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お達者な発表会を見てきました

 例によって、見知らぬ人たちの発表会を見てきました。その発表会、とにかく何がすごいって、ほぼ全員と言っていいと思うのだけれど、誰も正しく楽譜通りには歌わなかったという、実にスーパーな発表会でした。

 別に“楽譜どおりに歌わなかった”と言っても、アドリブをかましまくるような発表会ではなく、ごくごく普通の声楽発表会だったのですが…ただ、割りとよくある発表会とは、少し異なるのは、出演者のほとんどが、70~80代のお姉さまばかりだったという点です。それも10年も歌っていれば長い方で、歌い始めてから4~5年ぐらいという人、つまり“シニアな初心者さん”が、たっぷりといる発表会だったのでした。

 なので、実に“お達者な”声楽発表会だったわけです。

 私、この発表会を見ながら、実に気分は、ほっこりしていたわけです。だってね、もう、歌が上手いとか下手とか、そういうレベルの問題じゃないでしょ? 人生の先輩方が、実に堂々と人前で歌ってらっしゃるわけです。そして、その集客力! ホールは満員近く入っているし、誰も歌い終えると、大向うから声がかかり、観客席からは家族とか友人と思われる人々が、バラバラと舞台に出て行って、皆さん、花束を渡すのです。歌い終えた皆さん、誰もが持ちきれないくらいの花束を抱えて、舞台袖に引っ込むわけですよ。

 ああ、この人たち、愛されているなあ…。

 この年代の方々ですから、プログラムの大半は日本歌曲だったけれど、どの曲も実に味わい深いんですね。もちろん、上手くはないですが、味があるんです。そして、一生懸命なんです。イタリアやドイツの歌曲を歌っている方もいました。イタリア歌曲はイタリア語でしたが、ドイツの歌曲は…ほぼ日本語訳で歌ってましたが、それはそれでいいんです。別に、声楽発表会では、歌曲は原語で歌わないといけないというルールがあるわけじゃないのですから、すべて日本語訳歌詞のドイツリートでもいいじゃないの? きちんと歌いきれていなかったとは言え、オペラアリアにチャレンジしている人も結構いました。それってすごくない? 70歳を余裕で超えて、舞台でオペラアリアを歌っちゃうんだよ。すごいよね。

 もちろん、皆さん、自分のテンポで歌われるから、それに合わせるピアニストさんは、実に大変でした。それも歌手が一人ならともかく、二重唱や三重唱だったりすると、それぞれが自分のパートを自分のテンボで歌うわけだし、一緒に歌っても、互いに譲らないから、その中でちょうど良い所を探しながら伴奏していくピアニストさんって、すごいなあって思った次第です。

 ほんと、馬鹿にしているわけじゃなくて、良い意味で楽しませてもらったんです。

 この発表会、歌の勉強には、ちっともならなかったけれど、アマチュア歌手としての、ひとつの理想を見せてもらいました。

 私はあの年でも歌えるだろうか?
 背筋を伸ばして堂々としていられるだろうか?
 ちゃんと音は取れるだろうか?
 きちんとリズムに乗れるだろうか?
 それ以前に、元気で健康で舞台に臨めるだろうか?
 いやいや、あの年まで生きていられるか…自信がない。

 歌は上手いに越したことはないけれど、人を感動させるのは、歌の上手さばかりじゃありません。存在そのものだって、歌に対する熱意だって、人を感動させ、喜ばせるものなんです。

 それにしても、この方々、次の発表会は1年半後らしいのですが、それまで皆さん、お元気でいて欲しいと、心の底から祈ります。

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コメント

  1. おぷー より:

    私の母は、84歳ですが、しっかり歌の現役ですよん。
    Arrivederci Romaなんか歌ってますもん。
    私、時々母には敵わないなあと思います。[E:coldsweats01]

  2. すとん より:

    おぷーさん

     お母様、すごいです。ほんと、見習いたいです。私も84まで元気で歌えるかな…。

  3. tetsu より:

    こんばんは。

    > 歌い始めてから4~5年ぐらいという人、つまり“シニアな初心者さん”が、たっぷりといる発表会だったのでした。

    「アマチュアリズム」、という言葉となぜか結びついてしまい、wikiで見たら「オリンピック」につながっていました。「オリンピック」、というと下記で引用されている小林秀雄の文が忘れられません。(入力が面倒なので)


    http://blog.housun.jp/archives/593

    相手に向かうのではない。そんなものはすでに消えている。緊迫した自己の世界にどこまでもはいって行こうとする顔である。この映画の初めに、私たちは戦う、しかし制服はしない、という文句が出て来たが、その真意を理解したのは選手たちだけでしょう。選手は、自分の砲丸と戦う、自分の肉体と戦う、自分の邪念と戦う、そしてついに制服する、自己を。かようなことを選手に教えたものは言葉ではない。およそ組織化を許されぬ砲丸を投げるという手仕事である。芸であります。

    「砲丸を投げる」の代わりに「歌う」とか「笛を吹く」と変えても成り立つとおもっています。

  4. すとん より:

    tetsuさん

     ううむ、そうか。なんか分かったような気がします。

     プロとアマの違いの一つに、誰のために歌うのか(あるいは、誰を意識して歌うのか)という“視点”の違いが有ることを。

     それこそ「昨日の自分に今日は勝つ」の精神がアマチュアリズム…なのかもしれない。プロは当然、お客を喜ばすために歌うんだよね(笑)。

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