全く予定外だったのですが、東京に遊びに行って、夕方にポカンと空き時間ができてしまったので、このまま真っ直ぐウチに帰ってもいいのだけれど、せっかく都会に来たんだし、ここは一発、大型楽器店に行ってみて、笛先生のミッションをコンプリートしてくんべか? と思って、さっそく妻と二人で大型楽器店に行っちゃいました。
私は、夏休みの宿題を7月中に終わらせちゃうタイプなんですよ。小心者なんですね、宿題を先延ばしには絶対できない人なんです。ああ、因果な性格。
全くの予定外だったのですが、さっそく心臓バクバクのまま、某大型楽器店へ突入。あ、しまった。まだ試奏用の曲は「イエスタデイ・ワンス・モア」しかマスターしてないぞ!
フルート売場に行ってみたところ、さすが都会だね。山のようにたくさんの笛がある。それも安いものから「嘘でしょ」って言うくらい高いのまで、本当に山のよう。しっかり鍵のかかったショーケースの中を見ているだけでも、いい勉強になります。
しかし都会の楽器屋さんはウチの地元とは違うね。なんでああも“高級感”にあふれているんだい。確かに扱っている楽器のランクというか、お値段というかには、すごい差はあるけどねえ…。ビビっちゃうじゃない。
はっきり言って、周りの空気に飲まれました。フルート売場で店員さんをつかまえて「フルートを試奏させてください」とは、とても言えない。それはムリムリ。あんなゴージャスな場所は、居心地悪い、と言うよりも、なんか私、場違いなところにいるみたいな感じがします。
かと言って、帰るわけにもいかず、仕方がないので、ショーウィンドウの前で、ああでもない、こうでもないと、妻とつまらぬフルート談義をしていたら、そこへ店員さんがやってきて「吹いてみますか?」ときたもんだ。
キターーーーーーーーっ!
私のすぐそばでは、めっちゃうまい人が、何やらピーヒョロ試奏しているんですよ。その反対側では、親子連れがフルートのご商談中。他にも私たち同様に冷やかしの客もいるし、他の店員さんはショーケースを開けたり閉めたりして、100万円クラスの外国製フルートを出し入れしているし…そんな環境の中で、フルートを吹く? 試奏をする? そりゃ、試奏したくて来たのだけれど、そ、それはちょっと、ムリじゃねえ?
なんかしどろもどろに、軽くパニクっていると店員さんが「試奏室がご用意できますよ」とニッコリ。
ええ、試奏室ですか…そりゃ、渡りに船というものではないですかあ…。そ、そうですか。で、では…そのお申し出、ありがたくお受け致します。
どの楽器を吹きますかと尋ねるから、総銀のモデルを一通り、あと一本でいいからゴールドを必ずと答えたところ、かしこまりましたと言って、試奏室に案内されました。
だって、あのゴージャスな雰囲気の中「安い奴を中心に。スクールモデルとか頭部管銀製の奴をオンパレードで!」とは言えません。いや、地元の楽器屋さんなら平気で言っちゃうかもしれませんが、そこは田舎者の悲しさ。完全に都会の空気に負けてます。「総銀モデルを…」が精一杯の抵抗です。だって、試奏室にご案内だよ。わざわざお部屋まで用意してもらっているのだから…ねえ?
試奏室(どうやらフルート専用の試奏室だったみたいです。都会の楽器店ってすごいね)に入って、しばらくすると、店員さんが二本のフルートを持ってきました。A社とB社の総銀モデルです。あ、今回の記事ではメーカー名は伏せることにしました。その理由は…追々分かると思います。
「割とよく出るのはこの二本です」と言って、人気の総銀フルートを二本を持ってきてくれました。確かに二本とも有名ブランドの有名モデルだもんなあ、でもこれ、高いんだよなあ…これがここではよく売れるのか…。
意を決して、試奏です。
まずはA社から吹いてみました。インラインのリング式という奴です。インラインは別に問題ないけれど、リング式…つまり穴あきモデルはやはり最初は難しいです。きちんとふさいだつもりでも、何かどっかに隙間があるみたいで、うまく音が出ません。店員さんは「穴は塞げますから安心してください」と言って、透明な部材で塞いでくれました。穴さえ塞げば、こっちのもの。音を出すコツをつかむまでの数秒はちょっと苦労しましたが、すぐに割ときれいに音が出ました。特に低音のドがすんなり出たのは驚き。この音、チャイナ娘だと未だに出せない音なんだけどなあ…。ちなみにA社では、低音と中音は問題なく吹けるけれど、高音はオンチになってしまいます。まあ、まだアルテの第3課な人だから仕方ないよね。
ちなみにチャイナ娘だと高い方は高音のラまでは曲中にあっても平気。一般的に難しいと言われる高音のミもすんなり出ますが…A社のフルートでは高音はレまで。ミは全然ダメ。後になって思えば、このフルート、Eメカが付いていたんだから、それを使ってみれば良かったのにと思いました[2008年8月11日追記 Eメカとは普通に高音のミの運指をすると、本来ならば塞ぐべきなのに、指の数が足りなくて塞げないでいて、そのためにミの音が出しづらいという現状を、自分の指で塞げないなら、メカで塞いでしまいましょう、という機能。つまりEメカ付きのフルートなら、普通に高音ミの運指をすると、勝手にEメカが連動して機能を果たすようにできてます。というわけで、Eメカが付いているにも関わらず、高音ミが出せなかった私は、実はA社とは徹底的に相性が悪かったのでした] が、その時はそんなことなど思いもつきませんでした。ああ、高音のミは難しいなあと思いながら、さすがに値段が高くなると、扱いも難しくなるんだなあと思いました。いやいや、チャイナ娘は本当に音が出しやすい、いい感じの笛だと分かりました。ただしオンチですけど…。ちなみに試奏で吹いた曲は、当然「イエスタディ・ワンス・モア」でした。
次にB社です。こちらはハンドメイドだそうです。
吹いてみました…スカー、スカーって感じで、音、出ません(涙)。これ、難しいです。心を落ち着けて、しっかり息を腰で支え直して吹き直してみたところ、音が出てくれました。私は声楽もやっているから、笛の初心者としては、比較的呼吸がしっかりしている人だと思う。それでこれよ。本当の笛初心者だと、きっと音すら出せないよ、このフルート。
出てきた音は、太めのボサーとしたさえない、どんくさい音。な、なんだ、これは? ってびっくりしちゃいました。いやあ、尺八かい、こいつ! あまりにフルートっぽくない音じゃん、これ。
この段階では、私はA社のフルートの方に好意を持っていました。
そうこうしているうちに、店員さんが次のフルートを持ってきてくれました。「こちらのフルートはおすすめ」なんだそうです。
店員さんおすすめのC社のフルートは、すごくいい感じでした。最初の一息で気に入りました。音も深みがあって私好み。操作性もいいし、低音はレから高音はソまで比較的ラクに出てくれます。低音のドはちょっと出しづらいかったです。また、高音のミとファは出るには出ますが、ちょっとヒステリック気味な音ですな。でも、今までのA社、B社とは比較にならないくらい良い感じ。高音のミとファも、すぐに優しい感じの音が出せるようになると思う。このフルートなら、購入して、じっくり吹き込めば、とてもいい感じになりそうな予感がします。お値段もグッドな感じなので、先生の「絶対に買っちゃダメ」のひとことがなければ、買って帰ったかもしれない。それくらい気に入りました。さほど有名なブランドではないけれど、いいものはいいなあと思いました。さすが、店員さんのお薦めだけある。
楽器の善し悪しはブランドの有名度では決まらないかもしれないと思いました。
そこへ店員さんが次のフルートを持ってきてくれました。ゴールド・フルートです。やったね。
持ってきてくれたのはB社のゴールド・フルートの中で一番安いものだそうです。これもハンドメイドだそうです。
さっそく吹いてみました。驚きました。今までの総銀のフルートとは全く違います。吹いていて、すごく気持ちいいですよ、これ。音がすごくラクに出る。レスポンスがとても良い。低音のドから高音のラまで、高音は確かにちょびっと苦労するし、ちょっと曲にはまだ使えない感じだけれど、そんなのを忘れさせるくらい、ラクラク吹ける。吹いていて、とても楽しいです。な、なんと。金と銀では、まったく別の楽器です、フルートって。
いやあ、このゴールド・フルート、吹いているだけで楽しい気分になります。C社のフルートの事は、もうどっかに飛んで行ってしまいました。今はただ「このゴールド・フルートが欲しい」という気持ちでいっぱいになりました。それくらい気持ちのいい笛です。とにかく吹き込んだ息が無駄なく即座に音になるって感じ。分かりますか?
ただし、音色は???かな。吹いていて、とても気持ち良いのですが、それは操作性の問題であって、音色はそんなに好みじゃないです。これはメーカーのせいではなく、素材の持つ音質の問題だと思います(後からakyさんのご紹介のゴールウェイのビデオを見てそう思いました。こちらの記事のコメントに解説があります)。どうやら私はそれほど金の音が好きではないみたいです…と言うよりも、音色自体は銀の方が好きみたいです。
とにかく、この四本のフルートをとっかえひっかり吹き比べてみました。一時間も吹いていると、だいぶ印象が変わってきました。
B社の総銀のフルート。最初はどんくさい音だなあと思っていましたが、吹き込んでいくうちにドンドン音が変わってゆきました。なんか華やかで潤いのある音に変わってゆきます。この音色、好きだな。とにかく吹き方をちょっと変えるだけで、色々な音色が出てくる。これ、おもしろいかもしれない。フルートって、こんなにカラフルな楽器だったんだ。とにかく万能なフルートだと思いました。
同じB社のゴールド・フルートはとにかく楽しいです。試奏の時間の半分は、実はこの笛を吹いていました。だって、すごく楽しいんだよ、これ。音はちょっと好みとは違うけれど、そんなものを吹き飛ばすくらい、吹いていて気持ちいい。この笛を買ったら、たぶん歌の練習はしないで笛ばっかり吹いてしまうかもしれない。それくらい気持ちが良いです。欲しいなあ、これ。
C社は第一印象が良かったフルートです。さらにこれは、吹き込んでいくほどに、ますます好きになっていく感じの笛でした。ただ、B社のフルートほど劇的に音色が変わるという印象はありませんでした。ただ渋い深みのある音がします。私はこの音、大好きです。美音が求められるクラシック向けの笛だと思いました。でもボサノヴァのあのノリにこの音色はどうだろ? そういう意味では、音楽ジャンルを選ぶかな。もしこの笛を買ったなら、ポップス用のフルートをもう一本買う必要がありそうだな。
A社は…ありえないと思い始めました。最初こそ取っつきやすい感じがして好意をもっていましたが、それでなんかお終いって感じがして、底の浅い楽器だなあと思いました。買って帰っても後悔しそう。正直、これならチャイナ娘の方がいいかもって思いました。
話はまだまだ続きます。店員さんはさらに新しいフルートを持ってきてくれます。でも、記事も長くなったので、今日はここまで。あ、メーカー名とかの推察がついても、心の中に仕舞っておいてくださいね。大人の約束だよ(笑)。
コメント
メーカー名、さっぱりわかりません。(笑)
確かに大きな楽器店で試奏するのは勇気が要りそうですね。
よくピアノブログの方々が試弾会に行きました・・・という記事を書いていらっしゃるのですが、皆様ドキドキしていらっしゃらないように見受けられるので(実際はどうか知りませんが)、そういうものに行ったことがない私は不思議で仕方がありませんでした。
大きな楽器店で何となくピアノを弾いたことはあるのですけれどね。
すとんさんのドキドキ感が伝わってきますね~。
実際に高価な楽器を買わなくても、楽器を選ぶ時の判断の基準ができそうですね。
>Ceciliaさん
ピアノの試弾会ですか…。フルートにも試奏会というのがあります。それだと「どうぞ、どうぞ、吹いてってください」ってなるので、多少緊張度も違うかもしれませんね。
何しろ、通常営業の中に、試奏ですからね。ちょっと勇気が要ります。あとピアノと違ってフルートは、店員の目を盗んで(笑)、楽器に触るわけにはいかないのですよ。フルートって、どこでも必ず、ガラスのショーケースの中に入っていますので、触るためには店員さんにケースの鍵を開けてもらって、取り出してもらって、組み立ててもらわないといけないのです。そこにある楽器を何気にポーンと触るのとは違います。ね、ハードル高いでしょ。
もっともピアノの場合は、ポーンと弾くと、必ず店員さんがワラワラとやってきますし、そこにいる人の大半が耳を澄ませるわけだから、ピアノはピアノで緊張があるでしょうね。
メーカー名は分からないように書いたつもりですが、それでも、こっちの世界の人だと、分かってしまうと思います。分かったとしても、公言はしないで欲しいと思います。どのメーカーさんだって、一生懸命に楽器を作っているんですからね。
「フルートを奏でよう」の「ぴっころ」さんの後輩の「ももねこ」です
タイトルに惹かれて いつも楽しみに読んでます。
とくに今回の試奏の話、とても 面白かったです。[E:cat]
うらやましいのは、奥さん公認な事!
ももねこは、フルート入門したころ¥420万もする14K
衝動買いしてしまいました。もちろん奥さんに内緒です。
選び方は部屋の隅で吹いてもらって、自分は対角線の反対の隅で聴く
という方法です、こうすれば自分で吹かなくて済みます。[E:catface]
>いらっしゃいませ、ももねこさん
420万円のフルートを衝動買いするとは、スケールの大きな方ですね。私は1万円のフルートを衝動買いするのがやっとでした。
とは言え、14Kのフルートだと、420万円くらいしますわな。ほんと、楽器って高価な買い物だと思います。
14kは…さぞかし吹き心地が素晴らしいでしょうね。想像もできません。しかし私も、値段のことさえ無かったら、絶対にゴールド・フルートが欲しい人です。ゴールドっていいですねえ。ゴールドを持っている人がうらやましいです。
試奏して、いきなりゴールド・フルートのとりこになった私です。