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フルート合宿2018 その7 音楽演奏は、目的ではなく手段なんです

 二日目の宴会も、結局、最後は私とH先生のサシになってしまいました(笑)。この日も色々と語り合いましたが、ネットには一つの話題だけ書いておきます。

 それは“音楽的な演奏って何?”って話から始まりました。

 H先生は、若い時は、近代フランスの笛曲をバリバリ吹く人だったそうです。すっごいテクニシャンだったそうで、当時は自分が世界で一番フルートが上手いと思っていたそうです。まあ、若手のミュージシャンなら、それくらい強気じゃなきゃ、プロはやれないわな。

 で、そんな腕自慢だった若い先生がヨーロッパに渡ったわけです。出稼ぎ半分、勉強半分って感じだったそうです。つまり、現地でのフルート仕事をたくさんしたそうですが、その仕事の合間を縫って、しっかり勉強もしてきました…って感じだったんだそうです。

 ちなみに、あちらではクラシック系音楽家と言うのは、日本とは違って、自由営業ではなく、許認可制なんだそうです。で、先生はあちら基準の“プロのクラシック系フルーティスト”の基準をクリアしていたので、現地で働けたってわけで、普通は日本からの留学生には許認可はおりないので、音楽家として働くことはできないのだそうです。

 まあ、それはともかくです(笑)。

 ある日、シュテファン大聖堂(ウィーンにある教会。付属のオーケストラと合唱団を持っている…ってくらいに、大規模な教会なのです)に行き、そこでバッハを聞いてしまったんだそうです。

 演奏テクニック自体は、プロとして平凡クラスだったそうですが、とにかく若き日のH先生は感動してしまったんだそうです。その時に感じたのが「音楽って素晴らしい」ではなく「神様っているのかもしれない(H先生は平均的日本人で非宗教的な人です)」って思ったんだそうです。つまり、音楽に感動するのではなく、音楽を媒介として、作曲家が伝えたかったもの(バッハの場合は、当然、神への信仰)をダイレクトに感じてしまったんだそうです。

 バリバリのテクニックで音楽を聞かせて「どうだ、すごいだろ!」ってわけではなく、いや、そういう演奏って、本来のあるべき音楽の演奏とは、少し違うんじゃないかって思ったんだそうです。音楽はあくまでも手段であり、媒介であって、音楽を演奏する事で伝えたい思いが作曲家にはあるわけで、だから音楽を作曲しているわけで、演奏家は、それをより分かりやすく伝えていくのが、本来の仕事ではないのか…って思ったんだそうです。

 つまり、テクニックでバリバリ演奏していく事に違和感を感じたそうなのです。

 H先生は、それ以降、楽譜を単なる演奏の指示書ではなく、楽譜に書かれた奥にあるものを考えて、真面目な気持ちで演奏していくようになったのだそうです。若い時は「俺、すげえだろ!」だったそうですが、そんな経験をした後は、作曲家に奉仕していく演奏家になろうと勉強を始めたんだそうです。

 若い時は近代フランスの笛曲をバリバリ吹いていた先生ですが、それ以降、何となく避けていたバッハを正面から取り上げて演奏するようにしたんだそうです。で、バッハって、学べば学ぶほど音楽が深くて、演奏そのものは、そんなに難しくはないのだそうだけれど、音楽で伝える事がとても難しくて、またそれがとても楽しく感じるようになったんだそうです。

 深い話だなあ…って思いました。こういう話を直に聞けるのも、合宿の良さです。

 続きはまた明日。

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コメント

  1. Hiro.MTB より:

    私の演奏の目的は、「音楽の楽しみそのものを享受すること」に尽きますね(笑)。
    とにかく、自分が楽しんじゃえ!です。

    自分が楽しんでいる姿を周囲に見てもらって、「音楽って楽しそうだな」と伝わればそれで音楽の神様や作曲家(=創造主)に還元したと解釈しています。

  2. すとん より:

    Hiro.MTBさん

     私もHiro.MTBさんと同じ意見ですが、そこはプロとアマの違いがあるんだと思います。プロの演奏者が自分さえ楽しければいいと、観客を度外視した演奏をしちゃマズイわけで…、ね、そう思うでしょ?

  3. Hiro.MTB より:

    >プロの演奏者が自分さえ楽しければいいと、観客を度外視した演奏をしちゃマズイわけで

    あはは、確かに。
    そこは対価をとる責任ってやつですね。

  4. すとん より:

    Hiro.MTBさん

     そうそう。そこは趣味と仕事の違いです。どんな事も、仕事にすれば、求められるものが違ってくるわけです。だから私は「好きな事を仕事にする」という考え方には反対なのです。だって、好きな事を仕事にしたら楽しめないでしょ? 好きな事が好きではなくなってしまうかもしれないわけだし、何も自らの楽しみを捨ててしまうのも、どうかと思っているのです。

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