2024/25シーズンのメトのライブビューイングのオープニングアクトである「ホフマン物語」を見てきました。キャスト&スタッフは以下の通りです。
指揮者:マルコ・アルミリアート
演出:バートレット・シャーホフマン:ベンジャマン・ベルナイム(テノール)
4人の悪役:クリスチャン・ヴァン・ホーン(バスバリトン)
ニクラウス&ミューズ:ヴァシリーサ・ベルジャンスカヤ(メゾソプラノ)
アントニア&ステラ:ブレティ・イェンデ(ソプラノ)
オランピア:エリン・モーリー(ソプラノ)
ジュリエッタ:クレモンティーヌ・マルゲーヌ(メゾソプラノ)
私、実はこの演出の「ホフマン物語」は、初演の2009年のヤツをライブビューイングで見ています。でも妻は見ていないので「だったら、もう1回見てもいいかな?」と思って見ました。15年ぶりです。当時の感想は、こちらに書きましたので、もし良かったら読んでください。あの時は「カルメン」と「ホフマン物語」を同じ日に見る…なんていうムチャが出来ました。若かったんだなあ…。
改めて当時の感想を読んだ私ですが…今とはだいぶ印象が違いますね。当時は「舞台は暗いし、貧乏くさいし、救いがないし…。」と書いていた私ですし、その印象は変わらないのですが、だけど決してイヤな演出だとは思えませんでした。昔は“演劇臭い演出だ”と敬遠してしまった私ですが、あれからたくさん演劇臭い演出(笑)でオペラを見てきたせいでしょうか? むしろこれくらい演劇臭い方が好ましく感じるようになりました(笑)。
とは言え、やはり夢々しかったゼッフィレッリの旧演出の方が好きな事には違いないのですが…。旧演出版の公演の再発売は…ないだろうなあ(しょんぼり)。
出演者の声楽的なレベルは、さすがにメトですね。有名無名と取り集めていますが、どれも水準以上で素晴らしいです。特にテノールのベルナイムは…良いなあ。私はこういうテノールに憧れるべきなのだろうなあと思ったくらいです。ホーンの低音もなかなかの美声でよかったよ。
ただね、最近のアメリカのエンタメ界のポリコレ重視の影響なのでしょうね、アントニアを黒人のイェンデが演じていました。その事自体は良いのです。別にアントニアが黒人歌手でも良いのです。ただ…アントニアって死にかけているという設定で、彼女以外の歌手は(今どきの歌手だからでしょうね)特に太っていないのに、彼女だけは太ましくて、とても死にかけには見えませんでした。さらに、アントニアの母役の歌手は白人さんでした。アントニアに黒人女性を使うなら、その母役も黒人歌手にして欲しかったなあと思いました。
おそらく良識あるメトロポリタン歌劇場としては、キャストとして、オペラのどこかに黒人歌手を起用しないといけないのでしょう。私も演劇的に無理がないなら、黒人歌手に活躍の機会を与えても良いと思いますし、今回のアントニア役が黒人歌手でも全然いいと思いましたが…その母役が白人歌手では、ちょっとダメなんじゃないかな?
もしかして、アメリカの進歩的な人たちって目が悪いんじゃないの? 肌の色も歌手の体型も見えてないとか? 人間にとって、視覚情報って、とても大切だよ。
最近のオペラ歌手さんたちは、昔と比べて、だいぶ体型が普通の人に近づいてきました。確か、今の時代、太ましい体型の歌手は歌劇場と契約してもらえないので、みんな体型に気を使っているんですよね。
でも競争のゆるい声種だと、まだ太ましい歌手がいます。例えば…テノールとか(笑)。だって、オペラである以上、きちんと歌える歌手の中からキャスティングするんだけれど、テノールの場合、曲によっては、世界的な歌劇場で歌えるレベルの歌手が、片手の分とか両手の指で足りるくらいしかいなかったりするわけで、そりゃあ太ましい人もいても仕方ないけれど、ソプラノ歌手なんて、歌える歌手なんて、掃いて捨てるほどたくさんいるわけだし、美人もグラマーも腐る程たくさんいるわけだけれど、そこに“黒人”という枷をかけると、途端に人数がいなくなって、太ましい人しかいないのかもしれません。
オペラ的に黒人じゃなきゃダメ(「ポーギーとベス」や「アイーダ」とか)なら、それでも仕方ないのだけれど、人種を問わない役であっても、ポリコレ的観点から太ましい黒人ソプラノを起用しなければいけないというのは、いかがなものかと、私は思うわけです。
でも今回のイェンデの起用は良かったと思いますよ。太ましくても良しとしましょう。ただ、だったら母役の歌手にも黒人歌手を起用するべきだったと思います。母役は端役なのだし、合唱団の中の黒人ソプラノさんを起用すればいいだけだと思うんだけれどな。
とにかく、ポリコレって、エンタメを興ざめさせると思っている私です。
あと、オランピアを歌ったモーリーの歌唱はすごかったです。今回、オランピアのアリアのバリエーションは、1990年代のナタリー・デセイが歌ったバリエーションを借用したそうですが、そのバリエーションだと、最高音がハイG、つまりG6なのです。歌っているの聞いた時に「聞き慣れない高音が出てきた!」と思っていましたが、実はそういうバリエーションで歌っていたそうなのです。ちなみに、ソプラノの高音と言うと、モーツァルトの「魔笛」の夜の女王のアリアが有名ですが、あの高音はF6なんです。つまり、今回のオランピアのアリアの高音は、夜の女王の高音よりも全音高いわけで、そりゃあ聞き慣れない高音のはずなんだよね。
モーリーって、すごいんだな。それだけでも、このオペラ公演、聞く価値ありだね。
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