「2009年春 フルート試奏の旅」として、フルートの聖地、銀座に行ってきました…とは言い過ぎで、アゲハの調整かねがね、空き時間に試奏をしてきました(笑)。
こちらをご覧の方は分かってらっしゃるとは思いますが、私、最近、スランプなんですが、このスランプは絶対に楽器のせいだと思ってますので(責任転換?)調整にやってきたというわけです。
…職人さんに見せた結果「だいぶ、バランスが崩れていて、どの穴にも隙間が空いてます」だそうです。さらに「キーパイプにもゆるみとゆがみがあります」なんだそうです。「連結部にも調整が必要です」だって。つまり“全くダメダメ状態”なんだそうです。前回の調整が11月だったので、4カ月ぶりの調整でしたが、もっと早く調整に出さなきゃダメなようです。
お店の人に「今はマメに調整しないといけない時期ですよ、次は2~3カ月後くらいに調整におこしください」と言われました。声楽の発表会が終わったら、フルートの調整に来よおっと。
今はまだ無料調整期間なので、交通費だけで済むから良いようなものの、無料期間が終われば、すべて調整は有償(当たり前)。一回の調整費用が5000円前後となると、そうそう気軽に調整にもこれなくなります。ははは、どーしよう(汗)。
アゲハちゃんは、これで結構、デリケートで病弱でケガしやすい娘なんだね……って、手間かかるぅ~。でも、そこがかわいいーーー!
コホン、さて、試奏の話をします。
アゲハの調整をしてもらっている間の時間に、フルートの試奏をお願いしました。ちゃんと、試奏室も用意してもらったよ。思う存分、吹いてきました。
今回の試奏フルートは、ヤマハのビジューとメルヴェイユ(どちらも総銀モデル)、それとアルタスのPSとALの四本。それぞれ100万円前後の、高級総銀フルートです。ま、プロが演奏会で使うレベルのフルートですね。
最初に吹いたのは、ヤマハの二本。これを所望したのは、実は私、ゴールデンウィークに工藤重典氏の演奏を至近距離で(!)聴く予定がある[ラ・フォル・ジュルネのコンサートです]ので、その前にヤマハの、この二本のフルートを押さえておきたかったのです。だって、工藤氏と言えばヤマハじゃない。ま、一種の予習のようなものです。え? だったら、なぜ(工藤氏が演奏する)ゴールドモデルにしなかったのかって? 単純に、私がゴールドフルートの音が嫌いだからです(笑)。やっぱり試奏するなら、好きなタイプのフルートで吹きたいじゃない。
はっきり言うと、オーナーさん方には申し訳ないのだけれど、私、ヤマハのナンバーモデルとは、あんまり相性が良くなくて、いい印象を持ってません。それにヤマハの音を聞くと、無条件に吹奏楽のイメージが…、あ、ぶたないで! 顔は女優の命よ! って、かなり違うか…。
吹奏楽にイチャモンをつけるつもりは全くないけれど、ここのブログを読んでいただければお分かりでしょうが、私は全然吹奏楽志向ではなく、どっちかというと、オーケストラとか室内楽志向なんです。だから、どうしても、そっち基準で判断したくなるわけです。あ、あと、最近は、よく分からないながらも、ジャズやボサノヴァ志向もちょびっとだけ入ってきました(照)。
だから、ビジューにしても、メルヴェイユにしても、いわゆる“ヤマハ”の音(吹奏楽っぽい音)がして、???になるかなあ…って思ってましたが、実際に吹いてみて、驚きました。
いやいや、良いですよ。このフルートたち。音色はよくよく聴くと、やはりベースは、あのヤマハの音なんだけれど、でもそこから、一歩も二歩も抜け出しているって感じ。なんというかな? ヤマハのボディに上等なドレスを着こなしているような気品ある音なのよ。そう“気品ある”という形容詞がピッタリな感じなんです。もったいなくて、吹奏楽には使えません(って、ぶたないで!)。
これ、ちょっぴり欲しいかも…そう思いました。
ビジューとメルヴェイユ。姉妹器という位置づけだろうと思いますし、なんか似通っている部分は確かにありますが、ブランドが違うように、やはり印象は違いますね。
ビジューはさわやかで澄みきった音をします。総銀タイプを吹いたのですが、銀のとてもきれいな響きがしました。結構、私好みの音色です。あと、『ビジュー』という、難しそうな名前のイメージと違って、普通に鳴らしやすいフルートでした。息を入れれば、すぐに反応します。いいな、これ。
対してメルヴェイユは、艶やかで色香のある音です。総銀なのに、ちょっと厚めの音がして「これ、どこかにゴールド使ってるの?」って感じでした(たぶん、使ってないと思います)。普通に音色を確認するために音を出した時のメルヴェイユは「うわ、音が厚い! 大丈夫?」と思いましたが、実際にメロディーを吹き始めると、なんて言うの? 私の実力以上に音楽的に聞こえるよ。不思議だね。
なので、たぶん、一般受けするのはメルヴェイユの方かな…って気がします。私はどちらかと言うと……両方欲しいです(笑)。と言うのも、かなり性格が違う二本なんですよ。お金があったら、両方欲しいなあ。工藤氏は、コンサートの時は、どちらで吹くのだろうか?
そんな風に、ヤマハの姉妹で遊んでいると、店員さんがPSモデルとALモデルを持ってきてくださいました。そうそう、アルタスユーザー的には「いつかはPS」とか「いつかはAL」ってところありますよね。そこで、試奏です。
まず最初に吹いたのはALモデルの方。吹いていきなり思ったのは「あ、アルタスの音がする」という当たり前の感想。でも、ヤマハの後だと、強くアルタスを感じました。ううむ、メーカーによる音色の違いって、かなりあると思いました。
ALモデルってAg946管の巻管フルートです。オールド・フレンチを目指したというフルートです。管体に関しては、アゲハよりもちょいと銀の含有率が低めですが、リップもキーもAg946で統一されているので、そのコンセプトから考えて、かなり、私のお気に入りっぽい音が出るだろうと期待をして吹いてみたのですが、…実は吹いてみた感じ、アゲハによく似た音でした。ああ、やっぱり姉妹フルートだなあという、あっけらかんな印象でした。
確かに、アゲハとはちょっと違うような気もしないではないのですが、正直微妙な感じでした。値段は倍違いますが、吹いた印象は値段ほどの違いを感じませんでした。
一応、モデル名が違うわけで、その個性も違うはずですが、でははっきりアゲハと違うのかと言うと、そこは姉妹ですから、違うけれど、やっぱりすごくよく似ているという感じ。実際、1307RとALモデル。かなりよく似ています。
とは言え、よくよく吹き比べてみれば、ALモデルの方が、ちょっとばかり音が厚めで、しっかりした感じがします。抵抗感も強い。もちろん造りは、やはりALモデルの方が丁寧というか、繊細な感じがするような気がしますので、そこいら辺に価値を見いだす人には妥当な値段づけかもしれません。でも、それらも“あえて言えば”の世界の話であって、基本的な音の性格は、ほぼ同じで、よく似た姉妹です。ただ、奏者を育てるコーチとしては、1307Rよりも手ごわいかもしれません。
1307RとALモデルがこれだけ似ているなら、1307Rと素材はまったく同じで、ALモデルとは製法がまったく同じという、ちょうど1307RとALモデルの中間の位置付けな1607Rだと、もっとALモデルと似ているのかもしれない。ああ、1307Rと1607RとALモデルの三本を並べて交互に吹き比べてみたいものだ。
一方、PSモデルはAg997管ソルダードモデルで、アルタスのフルートの中では、一番銀の含有率の高いモデルです。実は銀の含有率のあまりの高さから、あまり期待していなかったフルートなんてすが、実際に吹いてみたところ、意外なほど良かったです。吹く前は「PSモデルよりALモデルの方を好きになるに違いない」と思っていましたが、実際に吹いた感じはPSモデルの方が個性的なので、こっちの方が好きになれそうです。
とは言っても、PSモデルも、音は、やはりアルタスの音です。でも、芯が強くて涼しげな音がしました。あと、こいつを吹くのは、ちょっと大変かもしれない。アゲハも、ALモデルも簡単なフルートではないけれど、PSモデルも結構、難しいフルートだなあという印象を持ちました。
PSモデルは、かなり良いフルートである事には間違いないです。これをきちんと鳴らすのは私には難しいですが、もしも鳴らせたら、どれだけの音が出るのだろうかと思うと、なんかワクワクする、そういう雰囲気を持ったフルートでした。この楽器の音は優しげなので、きっと他の楽器ともよく調和すると思います。そういう意味では、オーケストラにはぴったりかもしれない。
で、ALモデルもPSモデルも、将来的にアゲハからの買い換え対象になるかというと、……どーでしょうね。と言うのも、1307RもALモデルもPSモデルも、同じアルタスの音なんですよ。
そう考えると、もし買い換える(買い足す)なら、全く個性の違う、別のメーカーのフルートの方がいいかな、なんて贅沢なことを考えました。いや、ほんと、贅沢ですね。せめて、妄想だけでも贅沢に、ってところでしょうね。
そうこうしているうちに、アゲハの調整が仕上がったので、この4本に加えてアゲハも並べて、取っかえ引っかえに吹いてみました。
「吹き比べ~、吹き比べ~」と、鼻唄まじりで吹き比べました。店員さんには「こいつ(アゲハ)だけ、お値段が半額程度だから、見劣りしそうでいやだなあ」なんて、心にもないことをつぶやいて、吹きました。もちろん店員さんは大人ですから「そんなことはありませんよ、それぞれ個性が違うだけですから」と言ってました。
さて、丹念に五本のフルートを吹き比べました。
答え。
やっぱり、メーカーによる音の傾向というものは確かにあります。アルタスの三本は、それぞれが微妙に個性を主張するものの、やっぱり姉妹フルートで、みんなアルタスの音がします。あえて違いを言えば、涼しげなPSモデル、実の詰まったALモデル、最愛の1307Rって感じですかね。とにかくアルタスの子たちは、よく似た姉妹なんですね。
一方、ヤマハもこの二本は完全に姉妹ですね。でも、アルタス家よりはそれぞれの自己主張が強いです。さわやかなビジューに、色っぽいメルヴェイユって感じですかね。ああ、全部欲しーい。って、そのうちの一本は私の笛だ。
値段の違いはあるけれど、店員さんのおっしゃるとおり、これくらいになると、もはや、値段で差が出るというよりも、個性の違いで考えた方が良いと思いました。
しかし、アルタスの三本は、私にとっては、その個性の違いが小さくて、正直なところ、ほとんど同じでした。特にアゲハ(1307R)とALモデルは、ブラインドテストをすると、間違えてしまうかもしれないほど、似てました(さすがにPSモデルはちょっと違う)。じゃあ、本当にアゲハとALは同じようなフルートなのかと言われると…ちょっと自信がありません。
と言うのも、ブログで書くのもなんですが、アルタスの総銀フルートって、吹くのが難しいフルートだと、改めて思いました。なんか、どこか、こだわっているというか、あまり妥協していないと言うか、商売そっちのけというか…。前々から感じてますが、初級者には優しくないフルートだと思います。優しくないけれど、とても良いコーチだと思います。
アルタス三姉妹(どの子もツンデレです)については、今の私にとっては、似たようなモデルでしかありませんが、もっと腕前をあげれば、その違いを引き出せる。そんな気がするフルートたちでした。つまり、私程度の腕前では、アルタスフルートを語るには力不足。なんかそんな気がしました。とにかくアルタスは、奏者にとって、良い教師だと思いますし、じゃじゃ馬です。でも、そんなところが大好きです、ラブです。
ムラマツフルートの話は明日アップします。
コメント
アゲハちゃんの調整と試奏お疲れ様でした
やっぱりフルートは試奏して初めてその楽器の良さがわかると思います
いくらプロが試奏して、感想をカタログに書いてあったとしても、それはその人本人の意見であって、確実にそうなるとは限りませんからね
私もフルートの試奏しに行きたいのは山々ですが、自分の腕と時間を考えると当分行けません(汗)
>橘さん
そうですね。カタログの記述も(私のモノも含む)ブログやHPの記事にしても、所詮は他人の感想ですねからね。フルートの音は、楽器固有の部分と、奏者の持っている音色の二つでできあがっていると思います。だから、他人の意見はあくまでも参考意見で、自分にとっての真実は、自分で試奏してみないことには、何も分からないというのが、本当のことだと思います。
そうは言っても、なかなかフルートの試奏はできませんからね。
まずは地域の問題があります。私だって東京に行かない限り、やはり試奏はキビシイですよ。東京を始めとする大都市に簡単に行ける人もいれば、それが敵わない人だっているわけです。地方によっては、試奏は可能だけれど、事前にメーカーから試奏用のフルートを取り寄せないといけないといった地域もあるわけで、そうなると、吹く前からある程度るスクリーニングテストのようなものが必要になってきます。ま、そんな時の参考意見がカタログやブログの記述だろうと思ってます。
少なくとも、私は、私にとっての真実だけを書いてます。他の人の意見とは違うところも多々あると思いますが、私の感覚で書いてますので、勘弁してくださいといった感じです。
たとえば、ビジューは「吹きやすい笛」と思ったので、そう書きましたが、一般的にはどうなんでしょうね。普通はたぶん「難しい笛」に属するのかもしれませんが、私は「吹きやすい」と思ったので「吹きやすい」と書きました。試奏もせずにビジューを買って、その吹きづらさに閉口しても、私は知らないもんね。
>私もフルートの試奏しに行きたいのは山々ですが、自分の腕と時間を考えると当分行けません(汗)
私が試奏しちゃうくらいですから、橘さんなら、腕の面では心配ないでしょう。時間は…生活が忙しいかな?
確かに、アルタスはアルタスで、みんな兄弟姉妹かもしれませんね。でもそれだけに、どの楽器を選んでもいいわけだ。逆にどの楽器を選んでも苦労するとも言えますが…。
それにしても、アゲハちゃんのバランスの崩れ方は、かなりのものですね。(私の葉二も最初の1年は、まめに調整してました)
もしかすると、すとんさんの腕力(いや指の力)で、キーバランスが崩れるのが早くなっていたりするかも知れません。キーのタッチはフェザータッチがお好みだということなので、的外れかも知れませんが。
私、アルタスを吹くようになってから、なるべくキーを触らないようにしています。楽器をケースから出して組む時も、吹くために構える時も、もちろん、楽器をバラしてケースにしまう時もです。
吹くために、楽器を構えるときには、キーメカのないところ(頭部管と本体の接合部)を左手で持って、右手はキーをふさいで、楽器を構え、最後に左手を滑らせて、三点支持を確実にできるようにして構えます。
楽器を三点で支持できないと、必ずといっていいほど、右手のどこかの指が、楽器をホールドする方に参加しちゃいます。これは単に指が回らなくなるだけでなく、特にアルタスのフルートにとっては、キーバランスを崩す元にもなっていると、葉二との20年間の付き合いで学びました。
私個人の経験でいうと、右手の小指はDの音以外の時にそうなりがちです。薬指は斜めにキーを押していて、リングキーをちゃんと押さえきれないので、力を入れて半ば強引にふさいでいたりします。人差し指にも力が入りやすく、強めに押さえていると、連結部までバランスが崩れます。
左手のキーが比較的安泰なのは、三点支持ができていなくても、人差し指の付け根の部分に楽器を乗せてしまえるためでしょう。ところが、右手の親指の上に楽器を乗せるような支え方だと、楽器がコロンと回っちゃったりしますので、どうも余計な力が右手には入りがちなのです。
これも私の経験ですが、指に必要以上の力が入っている時には、楽器が響いてくれません。もし、思い当たるふしがあれば、ご参考になさってください。
別件ですが、今度銀座に行く時は、葉二を連れて行かないで、ヤマハのビジューとメルヴィユを吹いてこようっと…。
長文失礼しました。
値段の話は抜きにして、ALモデルが気になってます。
高木綾子さんのフルートが巻管なんですよね。
一枚の板から作りあげたフルートって言っておられて、なんとなくかっこいいなあと思ったんですよ。
試奏してみたいですね。
>たかさん
>もしかすると、すとんさんの腕力(いや指の力)で、キーバランスが崩れるのが早くなっていたりするかも知れません
それはあるかもしれません。指力があるわけではありませんが、平均的な人よりも打鍵というのかな? 力が入っているかもしれません。なにしろデブですから(汗)。ただ、フェザータッチが好みなのは事実です。クリック感のある(つまりバネの強い)ものは苦手です。
>私、アルタスを吹くようになってから、なるべくキーを触らないようにしています
あ、これは見習うことにします。私も笛先生から「なるべくキーには触らないように」と言われてますが、性格がアバウトなため、ちょっといいかげんにしてました。今後は、もう少しだけ気をつけてみたいと思います。一応「フルートを持つときは首と足を持ってください」の言いつけだけは守ってますが…。
三点支持の件は、初心者にしちゃあ、できている部類だと自画自賛しておきましょう。そうは言っても、時々笛が手の中で踊る時もあるので、まだまだ甘い構えだとは自覚してますが…。
いやあ、つまり、構えにしても、フルートの持ち方にして、打鍵の強さ速さにしても、アルタスのフルートは、色々と教えてくれるわけですね。手厳しいコーチだこと。
>夜希さん
巻管に興味津々ですか? 巻管って、つまりは“トーンホールだけでなく管体もソルダード”にしちゃったと思うと分かりやすいです。ドゥローンのフルートと比べると、音の立ち上がりが速く、音そのものに多少の(いい意味での)雑味が加わり、いい感じの複雑さが加わります。私自身は、なめらかな音の立ち上がりと原色っぽい音色が好きなので、ドゥローン派なのですが、巻管は巻管で個性があっていいです。次に買い足すフルートは、巻管にしてもいいかなと妄想してます。
高木綾子さんのフルート(5月に聴きます)は、管厚が極めて薄いという特徴もあるそうですよ。巻管で管厚が薄いなんて、作ったフルート職人さん(ヘルムート・ハンミッヒさんでしたっけ)の腕はすごいですね。
>試奏してみたいですね。
私は、ヘルムートにこだわらず、ハンミッヒ家の総銀フルートを吹いてみたいです。