さて、日本橋にあるパソナ本社を後にした私たちは、一路、有楽町にある東京国際フォーラムに向かったのでした。もちろん…徒歩で移動です。途中、小腹がすいた私は、ローソンに立ち寄って、からあげクンのレギュラーとレッドを購入。レギュラーは美味しかったけれど、レッドはちょっとノドに沁みる痛さでした。ちょっとヘマった感じです。
東京国際フォーラムに着いた私は、脇目もふらずにホールCに移動。いやあ、案外、時間の余裕というのが無かったわけです。
マタイ受難曲
入り口で1枚ものの出演者の名前が書かれたプログラムはいただいたのだけれど、いわゆる対訳はいただけず、それはホワイエなどで1部300円で販売していました。「その対訳、普通、無料配布が常識じゃない?」と思ったものの、とりあえず黙って購入した私です(いいカモだね:笑)。「字幕は出ないのですか?」と係員に食い下がっていたオバちゃんがいたけれど、ラ・フォル・ジュルネは低予算コンサートが売りなんだから、他所ならともかく、ここで字幕サービスはないでしょう(笑)。係員も係員で、そのあたりよく分かっていなかったようで、返答もしどろもどろだったので、そのオバちゃんは、なんとも納得の行かない様子でした(で、対訳は購入しなかったみたい)。ちなみに、妻も「マタイなら、だいたい分かるから」と行って、対訳を購入せずに座席に着きました。
鈴木優人(指揮)
ハンス・イェルク・マンメル(福音史家)
バッハ・コレギウム・ジャパン(合唱&管弦楽)
ドロテー・ミールズ(ソプラノ1)
澤江衣里(ソプラノ2)
青木洋也(アルト1)
藤木大地(アルト2/証人1)
中嶋克彦(テノール1)
谷口洋介(テノール2/証人2)
ドミニク・ヴェルナー(バス1/イエス)
藤井大輔(バス2)
マタイは今までいろいろな団体の演奏で見てきましたが、本格的な古楽器集団による演奏は始めてな私でした。オーケストラも2つ、合唱も2つ。オルガンも2台。その他のパートも楽器も声楽家たちも、たいていは2組ずつ用意されていて、1つしかないのは、ファゴットとヴィオラ・ダ・ガンバぐらいでした。あ、後、指揮者と福音史家も一人ずつね(笑)。なんとも、面白い楽器配置でした。
実際の演奏も、たまに全員で音は出すこともあったけれど、たいていは2組あるので、どちら一方のオーケストラだけが演奏をして、もう片方はお休みという感じでした。いや、それどころか、アリアになると“歌+オブリガードを吹く管楽器+低音”だけが演奏して、他はみんな休憩してました。とにかく、大勢が舞台に乗っている割には、演奏者たちは随所に休憩が多かったようです。なにしろ、全部で3時間超の曲ですからね。演奏中の休憩をあっちこっちに入れながら、音楽を滞り無く進めようというわけなんだと思いますし、それが当時のスタイルなんでしょうね。それがまた、サウンドのバリエーションを広げる役割もしていたわけだし。
さて、演奏が始まりました。いきなり、オケが音を外して、なんとも気まずい空気が会場に流れました…プロでもやっちゃうんだねえ(涙)。少しずつ調整をして、最初の序曲が終わるまでには、なんとか音が合ってきたけれど、それまで、少し時間がかかりました。オケの音が外れているものだから、当然合唱もガタガタで…マタイの序曲って、素晴らしい名曲なだけに、これはほんと、ぶち壊しでした。ああ、残念。でも、ほんと、音の狂ったオケと合唱を延々聞かされるのは、ちょっとした拷問でした(涙)。
さらに言えば、音程が狂っていただけでなく、音そのものも潰れた感じに聞こえました。まるで、安物のステレオの音をむりやりに上げた時のような感じです。これはホールCの音響特性なのか、拡声の失敗なのか…これもやがて改善されたので、やはり拡声の失敗なんでしょうね。つまり、ホールCでの演奏は、クラシックの演奏だけれど、きちんとP.A.が導入されていて、音が人工的に拡声されている…って事なのかな? 真相は分からないけれど、以前ホールCで演奏を聞いた時よりも、だいぶ聴きやすくなっていたから、何か小細工はしているんだろうなあって思うけれどね。
だいたい、私の座席は二階の奥の方のかなり悪い座席だったので、防音がしっかりして反響も残響もほぼゼロなホールCだと、生音なんて聞こえるはずのないのに、音楽鑑賞に不自由ないほどに聞こえるというのは、やっぱり変だよね。
変だよね…と言えば、私、チケットはフレンズ先行発売で購入しているんですよ。だから、本来は良い席を早めにゲットできるはずなんだけれど、ホールのチケットを購入すると、決まって2階席になるんだよね。どうも、ラ・フォル・ジュルネのスタッフというか、チケットぴあのスタッフは、ホールに関しては2階席の方が1階席よりも“良い席”だと思っている可能性があります。うーん、そこは少し違うんだけれどなあ…。一番良い席は、1階平土間の中央部(これ常識ね)だけれど、まあ、そこは大抵、関係者席になるわけだから、その次は言えば、普通はその中央部の後ろとか周辺部になるわけです。その次あたりが、その更に周辺部で、普通はA席として売られる座席だよね。2階は好き嫌いがあって、そこを好む人もいるけれど、2階って、圧倒的に舞台から離れるから、そんなに良い席ではないんだよね。だから、そこを先行発売で売っちゃう感覚が信じられません。同じくらい遠い席でも、2階の奥のS席よりも、1階奥のA席の方が、視線が自然な分だけマシだと思うんだけれどなあ、
ちなみに、私は個人的には、砂かぶりの席が好き(笑)。つまり、舞台中央の最前列ね。指揮者の頭をベシベシ叩けるくらいの席が好きなんだけれど、ラ・フォル・ジュルネでは、そんな席を購入するには、どういった手を使えばいいのかしら? とにかく、二階はあまりに遠すぎます。
さて、バッハ・コレギウム・ジャパンの演奏方式ってのは、なかなか面白かったですよ。福音史家をやっているマンメル以外のソリストは、基本的に合唱もやる…というよりも合唱メインで歌っているわけで、彼らは合唱のパートはすべて歌い、それに加えて、自分のソロパートがやってくるとソロも歌うというやり方でした。バッハの時代は、こういうやり方が一般的なのかな? このやり方だと、ソリストの力量&声量を持っている人が合唱をやるので、そんなに大勢の合唱団員はいらないという事になりますし、実際、合唱の人たち、少なかったですね。
あと、アルトは女声もいたけれど、メインはやはりメールアルト(男性のアルト)であって、女声のアルトはあくまでも補助っぽかったです。確かに同じアルトと言っても、メールアルトと女声のアルトでは、声のツヤとか声量とか様々な点で、メールアルトの勝ちで、私も古楽に関しては、可能な限り女声ではなくメールアルトを使うという方針は賛成なんだけれど、やはり“マタイ受難曲”に関しては、アルトパートは男性ではなく女声に歌わけるべきだと思いました。
だって、マタイ受難曲って、オペラ同様に、それぞれ歌に役柄があるわけです。『シオンの娘』とか『マグダラのマリア』はアルトで歌われるわけだけれど、そういう女性役の歌をメールアルトで歌うのは、私は反対だな。女声アルトもいるんだから、そういう歌は彼女たちに歌わせればいいじゃないの。
これはバロックオペラで、本来はカストラート(超高音を楽々歌える男性歌手。大抵の場合は、変声期前に手術をして声変わりをしないように改造された改造人間たちです)が歌っていた、男性のヒーロー役を、今の時代はカストラートなんていないし、音域が同じだからと言う理由で、ズボン役の女声に歌わせるくらいに、違和感があって、私はイヤです。やはり、男性役の歌は男性が歌うべきだし、女性役の歌は女声が歌うべきです。
すごく分かりやすい事を言えば、オペラの『カルメン』って主人公はメゾソプラノで、あの音域ならメールアルトとかカウンターテナーでも歌えないわけじゃないんです。だからと言って、彼らが女装をしてカルメン役をオペラの舞台で歌ったら、ブーイングの嵐でしょ? それに通じると、私は、思うわけだ。だから、マタイ受難曲に関しては、アルトのソロは女性歌手に歌わせるべきだと思うわけです。
オーケストラの横笛は、フルートではなく、フラウト・トラベルソでした。何曲かでソロを取っていましたが、フルートとは明らかに音色が違う、全くの別楽器だなあという印象でした。
音色が違うと言えば、マンメルのみならず、宗教曲を歌うテノールさんたちは、皆、声が軽くて美声でした。私個人は、パワフルな歌声が好きなんだけれど、好みは別として、私が目指すのは、そういうパワフル系ではなく、こっちの軽くて美声系の歌声なんだろうなあって思いました。そのためには、もっともっと声を軽くして響き中心で歌えるようにならないといけないなあって思いました。とにかく、宗教曲のソリストは劇的に歌える必要が無い分、声の美しさにこだわるのかもしれません。ある意味、オペラ歌手とは真逆な存在なのかもしれないです。ああ、それにしても、どの歌手さんも、声が美しくて、うっとりしちゃいます。
で、私は対訳を購入して、いちいち(歌い終えた曲に)チェックを入れながら聞いていたので、今どんな場面を歌っているのか分かって、それなりに楽しめました。思っていたとおり、字幕は出ませんでしたし、舞台上は、基本的に棒立ちの演技なしで歌っていたので、対訳無しではちょっと厳しかったみたいで、妻も休憩時間に対訳を買いに行ってました。
歌唱は演技無しだったので、場面が分かりづらかったのですが、かと言って、舞台は全く動きがないのかと言うと、そうでもなく、例えば、指揮者はオルガニストも兼ねていたので、指揮を振っていたかと思えば、次の瞬間はオルガンを弾いていたり、ソリストも合唱団員を兼ねているので、合唱団の列から出たり入ったりという動きがあったり、オーケストラも合唱も交互に演奏しあい(休みあった)ので、それはそれで、ストーリーとは関係のない動きがたくさんあって、面白かったです。こういう面白さは、CDで音だけ聞いていると分からない楽しみなんだなあって思いました。
この曲は、ストーリーは福音史家(テノールです)のレチタティーヴォを中心に、Ⅰのソリストたちで回し、合唱や無役のソリスト(主にⅡのソリストさんたちです)は、ストーリーに対するツッコミ役、つまりストーリーを見ている我々観客の声を代弁しているかのようでした。これってまるで、ニコニコのコンテンツと、画面を流れるコメントのような関係だなあと、一人で納得していた私でした。
バッハ、やるじゃん(笑)。
それにしても、ホールCって、色々とダメなホールだなあと思っていましたが、休憩時間に男子トイレに列が出来ているのにはビックリしました。よくホールなどでは、女子トイレに列が出来ますが、男子トイレに列ができることなんて、まずないのですが、ここホールCは、男子トイレにも列ができるくらいに、利用者の事を考えていないホール設計になっています。ああ、残念だね。ちなみに観客の移動動線は極端に悪いので、このホールで災害に出会ったら、避難は無理。座して死を待つのみだなあって思いましたよ。ナンマンダブ…。
休憩後の第二部になって、ふと気づいたら、私の前に座っていた女性がだいぶ弱っていました。第二部では正面を見ているのも辛そうでした。隣の連れの男性は、あまり女性に気を使っていなかったようで…どうやら、このホールに来たかったのは男性の方で、女性は付き合いで、ここにやってきたようだけれど…おそらくクラシックには興味がなかったんでしょうね。それなのに、演奏曲目がバッハのマタイ受難曲とは、まさに受難ですね。一般人には15分のピアノコンチェルトだって、あくびが出るほどに退屈なのに、3時間超えのマタイ受難曲ですよ。おまけに、ずっと外国語で歌っているし、舞台じゃ何をやっているか分からないし、狭い座席で身動き一つ取れないし、空気悪いし、暗いし、退屈だし…そりゃあ、体調が悪くなっても仕方ないですね。可哀想に、同情します。帰り際にちょっと顔を見たら、青ざめてました。そりゃあまあ、そうだよね。よく途中退席せずに頑張りました。ご苦労様です。
受難曲の最後で、イエスは両腕を広げて、くぎを打たれて、十字架にかかったわけだけれど、この広げた両腕は、十字架刑であると同時に、私たちを招き寄せるために腕を広げているとも言えるわけです。そんな事を、この曲の最後の最後に感じました。
そして、曲の終盤、さすがに3時間歌いっぱなしだった、福音史家のマンメルさんも息絶え絶えでした。時折、声が裏返っていましたが、それは全く気になりませんでした。ほんと、ご苦労様です。
マタイ受難曲…大曲だけれど、不思議と縁があって、今まで何度も聞いてきましたが、今回の演奏も、これまでの演奏同様に、深い感動を得られる良い演奏でした。ほんと、何度聞いても感動する名曲だよなあ。また、チャンスがあったら、聞いてみたい曲の一つです。
と言うわけで、この続きはまた明日アップします。
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コメント
LFJの話になったら、途端にコメントが無くなりましたが、皆さんLFJに行ってないということでしょうかね。あるいは、元々興味がないのでしょうか。ボクは毎年楽しみで楽しみで、首を長くしてこのイベントを待っているのですが、すとんさんの記事で東京のLFJの様子が分かり、興味深く読ませていただきました。
ちなみに、びわ湖ホールでのLFJは、今年のテーマがバロック音楽ということで、フルートの出番も多く、色々聴いて回りました。今年は特に琵琶湖の観光船の中で演奏するという特別コンサートもあり、まさにヘンデルの水上の音楽を地で行く経験をしてきました(笑)。
ただ、例年だと三日間の日程で行われるのですが、今年は二日間に縮小され、ちょっと寂しかったのも事実です。
お忙しいすとんさんですが、一度びわ湖LFJにお出かけください。
おざっちさん
ラ・フォル・ジュルネの記事を書くと、コメントだけでなく、アクセスも下がるんですよ(笑)。それくらい、当ブログでは不人気コンテンツなんです。でも、これは自分のための記録でもありますので、いくら不評でも書いているんですけれどね。
ラ・フォル・ジュルネは楽しいイベントですが、このブログの読者の皆さんの興味はひかないみたいです。なぜなんでしょ? でも、私自身は楽しみにしているんですよ。
>今年は特に琵琶湖の観光船の中で演奏するという特別コンサートもあり
これは実にうらやましいです。なにしろ、こればかりはこちらでは絶対に真似できませんからね。
>例年だと三日間の日程で行われるのですが、今年は二日間に縮小され
東京も以前は五日間行っていたのが、ここ数年は三日間に短縮され、年々、コンサートやイベントの数が減ってます。どうも、皆さん、景気が良くなったせいか、近場のレジャーから少しずつ離れていってるのかもしれません。
それでも来年もやりそうですから、楽しみにしています。ちなみに来年のテーマは“自然”なんだそうですよ。『動物たちの謝肉祭』は絶対にやるんだろうなあって思ってます(笑)。
あ、びわ湖にも行きたいです(マジでね)。