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昔のオペラ歌手は歌が下手だった?

 …なんてタイトルを付けると、お兄様世代の皆さんから集中砲火を浴びそうですが、あえて書いちゃいます。
 昔のオペラ歌手は歌が下手だったと思います。昔…と言うのは、私が子ども時代ですから、約50年、つまり半世紀ほど昔の話ですし、オペラ歌手と言っても、世界の一線級の人たちの話ではなく、国内で地方巡業の仕事をメインの活動としていた、1.5流ぐらい(失礼ですね、ごめんなさい)のオペラ歌手の、今と昔の人たちのレベルの話です。
 上から目線の物言いで申し訳ないのですが、今の国内のオペラ歌手さんたちは、皆さん素晴らしいと思います。世界の一線級と比べても、だいぶいい感じの方が大勢いらっしゃると思います。テクニック的にはほぼ互角という人もゴロゴロいます。次の課題は…声量かな? 世界の一線級の人って、大砲のような声の人がゴロゴロいるからね。日本人は体格の差もあるのかな? なかなか豊かな声量を誇る方は、まだまだ少ないです。
 そんなわけで、今の歌手の皆さんは、いい感じだと思ってますが、昔のオペラ歌手は…とてもとても、そこまでイッてませんでした。
 私が子どもの頃と言えば…まさに、デル・モナコが日本に初来日したあたりの頃で、当時の日本のプロオペラ歌手の皆さんは、いわゆる“ドイツ唱法”がメインだったのだろうと思います。
 今でもしっかり記憶に残っているのですが、私が中学生の頃、学校でオペラの上演が行われました。おそらく、文化庁が現在でもやっている、文化芸術による子供育成総合事業の一環だろうと思います。
 何をやってくれたのかまでは覚えていませんでしたが、日本人作曲家の作品で、舞台は平安時代?で、貴族の殿方やお姫様、お坊さんたちが日本語で歌っていました。なんか妖怪も出てきたような…ちょっとスペクタルなオペラでした。学校巡業にはふさわしい感じのオペラだったと思うけれど…あれは一体、何というオペラだったのだろう?
 学校ですから、伴奏はピアノでした。それはまあ良しです。学校の体育館の狭い舞台で一生懸命に演じてくれました。それはとても有り難かったです。当時からすでに音楽大好き少年だった私は、目を皿のようにして舞台を見ていました。
 声は、まあ聞こえます。でも、何を歌っているのか全く分かりませんでした。出てくる人出てくる人、みんな日本語が下手くそなんですよ。特に女性歌手は、キーキーキャーキャーうるさいうるさい。歌と言うよりも、悲鳴? 金切り声? 実に不快でした。男性歌手はそこまで耳障りが悪くはなかったけれど、モツモツした声で何を言っているのか、全く分かりませんでした。
 出演者全員日本人なのに、日本語の歌を歌っているのに、何を歌っているのか、全く分からなかったのです。観客に通じない歌なんて、芸術以前の話ですね、ほんと、下手くそな歌手さんばかりだったと、当時は思い、憤慨し「地方はなめられている!」と一人で怒っていた私でした。
 大人になった今では、当時の状況は分からないでもありません。おそらく、当時のオペラ歌手さんは、日本語の歌が歌えなかった…というよりも、日本語の歌の歌い方がまだ分からなかったのだろうと思います。
 クラシック声楽の理想とする発声と、日本語のノーマルな発声って、ある意味、真逆ですからね。そこをうまく折り合いをつけて歌わないといけないわけで、今の歌手さんたちはそこができてますが、当時の歌手さんは、発声は思いっきりドイツ寄りだったし、そのドイツっぽい発声で日本語を歌おうとするわけだから、変な日本語になってしまったわけです。だから、日本語を歌っているにも関わらず、全然日本語には聞こえなかったんだと思います。
 ですから、今は良い世の中になったと思います。オペラ歌手さんたちの歌唱がうまくなり、日本語の歌を歌っても、きちんと歌詞が聞き取れ、何を歌っているのかが分かる時代になったわけですから。
 日本における声楽技術の進歩と発展に、感謝したいと思います。

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コメント

  1. オペラ座の怪人の怪人 より:

    オペラ歌手のみならず、
    テクノロジー、スポーツ、将棋、等々、
    多くのものが、遅い者勝ち。
    先人の成果を踏まえて、
    先人の成果を研究し尽くして、
    後から来た人たちが先人を追い越していくのでしょうね。
    ただ、クラシック音楽において、
    バッハ、ベートーベンを超える作曲家は、
    いないかも?
    まあ、色々なご意見がありましょうが。
    日本文学において、
    夏目漱石を超える作家(文豪)は、
    いないかも?
    まあ、色々なご意見がありましょうが。
    そんなことを思った、本日のすとん様エッセイでした。
    おしまい

  2. すとん より:

    オペラ座の怪人の怪人さん
    >多くのものが、遅い者勝ち。
     まあ、その通りですね。
     オペラの世界で言えば、美しくて演技力もあって、高度な歌唱テクニックを誇っていたマリア・カラスは唯一無二の大歌手であるという評価が定着しているし、実際、あの時代におけるマリア・カラスの存在は、飛び抜けた存在だったのだろうと容易に想像できるけれど、今の若手~中堅歌手には、カラス並の素質と力量を持った人がゴロゴロしているからね。
     まさに遅い者勝ちですね。
     ベートーヴェンと夏目漱石は…まあ、異論はあっても、ほぼほぼ怪人さんのおっしゃる通りだと思います。「第九」や「こころ」のポピュラリティーには敵わないっすよ。

  3. おぷー より:

    大学生の頃、ヘンデルのメサイアを合唱団で歌ってましたが、
    ソリストの方々は、みなさん、オペラ歌いしかされない方々で、コロのところがちゃんと転がらない歌手が多かったです。
    今は、大分違っていると思いますよ。
    バロック唱法も大分浸透してきましたね。

  4. すとん より:

    おぷーさん
     バロックとか古楽とか、確かに、しっかりと歌える方が出てきたのは、そんなに昔じゃないですね。今から思えば、昔々の方々は、メサイアとかモーツァルトのミサ曲とか、どうやって歌っていたのかしらと思っちゃいます。
     同じクラシック声楽とは言え、やはりジャンルが違えば、必要とされる技法が異なるわけで、今は各分野で専門家がいますから、どうにかなっているのだろうと思いますが、昔々は、分野ごとの専門家どころか、歌手そのものの数が少なかったので、一人でどんな曲も歌っていれば、そりゃあ自分の声や技法やらに合わないモノを歌っていたわけで、中には心無い子どもに「下手くそ!」と思われても仕方ない事もあったのだろうと思います。
     なんか、同情しちゃうかも。

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