だいぶ古い話になりますが、昨年のクリスマスの頃、地元でクリスマス公演と銘打った、一風変わった『魔笛』を見てきました。
一風変わったと言っても、あのモーツァルトの『魔笛』で間違いはありません。じゃあ、どこが“一風変わった”と言うのかと言えば…。
まず“短縮版”で上演された事です。あの『魔笛』が約2時間になりました。『魔笛』って、普通に上演すると3時間オーバーが当たり前のオペラですから、だいぶカットされています。まあ、実際のところ『魔笛』って、見ていて「ちょっとダレるなあ…」という部分が無いわけじゃ無いでしょ? そういう部分がざっくりカットされているので、ストーリー進行は速くて好感が持てますが…後から思うと、カットされているのは、ほぼ、タミーノやパミーナが活躍するシーンでした。主役であるタミーノやヒロインであるパミーナのシーンをざっくりカットしているので、彼らが主役とは、到底思えない仕上がりになっておりました(笑)。
主役たちのシーンがたくさんカットされていたので、ストーリー進行がよく分からなくなっていました。その代わり、有名なアリアは(パミーナのアリアを除いて)ほぼほぼ歌われていました。まあ、ストーリーに関して言えば、元々、ストーリーなんてあって無いようなオペラなので、特に問題は無いと言えるでしょう。
次に日本語で上演されていました。これは今回の歌劇団である小田原オペラが「オペラを日本語で上演する」事をモットーにしている団体なので、まあそんなところです。
もっとも、せっかく日本語で上演しているのだから、より分かりやすくなったのか言えば…正直、内容把握に限るなら字幕上演の方が良かったなあって感じです。やはり、日本語で歌われたり、芝居をされても、うまく聞き取れないんだよね。これは私の個人的な意見ではなく、休憩時間で他の客たちも「何を言っているのか、よく分からない」と結構こぼしていたくらいです。私は、元々のストーリーを知った上で聞いているので、脳内で補完しながら聞けてます(それでも良く分かりませんでした)が、オペラ自体が全く初めて、という客も大勢いたので、不慣れな上に聞き取りづらい歌やセリフでは、みんなが不平をこぼすのも仕方ないって感じでした。せめて、ミュージカル程度には、日本語が聞き取れないと、日本語上演は厳しいなあと感じた次第です。それに舞台で演じている人は歌手なので、歌っている声は聞こえるのだけれど、演じている声が聞き取れないのは、歌手と俳優では、もしかすると発声が違うのかしら…と思わないでもなかったです。
そうそう、バレエがとても多かったです。実はこの公演は、歌劇団(小田原オペラ)とバレエ団(乃羽バレエ団)の共同開催で、バレエシーンがとても増えています。どれくらい増えているのかと言うと…三人の童子をバレリーナが演じています。ですから、三人の童子の歌はすべてバレエのマイムで演じられています。それ以外にも、モノスタトスの手下とか、パパゲーノとパパゲーナの子供なども、すべて子役のバレリーナが演じていました。
この試みは大変面白かったですよ。パパゲーノの自殺を止める時だけは、マイムじゃなくて、歌(ってか、声)で止めてほしかったなあと思ったけれど、それ以外はバレエもアリです。しゃべらない童子も新鮮だよね。
ただ、歌われていた歌詞では童子は男の子であるように歌われているのだけれど、登場した童子は、普通のバレリーナさんの装束(チュチュって言うの? いかにもフェミニンなアレ)着て、髪飾りなんかも付けてましたので、とても男の子には見えない(笑)のは、どうかな?って思いました。どうせ日本語で歌っているし、歌詞にもアレコレ手が入っているようだったので、そこは『三人の踊り子』とか『三人の舞姫』とか言っちゃえはよかったのになあって思いました。いっそ役名だって『三人の少女』とか『三人の童女』だっていいと思うよ。
この手の小規模オペラだと、伴奏はピアノ連弾とか、エレクトーンの場合が多いのですが、今回は小田原オペラアンサンブルと名乗る、小規模オーケストラが担当していました。14人編成の本当に小さなオーケストラです。よくやっていたと思いますが…編成にピッコロやトランペットが入っていないせいか、オーケストラサウンドにキラキラ度が、かな~り減少していたのが残念でした。あと、グロッケンの代わりがピアノだったので、やっぱり音がキラキラしていなくて…。ううむ『魔笛』の音楽はやっぱりキラキラして欲しいよね。でも、予算の都合なんだろうなあ…。
そうそう、コロナ禍バージョンと銘打たれていたので、登場人物もだいぶ減ってました。まず、合唱団は無しね。ソリストたちは11人。魔笛は通常19名のソリストが必要ですから、だいぶソリストが断捨離されておりました。その代わり、バレエダンサーはたくさん出ていましたが…ダンサーたちは声を出さないので、いくらいても良いのでしょうね。
それと、これもコロナ対策の一環なのでしょうか? オケピがとても浅かったのです。座っている演奏家は良いのですが、立っている人(指揮者やコントラバス)は客席から丸見えで、ほんとに鑑賞の邪魔でした。仕方ないのでしょうが、ちょっと不満です。
と、苦言もたくさん書いちゃいましたが、私的には思わぬ収穫ってか、結構楽しんだのは事実です。
実は今回の公演は、バレエ関係者から「チケットが売れて無くて困ってます」と言われて、義侠心を出して購入したのです(実際、会場にチケットを買いに行ったら、我々が最初の客ですと言われて、ビックリしたくらいです)。ですから、あまり内容的にも期待していなかったし、ガラガラの公演なんだろうなあと思っていいたのですが、実際のところ、蓋を開けてみたら、見るからにバレエ関係者さんたちが大勢いて、子どもたちが大勢いて、いつものオペラ公演とは、明らかに違う客層で驚きましたが、それでもほぼ満席に近い状態になってました。バレエ団が頑張ってチケット販売したんだろうなあ…。
とにかく、今回の『魔笛』は、One & Only な公演で、とても面白かったですよ。それに、昔はよく見かけたオペラの日本語上演も、実に久しぶりで、なんか懐かしかったです。小田原オペラ、気に入りました。
蛇足 オペラが始まる前に延々とあった、ローカルな議員さんたちの挨拶とか紹介とかは、ほんと、勘弁してほしいと思いました。そういうところが、地方なんだなって思い知らされた感じです。でも、彼らの協力があって、このオペラが公演できたんだろうなあ…とも推測はするんです…けれどもねえ。
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