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洋銀系フルートは、安すぎるのが問題です

 …なんて、書くと「あんたは、どこの金持ちだ!」と言われそうですね。確かに総洋銀(この場合の洋銀は、洋白や白銅も含みます)のフルートでも国産だと、5万円以上はします。一部の部材を銀に替えた楽器(リップ銀とか頭部管銀とか管体銀とか)では、10万円以上、いや20万越えのものだってありますから、それを“安すぎる”と言い切っちゃうのは、確かに非常識で、金持ち発言と取られても仕方がないと、さすがに私も思いますが、でも、総銀フルートが中級者用のもので、50万円前後から買える事を考えると、半額程度やそれより安価に買える、洋銀系フルートの値段って、同じ楽器として、安すぎると思いませんか?

 ものの値段の決め方と言うのは、色々ありますが、フルートの場合は、大雑把に言って、(「材料費」+「技術料」+「広告宣伝費」)+「流通&販売にかかる経費」で、おおよその値段が決まっていると思われます。

 「流通&販売にかかる経費」はともかくとして、「広告宣伝費」は、メーカーごとに違うので、広告宣伝に力を入れているメーカーはこの部分が膨らみ、さほど広告宣伝に力を入れていない/入れられないメーカーは、他のメーカーと比べて、その分だけ比較的安価に楽器を販売できます。ま、広告宣伝に力の入っているメーカーは、一種のブランドメーカーでもありますので、この部分はブランド代のようなものでしょう。

 なので、同一メーカーの場合、楽器のモデルごとの価格差は、主に「材料費」と「技術料」で決まるわけです。

 さて、一般的に言って、洋銀系フルートはシルバーやゴールドのフルートと比べて、安価で庶民にやさしい値段になっています。貴金属である銀や金を材料にせず、銅とニッケルの合金である洋銀を主材料として作られているので、素材の値段的に考えても、妥当な範囲で安価に設定されているのではないかと、素人的には考えます。

 確かに貴金属である銀と、一般非鉄である洋銀では,値段が違うのは事実です。フルートって一本だいたい500gですから、それらの金属の500gのお値段をザックリ調べてみたところ…

 銀500gで約4万円ですが、洋銀500gは、銅300g(約270円)+ニッケル200g(約480円)と仮定すると約750円です。

 4万円と750円じゃあ、50倍以上の価格差がある! なんてビックリしちゃいけません。実はその価格差は、3万9千円程度しかないのです。つまり、材料以外を全く同じように製作した場合、総洋銀のフルートと、総銀のフルートの価格差は4万円程度が妥当という事になります。

 総銀のフルートが50万円ならば、総洋銀のフルートは46万円になっても不思議はありませんが、実際の総洋銀フルートは10万円以下です。つまり、総銀と洋銀系のフルートの価格差は、材料費以外のものの影響が大きいって事です。

 “材料費”以外の影響って…ずばり“技術料”ですよ。“技術料”を安くあげるという事は“職人さんの人件費”を安くあげているわけで、その時点で、総銀フルートと総洋銀フルートは、決して同じようには作られていないって事が分かります。

 ちなみに、職人さんの人件費と言うのは…

1)熟練職人や親方クラスの職人さんほど人件費が高く、新米や修行中の職人さんは安く、職人さん以前の単なる工場労働者さんはもっと安くなります。

2)日本、アメリカ、ドイツ、フランスなどに在住するフルート職人さんの人件費は高く、日本以外のアジア在住の職人さんのそれは安くなります。

3)手作業部分が多く時間をかけて丁寧に製作しているものほど人件費はかさみ、機械生産をメインに置いた大量生産品では人件費は安く上がります。

 つまり、洋銀系フルートの価格が安い理由は、安い人件費でまかなっているからで、それは、人件費の高い、腕のいい職人さんが製作に関わっていなかったり、アジア諸国で製作されていたり、工場労働者さんたちによる大量生産品だったり…するわけです。まあ、たしかに、そうやって作っていれば、日本人の熟練工が丁寧に時間をかけて作った楽器とは、大きく値段が違って当たり前だよねえ。

 そういう、企業努力のおかげで、洋銀系フルートは、総銀フルートと比べて、ビックリするくらい安い値段で市場に供給されているわけです。安い値段で供給することで、フルート入門のハードルを下げ、フルート愛好者の裾野をひろげ、フルート人口の拡大に寄与しているわけです。だから、安い楽器が供給されることは、悪いことではなく、むしろ良いことだと、私は思います。

 でもね、世の中って常に、あざなえる縄のごとく、良い面もあれば、そうでない面もあるわけです。

 フルートを始めてある程度の時間がたち、初心者の域を脱したら、最初に買った入門楽器ではなく、今の自分に合った楽器に買い換えたいと、誰もが思うものです。そして、皆さん、総銀フルートとかゴールドフルートとかに買い換えるわけです。

 ちょっと待ってください。

 本来、楽器と言うのは、奏者とのバランスで選ばれるものだと思います。総銀が似合う奏者なら総銀を選べばいいし、ゴールドが似合うならゴールドを選べばいいのです。なぜなら、奏者一人一人が持っている音色は違うわけだし、フルートの方も、その素材に応じた音色というのがあるので、それらの組み合わせで、より良い組み合わせを考えて選んでいくべきなのです。つまり、総銀ならば鈴やかな音色になるでしょうし、ゴールドならば落ち着いた音色になります。その素材そのものの音色に、奏者自身の音色が加味されて、その人の演奏する音が作られるわけです。

 そういう点で考えても、洋銀の音って、実はなかなか良い音だと私は思います。明るくて軽くて、私は結構好きです。洋銀はパイプオルガンにも使われているくらいで、その音色はなかなか捨てたものではありません。往年の名フルーティストであるモイーズは、生涯、洋銀系フルートを愛したわけだし、洋銀系のフルートの音色って、決して悪いものではないはずです。

 しかし、実際に楽器屋に試奏に行って、あれこれ吹いてみると、良いなあ…と思える楽器の中に、なかなか洋銀系のフルートは入ってきません。どうしても総銀のフルートばかりが高評価となってしまいます。

 無論、これには私の好みもありますが、やはり洋銀系フルートが安すぎるのが、高評価を得られない原因なのではないかと思います。

 洋銀系フルートを試奏してみると、明るく美しい音色だし、管体も軽くて演奏が楽だし、そういう点では高評価なのですが、その反面、低音高音が鳴らしづらかったり、メカの作り込みがちょっと甘かったり、音量がある割には側鳴りだったり、音色のパレットが少なかったりと…色々と不満が出てしまうのです。

 でも、よくよく考えてみると、洋銀系フルートで感じる不満って、洋銀という素材に起因するものではなく、やはり楽器の造りに関する不満じゃないかと思います。安価な入門楽器ならば仕方ありませんが、入門楽器を卒業した人が選べる、きちんと作り込まれた洋銀系のフルートが皆無というのは、とても残念です。

 メーカーにすれば、洋銀系フルートには、そのイメージ(洋銀は入門楽器)から、高い値段設定がしづらいというのは、分かります。でもね、総銀フルートだって、中級者用の総銀フルートと、プロ仕様の総銀フルートでは何十万もの価格差があるわけで、洋銀系フルートも、入門者用と、中級者用の2モデルあっていいんじゃないかと思います。

 洋銀系のフルート(特に国内メーカー品)は、入門楽器としては、価格の割には良いものだと思いますが、やはり総銀やゴールドのフルートと比較してしまうと、それなりの不満が生じます。

 中級者以上が手にする事ができ、吹いてみたいと思わせる、きちんとした洋銀系のフルートがあれば、それなりの需要があるのではないでしょうか? 少なくとも、モイーズの音色に憧れるフルート奏者は、それなりにいるので、そういう方々が手にしたいと思えるような、きちんとした洋銀系フルートがあってもいいんじゃないかなって思います。だってね、モイーズのあの音色は、洋銀系フルートだからこそって部分があると思いますよ。

 小さな工房系のメーカーに注文すれば、きちんとした洋銀系のフルートが入手できることは聞いてますが、そうではなく、大手フルートメーカーのラインナップにきちんとした洋銀系のフルートが加わってほしいと思ってます。

 プラスチックのフルートが欲しい欲しいと書いていたら、海外製ですが、プラスチックのフルートが現れました。これって言霊の威力だよね。だから、洋銀系のちゃんとしたフルートが欲しい欲しいと書けば、どこぞのメーカーから、洋銀系のちゃんとしたフルートが発売されるのではないかと、思ってます(笑)。

 結局、おねだりの記事になってしまいました(笑)。いやあ、私、めっちゃくっちゃ明るい音色の楽器が欲しいのね~。

 蛇足。ゴールドの場合、24kが500gで約180万円になりますので、一般的なゴールドフルートは14Kですから、その材料費は約100万円程度となります。4万円の材料で50万円の総銀フルートができるのと、100万円の材料で200万円のゴールドフルートができるのとを比較すると、ゴールドフルートって、技術料が総銀フルートと比べて、お高めだね。やはり、良い職人さんが手間隙かけて作っているんだろうねえ…。

コメント

  1. 水香 瑶妃 より:

    材料費って意外とかかっていないんですね。もっと高いかと思っていましたけど、そうでもないことを知り、私もちゃんとした洋銀フルートを出してほしいと思いました。ソルダードの洋銀になったら最強だと私は思うんですけどね
    それはそうと、技術料って本当にすごいですね。ハンドメイドもメーカー系と工房系では同じ総銀Ag925のソルダードH足で50万の差がありました。まぁもちろん広告費その他を差っ引いていませんが…

  2. Rio より:

     フルートが材料費の割に高いのには驚きます。
     ハンドメイドの場合、ヤマハのホームページによれば、一人で製作できるのは月に約4本と読んだことがあり、月に1挺と言われるヴァイオリンと価格が同じくらいなのは解せないところです。セールともなると2割くらい値引きされますから、儲け過ぎのような気もしますね。

  3. すとん より:

    >水香瑶妃さん

     材料費に関しては、私も「案外かかってないんだなあ」と思いました。もっとも、記事に書いた値段はインゴットでの値段ですからね。金属の固まりを楽器にするには、チューブにしたり、板にしたり、それを曲げたり伸ばした切ったりするわけで、そういう金属加工ってのは、なかなか大変だと思いますよ。技術料が高いか安いかは、私ごときでは判断できませんが、ある程度の金額になってしまうのも仕方ないのかもしれないと思いました。
     それでも楽器購入者の立場からすれば、安いに越したことはないのですが、職人さんたちの生活も考えてあげないといけませんよね。

     ソルダードの洋銀…たしかに、ある意味最強かもしれませんね。それと素材的に鳴り易いのですから、頭部管のカットも、大胆な冒険ができるでしょうしね。高級洋銀フルートの活路も色々あると思うのですよ。

  4. すとん より:

    >Rioさん

     フルートは月に4本製作可能で、ヴァイオリンは月に1梃ですか? ヴァイオリンは普通のハンドメイド新作だと、総銀フルート並のお値段ですから、たしかにフルートはもう少しお安くてもいいかもしれません。

     ただ、フルートって、ハンドメイド楽器は、ほとんど売れないと聞いたことがあります。いや、売れないどころが、普通の店では、店頭在庫にすらしてもらえないとか…。売れているのは、ブラバン用の安価な洋銀フルートばかりなんだそうです。なので、ハンドメイド楽器は製作しても、大半が在庫になってしまうそうなので、どうしても利ザヤを多めにしておかないと、商売的につらいのでしょうね。

     世界で一番売れているフルートは、ヤマハの221(一番安いモデル)と聞いたことがあります。本当かどうか、裏は取ってませんが、それが現実ならば、フルートメーカーも厳しい商売を営んでいるって事ですね。

     ところで、ヴァイオリンは…どのランクの楽器が売れ線なのでしょうね。

  5. だりあ より:

    それで思い出したことがあります。最近友人が70万円くらいの総銀に買い換えました。通し番号が70000台だそうです。
    メーカーがそのモデルをその数を売って得た売り上げを計算すると、49,000,000,000円になりますよね。(これで計算は合ってますでしょうか?)

    この会社にとってこの金額が大きいか小さいかわかりませんが、何年もかかってそれだけの本数を売り上げた間の人件費とか材料費とか、いろいろ経費がかかっているでしょうね。

    やはり高価なフルートに関しては職人さんの技術に対する対価と人件費が大きいのではないでしょうか。ちなみに、友人のフルートは、以前の初心者用に比べてぐんときれいな響きのある音色で鳴っています。やっぱりお値段だけのことはあると思いました。フルート技術者の腕は、フルートの音色に直接影響するので私たちは直接には見えないその技術にお金を払っていると思えば、高価なお値段にも納得できるのかな、と思いました。

  6. すとん より:

    >だりあさん

     一本70万円のフルートが7万本売れれば、490億円の売り上げには…ならないよ。

     と言うのは、その70万円のフルートは昔から70万円だったわけじゃなく、ちょっと前は60万円で、その少し前は50万円でって感じで、少しずつ値上がりをして今の値段になったはずですから…。そのモデルの最初の値段はいくらだったんでしょうね。

     ちなみに、最初のムラマツフルート(もちろん総銀ではなかったでしょう)は一本55円だったそうですよ、驚きの低価格ですね。昭和初期の話です。

     だりあさんのご友人が買われた総銀モデルの#1の楽器の値段は、さすがに50円とか100円とかではないでしょうが、おそらく、今の感覚からすると、信じられないくらいの値付けだと思いますよ。なので、70万円のフルート7万本売っても、絶対に490億円も売り上げられないと思います。

     ってのは、ともかくとして(笑)、私は総銀フルートが70万円であっても、仕方ないと思ってます。もちろん、安いとは思いませんし、もっと安いと、もっともっと買いやすくなってうれしいのですが、彼らの仕事に対する対価としては、だりあさんのおっしゃるとおり、それくらいの価値があると、私も個人的に思ってます。

     私はアゲハを買った時に、財布から出て行ったお金は、金額的に、私にはキツイものだったし、ローンも組んで大変だったけれど、でも素直に「良い買い物をした」と思いましたよ。値段以上の価値を持った楽器を手にできたと、幸せに思いました。その“値段以上の価値”というのが、私のアゲハを作ってくださったフルート職人さんの技術の高さに対する私の正直な感想なんです。

     だいたい、高いと思ったら、総銀フルート、買ってませんよ(笑)。

  7. きょん より:

    おもしろい記事で、じっくり2回も読んでしまいました。
    フルートって作るのに手間がかかっていると思っていたのと、金管楽器と違って(総銀の場合)原料が貴金属なので高いと思ったことはなかったのですが…こうやって考えると確かに技術料って高いものですね。
    金属によって加工のしやすさとかも違うそうなので、単純な比較って本当に難しいですが。
    以前使っていたのは管体銀の当時定価30万の楽器ですが、中学生にはとても高級品で、当初は持つのもドキドキしたものです。
    最近買い換えたのはいつか買い換えるために貯金もしたし、自分で「欲しい!今買うぞ!」と思って買ったので、値段は3倍以上しましたが不思議と納得して購入できました。
    原材料と技術料に対して購入者が感じる価値…奥が深いですね。

  8. すとん より:

    >きょんさん

     私もこの記事を書くために、材料費を調べてビックリしました。私が思っていたよりも金属って安いんだなあってね。特に貴金属である、銀や金はもっと高いと思ってました。フルートなんて、その価格の9割近くが金属の値段だと誤解していましたから、今回の記事で「え、貴金属と言えども、その程度の値段?」って思ったものです。冷静に考えれば、決して安くない値段なんですけれどね。

     おっしゃるとおり、技術料が高いか安いかはなかなか判断しづらいものですが、要は買った人/買おうと思っている人、その楽器のできに、納得できるかどうかが判断基準じゃないか? 「こんなに高いのに、この程度?」って思ってしまうか「高かったけれど、これなら仕方ないよね」と思えるか「最初は高いと思ったけれど、今じゃいい買い物したと思えます」と胸を張って言えるか…そのあたりが判別基準じゃないかなって思います。

    >金属によって加工のしやすさとかも違うそうなので、

     実は洋銀って固いので、加工がしづらいと聞いたことがあります。なのに、技術料は低めに押さえられているので、やっぱり“薄利多売”なんだろうなあと思いますよ。

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