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美輪明宏さんのような声で歌ってはいけない

 …って、別に美輪さんをディスっているわけではありません。でも、美輪さんのような声は、クラシック声楽では使わないので、こういう声で歌ってはいけないって事です。

 では、美輪さんのような声とは、どんな声か言うと…はい、思い出しましたね(笑)。ああいう声です。地声と裏声がほどよく混じった感じの声で、ポピュラー系のヴォイトレでは、ミックス・ヴォイスと言われる声です。アレです、アレの事です。

 ですから、ポピュラー系のヴォイトレの掲示板などで「ミックス・ヴォイスがうまく使えません(涙)」なんて悩みが書かれていたりしますが、それに対するアドヴァイスの一つとして「美輪さんのモノマネして歌ってみたらいかが?」って言えるかもしれません。

 それはさておき、あの美輪さんのような、ミックス・ヴォイスはポピュラー系では有効でも、クラシック系では御法度です。クラシックでは、原則として、男声は胸声(地声のような声)で、女声は頭声(裏声みたいな声)で通して歌いきらないといけません。男声であれ、女声であれ、地声に裏声を混ぜたような声は、特殊の場合を除いて使わないのです…って、なんでそんな話になったのかと言うと、妻が低音を歌う時に、無意識にこのミックス・ヴォイスを使ってしまうので、先生がそれを指摘して、先生自身もミックス・ヴォイスで歌って見せたからです。「先生、器用だな~」って思いました。ま、プロの方に器用も何もないのですが(笑)。

 おそらく私は、声に関しては、不器用なんだと思います。ミックス・ヴォイスはもちろん、テノールの声ですら、まともに出せやしませんからね。まあ、それ以前にモノマネが苦手という段階で、相当不器用なんだと思います。
 
 
 さて、声楽のレッスンの続きを書きます。発声練習が終わったので、いよいよ歌のレッスンに入りました。あ、もちろん、服は着ましたよ(笑)。

 プッチーニ作曲の歌劇『トスカ』の『E lucevan le stelle/星は光りぬ』ですが、まずは、前回宿題に出された“手拍子を打ちながらインテンポで歌ってみる”の確認からです。

 “歌ってみる”のですが、とりあえず、音程はデタラメでも可で、手拍子で“とりあえず、インテンポでしゃべってみる”って感じでやってみましょうって事になりました(だって、音程は音程で、難しいんだもの…)。

 宿題の確認をされるとは思ってなかったので、ちょっと焦りました。インテンポで歌う練習は、メトロノームとか、カラオケをインテンポに設定して練習していたので、インテンポで歌うこと自体は出来るようになっていましたが、手拍子を打ちながら…は、正直、練習不足だったので、ちょっと戸惑いましたが、なんとかやりとげました。まあ、歌があるところは、手拍子をつけても平気ですが、休符のところは、気を抜いてしまうと、わけ分からなくなってしまうので、本当に注意です。

 とにかく、ビート感覚をしっかり持って歌いましょうって事です。

 次に手拍子を入れながら、自分の好きなテンポ(って事は、フリーテンポ)で歌ってみましょうとなりました。

 これ、難しいです。プッチーニは1小節ごとにテンポが変わると言われるそうですが、まあ、そこまで極端ではないにせよ、実際、この曲は、テンポが実にコロコロよく変わります。なので、自分の歌に合わせて手拍子を打って、辻褄を合わせてみたのですが…先生、苦笑。歌に手拍子を合わせるのではなく、自分の歌いたいテンポに手拍子を打って、その手拍子に合わせて歌って欲しかったのだそうです。歌に手拍子を合わせてしまうと、手拍子同士のつながりが無くなってしまうので、それでは非音楽的なんだそうです。そうではなく、テンポが徐々速くなったり遅くなったりするのに合わせて、手拍子もその流れの中で音楽の流れに合わせて、速くなったり遅くなったりして、そのテンポに合わせて歌を歌えるのが正しいのだそうです。

 書いている事、分かりますか?

 たしかにテンポチェンジは激しいけれど、そのテンポの変化には流れがあって、その流れを他人に感じさせるようでないとダメって事で、これはつまり、ピアニストさんにテンポチェンジが分かるように伝えながら歌うって事になります。歌だけが、本当に自分勝手でテンポの流れやつながりを無視して歌ってしまっては、ピアニストさんがいくら凄腕でも合わせる事はできませんよって事なんですね。

 いや~、難しい。ほんと、これは難しい。何度やっても、歌に手拍子を合わせてしまう私でした。結局、これは宿題になってしまいました。
 
 
 と言うわけで、次の曲は、トスティ作曲の『Non t’amo piu!/君なんかもう』です。まずは一通り通して歌ってみました。

 先生からの注意は「低音をアゴで支えて歌っているのは、良くない。低音を無理に出そうとするのがいけない」との事。まあ(テノールである)私が低音が苦手なのは仕方ないし、低音が中音や高音ほどには出ないのも仕方ないけれど、出ないからと言って、そこで無理をしてはいけないのです。出なければ、出ないなりの声で歌えばいいじゃないの…って事なんですね。

 低音をしっかり歌おうとして、響きを落としてはダメなんです。「高音は地面から拾い、低音は宙に浮いているモノをつかむ」気持ちが必要なんです。なので、低音は、音程は下がるけれど、響きは落とさないこと。響きを落とさないために、無理に歌うのは回避すること。ただし、軽く歌おうとするあまり、支えを失っては元も子もないので、そこのバランスに気をつける事、です。

 また、歌詞の中に何度も“non”という否定語があるけれど、この歌詞は否定語が大切なので、どの“non”も、きっちりと発音する事が大切です。

 ここで、先日、地元で見た『椿姫』の話をしました。先生も当地でのオペラ公演には興味シンシンで、出演者の話をすれば、皆、顔見知りの歌手さんばかり(と言っても、先生から見れば後輩になるわけですが)だったりします。

 やはり、ハイライト上演ってのは、歌手にとっては、実に酷な演奏形式なんだそうです。先生ご自身も以前、一回だけハイライト上演を引き受けた事があるそうですが、その時に痛い目にあわれたそうで、もう二度とハイライト上演は引き受けない事にしたそうです(それくらい、ツライんだそうです)。

 で『椿姫』と言うと、バリトン役はジェルモンだけれど、先生ご自身は、ジェルモンはまだまだ歌いたくないんだそうです。なぜですか?と尋ねたところ、今の年齢でジェルモンを歌ってしまったら、50歳になった時に歌える役が無くなってしまうから…なんだそうです。

 まあ、声の年齢と役の年齢の話なんですね。

 実はY先生は、まだお若い方です。たぶん、キング先生と変わらないか、もしかすると、もっとお若い方です。現在、野心に燃えて、キャリアを積み重ねている最中の歌手なんですね。だから、教える事よりも、自分が演奏して、仕事の実績を積み上げていく事を優先にしているわけなんです。

 まあ、それはともかく。ジェルモンという役は、二十歳前後の青年の父親役ですから、50歳前後の年齢設定なわけで、声にしろ、風貌や雰囲気にもそれらしさが望まれます。まだ若いY先生が、ジェルモンを歌うために、一度に声を老けさせてしまえば、今の年齢でもジェルモンは歌えるのでしょうが、一度老けさせてしまった声は、なかなか簡単には若返りませんから、若いうちから老人役を歌ってしまうと、本当の老人になった時に、歌える役がなくなってしまうって事らしいです。

 まあ、声には声の年齢があるわけで、声の年齢と役の年齢が一致している事がオペラアリアでは大切な事なんです。声さえ役にふさわしいければ、歌手の実年齢と役の年齢は…一致していなくてもかまいません。そう考えると、テノールはいつまでも若々しい声をキープしないといけないし、バリトンはいつまでも中年のダンディな声をキープしていないといけないわけで、それはそれで、大変な事だなあって思いました。

 私の声は、若いのかな? いや、たぶん、おそらく、そうではないなあ…。

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コメント

  1. 游鯉 より:

    先日、ミュージカルを見たのですが、役者さん大変だなと思いました。
    その舞台は実験的な試みのもので、ミュージカルなんだけども、京劇的要素取り入れたりといろいろやってる関係で、いろいろ歌える人が欲しいらしいんですが、やる方からしたら、発声方法違うんだよ〜っていうのがあるでしょう?
    で、かなり歌える人が演技うまいかっていうと、そうとも限らず…
    主役級の方、頑張ってました。
    で、役は二十代だけど、後で40過ぎてるよって聴いて驚きました。

  2. すとん より:

    游鯉さん

    >やる方からしたら、発声方法違うんだよ〜っていうのがあるでしょう?

     ありますねえ。特に、オペラと京劇の発声は、かなり違いそうですから、苦労するんじゃないかしら? また、オペラとミュージカルも、結構発声違うし(笑)。

    >かなり歌える人が演技うまいかっていうと、そうとも限らず…

     まあ、歌と演技とダンスの三拍子が揃っているミュージカル役者なんて、なかなかいないと思いますよ。特に、歌とそれ以外の両立が難しいみたいですね。日本でも、歌える人は大根役者が多いし、演じられる人は歌を誤魔化すし…まあ、そんなもんです。それくらい、ミュージカルを演じるのって、難しいんでしょうね。

    >役は二十代だけど、後で40過ぎてるよって聴いて驚きました

     舞台じゃ、当たり前ですって。還暦過ぎの方でもティーンエイジャーの役を普通にやれるのが、舞台ってもんです(テレビや映画じゃ無理だけどね)。

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