さて、今回の「Agnus Dei/アニュス・デイ」は歌曲と言いながら、実は元々は器楽曲だったという曲です。オリジナルはビゼー作曲の「アルルの女」の間奏曲です。実はこの曲、そのメロディーがあまりに美しかったがために、作曲家自身が後に歌曲に書き直しちゃったという作品です。
では聞いてみましょう。
歌っているのは、御大プラシド・ドミンゴです。この曲は、ちょっと声が重いテノールが歌うと最高です。ほんと、いい曲ですよねえ。まるで、最初からテノール歌手のために作曲された曲みたいです。
歌詞は…ミサ典礼文の「平和の讃歌」そのままです。それを部分的に何度も繰り返しているだけです。
Agnus Dei, qui tollis peccata mundi
神の子羊、世の罪を除きたもう主よ、
miserere, miserere, nobis.
あわれみたまえ、我らをあわれみたまえ。Agnus Dei, qui tollis peccata mundi
神の子羊、世の罪を除きたもう主よ、
miserere, miserere, miserere, nobis.
あわれみたまえ、あわれみたまえ、我らをあわれみたまえ。Agnus, Agnus Dei, qui tollis peccata mundi
子羊、神の子羊、世の罪を除きたもう主よ、
Agnus, Agnus Dei, qui tollis peccata mundi
子羊、神の子羊、世の罪を除きたもう主よ、
dona nobis pacem.
我らに平安を与えたまえ。Agnus Dei, dona nobis pacem.
神の子羊、我らに平安を与えたまえ。
Agnus Dei, dona nobis pacem.
神の子羊、我らに平安を与えたまえ。dona nobis, dona nobis pacem.
与えたまえ、我らに平安を与えたまえ。
ああ、私も歌ってみたい。ヨーロッパではクリスマスになると、この曲はよく歌われるんだそうです。え? こんな重々しい歌をクリスマスに歌うんですか!って感じです。
ちなみに原曲の方はこんな感じです。
動画を見ると分かるのですが、この曲のメロディはアルト・サクソフォンで演奏されています。なんでも、クラシック系サックスでは定番の曲なんだそうですね。サックスって、どうしても吹奏楽やジャズのイメージが強くて“クラシックとは無縁の楽器”と思われがちですが、こんな感じで、たまにオーケストラに混じって演奏するようです。
器楽曲として作曲されたけれど、メロディが美しかったので、後に歌曲になりました…ってのは、他に有名な曲だと、マスカーニの「アヴェ・マリア」がそうです。元歌は、歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」の間奏曲だよね。こちらは女声がよく歌われます。シューベルトの「ます」は歌曲が先だっけ? それともピアノ五重奏曲の方が先だっけ?
ついでですから、マスカーニの「アヴェ・マリア」を貼っておきます。
Ave Maria,madre Santa,
アヴェ・マリア 聖なる母よ
Sorreggi il piè del misero che t’implora,
あなたに祈る不幸な私を支えてください
In sul cammin del rio dolor
ひどい苦しみの道の中を歩む時も
E fede,e speme gl’infondi in cor.
信仰と希望を私の心に注ぎ込んでくださいO pietosa,tu che soffristi tanto,
おお、慈悲深い御方よ、大いなる苦しみを受けた方よ
Vedi,ah! vedi il mio penar.
ご覧ください、ああ、私の苦しむ姿をご覧ください
Nelle crudeli ambasce d’un infinito pianto,
永遠に涙を流しながら、残酷な嘆きの中にいる私を
Deh! non m’abbandonar.
おぉ! どうか見捨てないでくださいAve Maria! In preda al duol,
アヴェ・マリア、私を悲しみの中に
Non mi lasciar,o madre mia,pietà!
置き去りにしないでください、おぉ母なる方よ、お願いです
O madre mia,pietà! In preda al duol,
おぉ母なる方よ、お願いです 私を悲しみの中に
Non mi lasciar,non mi lasciar.
置き去りにしないでください、おぉ母なる方よ
この曲も良い曲ですよね。歌っているのは、藤田瑞穂さんというソプラノ歌手の方です。まあ、この曲はメゾの方が歌うことが多いのですが、私は個人的にはソプラノの方に歌っていただきたいなあ…と思う曲だったりします。
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コメント
> 歌詞は…ミサ典礼文の「平和の讃歌」そのままです。
ビゼーのこの曲の声楽ヴァージョンは初めてです。ラテン語をはめるだけで(?)、ここまで形になるのもビックリです。
昔々のフルートのレッスンで、エチュード(by 海外作曲家)の全ての音符に歌詞をつけるように言われて固まってしまいましたが、この手(日本語ではなくて、英語かラテン語をあてはめる(?))があったかとおもってしまいました。
Agnus deiで最初に頭に浮かんだのはモーツァルトの戴冠ミサ、あとはJ..S.バッハ、ベートーベン、フォーレあたり程度です。
典礼文はほぼ変わっていないところで、ミサ曲だけでも数多くの作品があるので、もう少し考えればというところです。
これからのドイツ語の歌曲も期待しています。
失礼しました。
tetsuさん
>これからのドイツ語の歌曲も期待しています。
実は本日、私は東京音楽コンクールの声楽部門のコンクールを聞いてきましたが、そのコンクールでは、アリアの他に、必ず歌曲を1曲歌うことになっているのですが、12人の出場者が歌った歌曲の言語はと言うと、イタリア語8人、ドイツ語2人、英語1人、フランス語1人、日本語0人でした。
実はこの連載は明日で終了します。明日は英語の歌曲を取り上げますので、今まで取り上げた歌曲12曲を言語別にカウントすると、イタリア語7曲、ドイツ語1曲、フランス語1曲、ラテン語1曲、英語1曲、日本語1曲と…バランス的には良いバランスだなあっと思ってます。
ドイツ語の歌曲(つまりリート)って、日本の一部の聴衆の方々には、かなり人気があるし、それを私も知っているのですが、今のクラシック音楽シーンでは、こんなパワーバランスになっているんですよ。なんで、こんな感じで選曲させていただきました。
歌曲というだけで、もう十分マイナーなジャンルを取り上げているのに、ドイツ語の歌曲となると、さらにマイナーの極めに足を踏み入れるわけで…今回の私には、まだまだそこまでの勇気はなかった…というわけです。次にチャンスがあったら、多少、ドイツ語の歌曲もセレクトしてみるかもしれませんので、ご勘弁を。