスリードを誘うネーミングであることは否定できません。

 「別に、クラシックはすべての基礎だから、カラオケが上手になりたいなら、基礎をしっかり学ぶという意味でも、最初はヴォイストレーニングの先生に習ってもいいんじゃないの?」

 これが楽器を学ぶのならば、正しい答えです。器楽では、クラシックであろうと、ポピュラーであろうと、楽器の基礎テクニックは共通していますし、基礎は基礎であって、最初はどのジャンルであっても、基礎を真面目にしっかり勉強すれば上達します。

 でも、歌は、ジャンルごとに発声が異なり、当然、基礎も異なります。

 ですから、自分が学びたい音楽ジャンルとは別のジャンルの歌の基礎を学んでしまうと、元々歌いたかった音楽ジャンルの歌が上達しないどころか、逆に上達から遠ざかってしまうし、下手をすると歌えなくなることだってあります。

 特にあなたが女性ならば、なまじクラシック声楽を学んでしまうのは、かなり危険です。なぜなら女性がクラシック声楽の基礎を学んでしまうと、カラオケが上手になるどころか、カラオケで歌えなくなってしまう事が多々あるからです。

 これ、ほんと。マジな話です。実際、クラシック声楽を学んだ女性歌手で、カラオケが苦手な人って、掃いて捨てるほどいるんですよ。それくらい、カラオケの発声と、クラシック声楽の発声は、全く違うからです。全然別種の、ある意味、真逆な発声なのです。たとえば、クラシックでダメと言われる地声や“胸に落ちる声”をカラオケ等ではフル活用しているわけだし、クラシック声楽のままで歌えるカラオケソングなんて、かなり限られているしね。

 同じ歌とは言え、違うものは違うのです。それは同じイヌでも、チワワとシベリアンハスキーはかなり違うでしょ? そんな感じです。でも、チワワもシベリアンハスキーも、どっちもワンちゃんだし、ペットにするなら可愛いでしょ? 可愛いと言っても、その可愛さは全然違うわけだし、日々のお世話の仕方だって、かなり違うわけです。

 歌も同様です。

 歌を上手になりたいと思ったら、教室のドアを叩く前に、まず自分がどんな歌を歌いたいのかを、きちんと見定めてから教室のドアを叩きましょう。安易に学び始めてはいけません。特に名称がわかりづらい“ヴォイストレーニング教室”は要注意です。

 繰り返しますが、ヴォイストレーニングはクラシック声楽の教室、つまり独唱を学ぶための教室です。自分が、カラオケを上手になりたいとか、合唱団員としてスキルアップをしたいとか、そういう願いを持っているなら、ヴォイストレーニング教室はお門違いです。まなじヴォイストレーニングの教室で、クラシック声楽の発声をしっかり学んでしまうと、カラオケは歌えなくなるし、合唱からは縁遠い声になってしまいます。

 カラオケの上達を願うなら、カラオケ教室とかボーカル教室がいいと思うし、合唱団員としてのスキルアップを目指すなら、いっそソルフェージュ系の教室で基礎を学んだ方が良いかもしれません。あくまでも、ヴォイストレーニングの教室は、クラシック声楽の基礎を学び、やがては、オペラとか歌曲とか、それらの歌を学びたいという初心者の方々のための教室なのですよ。

 ちなみに、クラシック声楽って、楽しいですよ。クラシック声楽は、娯楽であり芸術であるのは当然として、実は声のアクロバットでもあるんですよ。私は、カラオケよりも、ずっとずっとクラシック声楽の方が楽しいなあって思ってます。だから、一人でも多くの人がクラシック声楽を学んで欲しいと思ってます。だからこそ、うっかりドアのノックしてガッカリして失望して欲しくないのですよ。

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コメント

  1. 椎茸 より:

    芥川賞作家の羽田圭介さんが、まさに、ポップス系のトレーニングをしたくてボイトレ教室に行ったら実は声楽教室だった、という経験をされたようです。今では声楽が好きになったそうです。

    ところで、昨日の記事についてですが、確かにピアノって、まともに弾けるようになるまで時間がかかりますね。それに楽器も場所をとるため、持ち運びができないという欠点があります。
    そこで! クラシックギターなどいいんじゃないかなあ…と思いました。音楽の基礎は身につきそうだし、成長してアコギやエレキに転向したいときも役に立つと思います。

  2. ドロシー より:

    「ヴォイストレーニング」といえば、講師とか人前で話すビジネスマンのプレゼン向けの発声指導をしてくれる先生もいます。こういう方は大抵、元アナウンサーであったりします。
    もっとも、混同されることはないでしょうが・・・。

    困るのは、「ソルフェージュ専門」の大人向け教室がないことですね。大抵はピアノか声楽が専門の先生が音大受験対策などでやっていることが殆どです。
    現代音楽の合唱でアルトパートなんて歌う時はマストだと思うのですけどね。

  3. しるべ より:

    しるべは30代の頃から、声楽の歌い手としてコンサート活動に燃えていました。
    その頃、小学生だった娘とその友達とカラオケに行きました。
    「おばちゃん、歌へただね」って、その友達に言われて、「おばちゃんはプロの歌手だよ!!」って、本気で怒ったことがあった~(^-^;
    それ以来、カラオケは家族としか行きません。その時はアニメ声で歌ってます(汗)

    娘は20代までは、声楽とカラオケ(裏声と地声)と両方使い分けて歌っていました。
    でも30過ぎたら、そういう無謀なことはいっさいやりませんで、カラオケにも行きません。声を大切にしております。
    娘は新宿に舞台俳優さんのボイストレーニングに行っていますが、どんなレッスンをしているのか・・・??今度聞いてみますけど、多分声楽の発声だろうなぁ・・。でも、質問とかされたら、どんどん答えら実践できそうです。何しろ生まれた時からカラオケがあった世代だから、なんだっていけちゃうんではないでしょうか??いわゆるミックスボイスですね。

  4. すとん より:

    椎茸さん

     羽田さんのような経験をされた方って、案外、たくさんいるんじゃないかしら? それで今まで知らなかったクラシック声楽の魅力に取り憑かれてくれるのなら、私は嬉しいです。でも、やっぱり、自分の期待と違ったモノが与えられた場合、ひとまずそれを受け入れられる人ばかりとは限りませんからね。やはり、看板はなるべく分かりやすく正直であるべきだと思います。

     それにしてもピアノは、ほんと、習得するのに時間が掛かりすぎます。これを習い事でやろうとしている事自体が無茶なのかもしれませんね。

     そうそう、羽田さんと言えば、バス旅のロケがあったそうですね。放送は…番組改編期かしらね?

  5. すとん より:

    ドロシーさん

     いわゆる『話し方教室』ってやつですね。あと、演劇関係の人がやっている、いわゆる『演劇教室』のヴォイストレーニング教室もあります。とは言え、話し方教室とか演劇教室は、都会に行かないとなかなかお目にかかれません。地方のヴォイストレーニング教室は、たいていクラシック声楽系じゃないかな?

     私、時々、話し方教室に通うっかなって思うことがあります。話し言葉も磨きたいんだよね。なかなか機会がないのだけれど、都会に行って、集中講座でも受けてみようかしら…なんてね。

     大人向けのソルフェージュ教室って…ないですね。音大受験向けなら無いわけないのですが、そういう教室は趣味の大人にはハードル高すぎますからね。

     私は、フルート習いながら、H先生にソルフェージュのようなものを叩き込まれています。エルステユーブンゲンを使ったレッスンが、いわばソルフェージュの基礎訓練のような役割をしています。おかげさまで、だいぶ楽譜を読むのが楽になりましたよ。歌では…ソルフェのような事はやりませんよねえ…。

  6. すとん より:

    しるべさん

     なんでもそうですが、ある程度の上級者になると、色々と応用が効くようで、しっかり声楽の勉強をした方でも、カラオケで上手に歌ったり、合唱で活躍されたりもできるようです。

     問題は、オトナスタートのアマチュアさんたちです。一生懸命やっても、なかなか上達しないし、いつまで経っても初級レベルだったりします。まあ、楽しみながらやっているので、いままでも初級でも良いと言ったら良いのですが、初級であるだけに、色々と不器用なんです。

     クラシック声楽とカラオケの両立って…ノドの使い方が全く違いますから、ほんと難しいんだろうって思います。

     私は男声ですから、クラシック声楽とカラオケの両立は比較的容易なので、その点は恵まれていると思います。実際、ヨーロッパあたりじゃあ、オペラ歌手とロック歌手の両方でプロをやっている人も少なからずいるわけで、そこは男性、いや男声の特権かなって思ってます。

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