表記の仕方に、そもそもの問題があるとは思うのだけれど、拍子記号ってのは、初心者さんにはなかなか厄介なものなんだと思います。一応、義務教育で、簡単な楽典は教えてくれるんだけれど、小学生の頃に習ったことなんて、オトナになれば忘れてしまうわけだから、大半の人にとって拍子記号の意味なんて「習った…かもしれない」程度の話で、思い出すことが出来ないわけです。
拍子記号ってのは、楽譜の左端にある、ト音記号やヘ音記号の隣に書いてある“分数”の事を言います。ほら、4/4とか、3/4とか書かれているアレね。アレの意味って、ご存知ですか?
見た目(表記)だけでなく“4/4拍子”と書いて「よんぶんのよん びょうし」とか読むわけだし、ほんと、拍子記号って、分数か何かの親戚のような誤解を生じやすいのだけれど、決して分数ではありません。
例えば、3/4。
分数ならば、全体を4分割したうちの3つという意味になります。分母は分割した数を、分子は分割されたモノの個数を表現しているわけです。だから、3/4は小数で表すなら“0.75”になるわけです。
一方、拍子記号ならば、四分音符を1拍とし、3拍で1小節とするという意味になります。ですから、分母は基準となる音符を表し、分子は何拍で1小節となるかを表しています。なので、3/4を小数で表す…なんて出来るわけないんです。
全く概念が違うのに、表記の表現方法が似通っていて誤解を招きやすいという点が、ちょっと厄介なんですね。今はオトナですから、拍子記号についても、ちゃんと理解していますが、習ったばかりの小学生の頃は「2/2も4/4も、同じ“1”じゃん」って思ってましたもの。…拍子記号は分数じゃないんだけれどね(溜息)。
拍子記号は(表記方法が似ているけれど)分数ではありません。ですから、2/2と4/4は全く違います。通分とか約分とかしませんし、小数にも換算しません。しかし、2/2と2/4は違うように見えて、実は同じだったりします…なんて事も、当然、小学生だった私には分かりませんでした。まして、3/4と6/8は、全くの赤の他人で、似て非なるモノである事も分からなかったし「2/4は全部マーチで、3/4は全部ワルツだ」なんて誤解もしていたりしていました。
ええと、解説します。
2/2と4/4は、分数なら“1”ですから同じになりますが、音楽では2/2は二拍子で、4/4は四拍子ですから、音楽的に全然違いますし、2/2は二分音符が基準になりますが、4/4は四分音符が基準になりますから、楽譜の見た目もだいぶ違います。
2/2と2/4は、同じ二拍子です。ただ、二分音符と四分音符という基準となる音符の違いがありますが、それは表記上の違いであって、実際に演奏された音楽を聞くと、同じに聞こえます。
3/4と6/8は厄介です。ともに1小節内に、四分音符なら3つ、八分音符なら6つの音符が入るわけで、違いなんて全く無いように思いがちですが、実は全然違っています。3/4は三拍子です。6/8は六拍子と言われますが、実際の演奏では二拍子になります。三拍子と二拍子では、音楽として全然違います。楽譜の見かけも、3/4は四分音符が3つ並んだ形が多いですが、6/8は、八分音符が3つずつ連符(音符の旗がつながっている音符)になっているので、違いが一目瞭然です。
2/4もマーチも同じ二拍子ですが、2/4の曲には速い曲もあればゆっくりした曲もありますが、マーチは必ず歩く速度で演奏されますし、マーチのリズムには必ず『裏打ち』と呼ばれる特徴的なリズムが付きます。
3/4は単なる三拍子ですから、速い曲もあればゆっくりした曲もある一方、ワルツは踊る速度で演奏されるのはもちろん、ステップの都合上、二拍目でダンサーが大きく動くので、二拍目が他の拍よりもやや長めに演奏されるという特徴があります。
さらに拍子記号に関して面倒な事を言うと、同時に複数のリズムで演奏するポリリズムの曲の場合、各声部ごとに拍子記号が違っていたりします。例えば、ビートルズの“All my loving”という曲は、12/8と表記される事が多いですが、実は、曲の前半部のヴォーカルは2/4で、ギターが6/8だったりしますし、実際、そのように書かれているバンド譜も見たことがあります。曲の前半部は2/4と6/8のリズムが同時進行し、後半部は普通に4/4になるので、曲全体を通して、最大公約数的に12/8という表記が採用される事が多いわけです。
まあ、彼らはおそらく、この曲をポリリズムの曲であるという認識はなく、いかしたシャッフルの曲だと思っていると思います。
そうなんですよ、シャッフルって4/4拍子なんですよ。ただし、普通の4/4とは違って、1拍を3分割した三連符を多用するリズムなんです。ですから、表記としては…12/8になったりしますが、音楽そのものは4/4だったりします。
ですから、4/4と言っても、シャッフルも4/4だし、ロック(8ビートも16ビートも32ビート)も4/4だし、ボサノヴァも4/4だし、バラードもスウィングも4/4なんです。つまり、リズムを拍子記号で表す、クラシカルな方法は、すでに時代から取り残されているというか、昔のやり方なのかもしれません。
昔のやり方だから、我々素人は、そこにあまり注意をしないので、余計に拍子記号を分数と勘違いしてしまう…って事はないか(笑)。でも、軽視しがちなのは事実です。
クラシック音楽には美しい曲が多いけれど、リズムの多様性と和音進行の複雑さを考えるなら、クラシック音楽は、ポピュラー音楽の後塵に甘んじている…と言えるのかもしれません。
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コメント
4/4と12/8といえば・・・
メサイアのRejoiceですが、よく歌われるのは4/4のバージョンですが、12/8バージョンもあって、わたしはこっちの方が楽しくて好きです。
クラシックでなくても、三連バラードとか好きですねえ。
椎茸さん
へえ…と思って見てみたら、ベーレンライター版の16番のソプラノソロの事でしたか。一応、レギュラーに据えられているのが、4/4バージョンで、置き換え可能な別バージョンの方が12/バージョンですね。
この二曲、基本的に同じ曲ですが、拍子が違うので、細かなリズムの取り方が違っていて、なんか面白そう。たぶん、歌いやすいのは4/4だろうけれど、12/8だと、全体のリズムは均等に流れる感じでしょうが、アウフタクトがより尖った感じになっていて、4/4よりもメリハリがある印象ですね。私も12/8の方が好みかも…。
>クラシックでなくても、三連バラードとか好きですねえ。
三連のリズムって、今でこそ苦労しなくなりましたが、その感覚をつかむまでは、結構苦労しました。クラシックのリズムって、基本的には“時間の二分割”でしょ? なのに、三連のリズムは、時間を三分割していくわけでしょ? で、この三分割が往々にして同じ曲の中で二分割と共存しているわけで、時間を二分割にしたり三分割にしたりが、肌感覚で分かるまで苦労した思い出があります。
ちなみに、リズムに関しては、クラシックよりも、ジャズを勉強していた時に、たくさん身についた記憶があります。