スポンサーリンク

メトのライブビューイングで「ナクソス島のアリアドネ」を見てきた

 このオペラの作曲家、リヒャルト・シュトラウスと言えば、ほぼほぼオペラ界最後の大作曲家です。20世紀の初頭に活躍したドイツの作曲家で、彼以降の成功した音楽劇はオペラではなく“ミュージカル”と呼ばれるようになってしまったので、彼がほぼ最後のオペラ作曲家…ってわけです。
 オペラという音楽ジャンルの最後の作曲家であるリヒャルト・シュトラウスの最大の代表作は「ばらの騎士」ですが、この「ナクソス島のアリアドネ」は「ばらの騎士」の次に作られたオペラで、シュトラウスが乗りに乗った時代に書かれたオペラなわけです。
 で、これがメトでは割と頻繁に上演されていて、なおかつ人気が高い演目であるとは聞いて知っていましたが「えー、そんなわけないじゃん」とも思っていました。
 と言うのも、私的には「ナクソス島のアリアドネ」って“つまんないオペラ”認定していた作品だからです。あの「ばらの騎士」とは比べ物にならない駄作…ってね。
 でも、今回のメトでの上演を見て、認識を一変しました。「このオペラ、見る人を選ぶかもしれないけれど、案外、面白いかも…」ってね。
 今回のメトでのスタッフたちは以下の通りです。
  指揮:マレク・ヤノフスキ
  演出:エライジャ・モシンスキー
  プリマドンナ/アリアドネ:リーゼ・ダーヴィドセン(ソプラノ)
  踊り子/ツェルビネッタ:ブレンダ・レイ(ソプラノ)
  作曲家:イザベル・レナード(メゾソプラノ)
  テノール歌手/バッカス:ブランドン・ジョヴァノヴィッチ(テノール)
  音楽教師:ヨハネス・マルティン・クレンツレ(バリトン)
  執事長(セリフのみ):ヴェルフガング・ブレンデル(バリトン)
 音楽そのものは20世紀のもので、ワーグナー以降の現代音楽です。歌唱はテクニカルだけれど、決してメロディアスではありません。なので、正直、歌唱は難しいばかりで凄いのだけれど楽しくはないです。歌う歌手にとっては「労多くして実り少し」であり「楽屋受けはするけれど客受けは…どうだろ?」的な作品です。なので、そもそも数あるオペラの中でも、いわゆる“通”向けの作品であるとは思います。
 それゆえに、今までの私にはこのオペラは「現代音楽に寄った、つまらないオペラ」という認識でしたが、このメト版…モシンスキー演出版は、音楽そのものは全く同じでも、とてもわかり易くて面白く見られました。とにかく、この演出は良いです。
 で、どこが良い演出なのかと考えてみたら、演出が歌詞に忠実なんですよ。その上で、演出家のファンタジーが加わっていて「ああ、このオペラはこういうふうに演出される前提で作られたのではないか」と思ったからです。つまり、今まで私が見てきた「ナクソス島のアリアドネ」がつまらなかっただけで、本来このオペラはそこまでつまらないオペラではなかったのです。
 とにかく、このメト版の「ナクソス島のアリアドネ」は素晴らしいです。演出も良ければ、もちろんオケも歌手たちも素晴らしいです。オペラ自体は、やや通向けですが、そこを乗り越えれば、本当に素晴らしい上演です。オススメですよ。
 さて、なぜ私がこのメト版を見る以前、このオペラを低評価していたのか…ですが、それは…これ以前に私がこのオペラをDVDで見ていて、そこでの演奏…というか演出がダメだったからです。ちなみに私が見たのは、2006年にチューリヒ歌劇場で上演されたもので、ドホナーニ指揮、グート演出の舞台でした。
 ちなみに、指揮者のドホナーニは悪くありません。そのDVDで歌っている歌手たちも、ちゃんと仕事をしていましたよ。ただ、クラウス・グートの演出が…今どきのヨーロッパの歌劇場でよく見られる“読み替え演出”だったのです。で、その演出では、オペラの舞台の時代設定が(読み替え演出では定番の)現代に変更になっているだけでなく、オペラの歌詞や音楽は変えずに、ストーリーそのものが変更されているタイプの演出でした。
 この演出が楽しめるのは、様々なオペラを何百回と見てきて、もはや普通のオペラ上演に飽き飽きした、シニアな客ぐらいじゃないかな? グート演出は、今までにこの「ナクソス島のアリアドネ」をあくびが出るくらいに見てきて、あれもこれも分かっている客に向けての演出なんだと思います。
 なので、私のような、オペラ文化圏から遠く離れた外国人が楽しめるような上演ではなかったわけで、そんな通向けの上演しか知らなかったわけだから、このオペラを「つまんねーオペラだな」と誤解しても仕方なかったなあ…と今なら思います。
 いやあ、メトのオペラの演出は分かりやすいし、楽しいです。改めて、私はメトが好きなんだなって思いました。

↓拍手の代わりにクリックしていただけたら感謝です。

にほんブログ村 クラシックブログ 声楽へ

にほんブログ村

コメント

タイトルとURLをコピーしました