私の声楽のレッスンはグループレッスンです。ですから、一曲仕上げるごとに、ミニ発表会のような事をします。ひとりずつ、お仲間の前で歌い、素直に批評を受けるというやつです。
これが結構、勉強になります。小さな小さな本番なんですが、単なる練習では得られないものがあります。
てな話はいづれするとして…。
今日は、タイトルどおり、歌い出す時に気をつける事として、先生から受けた注意を二点書きます。
まず一点目は「歌の呼吸を作ってから歌い始める」ことです。どういうことか? 舞台に上がって(実際はお教室なので、単に前に出るだけですが…)、お客様に礼をした後、歌い出すまでにする事です。
礼をして、いきなり歌い出せるなら、それはそれでいいけれど、まあそれはなかなか難しい。気持ちを整理しなければいけないし、不安とも戦わないといけないし、気合も入れていかないとダメ。それらが中途半端なまま、歌い出してしまうと、とんでもない事になってしまう。そこらへんをきちんとしてから歌い出す…それを先生は「歌の呼吸を作ってから…」と表現されました。
歌は、舞台には歌い手と伴奏者しかいないわけで、舞台上で全権を握っているのはやはり歌い手。どのタイミングでどういうふうに歌い始めるかは、歌い手にまかされているわけだ。確かにプロの歌手のコンサートに行っても、いきなり歌い出す人はあまりいない。大抵は、舞台に上がってから、何やら静寂の時間を過ごしてから歌い出す人がほとんど。この時間をどう使うかが、歌い出しを決めてしまうような気がする。
なにしろ歌にはチューニングがない。演奏前に舞台で音(声)を出すわけにはいかない。だからと言って、ピアノのように「ミ」の鍵盤を叩けば、必ず「ミ」の音が出るような確実性はない。歌い出しの音…きちんと正しく明瞭に歌い出せるだろうか? これ、悩み始めるとどうにもならなくなります。
私の場合、常に最初の一音の音程が不安で不安で…。外れていないだろうか、いや、ぶら下がっていないだろうか? 最初の音がぶら下がると、その後もずっとぶら下がったまんまだし、正しい音程で、カツンとした声でガッと出せるか…、うわあ、不安。
まあ、不安は不安だけれど、やんなきゃいけないわけだから、どこかのタイミングで「よし!」と思って歌うわけだ。その覚悟を決めるのに、ちょっと時間がかかります。で、覚悟を決めながら、息を整える。幸い、緊張はあまりしないので、そっちの対処はいらないけれど、不安と戦い、息を深く吸って整える。呼吸のサイクルを日常生活のそれとは変え、歌の呼吸にしてゆく…。
そうやって、歌の呼吸を作ってから歌いだすことを心がけてます。
そして、次に二点目の注意がきます。実際に歌いだしたら、次に気にすることは、技術面の事ではなく「気持ち」。歌に込められた感情や気持ちをきちんと表現すること。とかく生徒という者は、やれ音程だ、やれ響きだ、やれ…と色々と技術面を心配します。そして「失敗したらどーしよう…」とか不安な気持ちになるものです。実際、レッスンではそういうところを中心に練習してきたわけだし。
でも、練習は練習、本番は本番なんだと先生はおっしゃいます。「舞台に立ったら、技術的なことは忘れて、気持ちを込めて歌いなさい」とおっしゃいます。
お客さんは、単に機械的なミスのない音楽を聴きたいのではなく、音楽を聴いて、感動したり、癒されたり、いい気分になったり…、そんな期待を持っているわけで、正しく歌うことはもちろん大切だけれど、正しく歌うことが肝心なのではなく、正しく歌った上で、歌の気持ちがきちんと表現されていること。このことが大切。
歌を歌って、歌に込められた感情が、お客さんにきちんと伝わらなければ、歌としては失敗だもん。心を込めて歌の感情を伝えることは、とても大切。
だから俗に言う「歌に入り込む」ことが必要なんだと思う。これって、ちょっと照れる人多いですね。私は案外、平気なんだけれど。
私は、演技は下手だけれど、演技することには何の衒いもない人なんで、歌に入り込むのは、結構ラク。スーっと入れる。これってたぶん得な性格なんだと思う。でも、歌っていて失敗すると、動揺してしまい、つい地が出てしまうので、失敗しないことが大切ね。きちんと歌えれば、たぶん最後まで入り込んだままでいられると思う。
芝居でも何でも、演じている人の地が見えたら、見ている方もしらけてしまうよね。注意、注意。
「歌の呼吸を作ってから歌いだすこと」「舞台に立ったら、気持ちを込めて歌うこと」
この二つの注意を忘れずに、次回また、歌います。実は次回のレッスンも(今回欠席者がいたため)またミニ発表会なんです。さあ、ヘタこいたところを修正しなきゃ。
でも先生は「軌道修正はいいから、それよりも全部「ア」で歌ってきなさい」と言われました。ううむ、その理由はよく分からないけれど、ひとまず次のレッスンまで、毎日「カロ・ミオ・ベン」を何度も「ア」だけで歌うことにしましょう。何か気づくことかあったら、ブログに書きます。
蛇足。今回のミニ発表会で歌を聞いてくださったお姉様方から、音程の件を誉められたよ。ちょっとうれしい。今まで、音程が常にぶら下がり気味だったことは、自分でも承知していたし、先生からも注意受けていたにも関わらず、本番になると、やっぱり音程がぶら下がってしまって、悲しかった。だけど今回は、いつも一緒に歌っているお姉様方から音程は気にならなかったよって、言ってもらえた。とてもうれしい。歌っている最中に自分の体の中で鳴り響く声を聞かないようにして、常に高めの声を出すように気をつけていたからだと思う。家でも時折チューナーを持って微妙な音程を確認することもしたし…。気をつけていたことが、できるとうれしいですね。達成感があります。やったーって感じ。これに奢らずに、次もぶら下がらずに歌えるとうれしいな。
コメント
パントマイムの時も同じようなことを言われました。レッスン室であれ、人の前に立ったら、私演じる人、あなた観る人の区別ができてしまいます。演じる人は観る人達(それがたった一人でも二人でも)の視線に耐えなければなりません。弁慶の仁王立ちのようなものです。そして、演者・演奏者は演技や演奏で刺さった矢を観る人へ送り返さなければなりません。
それくらい、人の前に立つということはエネルギーにいることだと思います。上手下手は置いといて、まず人の前に立つエネルギーが必要ですね。オドオドしては見苦しいですし。
「引き芸」といいますが、引いては客はついてきません。相撲も引いたら負けにつながりやすいのです。前へ前へ出る!技術のことはあとから練習で取り返すぞって思って、まずは自分の実力を度外視して、堂々と立つ!!
>ticoさん
おっしゃるとおり、「人前に立つ」ってエネルギーが必要ですね。もしかしたら、発表会などでは、演奏の出来うんぬんよりも、人前に立って演奏すること自体に、どれだけ対応できるかで、出来不出来が左右されそうな気すらしてきました。
私もここではエラそうな事を書いてますが、実際には、たかがミニ発表会でも心臓バクバクだったりします。そういう点で、舞台をきちんとなさるプロの方々を拝見するにつれ、(失礼な言い方かもしれませんが)我と彼の違いを感じます。
>技術のことはあとから練習で取り返すぞって思って、まずは自分の実力を度外視して、堂々と立つ!!
ですね、全くそのとおり。まずは「堂々と立つ」ところから、心がけたいと思います。
To Ston
オペラの場合はオケが既に演奏しているので決まった場所にくれば歌い始めなくてはなりません。したがって舞台に出る前、つまり舞台袖で全ての用意、気持の整理が出来ていることが必須条件だと云えるでしょう。
その点コンサートの方が難しいのかもしれません。最初の曲は舞台袖で全ての用意は出来たとしても、続けて次の曲に移る用意、間合いが難しいでしょう。冬の旅のような組曲だと舞台袖である程度の流れを作ってから出て行けば良いのでしょうが・・・
ゴルフは野球と違って止まっている球にエネルギーを与えなければならない、したがって自分の意思でいつ始めても(打っても)良い、と云う事になります。
これと似たような始動の仕方がコンサートにも云えるのではないでしょうか。ゴルフのプロに云わせるとボールに向かってスタンスを取った時は、どう打つかは既に決まっている、と云いますからね。
気持を込めて歌うこと、については舞台に立てばプロでさえも無我夢中の時間が過ぎ去ってしまうものです。舞台上で気持を込めるような余裕はかなりのベテランでも難しい問題となるでしょう。
歌唱技術を確かに保つ事と気持を込める作業は舞台上で調整すべき事ではなく、むしろ練習の時点でどのような歌唱技術を用いれば相手に気持が伝わるかの修練を入念になすべきだと思います。歌唱技術と云うものは音楽の心(演奏者の心)を如何に伝えられるかの手段、方法論でしかないのですから、いくら気持が充実しようともそれらを表現する手段が無くては何も伝わらないという結果になりましょう。気持が伝えられるような歌唱技術を選択し身につけたのち、舞台に臨むべきものと考えます。
松尾篤興
初めまして!声楽で辿り着いて以来、いつも拝見させてもらっています。
私はクラシックの声楽を習い始めて、まだ日が浅いので、参考にさせていただく事が多くて嬉しいです。[E:confident]
もうすぐ初の発表会があるのですが、まだまだ歌い方をつかめず、
緊張もするだろうし、当日、舞台の上で色々考えてしまいそうに
なってました。
でも、すとんさんが書かれていたように、もう余計なことは
考えずに、気持ちを込めて歌うことだけを考えたいと思いました。
それから、歌い出すまでの間・・。
これもまだまだ慣れなくて、照れもあって、落ち着かないまま
歌い出してしまいそうな予感がするのですが、「歌の呼吸を
作ってから」なんですね。
とても参考になります。ありがとうございます。
すとんさんの所は、ミニ発表会があるのですね!
良いなぁと思いました。随分違いますよね。
また来させて頂きます!
よろしくお願いします。
>松尾さん
おっしゃるとおり、人前で歌を歌うというのは、歌そのものもきちんと準備し練習を重ねておくことが大切です。さらにその上に、舞台ならではの心得や苦労があること、その大変さがうっすらと分かるような気がします。
お教室でのミニ発表会で、これだけ手こずっている私ですから、もう日々の本番の舞台で活躍されているプロの方々から見れば、何を今更なというレベルであたふたしていますが、自分で言うのもなんですが、かわいいものだと思います。
小さな小さな舞台の経験ですが、こんな経験から私はプロの方々の大変さがほんの少しでしょうが、分かるような気がします。そして、私が気楽に見ている演奏の裏で、どれだけの努力や練習が積み重ねられているかが推測されます。
学ぶって、楽しいですね。世界が広がります。
>とまとさん、いらっしゃいませ。
実にうれしいです。このブログを続けている理由の第一番は「自分の記録、備忘録」なんですが(笑)、第二の理由は「自分と同じ、声楽(&フルート)初心者の方々とお互いに刺激し合いたい」というのがあります。
ですから、そういう方がここを読んでくださっていると分かると、すごく励みになります。うれしいです。また、よかったら遊びにいらしてください。