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結局、ファルセットを鍛えないといけないんだな

 今回の記事は、男性限定、それもおそらく高音歌手限定の話じゃないかなって思います。

 高音歌手の悩み…と言うか、課題は、いかに『きれいな高音を楽に出すか』なんですね。もちろん、本当に楽々出せればいいのですが、そうでなく、実は悪戦苦闘の末であっても、楽に出しているように聞こえれば、それでOKです。

 きれいな高音を楽に出すためには、怒鳴ったり、悲鳴を上げてはいけません。だって、きれいじゃないモン。かと言って、単純なファルセット(裏声)でもいけません。だって、聞こえないモン。まあ、マイクが使えればポピュラーソングのように、ファルセットで歌っても良いのかもしれないけれど、クラシック声楽で、本当にファルセットを使ったら、誰にも聞こえないからダメなんだな。

 だからと言って、地声を上に伸ばすには限界があるわけです。低音歌手の音域なら、それでもいけるだろうけれど、高音歌手に必要な高音は地声で出るわけないしね。

 で、結局、どうするかと言うと、本来聞こえづらいファルセットを聞こえる音量で歌えるようにする…事になります。もちろん、聞こえるファルセットは、すでに本来の“単純な”ファルセットとは別物なんだけれど(笑)。

 「じゃあ、どうするの?」

 そこでヒントになるのは、女声の発声でしょう。

 女声は、男声と違って、基本となる発声が、いわゆるファルセットです。ただ、普通のファルセットのままでは、弱々しいし、音量的にも小さい(歌わない女性の歌声って、ほんとに、か細くって、か弱いでしょ)ので、このファルセットを強くし、音量的にも大きくするわけです。結果的には頭声と呼ばれる、ファルセットと似ているけれど別物になってしまうのだけれど、この頭声を男性高音歌手も目指すわけですよ。

 頭声で歌うために、彼女たちは何をしているのか? …単純に、支えをしっかりして、ノドを開いて、頭部の共鳴腔を最大限に利用しつつ、日々の発声練習をしているわけです。彼女たちは、決して怒鳴っているわけじゃないんです。

 なあ~んだ、当たり前の事をやっているだけじゃん。

 そう、当たり前の事なんでしょうね。だから「中音域の発声がきちんとできれば、高音発声なんて、簡単な事だよ」と言う人が出てくるわけです。あえて高音の発声練習などしない人がいるのは、そういう理由です。

 高音の発声練習をしなくても高音が出せる人は、別にそれでいいんです。でも、そのままでは高音発声は難しい…そういう人のために、書き続けます。

 まず、我々男性は、普段はファルセットを使いません。だから、ファルセットで歌うことは、女性よりも苦手だし、弱々しい声になってしまいます。男性は地声が強い人が多いので、か弱いファルセットとのバランスがうまく取れなくて違和感を感じたりしますが…みんな、最初はそんなモンです。

 だいたい、ファルセットで歌うことに慣れていないので、ファルセットを出した時に、十分ノドが開いていなかったり、支えがしっかりしていなかったりします。なので、そのあたりがクリアできれば、その人がファルセットで歌える音域ぐらいまでなら、しっかりと頭声で歌えるようになるはずです。

 「女性と同じ発声法だと、女声になってしまわないかな? 最近は、両声類という人もいるし…」

 別に我々は、音程の高低だけで、男声と女声を聞き分けているわけじゃないです。例えば、和田アキ子さんはバリトン音域ですが、彼女の歌声や話し声を聞いても、男声には聞こえないでしょ? しっかりと、低い女声に聞こえます。男性の声帯で女声を出すには、上手に女声のモノマネをするか、あるいは女性ホルモンを注射しないと難しいですよ。

 「でも、なんとなく、ファルセットで歌うと、声がか細くて…」

 そりゃあまあ、そうだよね。そこでしっかりとノドを開けてみたらどうだろう。ノドの開きが少ないと、声が細くなってしまうからね。それと、自分に聞こえる声と他人に聞こえる声は違うから、自分ではか細いと感じていても、他人が聞けば、そうとも限らないしね。

 「女性の高音って、悲鳴に聞こえるじゃん。あれを真似するの?」

 確かに女性の高音は、ほぼ悲鳴だったりしますが、別に我々男性の高音はアレを真似る必要はないと思います。男声にとっての高音は、女声にとっての低~中音ですから、そのあたりの発声を参考にすればいいと思います。女性の悲鳴の音域までファルセットで出せるなら…その人には、きっとソプラニスタの才能があるに違いありません(笑)。

 「低音は、持って生まれた声帯に大きさに左右されるけれど、高音は努力次第でどこまでも出せるものだよ」と言う人がいます。私は、この言葉をそのまま受け取ってしまうと間違いだろうと思いますが、“努力次第でどこまでも”の部分を“(自分が思っている以上に高いところまで)努力次第でどこまでも”なら、大きく間違っていないと思います。

 無論、持って生まれた声帯の高音限界というのはあると思います。でも、私達は、その限界よりもだいぶ手前のところで、使い方が下手くそなために、高音が出せなくなってしまっている…のだろうと思います。ハードウェアの限界の前に、ソフトウェアの下手くそさが露呈している…のがアマチュアだと思います。

 発表会などに行けば、上の出ないソプラノや、テノールなんて、掃いて捨てるほどにいるものね。かくいう私も“上の出ないテノール”の一人だもの。何とかして、高音を楽に出せるようになりたいものです。

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コメント

  1. genkinogen より:

    こんにちは。
    初めて書かせていただきます。7月くらいにすとんさんのブログを知って以来ほとんどすべて読ませていただいています。
    私は、合唱団員ですが、合唱や声楽(いわゆる一人で歌うソロ)、発声法に対するすとんさんの考え方には、いつも頷きながら読んでいます。
    男声のファルセットにはいろいろな意見があるようですね。
    以前、国民文化祭でミュージカルに参加した時、宝塚大好きと思われる女声と一緒になったことがあります。一オクターブ下で地声で歌うので・・・その時団長が音楽大学出身のソプラノでしたので彼女の発声指導をしたのですが、ものの30分程で自然な声になりびっくりしたことを覚えています。地声からファルセットにしたのだと思いますが、劇的に変わるものだと思いました。
    男声はこうはいかないですよね。私も上の出ないテノールですので、個人的にボイストレーニングを受けようかと思います。東京に、先生が見つかりそうなので・・・静岡からですが。
    すとんさんの熱心さに私もと影響を受けています。長文失礼しました。

  2. アデーレ より:

    こんにちは。はじめまして。いつも楽しく拝見しています!男声の発声の話、興味深いですね!ことにテノールでもレジェーロの方は本当に繊細な世界でその発声には非常に興味深いです。

    発声、本当に難しくて、私はまだまだ掴めません。鍛練しつつ、相応な舞台があれば歌っていき、少しづつでも上達していきたいですね…。声楽を初めて【中年の領域でもあり、】色々、悩みながらやってます。いつも、いつも、到底届かない山に向かって蛇行しているような毎日。そして、こんなに日々、頭のなかが歌で一杯になっているのが他人には理解できないだろうなあ~と、【ちょいと変人的な?】誰にも理解されない寂しさを抱えながら歌ってます~!また、興味深い声楽話、お願いします。

  3. すとん より:

    genkinogenさん、いらっしゃいませ。

     歌手の中で一番上達するのが困難なのがテノール…という都市伝説があります。

     まあ、この話が嘘か真かは私は分かりませんが、4種類ある声種の中で、一番の希少種である事だけは確かです。頑張っていかないとね。

     まあ、本音を言えば、ファルセットであろうが、両声類であろうが、メラニー法であろうが、高音をラクラク歌えるなら「何でもいいわい」というヤケクソ気分になる事もあります。まあ、それじゃあダメなんですが、たまにそこまで精神的に追い込まれちゃう事もあります。きっと、上の出ないテノールさんたちは、皆同じ悩みを抱えていると思いますが…。

     ほんと、スパーンと高音が出るようにならないかしら…と悩んでいます。何か、いい方法はないものでしょうか(涙笑)。

     ポイストレーニングは…可能なら受けられると良いと思いますよ。絶対に変わりますよ。

     今後ともよろしくお願いします。

  4. すとん より:

    アデーレさん、いらっしゃいませ。今後ともよろしくお願いします。

    >いつも、いつも、到底届かない山に向かって蛇行しているような毎日。

     あー、分かります。私もそんな気分になる事あります。

    >こんなに日々、頭のなかが歌で一杯になっているのが他人には理解できないだろうなあ~

     あー、あー、これも分かります、ってか私もそうですよ。

     フルートが上達しないのは、単純に練習不足ですから、あまり悩みません。きちんと練習を積み重ねていけば、積み重ねていった分だ上達します。楽器演奏では、練習は嘘をつきません。

     でも、歌はそうじゃないんですね。練習をしたからと言って、その分だけ上達するわけじゃない。下手な練習すれば、むしろ下手になってしまう。ただただ練習をしても、上達する事がないのが歌の世界です。それ故に、何をどう練習していくか、日々悩み考えているわけです。私も、ふと気が付くと、歌…と言うよりも発声のことを考えてしまいます。

     「高音を楽に出すにはどうしたら良いか」「もっと深い音色で歌うには…」「もっと脱力しないと…」「もっとしっかり支えないと…」「あの歌詞、うまく言えない。クチが回らない…」とか、もう、悩むことばかりです。

     なんかもう、色々と考えてしまいます。「考え過ぎはよくない、もっと馬鹿になれ」と前の先生にはよく言われましたが、私はどうも馬鹿にはなりきれないみたいです。悩みと言うよりも、煩悩が多いんだろうなあって思います。

     まあ、私は天才じゃないので、悩んで悩んで努力して苦労して試行錯誤をして、前進したり転んだり走ってみたり立ち止まってみたりして、歌と付き合ってます。まあ、それでいいとも思ってます。だって、楽しいもの。

     なかなか上達できないのは悔しいけれど、上達を目指して、あれこれ悩んで試行錯誤するのは、楽しいものね。

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